過去のWRアンプの掲示板33


この掲示板33は新しい順に並んでいます。
その1へその2へその3へその4へその5へその6へその7へその8へその9へその10へ
その11へその12へその13へその14へその15へその16へその17へその18へその19へその20へ
その21へその22へその23へその24へその25へその26へその27へその28へその29へその30へ
その31へその32へその34へその35へその36へその37へその38へその39へその40へその41へ
その42へその43へその44へ
WR掲示板へホームページへ

1578川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Mar 22 15:00:00 JST 2015
日フィル3月定期を聴く

 いよいよ春の音楽シーズンが開幕します。1月の末に聴いて以来なので随分と生の音を聴いて
いませんでした。その間にWRアンプはハイブリッド化技術で、最終的な飛躍を遂げ過渡ひずみの
ない理想的な音楽再生を可能にしたと感じていますし、ユーザーの方々からも強力なサポートを
頂いております。だから、生の音を聴くのが楽しみだったのです。

 現在東京定期はショスタコチクルスの真っ只中で、今月はピアノ協奏曲第2番と交響曲第11番
の2曲でした。前者の独奏者はイワン・ルージンで、名前を知らなかったのですが、凄い技巧の
持ち主で目の覚めるようなタッチに驚愕しました。ショスタコは息子の為の練習曲のような気持
ちでこの曲を作曲したそうですが、何処が練習曲かと疑いたくなる程の難しい曲でした。確かに
リズミックでメロディーも分り易いのですが、相当な技巧が要求される難曲だと思いました。

 ルージンのピアノはあくまで透明でメカニックであり音は冷たく光ると言う感じです。タッチ
に素人が発見できるような曖昧なものはなく、ロボットが弾いているような錯覚すらしたのです。
しかし、20分程の短い曲ながら、十分にその存在をアピールしてくる力を、曲にも演奏にも感じ
ました。当然、曲が閉じられるともの凄い拍手が巻き起こりました。深々と体を折って、拍手に
報いようとするルージンの姿に、やはり何かに操られているロボットを連想しました。3回目位
のカーテンコールであっさりアンコールを演奏してくれました。

 全く知らない曲なのですが、今聴いたばかりのショスタコと違和感が殆どない曲でした。凄い
速いパッセージが続き、サーカスの芸当を見ているような、そんな気持ちで唯、唖然としている
自分が居ました。いや、世の中にこんなピアノ曲があるのかと、又こんな難曲を難なく弾き熟す
技があるのかと感嘆しきりでした。久し振りに聴いた生の音は、勿論、いいに決まっていますが
随分聴いていなかったのに何時もの音だと感じたのは、やはり我が家の再生音もかなりの線まで
来ているのだと思いました。最近、装置の音と生の音の境がはっきりしなくなりました。

 ここで15分の休憩です。多分、出口にはアンコール曲が掲示されているだろうと思い一目散に
駆け付けて見ると、プロコのピアノソナタ第7番の第3楽章と書いてありました。私には縁遠い
曲ですが、皆さんも機会があったらちょっと聴いて見て下さい。休憩後はタコ11です。

 ショスタコの曲は多かれ少なかれ革命とか戦争とかの題材を含んでいます。この曲は1905年の
ロシア第一革命を念頭に作曲されています。1905年に起きた血の日曜日事件は余りにも有名です。
全部で4楽章ありますが、全て続けて演奏されますので、何処が何楽章なのか分かり難いところ
があります。第一楽章「宮殿前広場」はアダージョで、交響曲では珍しいと思います。行き成り
緩徐楽章から始まった感じです。弦の弱音がフランスの印象派のように美しく、ティンパニーの
3連符が不気味にリズムを刻み続けます。

 そう言えば、何時もティンパニーを叩く方が何故か小太鼓に回り、ティンパニーはゲスト奏者
でした。ティンパニーは非常に大事で、ゲスト奏者も悪くはなかったけれど、わざわざ交代する
意味があったのか多少疑問でした。ティンパニーの3連符はしつこく付き纏い、本当に不気味に
響き、何か嫌な事が起こりそうな、そんな兆候を暗示していました。

 この曲には曲を構成する上で重要なライトモチーフが多用されていて、同じようなメロディー
やリズムが繰り返されるので、ある意味分かり易いところがあり、初めて聴いても十分楽しめる
と思います。特に第一楽章は大きな爆発はなく大方、静寂を保つので耳も疲れません。その中で
ミュートトランペットの音が印象的でした。フルートや低弦に「囚人の歌」のテーマが現れたり
第一楽章には色々な仕掛けがされているように感じました。

 静かな第一楽章が、低弦の速いパッセージに打ち消されて第二楽章「1月9日」に突入します。
この交響曲は表題音楽で具体的な事が表されています。「我らが父なるツァーリスよ!」と叫び
ながら宮殿前広場を埋め尽くした群衆が行進を続けますが、それを制するのが銃声であり先程の
ティンパニーによるモチーフがぶり返し、銃撃の行進となって民衆を封じ込めるのです。この辺
りは壮絶な音楽となり、ショスタコの十八番であるピッコロと小太鼓が大活躍します。コーダは
広場を埋め尽くした民衆の屍と静寂を表しています。

 第三楽章「永遠の記憶」は一種の葬送行進曲です。また暫くの間アダージョが続きます。耳を
休めるには格好の音楽です。コントラバスによる重い足取りが印象的で、それに乗ってビオラに
「同志は倒れぬ」のテーマが出ます。実に美しく悠々と音楽が進みます。こう言う曲は初めて耳
にしても全く違和感なく楽しめます。やがてビオラに呼応して第二バイオリンに対旋律が現れて
徐々に楽器数が増えて行きますが長くは続きません。背後に3連符の不気味な影が付き纏います。
やがてその3連符のリズムが力を増して、第二楽章の悲劇が回想されますが、又「同志は倒れぬ」
のテーマが出て曲は静かに閉じられます。

 アタッカで第四楽章「警鐘」に入ります。トランペットとティンパニーが特徴的な行進曲風の
ffで曲が開始され、ショスタコの音楽そのものが展開して行きます。壮絶な金管群による革命歌
が提示され、ピッコロと小太鼓に加えて、弦の規則正しい刻みに支えられてある意味小気味良く
曲は進行します。これはかなりマーラー的な音楽だと思いました。この楽章は随分と複雑に入り
組んでいて一筋縄では理解できませんが、これまでの主要テーマが絡んで怒涛のような展開部を
経て、全ての楽器が「1月9日」の主題を奏でて、圧制者に死を宣告するクライマックスに突入
します。

 やがて宮殿前広場に静けさが戻り、イングリッシュホルンによるもの悲しいメロディーが奏で
られます。此処まで珍しくも木管系の独奏部分が殆どなかった気がしますが、ここ一番で効果的
なイングリッシュホルンの音色は心に沁みるものがありました。しかし、此処で曲は終わらずに
さらに闘争を予告する音楽がもう一度盛り上がり、最後に音程の違った2つのベルが交互に鳴ら
されて「警鐘」を暗示して第四楽章は閉じられました。

 余りにも凄い音楽、指揮、演奏に、唯、唯、拍手をして応えるしか私に術はありませんでした。
会場に居た人は皆、この巣晴らし音楽のプレゼントに、畏敬の念をもったのではないでしょうか。
例によってラザレフは会場に向かって、手柄は私じゃないよ、日フィルだよ、と言いたげに手や
指を日フィルの団員の方に指し向けていました。素人的にはほぼ完璧な演奏に思えました。相変
わらず弦がいい音をしていました。私の基本はやはり弦、特にバイオリンにあり、このレベルの
音が聴けたら満足です。

 この曲を我が家で再生するのはエネルギー的に難しいと思いましたが、その前に、これだけの
音を音場感を踏まえてちゃんと捉えてくれている録音があるかどうか、それが一番問題だと思い
ました。可能性があるとすれば独グラモフォンでしょうけど、80年代に居た著名なエンジニアは、
もう望むべくもないでしょう。だとすれば、諦めしかないのかと最近のクラシック業界の衰退が
恨めしい限りです。   

1577川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Mar 13 16:30:00 JST 2015
ヘッドホンアンプWRP-α9/A も安定化電源化なる!!

 前回、普及型パワーアンプWRP-α6/BAL を安定化電源化した事をご報告し、E-10並みの出力に
下がったものの、音質は著しく改善されたと申し上げました。その前に、既に普及型プリアンプ
WRC-α2/FBALを安定化電源化していますので、これが2例目になりました。これら2台を組合わ
せて試聴すると、α系高級機にも匹敵する程のパフォーマンスを示します。

 WRアンプの中で非安定化電源のアンプは例外的ですが、その例外の中に結構台数が出たヘッド
ホンアンプWRP-α9/A があります。α6 の成功で気を良くしたので、これもやって見るかと言う
気になりました。このシャーシは本当に小さく、これに安定化電源を入れ込むのは無理かも知れ
ないと思ったのですが、やれば何とかなるものです。

 このシャーシは小さいながら高さ(90mm)があります。安定化電源の基板は85mm四方なので立て
れば何とか入ります。又アンプ基板もそれ以下ですからこれも立てる事にしても放熱器は絶対に
無理です。元々このアンプの放熱器はミニパワーと言うこともあって、適当な大きさに切断した
アルミの角材を使っています。ならば、安定化電源用の放熱器は、シャーシ床面のアルミを利用
したら良いと考えました。あとはリレー基板ですがこれも立てる事にすれば、全てを納める事が
できそうです。

 そう頭の中で考えたらもうα9/A の上蓋を外していました。あと問題になるとしたらトランス
です。安定化電源を挿入する為に必要な電位差は、パワーアンプの場合は最低でも11-12Vは必要
です。正にE-10はその位です。E-30以上は15V 以上を目安にしています。そうなると、アンプの
動作電圧を14.5V にするとして、整流直後の電圧は、25-26V程度が必要になります。

 14.5V とは出力にして5W(8Ω負荷)程度です。元々ヘッドホンアンプは3.5Wと表示しています
が、これはトランスが小型である事と非安定化電源のために出力が伸び切らないからです。何故
小型トランスを使ったかと言えば、ヘッドホンアンプはパワーよりも低ノイズを優先した為です。
今回、折角安定化電源を載せるのなら5Wくらいの出力は欲しいと思いました。安定化電源付きの
パワーアンプで5W+5Wの出力なら、結構使えるパワーアンプになるはずです。

 その為には、整流直後で26V 位出るトランスが必要です。20Vx2 と言う巻線を持ったトランス
なら行けそうです。これは偶々ですが、私のα9/A はプロトタイプだった為に20Vx2 と言う巻線
があったのです。しかも電流容量は0.55A で持って来いの仕様です。実はこのトランスにはその
下に15V、10Vのタップがあり、ヘッドホンアンプの時は10Vx2 を使っていました。

 早速、アンプ基板とリレー基板の配置を変えて、安定化電源基板を入れるスペースを確保して
から、安定化電源基板の製作に入りました。半日位で基板が完成したので、実際に基板と安定化
電源の制御用パワーTRを床面に取り付けて、配線をやり直しました。アンプ基板は、動作電圧の
差分は僅少なので定数変更は行ないませんでした。全ての結線を終え間違いがない事を確認して
電源をONにしました。予想通りの電圧配分が得られており、赤いLED も点灯しているので正常に
動作してると思いました。

 早速、発振器、オシロ、交流電圧計などを用意して測定に掛かりました。ノイズはヘッドホン
アンプより若干悪化したようですが、それでも実用上問題の無い範囲に収まっていました。扱う
電圧、電流が大きくなると多少ノイズに対しては不利になるようです。次に注目の出力を測って
見ました。両チャンの出力端子に8Ωの抵抗負荷を付け、電圧にしてクリップ直前で7V近く出て
いました。

 これをパワーに換算すると6Wになり、当初の目的は完全にクリアできました。安定化電源電圧
が多少低くても、5.5W以上は確保できるでしょう。ヘッドホンアンプの時も無負荷状態では 14V
近く掛かっていたはずですが、両チャン動作で3.5Wに落ち込んでしまっていました。同様な電圧
を掛けてその倍近くが得られるのですから、やはり安定化電源はパワーアンプには有効なのです。
10KHz の方形波も覗いて見ましたが、綺麗なもので全く問題はありませんでした。

 いよいよ試聴です。音が出た瞬間、一つ前に改良実験をしたα6 の音に似ていると思いました。
どちらもペレットの小さい最大電流3AのパワーTRを使いましたが、そのせいか爽やか感、軽快感
があり、ビックバンドのサックス群の音がそよ風が吹き抜けて行くような、そんな感じに聴こえ
ました。躍動感に富み、音楽が楽しく聴けます。低音域も思った以上に充実しています。α6 と
の音の差は正直具体的に言えないほどに酷似しています。やはり、安定化電源付きのミニパワー
アンプには独特の魅力があります。

 パワーも87dBのスピーカーを使って8畳間で聴くのであれば、そして安定化電源によって電源
が賄われているのであれば、そして帰還アンプがちゃっと作られているのであれば、5W+5Wでも
十分だと言う事が分かります。これなら、高級ホーンシステムの少なくても中高音以上には十分
使えると思いますし、中低音だって賄えるかも知れません。

 最近発見した「ハイブリッド化」は実施されたユーザーの方々から、例外なく賛辞が送られて
来ていますが、そのお陰もあってこのミニパワーアンプの音があると思いました。やはり中高域
の耳につく帯域の過渡ひずみが激減した事は、音楽を聴く為には相当の効果があったように思い
ます。こう言う音を聴くとCD仕様も捨てたものではないと改めて思います。ハイレゾ、ハイレゾ
と騒ぐ前に、先ずCDをまともに再生できる技術こそが優先されるべきでしょう。CDも満足に再生
できないシステムで、何でハイレゾの良さが分かるのでしょうか? アンプ屋からすると不思議
に思えます。

 話がつい反れてしまいましたが、このアンプを単なる実験機に止めて置くのは勿体無いと思い
何とかパワーアンプに昇格させたいと、マスターズの平野紘一氏に相談中です。さしずめΕ-5が
適当なネーミングかと思っています。音質だけは確保するが、贅沢を廃し、無駄を削って何とか
音質に特化したパワーアンプを、誰でもが気楽に買えるような価格で提供したいと考えています。
儲け抜きで、WRアンプの名刺代わりになるようにしたいと思っています。

 最後に上から見た、安定化電源付きに改良されたWRP-α/9A の写真をトピックス欄に掲載して
置きますので、参考にご覧下さい。また改良に関するご相談もお受けしますので、気楽にご連絡
下さい。WRC-α2/FBAL、WRP-α6/BAL についても撮影が出来次第、追加掲載する予定です。  

1576川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Mar 5 12:00:00 JST 2015
普及型パワーアンプWRP-α6/BAL を安定化電源付きに改造して見たら

 最近ハイブリッド化に興味が集中していて、改造できる手持ちのアンプは全てその対象になって
います。それで最後に残ったのが表題にあるWRP-α6/BAL でした。最近は殆ど聴く事もなく物置の
奥に眠っていました。しかし、実験台として高帰還化まではアップグレードされていました。

 最近のユーザーの方には「α6 って何?」と言う事になりそうなので、少しだけ説明させて頂き
ますと、鉄製の弁当箱のような直方体の形をしていて上蓋を外すと中が一望できる単純なシャーシ
構造です。電源はWRアンプでは例外的(その他にヘッドホンアンプWRP-α9 等があるのみ)ですが、
非安定化電源でパワーは約30W 程度出ます。アンプの回路自体はα9 やE-10と基本的に同じです。

 元祖WRアンプであるWRP-α1 から安定化電源を基本として来ましたが、安定化電源を積むと出力
の割りには価格がアップするので、普及型アンプとして、非安定化電源で安価なアンプが有っても
良いかなと考え、三種の神器も使わずに作って発売したアンプです。

 安定化電源を積むと材料費は1.5倍 以上になり、逆に出力は 1/3程度に落ち込みます。これでは
C/P の点で大メーカーが手を出さないはずです。しかも安定化電源は高帰還アンプのようなもので、
帰還を深く掛ける必要があり、抜本的な対策をしないと安定性の確保が難しく、却って音質を悪化
させてしまう傾向があります。

 ですから世界広しと言えど、またオーディオメーカーは星の数程有っても、一貫して安定化電源
を積んでいるのはWRアンプくらいのものでしょう。だからWRアンプは割高に見え敬遠される所以に
なっていると思われます。しかし今回の実験をして見てやはり頑固にも安定化電源を採用して来て
良かったと思った次第です。

 今回、色々なハイブリッド化アンプを試聴して来て、その音の基調が耳に否応無く定着していま
した。勿論、例外的に非安定化電源のヘッドホンアンプも聴いた訳ですが、その時、低価格ながら、
又非安定化電源ながら頑張っているなとは確かに思ったのですが、反面音楽を聴いていると、何か
違う音だなと感じていた事も事実です。

 極端な分析をすれば音楽に躍動感がなく、平面的で心に響いて来ないと言うもどかしさのような
ものを感じたのでした。勿論、何の先入観もなく聴けばハイブリッド化のご利益もあって、かなり
素晴らしい音ではあるのです。確かにやさしい音ですが、「やさしい」と言う感じはある種の聴き
易さを意味していて、逆に言えば音が甘いもう少し言えば曖昧なのです。BGM 的に聴くにはもって
来いの音かも知れませんが、真剣に音楽に対峙するには物足りないと言う事が分かりました。

 それを別種のアンプでも確認して置きたいと思い、今回のα6 の一連の実験を試みる気になった
のでした。先ずはハイブリッド化の実験ですが、一通りのテストCDをクリヤしましたので、特段の
問題はありませんでした。唯、これはヘッドホンアンプの時にも感じた事ですが、オルガンの低音
は安定的には鳴ってくれませんでした。即ち、低音が基本的にブーミーなのです。それは理屈の上
から明らかな事です。そんな事もあってその後ずっと音楽を聴いていたいと言う気にならなかった
のです。やはり音楽が平板に聴こえたのでしょう。

 それでα6 を安定化電源付きパワーアンプに改造する決意をしたのです。幸いトランスの上には
基板1枚と小型放熱器を収容する場所がありました。整流直後の電圧は±31V 程あり、安定化電源
を入れると最低でも12V は降下しますので、パワーアンプ基板に掛かる電圧は、±19V 程に下って
しまいます。±19V の時の出力は約12W ですから、E-10並みのパワーアンプになると言う事になり
ます。

 それでも良いと思ったのです。パワーよりも質だと確信していたからです。パワーが出ても音が
出る時に電源電圧が下がり、一瞬怯むような音になるよりはパワーが減っても音量に拘わらず音質
を一定に保つ方が、音楽を真剣に聴くには遥かに重要だと考えたのです。この改造は容易ではあり
ませんでしたが使い古しの安定化電源基板のツェナーや抵抗を交換し、小型放熱器に最近入手した
3Aクラスの非EMe 型パワーTRを負側に取り付けて、何とか安定化電源を挿入する事に成功しました。
勿論パワーが縮小されたので、同時にパワーアンプのパワーTRも3Aクラスに交換しました。

 このパワーTRのPc損失は30W ありますから、10W 程のアンプには問題なく使えるはずです。いよ
いよ試聴です。先ずはピリスのピアノの音を聴きました。心なしか右手のタッチに透明感が増した
ように感じました。耳に来る異常音も減っており、昔のα6 の面影は完全に消失していました。

 不思議なものでテストCDをあれやこれやと、どんどん聴きたくなります。その都度、新しい発見
があり益々このアンプが気に入りました。これまで物置でその存在を半ば忘れ去られていたアンプ
が、一躍我が家で一番良い音のするアンプに生まれ変わったのです。アンプ屋に取って嬉しい瞬間
です。やはりライブを前提にした音楽を楽しむには、アンプはこう有るべきだと確信した瞬間でも
ありました。

 破壊さえしなければペレットの小さいパワーTRの方が繊細感や空気感がよく出て、やはり良いの
かなと感じています。このアンプでデイブ・グルーシンのキャラバンをガンガン鳴らしても、特に
問題はなくパワーTRは安泰です。パワーTRのピーク電流は最大電流の1.5倍 程度はもつので、4.5A
以下なら飛ばないはずですから、4Ω負荷位までなら大丈夫だと思います。α6 の電源トランスは
E-10のものより大きいので余裕があるせいか、E-10よりも大きな音に対する安定感が若干良いよう
です。

 これまでE-10には例外はあるかも知れませんが、安全サイドを取って7AのパワーTRを積んで来ま
した。これには小型ペレットのEMe コンプリを持ち合わせていなかった事も関係していて、今回の
ハイブリッド化で小型ペレットのパワーTRの使用が可能になったと言うメリットも生まれています。
尚、ハイブリッド化に際しては基本的な音が変るとまずいと思って、原則的に片側のパワーTRのみ、
付いていたEMe に見合った非EMe に交換して来ました。もしご希望ならば3AのパワーTRに両方とも
セットで交換する事も可能ですから意思表示をお願いします。今なら、6〜7A、4A、3A クラスから
選ぶ事が可能です。ご希望の方には音調調整の一環としてお受け致します。

 非安定化電源の30W クラスのパワーアンプを、僅か12W の安定化電源付きのパワーアンプに改造
し、同時にペレットの小さなパワーTRに交換したところ、一躍音楽が生き生きとして来て、素敵な
パワーアンプに見事に生まれ変わりました。この事実からWRアンプの最大出力表示が価格の割りに
低い等と言う単純なスペック比較だけでWRアンプを選択肢から外してしまうとしたら、それは大変
勿体無い事だと言えると思います。パワーアンプの価値は最大パワーだけで決まるものでは決して
ありません。

 是非我が家に試聴に来られて、安定化電源付きの 10Wx2アンプの実力がどんなものかを確かめて
見て下さい。その上で止めても遅くはないと思います。アンプの存在を忘れさせるような音を目の
当たりに聴いても、その価値を見出せない方には無理にお勧めは致しませんが、この音をお聴きに
なれば大抵の音楽ファンの方なら納得されるであろうと思います。

 私はどう考えても、電流が大きく変動するパワーアンプの電源を、非安定化電源で供給する事は
理屈に合っていないと思い続けて来ました。電源回路に何万uFの大型ケミコンを入れる事も、音を
硬くする原因になり感心しません。今回、それが低音域のみではなく中高域にも影響している事を
感じました。これまで多勢に無勢と言う事もあって、もう一つ強くアピールして来ませんでした。

 しかし、此処に来てハイブリッド化でアンプから発生する過渡ひずみを極小に抑え込む事が可能
になり、アンプの音が見えて来ましたので、安定化電源の重要性が頭ではなく耳でも追認する事が
可能になり、此処に明確に真のパワーアンプは安定化電源で供給されるべきである、と断言できる
状況になりました。

 今現在のWR製の安定化電源付きパワーアンプは法外な高値では決してありません。確かにコスト
はそれなりに掛かっていますが、結果としての音のパフォーマンスを考えれば、寧ろ割安なのでは
ないかと思います。どうせ買うのであれば一発で仕留められるように、WRアンプをお買いになる事
を強くお勧めします。なんだかんだ言って、オーディオの要はパワーアンプなのです。定電圧駆動
が安定的に可能なWRパワーアンプは稀有な存在です。伝統的な帰還回路では十分な安定度が得られ
ませんし、無帰還や帰還の浅い真空管アンプでは望むべくもありません。

 スピーカーを正しく定電圧駆動すると、低域の余計な振動を抑える事になりますので、量感的に
低音が不足しているように感じることがありますが、それが本来の正しい低音のあり方です。その
代わり低音の実在感は確実に上がり、切れ味の良いダンピングの効いた低音が楽しめます。量だけ
の胃凭れするような低音を早く卒業して、WRアンプで正しい低音に慣れて下さい。その方が生楽器
の真の低音に絶対近いはずなのです。

 最後にお願いがありますが、WRアンプに惚れ込む前に必ず守って頂きたい事項があります。音質
を弄ったアクセサリーと決別して欲しいのです。代表例は6N、7Nと言った高純度と称している電財
です。WRアンプは正しいモノを積み重ねて最終的な音が得られていますから、アンプの欠点を補う
ようなアクセサリーはその癖がモロに出て、折角正しく増幅されたアンプの音を阻害します。

 そのような音質アクセサリーを使ってWRアンプをお聴きになっても、WRアンプは本領を発揮でき
ませんので、どうかこれだけは守って頂きますようにお願いします。電源ケーブルは付属品を必ず
使って頂き、スピーカーケーブルは当HP上に推奨ケーブルの加工法を載せていますので参考にして
下さい。接続ケーブルには、ダイソーで売っている安価な赤白(黄黒)のケーブルを取り敢えずは
お使い下さい。WRアンプは、アクセサリーに殆どお金が掛からないようになっています。

 もう一点はソース源を最近増えているPCオーディオで得ている方にお願いです。PCオーディオは
CDプレーヤー等の再生機器に比べて高周波ノイズの問題やUSB2.0によるファイル転送の問題があり、
若干不利である事は否めません。強力なバッファ効果を有するプリが必要になる所以です。ノイズ
は少なければ少ない方がパワーアンプの音質は漸近的に向上します。PCの固体によってもノイズの
発生量は異なりますので、DAC は元よりPC本体の見直しも必要です。又USB2.0を使わないファイル
転送が出来れば理想です。例えば、LAN 経由で行うとか高級光ケーブル(石英ガラス)を使うとか、
あるいはUSB3.0に切り替えるとか、現状に問題点があれば改善して頂くとより良い音でWRアンプの
音を楽しむ事が出来るようになると思います。

 アクセサリー類とソース源の問題が無ければ、WRアンプは100%の状態で稼動しますので、前稿で
ご登場頂いた方々のように、ライブ会場を彷彿とさせるような音や、スピーカーの存在が意識の中
から消えるような音で、お好きな音楽を満喫できるようになる事を此処に保証致します。  

1575川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Mar 1 22:45:00 JST 2015
hiroさん、諸々のアップグレード、そしてそのご感想ありがとうございます。

 hiroさんにはこれまでに、WRC-α1MK2、WRI-βZERO、WRP-α9 、E-10と多くのWRアンプをお買い
頂いており、誠に感謝に堪えません。その上今回、幾つかのアップグレードもして頂いて、重ねて
御礼申し上げます。取り敢えず、WRC-α1MK2とWRI-βZEROのラインアンプの2段差動化とβZEROの
パワーアンプ部のハイブリッド化を実施させて頂きました。

 最近のメインテーマは「ハイブリッド化」です。本当に効果があるのか?、あるとしたらどんな
効果なのか、と言う事です。私は過渡ひずみがキャンセルされるように激減すると説明致しました
が、それを裏付けるhiroさんの証言があります。

★E-10を聴いたのちβZEROに切換えるとざわざわ感がなくなり、そのため一瞬は高域がなく
★なったように感じましたが、音場がスッキリと見通しが良くなり、楽器などの小さな音
★も鮮明に聞こえます。
★再度、βZEROからE-10に戻すと音に響き(付帯音?)が付きまとう様に聞こえ、華やか
★とも言えますが、一旦βZEROの音を聴いた後では気になりました。

 これは、過渡ひずみが減った事によってhiroさんが感じられた事なのだと思います。これと似た
ようなことは、これまでにもハイブリッド化を体験された方々からも寄せられていますので、過渡
ひずみが減ってすっきりすると言う事は、私の独り善がりではなく、やはり確かな事なのだと思い
ます。

 今回hiroさんに限らず、皆様から直接アンプをお預かりしてハイブリッド化をさせて頂き本当に
良かったと思います。以前の掲示板で音調調整を実費程度でお受けすると書きましたが、多くの方
がそれを望まれているようで、今回はアップグレードを兼ねて音調調整を希望される方が多かった
ように思います。今回に限り、原則的に音調調整は付属のサービスとさせて頂きました。

 私はアンプの研究者であるが故に、皆様には大変申し訳ありませんが極端な事を言いますと日々
アンプは進歩して行きます。勿論大きな節目にはアップグレードとして、皆様に告知させて頂いて
おりますが、小さな事は当然ながら直ぐには表に出てきません。ですから偶に音調調整と言う名目
で私がアンプを点検すれば、合理的にアップデートが出来る事になります。また、些細な事ですが
意外に重要なねじの緩みなども締め直す事ができます。

 微妙な音を求めるハイエンドレベルでは、アンプのちょっとした事が命取りになって本領が発揮
されない場合があります。そう言う盲点を見抜く事に慣れた私が見れば、殆ど部品代が発生する事
無く修復する事ができるのです。確かに2段差動化やハイブリッド化などのアップグレードは勿論
それなりの効果があるのですが、最後の一押しでさらに効果を高められるのです。

 hiroさんも

★そして当初予定していたWRC-α1MK2とβZEROの組み合わせです。
★以前に聴いた音が信じられないくらい、すごく音質が向上して驚きました。

と仰っていますように相当な音質改善があった事を物語っています。hiroさん以外にも次のような
コメントが寄せられています。

ある方は2段差動化及びハイブリッド化されたWRC-ΔZERO/FBSE +WRP-ΔZERO/BALをお聴きなって

●音質は数段良くなったと思います、どのようなソースも聴きやすい安定した音質になりました。
●ゆったりした気分で聞けるので精神衛生上も非常に良い今回のバージョンアップだと思いました。

と書いて下さいました。「数段」とか「凄く」のような表現を使う方が増えたように思います。又
別の方は、高帰還化+ハイブリッド化をされたWRP-ΔZERO/FBSE をお聴きになって

◎アンプが返送されてからいろいろと聴いていますが、相当音は変わりました。
◎とてもすっきりとした感じがしますね。特に中高音の違和感がなくなりました。
◎低音についてはよく聞こえるようになりましたが、量感は減りました。

◎今回のアップグレードで一番嬉しかったのはライブ盤のリアルさです。
◎実際に行ったことのあるボーカリストのライブ盤の声がまさにライブの時の
◎あの声で鳴っていて、聴いているとかつて出かけたライブの光景が思い出されます。
◎楽器の音も会場で鳴っている感じがしていいですし、観客のざわめきもそれらしい。

◎今までは実際のライブとライブ盤はあくまで別物と思って聴いていましたが
◎ライブ会場に行っている気分が味わえるんですね。素晴らしい。

とライブを彷彿とさせる再生音に満足されています。又、ある方はハイブリッド化+セラミック化
+BGコン抜きのWRP-α1MK2(ヘッドホン端子付き)をお聴きになって、

▲CDを何枚か聴きました。(ヘッドホンで聴きました。) 全体に(特に低音が)すっきりして、
▲ひずみのようなものはほとんど感じられないと言う感じです。
▲内田光子のベートーベン皇帝を聴いてみましたが、ピアノが
▲より良くきこえるようになっておりました。耳が疲れにくく、ピアノは確かに
▲リアリティが増し、聴き応えがある感じです。

と述べて居られます。低音がダブつくヘッドホンが多いようですが、BGコンを全て取り去ってくれ
と言うご希望でした。

 このように複数の方からハイブリッド化と音調調整の効果を高く評価して頂いています。今回の
ハイブリッド化のもう一つの側面は、スピーカーを忘れライブの音場空間に身を置く自分に気付く
と言う体験です。

 hiroさんは、

★目を閉じるとスピーカーの存在はなくなり、音がどうのこうのといった意識をほとんど感
★じることなく音楽の空間に身を置くことが出来ます。

と仰っていますし、イの一番にWRP-α9 をハイブリッド化された方は

○無事アンプが到着しまして前の音とは異次元の世界を楽しませて頂いております。
○完全にスピーカーの存在が消えました。
○音はなっているのに認識出来ない自分がいました。

と、やはりスピーカーの存在を感じなくなって居られます。最近、我が家にご試聴に来られた方も
EC-1+E-10プロトをお聴きになって、

△何を聴かせて頂いても、スピーカーの向こう側に空間が広がり、
△ステージもしくはスタジオの風景が見えてくるようでした。
△音はとても静かで、嫌な音がほとんどせず、まるで音響機器が介在しているとは
△思えない鳴り方で、実在感が非常に有るのには驚きました。
△ここまでの実在感や生々しさは初体験です。

と仰っていて、音響機器の介在が無いかのような錯覚に陥られたようです。表現こそ、又お聴きに
なったパワーアンプこそそれぞれ違いますが、皆様が感じられた世界に明らかな共通項があります。
アンプが同じなら環境の違いを超えて同様なプレゼンスが得られる、これこそがオーディオの一つ
の理想郷なのではないでしょうか。

 以上から結論的に、

 2つの特許回路+コレクタホロワ化+高帰還化+ハイブリッド化 = 理想的なパワーアンプ

と言う図式が成立する、と申し上げても良いように思います。テスト的にハイブリッド化を行ない
多くの方に応募して頂き、私の仮説が正しい事を皆様の体験によって証明して頂いた事になります。
近い内に正式なアップグレード(予価: \23,760)としてショッピングサイトに登録する予定です。
ヘッドホンアンプは安定化電源がありませんので割高になりますから、電源ケミコンを充実させて
音調調整をすると言う事を付帯条件とします。ΕC-1 に関しましてはヘッドホンアンプと同様です
が、プリアンプとしてのハイブリッド化はまだ日が浅いので、もう暫くは様子をみる事に致します
のでご意志のある方は早めのご連絡をお願いします。正式なアップグレードに移行する時は改めて
告知させて頂きます。

 それとは別に私が直接の窓口になり、音調調整をお受けする事は今後も継続させて頂きますので、
「どうも今ひとつ音が良くない」と思っていらっしゃる方は、遠慮なくメールなり電話で相談して
頂きますようにお願い致します。折角のWRアンプが本領発揮されずに眠っているのは開発者として
本当に忍びないですので、是非お声を上げて下さい。ちょっとした事で音が俄然良くなる事があり
ますのでよろしくお願いします。  

1574hiroさん(音楽好き人間) Tue Feb 24 19:58:03 JST 2015
WRI-βZEROの高帰還化及びハイブリッド化と、WRC-α1MK2の2段差動化を行って見て

まずβZEROメイン部は、一気にハイブリッド化までお願いしたので高帰還での確認はでき
ないため、比較はE-10と行いプリはWRP-α9を使用しました。

E-10を聴いたのちβZEROに切換えるとざわざわ感がなくなり、そのため一瞬は高域がな
くなったように感じましたが、音場がスッキリと見通しが良くなり、楽器などの小さな音
も鮮明に聞こえます。
再度、βZEROからE-10に戻すと音に響き(付帯音?)が付きまとう様に聞こえ、華やか
とも言えますが、一旦βZEROの音を聴いた後では気になりました。


今度はE-10を固定して、WRP-α9とWRC-α1MK2とで比べてみました。
WRC-α1MK2は音場が拡がり、音も細かく鮮明でキレイです。
ただこの組合せではWRC-α1MK2の能力が高いことを感じつつも、お互いの良いところが発
揮されずに消化不良を起こしているようなもどかしさを感じました。
E-10がWRC-α1MK2の能力を持て余している様に思います。

おそらくハイブリッド化で解決すると思いますが、現状のE-10には、ほどほどのWRP-α9
の方が相性は良いように感じてしまいました。


そして当初予定していたWRC-α1MK2とβZEROの組み合わせです。
以前に聴いた音が信じられないくらい、すごく音質が向上して驚きました。
手持ちの機器をいろいろ組み合わせて聴いた中では、結局この組合せが一番良かったです。

内部のバッファーアンプ(これも2段差動化!)を経由すると、音は引き締まり空気が
一変する気がします。
見通しの良い空間になり、クラシックではステージがさらに奥に拡がりました。
楽器等の音にも新鮮な響きというか生々しさを感じます。

女性歌手のCDもテストに使うことが多いです。
通常はどれだけ存在感とか情感が出るかを求め、それなりに満足するレベルで終わるので
すが、今回の声の中には今までとは違う生々しさをやはり感じました。

目を閉じるとスピーカーの存在はなくなり、音がどうのこうのといった意識をほとんど感
じることなく音楽の空間に身を置くことが出来ます。
この感覚は、メイン部のみを比較した時にも感じたのでハイブリッド化による効果の一つ
かなと思っています。


以前の掲示板に川西様がWRP-α9はやさしい音と言うような事をおっしゃっていました。
当時、WRP-α9とE-10の組合せは、微小な音から結構強烈な音まで、その安定した表現力
は完璧と思っていたので、そんな感じはしないなと内心思っていたのですが、今回アップ
グレードした音を聴いてその意味がやっと納得できました。

確かにアップグレードした音は良く、それに比べるとWRP-α9とE-10の組合せの音はやさ
しいですね。
一言でいえばアップグレードした音は「リアル」でWRP-α9とE-10は「音楽的」というこ
とでしょうか。


当初はこれら全てをハイブリッド化にしようと考えていましたが、この組合せの音にも何
ともいえない味わいがあって、セカンドシステムとしてこれはこれで今のところ残して
置いてもいいかなと思っているところです。  

1573川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Feb 21 22:00:00 JST 2015
WRプリアンプΕC-1 のハイブリッド化について

 もう、ΕC-1 をお持ちの方は薄々気付かれていると思いますが、ヘッドホンアンプWRP-α9 が
ハイブリッド化できるのなら、ΕC-1 も同様な運命にあるはずだと言う事です。パワーアンプの
ハイブリッド化が一段落するまでは混乱すると思い、これまで敢えてこの話には触れないように
して来ました。

 ところが最近、旧型プリをお持ちの方から音調調整を依頼され、私なりに全力投球したところ
私のところにあるWRC-α1/FBAL(貸出機)より明らかに音質レベルが上がったのでした。慌てて
レベルを揃えるように貸出機にも同様な手を入れた事は言うまでもありません。一見、無関係に
見えるこの話がΕC-1 のハイブリッド化に繋がったのです。

 音調調性のアプローチとしては、大きく分けて2つの手法があり、1つは部品の癖を見抜いて
部品を交換する事です。中高域が硬いと言う事なら、パスコンやカップリングコンに使っている
フィルムコンデンサーをより音の優しいものに変えるとか、低音がブーミーと言う事ならBGコン
を他のビシェイなどのケミコンに代えるとか、音が軟弱であると言う事ならSEコンをセラミック
に替えるとか、ケースバイケースで色々あります。

 もう一つの手法は基本的に音質レベルを上げる事です。殆どのご不満はアンプの音質レベルを
上げる事により解消できます。抜本的には回路の改良があり2段差動化はその一例ですが、毎度
毎度回路を変更する事はできません。回路を変更せずに音質レベルを上げるにはアンプ内に入り
込む高周波ノイズを極力抑え込む事です。どんなに強力な回路でも高周波ノイズの影響を少なく
することは大切な事なのです。

 旧型プリは贅沢に出来ていて、AC電源から流入する高周波ノイズをなるべく少なくする工夫を
整流回路の前後で色々としています。その一つにSEコンを使ってノーマルモードのノイズを少し
でも減らすようにしていますが、SEコンは300PF を越える辺りから金額が上がるので、標準的に
300PF を使って来ました。しかし、これは決して最適値である保証はなく、一般的には容量値を
増やした方が良いはずです。そこで300PF を2000PFにしたところ明らかに音質レベルが上がった
のです。

 そんな事があってから旧型プリとΕC-1 を切り替えて聴くと、両者に殆ど音質の差が無かった
はずなのに旧型プリの方が端正で聴き易いと思うようになりました。ΕC-1 は何かわざとらしい
音がすると言う感じになってきたのです。これは遺憾と思い、そろそろΕC-1 のハイブリッド化
に手を付けるべきだと考えるようになりました。

 先ずはハイブリッド化されているヘッドホンアンプをプリとして使って見ました。ヘッドホン
アンプがベースになってΕC-1 が設計されていますので、ΕC-1 を改造する前に聴く事は意味が
あります。最近使っているテストCDで気になる部分をチェックして見ると、相対的にヘッドホン
アンプの方がΕC-1 より良く聴こえるではありませんか。やはりΕC-1 もハイブリッド化すべき
であると真剣に思い始めました。

 ハイブリッド化はパワーアンプでもう慣れています。ΕC-1 の送り出しアンプに使われている
パワーTRはTO-66 です。この片側を非EMe に交換してもハイブリッド化は可能ですが、この作業
はTO-66 の足に1mm の銅線を半田付けするなど結構手間が掛かります。今回は早く結果を見たい
事もあって、原則論を曲げて両方のパワーTRを交換する事にして、ヘッドホンアンプで既に実績
のある2SD526/2SA768 に変更しました。

 交換後はhfe などが変わるのでアイドリング電流を再調整する必要があります。アイドリング
電流を直接見るのは結構面倒なので、AC電源に入れたパワーメーターで消費電力を見ながら微調
します。これはパワーアンプも同じで、行き過ぎていると夏に過熱の原因になるので要注意です。
我がΕC-1 はEQ基板を積んでいますが大体7Wに落ち着きました。パワーアンプの場合は最大でも
20W に抑えるようにしています。ですから、WRパワーアンプは無信号時なら最大でも20W 以下の
消費電力に抑えられているはずです。

 さて、ハイブリッド化なったΕC-1 を早速接続して聴いて見ました。やはり良いです。ヘッド
ホンアンプで仮に聴いた時より、音はより完璧になったと感じました。音に癖が無くなり一様な
音になって、どんなソースが来ても怯まず、あくまで冷静に増幅していると言う感じに聴こえた
のです。因みにパワーアンプにはハイブリッド化されたWRP-ΔZERO/BALを用いました。

 色々なテストCDを聴いて見ましたが、これまでと余り変らないと思うものもあり、音に安定感
が明らかに出たと感じるものもありました。即ち、ある範囲内のソースは、勿論部分的な改善は
認められものの全体的にはそう大きな印象の違いは感じないのですが、ある範囲を超えたソース
は劇的に良くなると言う気がしました。

 その一例をお話しましょう。そのソースはデイブ・グルーシンの「デュークへの想い/デイブ
・グルーシン」と言うアルバム(MVCR-139)です。所謂、GRP 録音で尋常でない低音、音量レベル、
ピアノ音などに特徴があります。装置の低音がブーミーなら低音がだらしなくなり、ピアノ音は
耳にビンビン来てとても楽しめるような音にはなりません。音がスピーカーから食み出てしまう
のです。

 アンプの不安定性を突いて来る、アンプ屋泣かせの嫌なソースです。これまでWRアンプは徐々
にアップグレードを繰り返し、聴き辛いソースを楽しめるように改善を図ってきましたが、この
ソースだけはずっと解決しないままでした。パワーアンプのハイブリッド化が済んだ後も6曲目
の「キャラバン」を何回か聴いてみましたが、今一歩でした。

 それが今回やっとストレスフリーでこのソースを聴く事ができ、ほぼ完璧に再生できたのです。
やはり「たかがプリ、されどプリだ!」と思いました。こうなると旧型プリが気になり出したの
です。少し前にこのソースを聴いたのは実は旧型プリでした。「くそっ!」と思いました。

 何とかしないと旧型ユーザーの方に申し訳ないと思ったのです。ΕC-1 で解決できて旧型プリ
でもしダメだとしたら、そこには決定的な差が生じてしまいます。「もうこれっきゃない!」と
思った事が一つだけ思い浮かびました。それは、前述したSEコンによるノイズ抑制効果をさらに
高める事でした。

 2000PFの次に入れるとしたら、最低でも5倍以上の容量値でないと大きな効果は見込めないと
思ったのですが、いい塩梅に10000PF のSEコンを所有していたのです。早速、交換して見ますと
何とΕC-1 と同等程度に、このソースを安定に再生する事ができるようになったのでした。全く
音がスピーカーから食み出る事無く、あくまで冷静に鳴る事の気持ち良さを味わいました。感覚
的には過渡ひずみがゼロになった感じです。

 最初の頃は、このソースの録音がおかしいのではないかと思っていましたが、こうして完璧に
再生出来て見ると、この録音が実は優秀録音であった事がやっと分かったのです。ソースの音が
悪い場合に、本当に録音が悪いのか或いは自分の装置のせいなのか、そこら辺りの見極めが大切
になって来ます。その真偽は神のみぞ知るですが、立派に再生できれば自ずと結果は見えて来る
のです。

 丁度、試聴に来られた方の言葉をお借りすれば、

★何を聴かせて頂いても、スピーカーの向こう側に空間が広がり、
★ステージもしくはスタジオの風景が見えてくるようでした。

★音はとても静かで、嫌な音がほとんどせず、まるで音響機器が介在しているとは
★思えない鳴り方で、実在感が非常に有るのには驚きました。
★ここまでの実在感や生々しさは初体験です。

と言う風に第三者の方に言って頂いています。

 以上の事からΕC-1 は現在でも相当にハイレベルな音質ですが完璧ではありません。もしその
上を狙いたいと思われる方が居られましたら、こちらの受け入れ態勢は整いましたので、どうぞ
メール等でご相談下さい。ΕC-1 は暫くの間試験的にハイブリッド化をお受けして様子を見たい
と考えています。
 
 それにしても、旧型プリのように電圧増幅回路だけ構成するプリの場合は、それ相応にノイズ
の抑制が必要でしたが、ΕC-1 はパワーアンプを送り出しに使った為に軽負荷が幸いして動作に
余裕が生まれ、特別なノイズ軽減回路を使わずに、高度なプリとしての音質を確保できたのだと
思います。ΕC-1 の方が旧型プリよりずっと安価に出来るのですから、やはり、ハイブリッド化
されたΕC-1 は優れものと言う事が出来ると思います。どうぞ安心してΕC-1 をお求めになって
下さい。このプリの右に出るものがもしあるのであれば、料金をお返ししても良いと思えるほど
の出来栄えになりました。

 パワーTRの物性を見直しハイブリッド化と言う新しい手法を編み出し、此処に来てWRアンプも
最後の峰を登り切ったように思います。そろそろ頂上が見えてきて、完全登頂も夢ではなくなり
ました。此処まで登って来れたのも、ユーザーの方々の手厚いサポートのお陰だと感謝しており
ます。どうか、最後の踏ん張りにユーザーの皆様のさらなるご協力を頂ければ、何とか未踏の地
に足を踏み入れる事が出来ると思います。

 どのレベルまで登るかはユーザーの方の事情により異なるかも知れませんが、登る気になった
時には頂上まで行けるように準備をしてお待ちしております。WRアンプは決して途中で道が途切
れて行き止まりになる事はありません。これからもWRアンプをご信頼頂きたく此処に改めまして
よろしくお願い申し上げます。  

1572川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Feb 16 13:45:00 JST 2015
PP(プッシュプル)を構成するデバイスに於けるハイブリッド方式−−−その後のその4

 最近は、すっかりハイブリッド化の仕事に集中しています。ユーザーの方のアンプも既に15台
を越えましたし、私自身が保有するWRアンプも5台あり、その内何台かはパワーTRを代えて何回
も試みていますので、出来上がったアンプの試聴回数は20回を遥かに越えています。

 改善度合いに多少の差はあるものの、概ね過渡ひずみが一様に減少し、音の風景がスッキリと
します。霧が晴れると言う感じです。試聴CDは多くは使わずに、ピリスのバッハのP協を使って
います。電源ON後に、パワーアンプを含めて音が落ち着くまでは、8トラックのP協5番の第2
楽章を聴きます。何回聴いても飽きない美しいメロディーに耳を欹てます。

 ピアノのタッチに曖昧さがないかが聴くキーポイントです。アンプの調子が悪ければタッチが
不明瞭でモコモコした感じに聴こえ、耳に異様な響きが残ります。但しピアノのこの異様な響き
は生のピアノの音にもあり、勿論録音の失敗からソースに入ってしまったものもあるので、その
辺りの判定は慎重に行わなければなりません。

 ピアノソロに続いて、それをを支えるようにバイオリンのピッチカートが出てきます。それが
ピアノに対して、その位置関係が分かるように定位するかどうかも大切なチェックポイントです。
楽章の最後にストバイの美しい合奏が弱音で奏されますが、此処でアンプの高域の安定性を占い
ます。

 ピアノの再生は音楽ジャンルに依らずオーディオの基本で、右手、左手、音域に依らず一様な
音質・音色に聴こえなければなりません。しかし上述しましたように、ピアノ再生は非常に厄介
でこれまで「ピアノはしょうがないか?」と言う一種の諦めのようなものがありましたが、今回
のハイブリッド化で見事に克服できたように思います。

 8トラックが終わったら2トラックに戻ります。P協1番の第2楽章です。耳に異様に響く音
が明らかに録音時に入っているので、こちらの方がよりシビアです。それが誇張されないか、又
右手のトリルが一音一音綺麗に分離して聴こえるかどうか傍耳を立てて聴き入ります。この楽章
のオケ伴の音は余り芳しくありません。特にフォルテは汚いです。

 過渡ひずみが取り切れていないと、左側のスピーカーに弦の引き攣れた音が貼り付きますから
直ぐに分かります。アンプに責任がない場合は、汚い割には音はスピーカーより中央寄りに音像
が定位します。バイオリンを含めた弦の再生もピアノに次いで難しい部類に入ります。極端な事
を言えば、ピアノと弦が過渡ひずみなく理想的に再生できるシステムなら、他のどんなジャンル
の音楽も立派に再生できると思います。

 過渡ひずみこそがオーディオの元凶です。音楽は過渡信号ですから、これさえクリアできれば
オーディオは成功すると言っても過言ではありません。逆に言えば、何らかの不満を感じる場合
の殆どは、過渡ひずみが耳を不愉快にさせている事になります。過渡ひずみが起こり易いものと
言えば、やはり負性抵抗を抜本的に解決していない帰還アンプでしょう。WRアンプは、この事に
注力してここまでやってきました。そして今、それがハイブリッド化で完結しようとしています。

 長い第2楽章が終わるとそのまま第3楽章を聴きます。第3楽章はアレグロでバイオリン群の
結構際どい音で始まります。少し異常とも思える鋭い音が頻繁に耳を刺激します。これが無難に
聴こえるかどうか、過渡ひずみが取り切れていないと耳が痛くなる感じに聴こえますが、上手く
EMe と非EMe がバランスしているとそれなりに聴けるようになります。引き続き、その後に出て
くるピアノの右手の音の粒立ちに注目して、この辺で試聴を終了します。

 これまでこれを20回以上も繰り返して来た事になります。この後、低音の安定性のチェックの
為にアランのバッハオルガン曲集を聴きます。お目当ては私の好きな3トラック目に入っている
「ファンタジーとフーガト短調 BWV542」です。オルガンの音は、サントリーホールの私の席で
何回か聴いているので、大体はどのように聴こえれば正解かは察しがつきます。

 それにしてもこの曲は素晴らしいです。録音も非常に良く上手く再生できると恰も実際にその
現場に居るような気がしてきます。この曲だけはやはりハイパワーアンプが良い結果を示します。
重低音の安定性には安定したパワーが必要なのでしょう。勿論オルガンは重低音だけのチェック
だけではなく、高音部のピーピー言うオルガン独特の音が神経質に聴こえないかどうかにも気を
配ります。この2曲、何度聴いても飽きないのはやはりバッハの普遍性のせいでしょうか。

 これらのチェックはどんなアンプの場合も行ないます。この後はその時の気分で別のテスト用
CDを聴く事もありますが、判定は既に決まっています。これまで自分用に、ちょっと奇を衒った
パワーTRの組み合わせをした時以外全て「合格」と言う判定でした。その一例を除いて私が問題
だと感じたものはなく、判定は非常に狭い範囲の合格領域に非常に高い精度で収束しています。

 使用しているEMe はアンプによって異なります。その事は昨年の秋に項番1546で詳しく述べて
います。細かいものを含めると10種類程に及びます。今回のハイブリッド化の場合は、コンプリ
を形成するEMe がそれぞれ非EMe を相手にし、しかも非EMe は複数存在する訳ですから、実験で
試した組合わせは非常に多岐に渡ります。それでもある一定の音質に収斂するのですから本当に
不思議です。改めてこれを「WR効果」「川西効果」と呼んでも良いのではと思います。

 その実体は過渡ひずみの激減です。EMe 同士でも況や非EMe 同士での過渡ひずみは決して無視
できないものが残ります。それがそれらを組合わせると過渡ひずみがスッと消えてしまうのです
から、やはりそれぞれの過渡ひずみが、何らかの意味で逆性であるとしか思えないのです。

 これは最早好き嫌いの問題として片付けていいものではないと思います。過渡ひずみは無い方
が良いに決まっています。過渡ひずみがあった方が音が効果的に聴こえると言うのは全くの詭弁
です。確かにH.Tさんの証言にもありますが、一見過渡ひずみがあった方が迫力があるように
聴こえる場合もあるでしょうが、それは全ての場合に成り立つはずはなく、何処かに過渡ひずみ
が存在するが為に起きる欠陥を有しているはずです。

 これまでの経緯からハイブリッド化は正式なアップグレードにしても全く問題はないと思える
ようになりました。原則論ですが、片側のEMe を残しそれに相応しいと私が思う非EMe を選べば、
もう音質は100%改善できると思います。即ち、1台1台私がテスト試聴する必要はなくなったと
言えると思います。

 2月一杯はもう少し様子をみますが遅かれ早かれ正式アップグレードになりますので、今より
遥かにスッキリした音で音楽をお聴きになりたい方は、早めにメールなり電話なりで取り敢えず
ご連絡をお願いします。同じWRアンプで音楽を聴いて頂くならさらに上質の音で楽しんで欲しい
と思います。今なら僅かな出費でそれが叶うのですから、何も躊躇する理由はないと思います。

 尚、ハイブリッド化が可能なアンプの条件を念の為、下記に示して置きます。

 1.負性抵抗を抜本的に除去する2つの特許回路を用いている。

 2.終段がコレクタホロワ化されている。

 3.帰還が従来品より14dB深くなる高帰還化がされている。

以上の3つの条件を、最新型のパワーアンプであるΕシリーズは当然ながら満足しています。

1571川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Feb 10 17:45:00 JST 2015
PP(プッシュプル)を構成するデバイスに於けるハイブリッド方式−−−その後のその3

 いろいろとEMe と非EMe を見つけてはハイブリッド化の実験を重ねていますし、何人かの方の
ハイブリッド化も試みておりますが、改善度合いに多少の差はあるものの、概ねは過渡ひずみが
減りスッキリ聴き易くなります。納入後に例外なくメールやお電話を頂くところを見ると、その
変りように吃驚なさるのでしょう。期待以上の成果が出ている証だと思われます。ほんの1、2
の例外を除いて私の耳では識別できないレベルに仕上がります。

 EMe にはこれまで問題のないものばかりを使っていますので、その例外の原因は非EMe の選定
にあるようです。はっきりしてる事はftの低いものは良くないようですが、特性に出ない製造上
の不出来もあるかも知れません。しかし私がこれぞと思って選んだものは大体OKなので、ご安心
頂きたいと思います。これは原則論ですがハイブリッド化の改造を行う場合は、これまでの音の
延長線上で音質改善を狙いますので、パワーTRの片側をなるべく生かすようにしています。

 私が「これは少し変だ」と思うような事があれば絶対に出荷しませんので、当たり前かも知れ
ませんが、これまで何方からもクレームはなく相当な改善に大いに満足して頂いています。その
意味でも自信はつきましたが、一抹の不安はジャズソースではどうなのかと言う問題があります。
私はクラシック音楽で確認していますし、私以上にクラシックライブにご精通なさっている方の
評価も、WR掲示板でお分かりのように大変良いので、だからこそジャズで念を押したいと思って
いました。

 そこで白羽の矢が立ったのが、WR掲示板でお馴染みのH.Tさんです。このお話をすると快く
引き受けて下さり、少し時間を掛けて慎重に試聴を重ねられたようです。マルチ5台分をお貸し
するのも現実的ではありませんので、取り敢えずハイブリッド化された、E-10とオマケにヘッド
ホンアンプをお送りしたのです。ハイチャンならヘッドホンアンプでも使えると思ったからです。

 お貸しして直ぐに、行き成りマルチに投入せずにご自分のE-10とシングルコーンの一発で聴き
比べて見るつもりである、と言うメールを頂きました。その第一声です。

★ まずお借りした新E−10と小生宅の旧E−10を並べてヒートアップし、サブの12cm
 フルレンジでとりあえず全帯域をチェックしました。12cm一発のバスレフですので、
 低域はとりあえずアタマにおかず、ラテンの比較的大編成のバックのラテンリズムが多く
 入ったボーカルをメインソースにしました。
  ですから、聴くポイントはボーカル、背後のラテンリズムの分離、前後感や定位、ブラスの
 煌めき等です。さんざんまず旧E−10を聴いてイメージを固めました。カラフルで見通しも
 よく、色彩感も豊かないつものE−10です。

  繋ぎ変えてお借りした新E−10をそれから聴いてみました。正直違いが判るか心配でした
 が、結論から言うと、小生の耳でも両者にはかなりの違いが認められました。驚いたのは、
 まったくチェックポイントに入れていなかったベースの動きです、電気ベースなのですが、
 新E−10は豊潤な上に明瞭で捉え難い電気ベースの地を這う様な音の動きが明確に捉え
 られてるのです。え?なに? このベースのカッコ良さは、と思った次第。

  ベースラインが安定して聴こえるので、重心が全体的に旧E−10より下がった感じが
 しましたが、続いてボーカルを聴いて感じたのは歪感というか、気になっていたギラつきが
 抑えられた事です。このボーカリストはちょっといがらっぽい声がいつも気になるのですが
 これがありません。LIVEでの彼女の実演はそんなことはないので、よりLIVEに
 近づいた気がします。大人しくなった、という人がいるかもしれませんが、本当はこちらの
 方がLIVE的によりリアルです。したがってサ行の表現も問題がありません。

  パーカッション類のキレ、拡がり、分離 全体的な味わいはそれほど旧E−10との違い
 を感じませんが、全体的に落ち着いた印象です。旧E−10はちょっと全体的に新E−10
 に比べると派手に聴こえると言うといいすぎかもしれませんが、オーディオマニアなら
 この差はすぐに聴き分けると思います。音のたちは同じWRアンプですから変わらない
 にしても表現する音楽の印象はソースによっては大分変って聴こえるのではないでしょうか。

  小生宅の中高域は過去に比べれば表現力は格段に上がっていますが、ある部分に於いては
 ちょっと強調されすぎかなあという部分もあり、マルチアンプの中に新E−10を入れると、
 このあたりを補ってくれるかなあ、と期待が大きくなります。


 以上のようなファーストインプレッションを送って頂いたのです。なる程このアンプの特長を
よく掴んでいらっしゃると思ったのでした。その後のレポートも期待したのですが、1週間ほど
連絡がありませんでした。H.Tさんなりに突き詰めていらっしゃるのかな、と察していました。
そして一昨日、次のような第二報が入ったのです。

★ 実はソースによって、新E−10と旧E−10の評価が逆転しかねないものがあり、
 自分でもその理由を自分なりに出してみたくなり、今回の試聴はちょっと環境を整えないと
 と思い、サブのフルレンジシステムを、メインシステムのプリEC−1に繋ぎました。上流の
 CDプレーヤーも最新式のものになるわけで、各アンプの繋ぎ変えも手際よく行える様に
 配慮しました。

  旧E−10の方が新E−10に比べてなんとなくざわざわした感じがあるのですが、
 ビッグバンドなどで全てのホーンがワーッと鳴るとかえって迫力を感じたりするので、
 あれれ?とおもったりしておりましたが、あることで、どうしてその様にソースによっては
 差が出ないことがある、あるいは気が付きにくい事があるのかわかりました。

  一旦迫力があるかの如く聴こえるのはやっぱり「錯覚」であったのです。それはスタン・
 ゲッツのカルテット編成のLIVEアルバムを聴いている時でした。ドラマーの右手の、
 ライドシンバルを打つ位置が、旧E−10では一定しないことに気付いたのです。どうやら
 楽器の帯域における音色の差がそれを生んで居ることに気が付きました。結果的に音場感で
 決定的に旧E−10と新E−10では差が付きます。
  但し、音色が一定しない部分が音楽的に美味しいところであったりすると、かえって
 その部分が快感に聴こえてしまうことがある、ということなのです。結果的に旧E−10は
 全体的に各楽器の音は太く迫力があったりするが、音場が一定せず、神経質で煩いのです。

  新E−10は各楽器は一定して余計な色がつかないので、場合によっては地味だったり、
 ストレートだったりするが、耳に突き刺さったりせず、身体を通りぬけて行く感じがする。
 ですので合奏部は面で迫らず、それぞれの楽器がそれぞれの位置から音が聴こえるので、
 一聴迫力に欠ける様に聴こえる事があるが、真に長時間音楽にLIVE的感覚で浸れるのは
 新E−10の方である、という結論になりました。

  そのあたりが判ると、新E−10の音は実にナチュラルに聴こえる様になりました。
 しかし、旧E−10も素晴らしいアンプです。新E−10を聴かなければ、まったく不満は
 なかったと思います。最初に新E−10の低域の良さに気が付いたのも、中高域の安定が
 低域のこれまでスポイルしていた部分を解きほぐしたのだ、と思っています。

  3.5Wのヘッドフォンアンプも聴いてみました。JAZZファンならむしろこっちが良い、
 という人間がいるかもしれないくらいアグレッシブな音色です。低能率のフルレンジに
 それなりのパワーを入れて聴くと、さすがに大音量は無理なのですが、ニア・フィールドで
 この音を楽しめれば、いうことはないのではと思います。


と言うように新E-10と旧E-10の評価が逆転しそうなソースも有ったようですが、注意深く聴けば
やはり新E-10の音像定位は安定していて、楽器の定位感がナチュラルに感じられたのです。好き
好きが有ってもいいようなものですが、やはり楽器の定位が楽器の帯域によって不安定になって
何処で奏でてるのか分からないような音は、やはり落第だと潔く認めるべきでしょう。ピアノが
その典型例です。この積み重ねこそがオーディオを真に発展させて行く原動力になるのだと私は
信じています。

 今回はH.Tさんの許可を頂いて貴重な体験を皆様にもお読み頂きました。これでクラシック
音楽でもジャズでも、ソースに関係なくハイブリッド化アンプは正しい再生をする、と言う事が
半ば証明されたと思います。これで1台1台音質を確認する必要もなく定番化できそうですので、
2月一杯は様子を見ますが、そう遠くない内に「パワーアンプのハイブリッド化」と言うアップ
グレードをショッピングサイトに掲載させて頂く予定です。ご興味のある方は、早めのご連絡を
お願いします。新規にご発注頂くアンプも原則的にハイブリッド式にするつもりでおりますので
ご了承下さい。

 尚、新規アンプの価格、アップグレード費用は今現在のところ未定です。  

1570川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Feb 5 11:30:00 JST 2015
WRアンプのカスタム化について

 このところWRアンプに関するカスタム化のご希望が幾つかあり、製作担当のマスターズ平野紘一氏
からも、予め分かっている事は、未然に皆さんに伝えて欲しいと言う要望もありましたので、以下に
その主旨をご説明します。

1.入力数、出力数、HP端子、SP端子、LEDカラー、つまみ等のマイナー・バリエーションに
  ついてのカスタム化の費用はそれほど掛かりませんので、気楽にお申し込み下さい。

2.内部アンプレイアウト変更、増幅ブロックダイヤグラムの変更、ケースサイズの変更などを伴う
  カスタムアンプになりますと、ある程度の費用(正価の2〜4割程度)が掛かります。勿論、変更
  が複雑化するほど費用は嵩みます。

 2.に関するカスタムの凡その流れは

● 内部レイアウトが変更になるので、電気的、機構的な検討をおこないます。
  必要な場合、事前に試作検討をおこない、問題発生(ハムノイズ、パワー出力、ゲイン等)が
  ないこと確認します。

● ベテランオーディオ工業デザイナーがデザインを検討して、デザインスケッチを提示致します。
  ご確認いただき、よろしければそれに沿って、材料を手配し、ケース製作、加工に進みます。

● アンプの肝の部分に当たる電子基板類は、設計者自身が自ら製作し責任を持ちます。

● 定番アンプと異なるので、製作(組立、配線)においては、細心の注意を払って行います。

● アンプ完成後に綿密な測定を行ない、出荷時に検査データを添付して発送します。

となります。

 尚、カスタムアンプの標準的納期は40日程度です。繁忙期はもう少し掛かる事もあります。

 結果として、あなただけの素晴らしいWRカスタムアンプが出来上がります。ご希望ならモデル名も
貴方に決めて頂く事が出来ます。原則的にカスタムアンプの場合は、製作スタート時に着手金として
アンプ代金の1/2程度をお振込み頂く事になっております。理由はキャンセルされた場合、特殊な
アンプになり、転売が簡単に出来ないからです。

 最後に、最も大事な事をお話したいと思います。それは貴方がWRアンプの本質を本当に理解されて
いるかどうかです。何となく人から聞いたとか、偶々Web 上で行き着いたとか、切っ掛けはそれでも
良いと思いますが、WRアンプが他のアンプとどう違っていて、どのような特長をもっているのかまで
把握して頂き、それがご自分の求めているものと本当に合致するのか、と言うところまで良くお考え
頂きたいのです。もし、合致すればWRアンプは貴方に取って本当に価値あるアンプになります。勿論、
評判を聞いてWRアンプに掛けて見ようと言う勇気のある方も大歓迎です。初期にどんな目的をもって
いても、最新のハイブリッド化されたWRアンプなら、貴方を決して裏切る事はないと思います。

 その為に一番役に立つものが、このWR掲示板です。過去12年間ほどの歴史がぎっしり書き込まれて
います。勿論私がWRアンプをどう言う経緯で開発して来たかが分かりますし、それに対するユーザー
の方々の反応もある程度分かります。

 WRアンプは、これまでの伝統的な帰還アンプ(大メーカー製アンプの殆ど)とは本質的に違います。
その本質をご理解頂ければ、WRアンプに投資する意味も自ずとお分かりになって来ると思います。  

1569川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Feb 3 14:30:00 JST 2015
日フィル1月定期を聴く

 日フィルとしては秋シーズン最後の演奏会です。今月はコバケンなので知ってる曲ばかりで
ある意味気楽に臨めます。聴いた事のない、或いは普段聴かない大曲の時はやはり緊張します。
今月の出しものはグリークのホルベルク組曲、モーツァルトのオーボエ協奏曲そしてメインは
シベリウスの交響曲第2番です。オーボエ協奏曲の独奏者は日フィル首席の杉原由希子です。

 ホルベルク組曲の原曲はピアノです。息子の嫁さんの沢田千秋がリサイタルで演奏しWR録音
しているので、最近はもっぱらピアノで聴いていました。グリーク自身が弦楽アンサンブルの
為に編曲していてオケ版の方が一般的になりつつありますが、余り良いソースがないので普段
オケ版は殆ど聴いていません。

 弦楽の編成は、コントラバスが8人居たので標準的な規模による演奏です。出だしの独特の
軽い刻みが始まりました。その後バイオリン群から綺麗なメロディーが出るはずですが、綺麗
に抜け切れません。ちょっとザラついた音に聴こえます。何時もの日フィルの弦の音とは思え
ないのです。久し振りに生オケを聴いた時の違和感とは全く違います。

 今日は午後から雪かきをして疲れているのかな、などと色々考えながら聴いていたのですが、
抑えた弱音以外は、結局5曲からなる組曲のほぼ全域でザラつきは消えませんでした。本当の
理由は分かりませんが、木管、金管、打楽器が居ないので、弦の位置が全体的に後に下がって
いたからかなとか、調性の問題なのかなとか考えたのでした。ちょっと残念でしたが、これが
我が家の音だったら落第だと思いました。もし調性の為ならどんなソースを買っても優秀録音
は有り得ない事になります。

 舞台が模様替えされてモーツァルト用に縮小されました。コントラバスが4人になりました。
推定ですが、全ての弦楽パートから4プルト程減らされていた可能性があります。木管、金管
はオーボエ2、ホルン2で本当に簡素な編成です。この曲はフルート協奏曲第2番の原曲だと
言われていて、メロディーは全く同じと言っても良いと思います。

 普段オケに居る杉原由希子のオーボエは音量が大きく常に堂々としています。薄空色の衣装
でちょっと控えめに登場です。大体オケの首席が独奏する時は団員に気兼ねがあるのか、何時
もこんな感じに見えます。しかし曲が始まると何時ものように朗々とした音をホールに響かせ
ます。オーボエは息が苦しくなるのか、顔を真っ赤にして吹く人が多いですが、そんな風には
見えませんでした。しかし体を左右に揺らしながら吹くスタイルから、私は蛇使いを思い出し
ていました。

 微妙なニュアンスには欠けるもののオーボエ奏者としての筋は素晴らしく、気持ちよくこの
曲を堪能する事ができました。特にカデンツァは3楽章それぞれにあって、モーツァルト自身
のものは指定されていませんが、どれもこれも、曲中のメロディーを上手く取り入れた素敵な
カデンツァに聴こえました。ハインツホリガーやシェレンベルガーなどの超一流なら兎も角も
普通の独奏者なら、内部の首席に機会を与えた方が良いと思いました。最後の割れんばかりの
拍手に、定期会員に絶大な人気がある事が伺い知れました。

 15分の休憩後は日フィルお得意の「シベ2」です。私は大学生の頃に渡邉暁雄/日フィルが
杉並公会堂で行ったコンサートを聴いたのですが、右側最前列辺りだった気がしますが聴いた
席が悪く、途中で気分が悪くなって退席した苦い記憶があります。最近ではインキネンが全曲
演奏をしていますが、「シベ2」は東京定期にはなく聴けなかったのです。その穴埋めかなと
思いました。

 この曲に対する私の印象は第1楽章、第2楽章はちょっと欲求不満気味で推移し、第3楽章
から徐々にエンジンをかけ、最後の盛り上がりに掛けて徐々に高揚して行くと言うものでした。
しかし、コバケンの演奏は最初からエンジン全開です。ティンパニーの強打、金管の飽和感に
参りました。サントリーホールの私の席でアンプが飽和しているような音を聴いたのは初めて
です。

 ティンパニーの音は、胸が空くような音を通り越していたと思いましたし、力むものだから
金管の咆哮も硬直して聴こえます。倍音が綺麗に乗った芳醇な音にはならないのです。それは
ホルンでもトロンボーンでも感じました。昔、カラヤンとウィーンフィルの練習風景をビデオ
で見たのですが、金管奏者に向かって「唯吹けば良いってもんじゃない!」と叱責していたの
を思い出しました。何故こんな音を出させたのか、コバケンが最後の挨拶で言っていましたが、
やはり、渡邉暁雄=シベリウスと言う図式を意識する余り、常軌を逸してしまったのではない
か、肩に力が入り過ぎたのではないかと思いました。

 エンジン全開で来たフィナーレはもう飽和していて、最後の盛り上がりが単調なものに終始
してしまったのは当然の帰結だと思います。確かに力演ではあったかも知れませんが、あれは
北欧の「シベ2」ではなかったと思います。本当のフィナーレは、涙が自然に出てくるような
そんな熱い気持ちがジワジワと込み上げてくるのですが、そんな気には全くなれませんでした。

 唯、救われたのはストバイ・セコバイの素晴らしかった事、第1曲でザラつき感を味わって
心配していたのですが、やはり日フィルの弦は健在でした。特に扇谷泰朋がコンマスの時の音
は本当に素晴らしいと思いました。弦だけは飽和していませんでした。厚みと芯があり相当な
緊張感をもって金管と相対する様は本当に格好良かったです。この音を堪能できたので全ては
チャラと言う事にしたいと思います。

 「シベ2」はデービス/ボストン響で聴きますが、やはり英国か本国の指揮者が良いと思い
ます。私が「シベ2」に本当の意味で目覚めたのは、リーダース・ダイジェストが売り出した
「不滅の名曲の世界」と言うLP12枚組のレコードセットでした。その9枚目にバルビローリが
指揮する「シベ2」が入っていて、その第3楽章から終楽章に掛けての名演にこの曲の真価を
見たのです。オケは全てロイヤルフィルで、例えばミュンシュ、ライナーなど12人の錚々たる
指揮者が得意の曲を振っています。

 バルビローリのセッション録りの日に、バルビローニのご母堂が亡くなったそうなのですが、
セッションを放り出さずにバルビローリは悲しみに耐えながら最終楽章を録り終えたそうです。
その音楽はご母堂を追憶する感動的なものに仕上がっています。  

1568川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Jan 30 14:15:00 JST 2015
PP(プッシュプル)を構成するデバイスに於けるハイブリッド方式−−−その後のその2

 あれ以来ユーザーの方のWRアンプのハイブリッド化をやっているか、私自身が所有するアンプ
を、色々パワーTRを変えてはハイブリッド化してるので、落ち着いて「WR効果」の理論的検証が
出来ておりませんが、EMe 同士よりも、非EMe 同士よりもハイブリッド方式の方が過渡ひずみが
少ないとすれば、プッシュプルを構成する2つのパワーTRで何がしかの打消しが起きている事に
なります。そうでなければ、過渡ひずみが減って聴こえるはずがありません。

 WRアンプは AB1級ではありますが、かなりB級に近いので音楽信号の半サイクルは、ほぼ別の
パワーTRが担う事になりますので、違った性質の波形が合成される時に打消しが起きても不思議
ではありません。これは仮定の話ですが、EMe に起因する過渡ひずみと、非EMe に起因する過渡
ひずみが、何か違う性質を有していると考えれば、違ったもの同士が打ち消し合う事はあり得る
事になります。

 では何故結晶構造が違うと生じる過渡ひずみの性質が変わってくるのでしょうか。しかも EMe
に対して、相手側は広く非EMe で括る事ができるとすれば、やはりEMe 型パワーTRは特別な存在
と言う事になります。一体何が特別なのかは未だ分かりませんが、回路がプアーで高周波ノイズ
に打ちのめされていた時でさえも、EMe 型パワーTRはある程度の威力を発揮し、TMe などの他の
結晶構造のパワーTRは取るに足らなかったのですから、EMe 構造が特別な存在である事には違い
ありません。
 
 EMe を使った場合の過渡ひずみが少ないと感じたのは確かな事であり、逆に、非EMe は多くて
ばらつきがあります。しかしどのEMe と非EMe とを組合わせても一定の効果が上がるのは、過渡
ひずみの量はほぼ同じなのに、質が間逆だと考えれば打ち消し効果が有り得るのかなと思います。
例えば、EMe の過渡ひずみと非EMe の過渡ひずみを半サイクルずつ合成して聴くと耳には優しく
感じられるようになると言う具合です。

 そしてその質の内容によって耳への刺激感が変ると考えれば、非EMe のばらつきの原因も一応
説明できます。仮定ばかりで申し訳ありませんが、仮にEMe の過渡ひずみの性質を表すベクトル
量をEMe ベクトルとし、非EMe の過渡ひずみの性質を表すベクトル量を非EMe ベクトルとします。
それぞれEMe V、非EMe Vと表す事にします。両者のベクトルが上手く噛み合った場合に、最も
良く調和する事になります。

 実験では、種々のEMe に対してどんな非EMe を組合わせても、ある一定の音質内に収まります
が、よく聴けば微妙な違いはあるので、EMe Vと非EMe Vが多少狂っていると、そのような事が
起きて来るのではないかと考えられます。EMe Vが勝てばピアノの音に異常音が増え、非EMe V
が勝てば音が硬質化するように感じられます。どちらにしても理想音から遠ざかります。
 
 今現在はこの程度の事までしか考えが纏まっていません。この考えが正しいと言う保証は何処
にもありませんが、マクロ的にはこのように考えるしかないのかなと思っています。この先もう
少しこの線で進めて見ようと考えています。

 今回はある方のヘッドホンアンプWRP-α9 をハイブリッド化した時に分かった、ハイブリッド
化のビフォー・アフターについて言及して見たいと思います。最近は耳がハイブリッド化の音に
慣れているので、改造前の音を聴いた時に、やはり随分違うと思いました。テストCDは色々聴き
ますが、主にバッハのP協とオルガン曲集です。以下の試聴記は分かり易くする為に、多少誇張
して書いてありますのでお含み置き下さい。

A)ビフォー

 1.ピアノの音が、音域、強弱、左手右手、速い遅いで色々変ってしまい、極端に言えば1台
  のピアノには聴こえない。其処にピアノがあると言う実在感が感じられない。オケとピアノ
  の位置関係が殆ど掴めない。

 2.ストバイのffで、時たま引き攣れるような過渡ひずみが左のスピーカーに張り付くように
  聴こえる。→ その瞬間、定位感が乱れる。

 3.オルガンの低音が量感はあっても漫然と鳴っていて、音階の進行などがよく聴き取れない。

 4.全体に何となくモヤモヤ感が漂っている気がする。

 5.アンプ(機器)から出ている音と言う不自然さが否定できない。

B)アフター

 1.ピアノの音が、音域、強弱、右手左手、速い遅いに依らず、常に一定の音質・音色で鳴り、
  当たり前ながら、1台のピアノの音として途切れなく連続的に聴こえる。特に、微小音でも
  トリルでもその感じが曇らずに、ストレスなしにピアノ音楽を楽しむ事ができるようになり、
  ある程度は、オケとピアノの相対位置が分かる。

 2.ストバイが比較的綺麗に抜けるようになり、録音に起因するひずみ感はスピーカーに張り
  付かずに、少し中央より(内側)から聴こえるようになる。→ 定位感は安定している。

 3.オルガンの低域が締まり、動きがかなり分かるようになる。

 4.全体に見通しが良くなりスッキリする。

 5.何より楽器が誇張無く普通に聴こえるようになり、その自然感が好ましい。

 以上のような結果になりました。尚、ヘッドホンアンプは整流直後のケミコン容量を増強して
いるとは言え非安定化電源ですから、第3項について特に不利である事を申し添えます。正直に
申して「これが本当に3.5Wのアンプの音なのか!」と私には聴こえました。

 それでは、この音を実際にお聴きになったご本人のご感想を、許可を得て下記に示します。

★無事アンプが到着しまして前の音とは異次元の世界を楽しませて頂いております。
★完全にスピーカーの存在が消えました。
★音はなっているのに認識出来ない自分がいました。
★よくハイエンドオーディオで聴くいき過ぎたフォルティシモや作りすぎてる厚化粧の音とは
★真逆の自然界そのものに存在してる「気配」がありました。

中略

★プリはパッシブATT なのでパワーアンプがプアだとまともな音が出ません。
★逆にパワーアンプが凄ければ凄い音がでます。
★私のはヘッドホンアンプですがブラインドテストではハイエンドアンプと偽ってもまず誰も
★疑わないでしょう。

と言う事で、私の我田引水ではない事がお分かり頂けた事と思います。「スピーカーの存在が
消えました」と言う事は裏を返せば過渡ひずみが無くなったと言う事です。ハイブリッド化が
正しい道である事が、これでまた一つ証明された事になります。

 これとは別にあるユーザーの方が寄せて頂いた感想文から、皆さんの参考になりそうな文章を
ピックアップして、ご参考に供したいと思います。

 ◎弦楽器は以前よりさらに摩擦音や浮遊感があり柔らかい
 ◎にもかかわらずピアノ音は強靭で輝きがある
 ◎両者が同居しているのに、ごく自然でゆとりを感じる。

とあります。私も大きな発見と思ったのですが、バイオリンとピアノが両立する事です。しかも
それがあくまで自然なのです。それは次の文章でも明らかです。

 ◎ショパンのノクターンを聴き比べに使用しましたが、静かな間がとても魅力的です。

「静かな間」が表現できるオーディオアンプにWRアンプは昇華したと言えるのでしょう。そして
結論的には、

 ◎今回の改善で一番の特徴にあげたいのは、自然な響き、ゆったりとした間(マ)、まったり感、
  落着き、そんな言葉です。

と結んでいらっしゃいます。どれもこれも音楽を落ち着いて楽しむ為には必要な事ですが、誤解
の無いように敢えて申し上げれば、これは決して枯淡の境地ではなく音楽好きの諸人に受け入れ
られる、もっと前向きな境地なのです。

 現在ハイブリッド化の真偽を見極める為にテスト期間としてご興味のある方に実費程度で改造
を賜っています。多くの方にご賛同頂ければ、ハイブリッド化が正しい事である事が証明されて、
WRアンプは原音再生の道をさらに究める事ができるようになります。その時は改めて「WRアンプ
のハイブリッド化」と言うアップグレードを正式に提案させて頂く予定です。  

1567川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Jan 26 20:30:00 JST 2015
PP(プッシュプル)を構成するデバイスに於けるハイブリッド方式−−−その後

 前回、WR掲示板上で表題に関する新しいデバイス活用法についてお知らせしましたが、これは
単なる妥協によるパワートランジスタのやりくりではなく、過渡ひずみを極小にするパワーTRの
前向きで新しい使用法を、コレクタホロワ化を含めて提案するものです。これがエミッタホロワ
でも成立するかどうかは未確認です。

 世の中の電子機器が小型化・集積回路化されて、益々ディスクリート用の部品が減りつつあり
ますが、当然の事ながらトランジスタも例外ではありません。デジアン用のパワーMOS を除いて、
アナログアンプ用のパワーTRは減少の一途です。特に、バイポーラ型のパワーTRはもう用無しの
状況です。

 WRアンプは音質を最優先する為に、EMe 型パワーTRを積極的に用いてきました。私が真空管を
諦めてトランジスタアンプに移行した頃には既にEMe 型パワーTRは下火になっていて、サンケン
のTMe 型パワーTRが多くのメーカー製アンプで使用されていました。代表的なものは、2SC1116/
2SA747で、その下のランクに2SC1403/2SA745、上のランクに2SC1584/2SA907がありました。

 2SC1584/2SA907については前回も言及しましたが、それぞれTMe 型、EMe 型と言うように異な
った結晶構造が採用されていました。それは音質を考慮したと言うより製造技術の問題であった
と思います。今回の予備実験でこのペアーは中々良い結果を示しハイブリッド化の大きなヒント
になりました。しかし、当時このペアーを積む頃には、リングエミッタ型のようなftを飛躍的に
伸ばしたパワーTRが開発されつつありましたので、実際には余り活躍しなかったはずです。

 サンケンには2SC1403/2SA745のさらに下のランクに、2SC1618/2SA807と言うTMe 型とEMe 型の
結晶構造の異なったコンプリが存在していました。私はマルチの上のチャンネルにこのペアーを
使い、下の方のチャンネルには2SC1403/2SA745を使いました。しかし、当時のプアーな回路では、
煩くて音楽を楽しむどころではなく、余程良い録音のソース以外は殆どダメでした。買ってくる
LPの殆どを録音が悪いと思ってしまったのはこの頃です。今なら、この両者の違いは一目瞭然で
判別できるのですが、当時の音はその差が分かるような次元ではなかったのです。

 その頃、アンプの音を害する原因として、高周波ノイズに着目した研究を既にスタートさせて
いて、負性抵抗を抜本的に排除する新回路を理論的に考案していましので、そのような観点から
アンプに使っている部品の見直しも始めていました。それまで、部品による音の違いは余り気に
していませんでしたが、別府俊幸氏の余りに部品に拘る姿勢に影響された事もあり、三種の神器
を導入する気になったのです。

 評判の良いSEコン、BGコン、ERO コンは体験的に使って見て良いと納得しましたし、パワーTR
もEMe に交換する気になったのです。当時手元には殆どEMe 型パワーTRはなく、ペアーで\700で
購入した2SD188/2SA627 と秋葉のジャンクで買った2SD74/2SB506くらいでした。前者は人気者で
したが反骨精神もあって、それ以外のEMe に的を絞り、秋葉原に行く度に半導体店を物色しては
買い集めました。其処には2SD188/2SA627 と言う型番(ブランド)ではなく、本質的な問題は EMe
構造にあるのだと言う信念があったのです。

 だからマルチに使った5台のアンプの4台までは2SD74/2SB506だったのです。徐々にWRアンプ
として体を成すようになり、折りしもベンチャー甲子園大会が母校で開催されるに当たって応募
して見る事になりました。平成10年(1998年)の10月の事でした。運よく、負性抵抗を除去した
WRアンプが大賞を受賞しテレ朝で放映されたり読売新聞の記事にもなって、WRアンプはラ技編集
部を通じて世の中にデビューする事になったのです。WRアンプの最初のプロトタイプ2台を作る
に当たって、大学同期でずっと付き合いを続けてきた平野紘一氏に依頼したのでした。その1台
が当HPにも載っている、30Wの貸出機WRP-α1/BAL(既にハイブリッド化済み)です。

 その時、WRアンプが初めて商品になると言う事で、パワーTRも一般受けの良い 2SD188/2SA627
を搭載する事にしたのです。それ以来WRアンプは色々なアップグレードを経て、その音質を徐々
に改善してきましたが、パワーTRはずっとEMe 型に固定してきました。TMe 型からEMe 型に変更
した時に、劇的な改善があった事が忘れられなかったのでしょう。EMe 型パワーTRを信じ切って
いたと言っても過言ではありません。

 それが、WRアンプ開発の最終章に入ってデバイスをもう一度チェックする気になったのでした。
それ以降の流れは前稿に記した通りです。最初の目的は、製作をなるべく容易にし、WRアンプの
裾野を広げて後継をスムーズにしたかったのですが、さすがにTMe 同士は容認できずに終わって
しまいました。しかしハイブリッド方式と言う新しいパワーTRの使い方が最善であると言う結果
に辿り着く事ができ、EMe 同士にも僅かに残っていた過渡ひずみを殆ど取り去る事ができました。
特にクラシック音楽では、弦の引き攣れがなくなった事とピアノがストレス無く楽しめるように
なった事が大きいと思います。

 その後、手持ちのEMe と非EMe を組合わせて、例えば、

 2SC1030(叉は2SC519)と2SA626、2SC793と2SA627、2SD218と2SB557、2SD751と2SB688、etc

のようにして色々と実験を繰り返していますが、例外なく音質が改善されています。よく聴けば
微妙な差はあるのかも知れませんが、私が聴いて直ぐ分かるような差はありません。過渡ひずみ
が何故極小になるのか全く不思議ではあります。物性のようなミクロの話しが音質と言うマクロ
の問題にどのように相関するのか、何故「WR効果」が生まれるのか、理論的な考察は楽ではなく
まだまだ暗中模索です。

 ボチボチ、ユーザーの方の「ピアノも弦楽器も、どちらも素晴らしいです」と言うような賞賛
の声が入って来ています。これは私の錯覚では全くありません。これまでピアノとバイオリンは
大体相反する傾向にありました。その点で今回は大きく違います。ハイブリッド方式は小手先の
テクニックではなく正真正銘の技術である事を物語っています。弦がもう少し綺麗に落ち着いて
くれたらとか、ピアノの音がもう少し安定してくれたらとか、現状に僅かながらも不満のある方
は是非ご相談下さい。音が硬直し難いのでジャズの金管やボーカルも相当に良くなるはずです。

 テスト期間の今なら、音調調整(WR掲示板1553参照)の一環として実費程度でパワーTRの交換
が可能です。今まで実演でしか聴けなかったような音が普通に我が家のスピーカーから聴こえる
ようになったので、益々音楽を聴くのが楽しくなりました。そう「普通に聴こえる」事が本当は
大切なのです。テストCDとして、バッハP協(ピリス)やバッハオルガン曲集(アラン)を聴き
ますが、改めてバッハの凄さ、偉大さにただただ感嘆するのみです。  

1566川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Jan 21 22:00:00 JST 2015
PPを構成するバイポーラ型パワートランジスタの組み合わせに新たな発見!!

 WR掲示板の項番1559の新年のご挨拶の中で、これまでずっと固定して来たパワーTRのEMe 型構造を
見直し中である事をお伝えしました。そして手始めにサンヨー(SiEp型)のTO-220型パワーTRを使って
テストを行ないEMe 型にはないストレートな音の出方に注目した事をお話しました。

 その後SiTMe 型をやって見る気になったのですが、PPを構成する上下両方共を同時に変える前に
もうワンクッション置こうと考えました。それは以前にも話した事がありますが、コンプリと称する
物の中に、NPN はSiTMe型 でPNP はSiEMe型 と言う変則的なものが存在するので、それを利用しよう
と考えたのでした。この組み合わせは特にサンケンに多く存在します。

 どうもEMe の製造に於いて、NPN の方が難しかった為か、CQ出版の規格表を眺めて見ても明らかに
NPN のEMe が少ないと言う傾向がある事が分かります。単結晶を軸に沿って綺麗に成長させると言う
技術はそもそも難しかったのでしょう。だから直ぐに拡散技術に取って代わられたのです。それでも
EMe が現役の頃はなるべくEMe で作り、どうしても困難な場合は相方をTMe で代用したと思われます。

 その変則的なコンプリの代表が2SC1584/2SA907です。これは大型パワーTRで100Wクラスのアンプに
使える規格です。私が重視する特性を列挙して見ますと、Vce=100V、Ic=15A、Pc=150W、ft=10MHz
となります。殆どのパワーTRが廃品種になってしまった現今では、この4つの特性がほぼ同じである
ならコンプリが成立すると私は考えています。2SC1584/2SA907は2SA907の方がEMe で、2SC1584 の方
がTMe ですが、サンケンが正真正銘のコンプリと称しているのですから全く問題はないはずです。

 この石を実装する次なるアンプに何を選択しようかと考えたのですが、行き成り100W、120Wアンプ
でテストするのは気が重かったのでWRP-ΔZERO/BAL(50W型)に使って見る事にしました。丁度改造中
に息子がやって来たので、置換が完了したΔZEROを直ぐ試聴して貰いました。サンヨーのSiEp同士の
音とは違って、ライブで時々感じるナローな感じがすると即答されました。初めこれが何を意味する
かは分かっていませんでした。しかし、ひょっとすると価値ある音なのかも知れないと思ったのです。
ナローに聴こえると言う事は過渡ひずみが少ない証だからです。

 尚、安定化電源のパワーTRも正負電圧の片側を非EMe にして見ました。この事はヘッドホンアンプ
を除き、以下の実験で全て踏襲されています。

 元々EMe 型に惚れ込んだ理由は煩くないからです。明らかに非EMe の方が煩いと思います。これは
当時から感じていた事ですがもう一度念を押す事にしました。ΔZEROはそのままにして、貸出機WRP-
α1/BAL にTMe 同志のパワーTRを積む決心をしました。昔マルチをやってた頃によく使った2SC1403/
2SA745と言うサンケンの石です。当時煩く感じたので、EMe に代えて物置の奥に仕舞い込んであった
のです。しかし逆に考えれば、このEMe の特質が音を少し曇らす傾向を齎したのかも知れません。

 果たして煩さはどうか、やはり一番顕著に煩さ(過渡ひずみ)を感じました。サンヨーより程度は
悪いです。実はコレクタホロワ化、高帰還化されたWRアンプならTMe も使えるかと期待していました。
過渡ひずみが起きるメカニズムは分かりませんが、弦の引き攣れを聴けば直ぐに判断できます。この
過渡音の判定にはピリスが弾くバッハのP協を使いました。このオケの再生は特に難しいと思います。
サンヨーのSiEpは出来が良い方なのだと思います。だから最初にこのアンプの音を聴いた息子に高く
評価されたのだと思いますが、それでもこのテスト盤では若干馬脚を現します。

 TMe よりEpの方が良いのかも知れないと思い、今度はTMe をEpに変える事にしました。私が使って
いる松下のEMe に2SD751/2SB713 と言うコンプリがありますが、実はこの石はある年度から結晶構造
を変えています。79年の規格表には明らかにEMe と書いてありますが、87年の規格表にはEpとなって
います。形状はTO-3P ですが、その図面番号は、前者は152 で後者は365 で明らかに違います。

 実は昔EMe をあちこちで探していて、うっかり365 の方を20ペアーくらい誤って買ってしまった事
があるのです。それが幸いする事になろうとは夢にも思っていませんでした。早速お蔵入りの365 を
引っ張り出してきて、TMe をこのEpに置換したのです。音はどうか? 結果はサンヨー程にはならず
TMe とほぼ同等であると判断されました。結局、EMe 以外は大同小異であると言う結論になりました。

 では、EMe 同志の過渡ひずみはどうなのか。365 を152 に変更してよく聴くと、TMe 程ではないに
しても弦の引き攣れは皆無ではありません。未だWRアンプは改良の余地があると思いました。そこで
未だそのままになっているΔZEROの音を改めて聴いたのです。何と不思議にもこのアンプが一番過渡
ひずみが少ないのです。それにも拘わらず、ピアノのタッチはEMe 同志より明瞭で、抜けが良い為か
右手のトリルの一音一音が識別して聴こえ、篭るような異常音も少ないのです。トランペットの鋭さ、
切り味も増したようです。煩さは減ったのに、分解能が上がった感じです。

 常識的に考えれば、「EMe 同志」→「EMe と非EMe の混成」→「非EMe 同志」の順に悪くなるはず
です。それがEMe と非EMe の混成(ハイブリッド)が一番良いと言う結果は新発見です。何故そうなる
のかは別問題にしても、俄然興味が湧いてきました。こうなったらE-10もやって見る気になりました。
ハイブリッド方式を守れば、他の石、他のWRアンプでもこの音になるのか興味津々です。

 最初に、152 の2SD751と365 の2SB713を組み合わせてやって見ました。予想通りΔZEROの音と同様
に弦の過渡ひずみは極小になり、ピアノのタッチもEMe 同志より明瞭に聴こえ、トランペットの鋭さ
も増します。トランジスタの型番に依らずEMe と非EMe を組み合わせれば、弦もピアノも金管も同時
に解決できるような気が、益々してきました。本当にハイブリッドを守れば、全く違うパワーTRでも
大丈夫なのか、さらに確かめる事にしました。

 手持ちにはE-10に丁度良いハイブリッドが可能な石があります。それはサンヨーの片側にサンケン
の2SA771を組み合わせれば良いはずです。2SA771はEMe で、Vce=80V、Ic=6A、Pc=40W、ft=10MHzと
言う規格です。サンヨーの2SD613の Vce=85V、Ic=6A、Pc=40W、ft=15MHzにかなり近くコンプリが
組めそうです。

 やはり結果は同じで過渡ひずみは極小になりました。もうこれは法則として成立すると思うような
結果です。最初にチャレンジしたヘッドホンアンプWRP-α9 も規格の適正なものを使って、もう一度
やり直す気になりました。新たにサンケンの2SA768と言うEMe に東芝の2SD526と言うSiT を組み合わ
せて、ハイブリッド化して見ました。前者の規格はVce=60V、Ic=4A、Pc=30W、ft=10MHz、後者は
Vce=80V、Ic=4A、Pc=30W、ft=8MHz なので、コンプリとして問題ない範囲です。

 またも予想通りの結果で、何とも不思議な事ですが弦の音もピアノの音も金管の音も良くなります。
これでヘッドホンアンプとE-10の石は決まりました。次に、E-30、E-50をどうするかですが、先ずは
これまで使ってきパワーTRをどのようにしてハイブリッド化するかです。E-30はこれまで主に2SD73/
2SB506を使ってきましたが、実は幸いな事に、昔から2SB506に置換可能な2SB506A と言う非 EMe型が
存在していたのです。

 最初「2SB506の耐圧が高いやつ」くらいに思って使っていたのですが、当時のアンプでは何故なの
か2SB506A を使うと音が硬くなるように聴こえたのです。そこで規格表を見てびっくりです。非 EMe
(SiE) だった事に気付いて納得し慌てて全てを追放したのです。捨てるには惜しいので押入れの奥に
保管してありました。それがまたまた幸いしました。現今では、2SB506A は2SB506よりも遥かに高価
です。

 2SD73 の相手に2SB506A を挿げたのです。今度もバッチリです。殆ど同等の音に成ります。不思議
にも弦の引き攣れは減りピアノのタッチは明確になり、トランペット本来の切れ味が出ます。何より
朗報はこれまで苦しんだピアノの異常音が減った事です。どうもこれらの諸問題は同じ原因で起きて
いたようで、ハイブリッド方式で一石三鳥の収穫です。これで当面、E-30は解決です。

 次はE-50をどうするかです。E-50には2SD188(2SD180)/2SA627(2SA626) を使っています。これにも
昔の失敗が生きる事になったのです。と言いますのは、外国からネットで物を買う事が出来るように
なった頃、検索していたらヨーロッパに2SD180/2SA626 が存在してる事が分かり、余り考えずに購入
してしまったのです。届いたものを見て「ギャフン」です。NEC 製ではなく頭に「DSI 」と言う文字
が印刷されています。後で分かった事ですが、ドイツの半導体メーカーがイミテーションを製造した
のです。実際に音を聴いて二度「ギャフン」です。これは三重拡散系の音であると確信し、即刻お蔵
入りになってしまいました。

 今回、2SD188(2SD180)/2SA627(2SA626) の相棒を探していて、昔の失敗を思い出し慌てて押入れを
探したところ10ペアー見つかりました。これは両方とも使えるので、20ペアーのハイブリッドが可能
になります。どうもNPN とPNP のどちらかを非EMe にすれば良いらしく、どちらでも音には殆ど影響
しないようです。早速、この組み合わせでもハイブリッドの音を聴いて見ましたが問題はありません
でした。どのような組み合わせでも、ハイブリッドなら同程度に音質は改善されます。

 最後にハイパワーのWRアンプに使われているサンヨーの2SD732/2SB696 をどうするかですが、規格
はVce=120V、Ic=8A、Pc=80W、ft=15MHz です。これに近いものを探すと、使う気にならなかった
サンケンの2SC1403/2SA745が浮かびました。この規格はVce=100V、Ic=8A、Pc=70W、ft=10MHz で
十分コンプリとして使える範囲です。これも2SD732/2SA745 と2SC1403/2SB696の2つの組み合わせが
可能です。直ぐにΔZEROのパワーTRを交換して確認しましたが、同等の音が得られました。サンケン
の石には耐圧の低い2SC1402/2SA744もありますので、使用電圧の低い場合は同様に使えるはずです。

 以上を整理して見ますと、

 1.ヘッドホンアンプ → 2SD526/2SA768(TO-220)

 2.E-10 → 2SD613/2SA771(TO-220)

 3.E-30 → 2SD73/2SB506A(TO-3)

 4.E-50 → 2SD180/2SA626(DSI) 又は 2SD180(DSI)/2SA626(TO-3)
    或いは 2SD732/2SA745 或いは2SC1403/2SB696(TO-3)

 5.E-100、E-120 → 2SC1584/2SA907(TO-3)
         又は 2SD751(152)/2SB713(365)のパラ 或いは2SD751(365)/2SB713(152)のパラ
            (TO-3P)
         又は 2SD732/2SA745のパラ 或いは2SC1403/2SB696のパラ(TO-3)

となります。

 尚、2SD613/2SA771はE-30に、2SD751(152)/2SB713(365)、或いは2SD751(365)/2SB713(152) はE-50
にも使えます。また2SD188/2SA627(DSI)、2SD188(DSI)/2SA627の組み合わせも可能だと思います。唯、
2SD188と2SD180の違いは耐圧だけの問題ですから、電圧に余裕がある場合なら2SD188(DSI) の代用品
に2SD180(DSI)を使う事は可能ですし、2SA627(DSI)と2SA626(DSI)に関しても同様です。

 この他にも数は僅少ですが、色々なハイブリッドが成立します。EMe も含めてトランジスタは必ず
しもコンプリとして作られる訳ではありません。寧ろ、NPN だけ、PNP だけと言うトランジスタの方
が多いのです。従って、これまでコンプリが組めずに利用価値のなかったEMe も非EMe の相棒を探す
事で利用できる可能性が出てきます。益々トランジスタの入手が難しくなる昨今、その意味でもこの
ハイブリッド方式は画期的な施策である事になります。

 当面の間WRアンプを新規に購入される場合はどちらの選択も可能ですが、私はハイブリッド方式を
推奨します。過渡ひずみの量から考えて、純粋EMe に拘る意味は殆どないと思いますが、当分の間は
EMe のご注文もお受け致しますので、ご希望の方はお申し込み時にご連絡下さい。私自身は純粋 EMe
の音とハイブリッド方式の音の差は大きいと思いますが、一般的には致命的な差であると断言できる
程の大きな差では無いのかも知れません。ご自分の求める音質の趣向に合わせてどちらを選択するか
ご決断下さい。

 既存のWRアンプをお持ちでハイブリッドにされたい方は、テスト期間として当分の間、音調調整の
一環としてお受け致しますので、どうぞメール等でご相談下さい。但し、数に限りがあるデバイスも
ありますので、お早めにお願い致します。原則的には安定化電源を含めて、コンプリの片側を生かし、
片側をハイブリッド可能なパワーTRに交換致しますが、相棒が見つからない場合はそっくりセットで
別の石に変更させて頂きます。

 まだまだハイブリッドの組み合わせは可能なはずですが、殆どが廃品種になった現在、その選択の
幅は思いのほか狭い事が分かりました。それでもハイブリッド方式ならば、保有するEMe のほぼ2倍
の量のアンプが製作可能になりますから、デバイスの有効活用にもなるはずです。TMe で何とかなら
ないかと言う初期の目的は達成できませんでしたが、予期しない新しい方向に進んで新発見に繋がり、
WRアンプ開発最終章でのデバイスの検討は無駄ではありませんでした。これでWRアンプはほぼ理想形
になったと宣言できると思います。

 今回のハイブリッド化に当たって使用したチェックCDは主にクラシックでしたが、トランペットの
音はビッグバンドでも確認しましたので、クラシックファンのみならずジャズ愛好家の方にも喜んで
頂けると確信しています。今までもそうでしたが、WRアンプの開発の歴史に於いて特定のジャンルに
偏ったテクニックを駆使した事はなく、あくまでも一般性を重視していますので、どのような音楽を
お聴きになる方にも、ハイブリッド化は朗報だと信じています。

 尚、この新発見を手前味噌ながら「WR効果」「川西効果」と呼ぶ事にします。但しエミッタホロワ
のままで「負性抵抗」を抜本的に除去していない従来型の帰還アンプにも適応できるかどうかは全く
予断を許しませんし、結果がどうなるのか保証の限りではありません。今後は何故このような「効果」
が得られたのか、理論的な背景を探りたいと考えています。  

1565川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Jan 17 13:45:00 JST 2015
倉太郎さん、旧型プリWRC-ΔZERO/FBSE の音調調整後のご報告ありがとうございます。

 「ブラボー」と言う一言を頂いて、私の家での音調調整が、倉太郎さん宅のゴトーユニットを
使ったマルチシステムでも通用した事が即座に分かり、私も安堵致しました。当たり前のようで
これは結構高度で大変な事なのです。倉太郎さんが、依頼事項として4項目挙げていらっしゃい
ますが、これらはWRアンプのモットーでもあり、大変ですが何とかお応えしたいと思ったのです。

 ピアノの音の強靭さとか、バイオリンの浮遊感とか、そもそもそれ自体が微妙な音の問題です。
その音を、片や小型ブックシェルフでモニターし、片や大型ホーンシステムで聴いて、ほぼ同様
な感覚を共有し得た事は、寧ろ稀有な事であり画期的な事です。唯、共通する事は共にWRアンプ
を使っている事です。それだけ高帰還化後の最新WRアンプが如何に安定に動作しているかの証拠
になりますが、もう一つ大事な事は、どちらも生演奏会によく行く事です。

 この中で特に難解な表現は「弓と弦がつるっとすべる感じです」と言う部分です。私も倉太郎
さんに直接確認を取った訳ではありませんけど、多分、あの音を表現されているのかな、と言う
想像はついています。あの音とは、普通バイオリンは弓に塗った松脂による弦との摩擦によって
発音していて、結構な高調波を含む鋭い音を出しますが、何かの拍子に高調波成分が抜け落ちた
ような、ヌペっとした、油が間に挟まったような音を出す事があります。倉太郎さんがすべると
言う表現を使っているのはこの為ではないかと思います。これは一種独特の音で魅力的に聴こえ
ますし、ビオラは別にして他のどんな楽器からも聴けない音なので、この音に遭遇すると新鮮な
驚きがあります。

 この音は一体楽譜に書かれた奏法と関係があるのか、偶々力の入れ具合で出てしまった音なの
か、つまりは故意なのか偶然なのか、バイオリン奏者の方に聞いて見たい気がします。ひょっと
すると演奏者自身気付いていない可能性もあるかも知れません。それほど微妙な音だと思います。
実はこの音の再生は弦楽の中でも特に難しい部類に入り、基本的には、弦楽の柔らか味が出るか
どうかで決まります。何れにしても相当過渡特性の良いアンプでないと聴けない音だと思います。

 もう一点「プリアンプは音を決めるための最終手段である」と言う行について補足させて頂き
ます。技術的立場からは、アンプの中で一番大切なものはやはりパワーアンプであると言わねば
なりませんが、「されどプリ」と言う側面も確かにあります。どんな優れたパワーアンプも適正
なプリアンプと共に用いた方がいい音で鳴る、と言う現象は大方のマニアが経験しています。

 その意味で「最終手段」と言う言葉には説得力があります。プリ以前の上流に存在する高周波
ノイズをバッファリングして、できる限り純粋な音楽信号をパワーアンプに送り込む事がプリの
使命なのです。バッファリング効果が高い程、良いプリだと言う事ができます。その意味で最新
式のデジタルコントロール付きのプリは、それだけでワンランク音質を落とす可能性があります。

 一時、旧型プリの音は新型プリであるEC-1に比べて明らかにワンランク落ちていました。この
問題に最初にリクエストされたのが足利の増田さんです。何回かプリを往復させ、試行錯誤して
結局、旧型プリの電源電圧を上げ、送り出しアンプを2段差動化し、さらにゲインを0dB にして
高帰還化を図り最終的に決着したのでした。この結果当然ながら静的特性は向上したはずですが、
そんな定常特性が効を奏したとはとても思えません。シングル動作で必要な定常特性は得られて
いたからです。しかしながら高周波ノイズに対しては、シングル動作よりプッシュプル動作の方
が有利になります。

 結局はバッファリング効果が向上し、後に接続されるパワーアンプの動作がより安定になった
と言う事だと思います。この2段差動化によって、旧型プリの音質もEC-1と同等レベルに格上げ
される事になったのです。勿論、倉太郎さんのΔZERO/FBSE もその技術を踏襲しています。私は、
バランス入力のパワーアンプを聴く時は旧型プリを、Εシリーズのパワーアンプを聴く時はEC-1
を使ってモニターしています。どちらで聴いても有意な差は感じられない程音質レベルが揃って
います。

 次に補足説明の1.ですが「鳴り過ぎないという事」は私も全く同感です。兎に角、騒がしい
音のするアンプは落第です。騒がしいとは、例えば常時高音が出ている気がする或いは常時低音
が出ている気がするアンプの事で、何処かがおかしいと言う事です。演奏会場で特に高音楽器が
鳴っていない曲を聴きますと、反射的に「高音が出てない!」と慌ててしまう事がよくあります。
ナローな音に聴こえるのです。しかしピッコロやシンバル等が鳴れば、その瞬間に闇を破るよう
に状況は一変します。この落差があるのがライブなのであって、常時高音や低音が耳につくのは
アンプが何らかの過渡ひずみを出している証拠です。オーディオの音質を悪化させる原因の殆ど
は過渡ひずみ(場合によっては位相ひずみ)です。

 倉太郎さんが「ヴィオラ・ダ・ガンバの音を華々しくチリチリ、シャラシャラと細かい音まで
はっきり再現し、これがリアルな音だという愛好家がいます」と仰っていますが、好き好きとは
言え、WRアンプの方向性とは 180度違う事だけは申し上げて置きたいと思います。

 WRアンプは、倉太郎さんも再定義されていますように「ライブの音それもバランスのよい位置
で聴くライブの音」が基準になっていると思って頂いて構いません。確かに、一流オケになれば
なる程上席で聴く事は難しく、ウィーンフィルやベルリンフィルをサントリーホールの1階席の
中央辺りで聴くなんて事は夢の夢かも知れません。しかし、国産オケなら何とかなります。私が
日フィルに通うようになった一つの条件はこの上席に定期会員の席を確保できたからです。端で
聴く音と上席で聴く音には雲泥の差があります。

 このような定義をお聞きになりますと「それじゃージャズはダメか」と思う方もいらっしゃる
かも知れませんが、それはH.Tさんや、その音をお聞きになったKuroさんの証言によって全く
当たらない事が証明されています。つまりWRアンプはあくまで一般性を失わないように考慮して
作られているのです。クラシック音楽がいい音で聴こえるように何か細工している訳では決して
ないのです。ですから、極端な事を言えば打ち込み音楽でも本領を発揮するはずです。要するに
「ライブの音それもバランスのよい位置で聴くライブの音」と言う定義そのもが一般性を有して
いる事になるのだと思います。その理由は、メジャーレーベルの録音がそのようなプレゼンスが
得られるように行われているからです。

 しかしそのような事を念頭に設計されているアンプは殆どありません。倉太郎さんも「こんな
音は既存のオーディオでは聴いたことはありませんし、このような音を再現しようという意欲も
感じませんでした」と仰っています。つまりは、オーディオの原点である原音再生と言う目標は
何時しか風化し、ドンシャリを基本にする刹那的な喜びに終始するオーディオが多数派を占める
ようになってしまったのです。現今のオーディオはこの一点にビジネスチャンスを見出している
ような気がします。

 だから、Kuroさんの「単純に体に振動を感じる程度の音であればどこのシステムでも経験して
おりますし、私の現システムでも感じる事ができます」と言う証言は必然だったのだと思います。

 最後に、倉太郎さんが結果報告をされていますが「音が飛び出してくることはなく、金管楽器
や打楽器でさえ舞台上の奥から鳴っているという奥行きを感じることができます」と言う音調に
なったのです。これは非常に大切な事でホール上席で聴くと、どんなffに成ってもティンパニー
はあくまで舞台上で鳴っていますし、トランペットやトロンボーンでも然りです。これらの音が
前に迫り出して来るアンプは、何処かに不安定要素を抱えている証拠で、それを喜んで聴くのは
過渡特性の悪さを聞いてる事になり、趣味趣向の問題とは言え如何なものかと思います。アンプ
の安定性が向上し過渡ひずみが減る程、実は音像は奥深く定位するようになります。

 音像が遠くになると音がぼやけるのではないかと心配する方も多いと思いますが、過渡ひずみ
が減ったが故に音像が遠くに定位するようになった場合は、決してそんな事はありません。音に
存在感が増し、寧ろ楽器本来の自然な音が楽しめるようになります。関連する事ですが、弱音が
本当に美しく聴こえます。それは過渡ひずみが皆無になって初めて味わえる音です。即ち分解能
は決して落ちる事にはならないのです。

 特にクラシックファンの方に「これほどふっくらとして優美な弦楽の音をオーディオで聴ける
とは思ってもいませんでした」と言う倉太郎さんの証言を改めて確認して頂いて、最新WRアンプ
の音の特質をご理解頂ければと思います。

 倉太郎さんはマルチアンプシステムについても語って居られますが、H.Tさんと違って調整
は比較的楽だったと証言されています。H.Tさんの証言には昔の経験も混在していると思われ
ますので、現状ではそんなに違いはないと思います。「Εシリーズで統一化したのち、短期間に
他人様に聴いて戴く状態にまでなった」と言うH.Tさんの証言からも明らかです。もし違いが
有るとすれば、6dB/oct とそれ以上の遮断特性を有するアクティブフィルターとの違いが多少は
影響したのかなと思っています。  

1563川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Jan 14 14:30:00 JST 2015
H.Tさん、ご投稿ありがとうございます。

 以前から、全てが完了したらオーディオ仲間の方に聴いて貰う予定ですとお聞きしておりました
が、全てのシステムが完成するまでには結構な時間が掛かってしまい大変申し訳ありませんでした。
それでも時間は経過し、何時かはその時がやって来るものです。お正月にやっとそれが実現された
そうで、しかも良い評価を頂けたようで私も胸を撫で下ろしています。しかし、それは偶然の成功
ではなく、必然だったのだと思います。以下をお読み頂ければお分かり頂けると思います。

 私も評価して頂いた方のブログを拝見致しましたが、ジャズと言う違ったジャンルの方の見方に
新鮮な感覚を覚えました。例えば、

★「音楽的快楽とオーディオ的悦楽の融合」

と言う行はなる程と思いました。意識はしていませんでしたが、WRアンプのモニターの時に両者が
並存するように無意識に聴いていたと思いますし、オーディオアンプである以上それは当然の事だ
とも思います。また、

★エネルギーの塊が散漫する事無く直接体に入り込んでくる感じです。

と言う表現は、私の若い頃に経験した体感に近いものである気がします。それは何処かのホテルの
ボール・ルームで行われたダンスパーティーの会場での事でした。小野満とスイングビーバーズの
ビッグバンドが入っていました。バンドは舞台上ではなく同じ平土間に並んでいて私は臆面もなく
ギリギリの線まで行ってジルバを踊り、指揮者とぶつかる位の所でその音を聴いたのでした。風圧
とでも言うような音に圧倒されました。正に直接体に入り込んでくる感じです。私のビッグバンド
に対する想いは其処から始っています。

 この感覚がもし再生装置から感じられたのであれば、それはWRアンプの特質かなと思っています。
「単純に体に振動を感じる程度の音であればどこのシステムでも経験しております」と言う行から
推定できる事は、勿論WRアンプが「負性抵抗」を徹底的に排除しているから可能になったのですが、
全段安定化電源で供給される事によって、初めてこの感覚が得られたのではないかと思っています。
WRアンプは音が大きくなる瞬間にも全く怯まずに音がストレートに出て来るからです。この点でも
一般のアンプとは一線を画すものだと思います。

 しかし、WRアンプは、唯、そう言うオーディオ的快感ばかりではなく、

★結局「音楽にただひたすらに没頭できる」、私も実際に聴いてその通りだと感じました。

と言う結びが大切なのだと思います。そして、

★素晴らしい!! これにつきると思います。

と、私とは全く利害関係のない第三者の方に最大限の賛辞を頂いて私も大変光栄に感じております。

 常々オーディオには第三者評価が必要だと思っていますが、H.Tさんもそれを断行されたので、
単なる自己陶酔ではない事が証明されたと思います。決して自惚れではなくシステムは成功したと
言っても過言ではありません。これは一重にH.Tさんの努力の賜物です。この事に微力ながらも
WRアンプがお役に立てたとすれば、誠にご同慶の至りです。中高域にあるボーカルの硬さは音調の
微調でなんとかなるはずで、本質的な問題ではないと思います。

 H.Tさんが仰るように、私もアンプとスピーカーの間にネットワークが入る事に違和感があり
5チャン6ウェイまでシステムを拡張しましたが、アンプ本体の研究をするようになり一度に数台
の部品を取り替える煩雑さに根を上げてしまいました。おまけに腰痛もちになったりもしました。

 それ以来ずっとB&W805MATRIXで聴いている訳ですが、一発は一発でそれなのメリットがあります。
それは音場感が比較的自然である事です。音場感を重視する私には、一発は単純明快で結果的には
良かったと思っています。確かに、折角「負性抵抗」を除去し「高帰還化」を実現して置きながら
その後にネットワークを入れるのは勿体無い事ではあります。

 しかし、それが致命的になっていないのは、単純なダンピングファクターの問題ではなからです。
ご承知のように「ダンピングファクター」は静的な特性で単なる目安に過ぎません。実際に効いて
くるのは、動的なダンピングファクターです。時々刻々変化する音信号に対して瞬時瞬時に決まる
ダンピングファクターの事で、これにはアンプの安定性が大いに関係して来ます。

 WRアンプはその動的なダンピングファクター特性が優れているのです。H.Tさんが「変な事を
書く様ですが」と断られて「音楽信号にコーンの動きが実に忠実な様に見えるのです。」と仰って
います。これは、正にこの事を裏付けています。不安定なアンプの証拠は、音楽とは無縁にコーン
紙が動く現象です。

 このような変則的にコーン紙が動くようなアンプでなければ、一発でもそれなりの切れをもって
音楽を聴く事ができるのです。よく接触抵抗を気にする人がいますが、その僅かな抵抗による音の
劣化に比べれば「負性抵抗」を抜本的に除去できていない、帰還が不安定な一般のアンプを使う事
の方が遥かに音質を悪化させるのです。

 H.Tさんも仰っていますが、スピーカーを駆動するアンプの方が実は大切なのです。どれほど
高級なスピーカーを使っても、用いるアンプの動的なダンピングファクターがダメなら、期待した
音は殆ど出ないのです。何回も言いますが、スピーカーは定電圧駆動が前提で設計されています。

 定電圧源とは出力(内部)インピーダンスがゼロの電源(アンプ)の事で理想電源の一つですが、
WRアンプはこれに近い特性を有している事になります。そうでなければ、ブログ上の評価やH.T
さんの証言には結びつきません。

 世の中には多くのアンプが存在しますが、大別すれば、WRアンプのように実質的に定電圧駆動が
できるものと、そうでない一般のアンプになります。多分「負性抵抗」を抜本的に除去したアンプ
が存在するとは聞いた事がないので、非WRアンプを選べば本質的には大同小異の音しか得られない
と言う事になるでしょう。その事を裏付ける証言として、ブログ中の

★West Riverで増幅した電気信号は既存の概念では到底無理だろうと思われていた音をスピーカー
★に送り込んでいるようです。

と言う記述が注目に値します。

 最後に、WR式チャンデバの件ですが、私がマルチをやっていた時は

 1.6dB/oct(伝達関数=1)を使い、音場合成を容易にする。

 2.負性抵抗を完全除去したバッファアンプ(TR2石)を使う。

と言う条件で、それなりに成功したと思っていましたが、肝心のアンプの問題が持ち上がり途中で
中断したままになっています。もう一度チャレンジしたいと思うものの、アンプの件が終わるまで
は集中できないと思います。唯、チャンデバ自体は経験済みですから、カスタムでお作りする事に
全く問題はありません。

 6dB/oct の良し悪しですが、音場合成の容易さの上で大きなメリットがある反面、

 1.遮断特性が悪いので、スピーカーの暴れた周波数特性を抑え込めない。

 2.不要な低域信号がカットし切れないので、高感度ユニットを壊す可能性がある。

と言う問題も囁かれています。

 しかし、暴れた周波数特性は静的な問題であり、アンプが優秀ならその程度の問題は吸収できる
と思いますし、低域信号の問題はアンプの安定性が良ければ、音楽信号以外の不規則な動きは起き
ないので、私は問題ないと考えています。事実、倉太郎さんは 6dB/octで成功裏に運用されている
とお聞きしています。ユニットを壊した方が居るとしたら、それは一般の不安定なアンプを使った
からだと思います。


注)倉太郎さん、ご投稿ありがとうございます。後日、対応させて頂きます。  

1562倉太郎さん(モーツァルトと一緒) Tue Jan 13 10:46:12 JST 2015
旧型プリ(WRC-ΔZERO/FBSE)音調調整のご報告

前回(掲示板1555)で旧型プリ2機種の聴き比べについてご報告いたしました倉太郎です。
前回はアップグレードされたWRC-ΔZERO/FBSE と貸出機WRC-α1/FBALにそれぞれ微妙な差があり、
良いとこ取りの音調調整をお願いしたということを報告しました。
その結果について今回ご報告させていただきます。

前回と重複する部分があるかもしれませんが、最初に依頼事項を要約しますと次のようになります。

 1.貸出機WRC-α1/FBALが持つ剛性感を生かし、ピアノの音は強靭で、音の輝きを生かすこと。
   しかし同機に感じる中高音のきつく強引な部分は解消し、鳴り過ぎない様にする事。

 2.WRC-ΔZERO/FBSE が持つ弦楽の摩擦音、浮遊感、弓と弦がつるっとすべる感じを十分に
   生かす事。

 3.舞台の上で演奏しているという音場感、距離感を大切にする事。

 4.できれば、オーディオから音が一方的に押し付けられるのではなく、こちらから聞き耳を
   立てて音の世界に踏み込み、音楽の精神に深く触れることが可能な、そんな柔軟さを
   大切にする事。

弦楽のふくよかさとピアノの強靭さという全く異なる音の共存を、あたかもチャンデバの
レベル調整をするかの様にお願いした訳です。最初はもう少し遠慮気味にお願いを始めたのですが、
プリアンプは音を決めるための最終手段であるという気持ちから、思い切って自分の音に対する
考えをすべて川西様にお伝えしました。

依頼事項の中には、マニアックで抽象的な言い回しがありますので、いくつか補足させて
いただきます。


 1.鳴り過ぎないという事

これは“聞き耳を立てて音の世界に踏み込める音”ということとほぼ同じですが、
次のようなことを意味しています。

前回バイロイトの音が遠く、一生懸命聞き耳を立てているうちに過不足なく聴こえるようになり、
ワグナーの世界に引きずり込まれたということをお話しました。
今思うとこの響きは劇場設計者であり作曲家であるワグナーの策略だったのではないかと
思う程です。
聞き耳を立て、集中して音を追いかけていると、その音が作り出す世界に必然的に埋没していく
という仕組みです。

ワグナーはCDで理解するのは難しいといわれます。しかし、バイロイト祝祭劇場では、
ワグナー愛好家であろうとなかろうと、劇場に居合わせた全ての人が、根こそぎ幽玄で
神秘的なワグナーの世界に引きずり込まれるというような空気がありました。
それは静かで主張し過ぎないこの劇場の響きに関係があるというのが私の仮説です。
鳴り過ぎない音とは、この様に一方的に押し寄せるだけではなく、聴衆を引き付け音の世界に
積極的に踏み込ませることを可能にするような、柔軟な質感を持った音ということになります。

もう一つ鳴り過ぎに近い事例があります。
ヴィオラ・ダ・ガンバの音を華々しくチリチリ、シャラシャラと細かい音まではっきり再現し、
これがリアルな音だという愛好家がいます。まるで数十センチの距離にマイクを設置しているか
のような音です。
コンサートホールでマタイ受難曲(バッハ)で演奏されるヴィオラ・ダ・ガンバはなんとも
奥ゆかしく、聴衆が、“頑張れ頑張れ”と応援したくなるほど必死に音を響かせているようです。
こんな音をライブで体験してきたばかりの耳には、この愛好家が再現する音は、
ドンシャリであるということよりも、全く音場感がなく、とてもリアルには聴こえず
バーチャルなものに思えるのです。少なくとも私には、聴こえ過ぎです。

“聴衆を引き付けその音の世界に踏み込ませる音、そして聴こえすぎない音”と言う表現は
禅問答のように、より一層抽象的になってしまいました。オーディオ的に聞きなれた言葉で
補足してみます。

そのような音は、おそらく分解能が高く音の見通しが良いから可能なのであって、SN比が良く
音やその背景が静かでクリアーである必要があります。そしてそれは音場感があり、
縦・横・奥行きのある立体的な空間に定位よく展開する必要があります。
しかも、音は当然ながら人が踏み込みたくなるほど美しくなければなりません。

こう書き始めてみると、これはどこかのオーディ雑誌の“良い音”の定義に似ているような
気がします。しかし既存のオーディオの多くがこの様な音を再生しているとは全く思えません。
やはり「原音再生」に対する正攻法でごまかしのない取り組みが絶対必要であると思います。

「原音再生」という言葉にはいろいろな解釈があるようです、さらに原音自体も人が知覚する
ものですからそのイメージは人によって異なる可能性があります。
しかしWRアンプは、再生すべき原音のイメージは「ライブの音それもバランスのよい位置で
聴くライブの音」によって形成される必要があると断言しています。そして実際に再生される
音は、私がイメージする原音に近いと感じています。こんな出会いは滅多にありません。
それが今回このように強引にマニアックなお願いをした理由です。

 2.弦楽合奏の浮遊感そして弓と弦がつるっとすべる感じ

演奏会では最初の音を聴く瞬間に、良くなってきたはずの自分のオーディオの音との違いに
いつも愕然とします。
コントラバスの量感が全く違います。そして弦楽はしっとりとふくよかで、宙に浮遊する
かのような、不思議な立体感に魅了されます。そしてバイオリンは時々きらきらと輝きます。
しかしそこには決して刺激的な要素はありません。

こんな音は既存のオーディオでは聴いたことはありませんし、このような音を再現しよう
という意欲も感じませんでした。しかし、私は最初にE-30 を導入したときに、WRアンプは
このような弦楽の特徴的な音を再現しようとしていると感じました。その感触は一台一台
増やす毎に増加し、WRC-ΔZERO/FBSE の二段差動化アップグレードによって、よりはっきりと
認識することになりました。

したがってこのマシーンの個性をそのまま生かし、貸出機WRC-α1/FBALの持つ剛性感を
加味すれば、ピアノの音が強靭さを増すだけではなく、弦楽にもより輝きが増し、
弓と弦がつるっとすべる不思議な感触が再現されるものと期待した訳です。
この弦楽の浮遊感は、WRアンプが持つ立体感や音場感と大きく関係していると思うのです。
依頼した内容は、以上のような勝手極まりない愛好家の戯言のようなものでしたが、
川西様には実に丁寧に対応していただきました。

さてその結果です。

私のWRC-ΔZERO/FBSE は、もともとの個性である弦楽の音色のよさを残したまま、貸出機の
剛性感を共存させ、強靭でクリアーなピアノの音も再現するようになって帰ってきました。
同時に弦楽合奏は輝きが増すことになりましたが、貸出機WRC-α1/FBALの中高音にあった
きつさは解消され、高音の伸びやかさを聞き取ることができるようになりました。
その絶妙な調整具合に、川西様にはブラボーという第一報を送らせていただきました。

音場感は従来どおりで、音が飛び出してくることはなく、金管楽器や打楽器でさえ
舞台上の奥から鳴っているという奥行きを感じることができます。

このようなことから、最近はモーツアルトのディベルティメント集のCDを購入し、
K136、K137,K138を中心とした弦楽合奏の響きを楽しんでいます。
これらの曲は、モーツアルトが16歳の時にイタリア旅行の直後に作曲した曲で、
まだ悲しみのかけらもなく優雅で溌剌としています。

これほどふっくらとして優美な弦楽の音をオーディオで聴けるとは思ってもいませんでした。
もちろんホーンシステムの威力を確認するかのように、ちょっとボリュームを上げて
ストラビンスキーやバルトークなどの煌びやかな曲も聴くことがあります。
昔はけたたましいとしか思わなかった春の祭典も、音の多様性、リズムそして色彩感の
変化などをそれなりに楽しむようになりました。
それは音が押しつけられる感覚がなく、こなれた音になったせいではないかと思っています。

最後になりますが、前回の掲示板(1560)で川西様がマルチアンプシステムに触れて
おられましたので、そのことについて簡単にご報告します。
といいますのは、私はユニット間の調整には殆ど時間を割いていないからです。
アナログチャンデバは6db/octですから操作はいたって簡単です。
そのチャンデバのレベル調整目盛りは一つや二つ変わっても大した問題ではありません。
直接的には、ドライバーユニットの同軸配置やホーン背面の徹底した吸音などが功を
奏しているのかもしれませんが、アンプや電源環境などチャンデバ以外の基本的なシステムも
重要だと思っています。

マルチシステムが難しいということで、その基本的なメリットを享受する人が少ないのは
とても残念な気がします。マルチを導入しているマニアは技術的な経験を積んだ人が多い
ようですが、川西様が指摘されたように“何じゃこれ”という音も少なくありません。
問題はマルチシステムの調整の難しさにあるのではなく、目指す音の原音イメージが
異なることにあると私は考えています。

私や私と同じようなユニット配置をしている友人の様にチャンデバ調整には凝らずに、
マルチシステムをシンプルに仕上げている人もいます。物量は避けられませんが、
簡単に導入できるマルチシステムのことがもっと知られてもいいかと思います。
WRアンプの出番がもっと増えるかもしれません。

以上、川西様には一ユーザーの戯言に丁寧に対応していただき、尚且つその要望の達成に
導いていただきまして深く感謝しております。またライブ音の再生という基本的な問題に
正面から真摯に立ち向かわれていることに深い敬意を表したいと思います。

しかし、こちらから能動的に踏み込める音の再現は奥が深いものと思われますので、
これからもご援助、ご指導をいただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。  

1561H.Tさん(会社員) Sun Jan 11 14:15:19 JST 2015
わが家の音を第三者の方に聴いて戴きました。

 過分なお言葉を戴き恐縮です。WRアンプ・Eシリーズ化で確かにこれまで経験し
たことの無い音が聴ける様になり、音楽三昧の日々ではありますが、マルチアンプ
の可能性が究められているか、というとまだまだと思っています。

 チャンデバはクロス周波数や遮断特性のパラメーターの組み合わせが無限に近い程
あるので、もっと追い込む人なら更に上を目指すと思いますし、川西様の言われる通
り、6dB/oct以外伝達関数が1になることが原理的に無い事、更にチャンデバ
の増幅素子の問題もあるので、まだまだ改善の余地は多くあると感じます。

 電力増幅後にLC素子を入れるより、チャンデバを入れる方が電気的、回路的なマ
ッチングという意味でおそらくマシであろうと思い、マルチアンプをやっていますが、
フルレンジ1本で全体域をカヴァーするスピーカーが無いのでやっているわけで、マ
ルチアンプもある意味妥協の産物と思います。

 人間とは贅沢なもので、システムのレヴェルが上がったら上がったなりに、気にな
る部分が出てきまして、中高域の表現力過多?でAnita O'Dayのヴォーカルが少しきつ
いかな、と思ったり、いい加減に設計したウーファーの箱のせいか、低域と中低域の
バランスが崩れていると感じられる部分が顔を出したりします。もちろん、WR化以
前はそこまでとても気が付かないレヴェルでしかありませんでした。


 変な事を書く様ですが、WRアンプで大音量を出してみて低域、中低域のユニット
のコーンの動きを目視していて、なんとなく気が付く事があります。音楽信号にコー
ンの動きが実に忠実な様に見えるのです。音質が改善されたので、そう見える様な心
理的可能性はもちろんある事を考慮しても、単にダンピングファクターが良好な事だ
けでは無い様に感じます。実にがっちり両ユニットをE−120、E−100がコン
トロールしている様に感じます。
 アンプよりスピーカーに金をかけろ、とはオーディオ界の常識ですが、前段のアン
プ側がスピーカー側へ与える影響がこれほど大きい事の証明になった様に、自分には
感じられました。アンプのシステム全体の系に与える影響の大きさは、スピーカーと
同等以上?のものがあるとあらためて思った次第です。

 ところで、オーディオマニアの性癖でシステムの音が向上したらどうしても同好の
志に聴いてもらいたくなり、旧知の”Kuro”さんと”Don”さんのお二人に正月3日に
来て戴き、忌憚の無い意見を伺うことにしました。

 お二人は高校の頃からの友人で、肝胆相照らす仲とのことで互いの家を行き来して
ご自身のシステムを磨きあげておられます。また小生より20才近くお若いので、加
齢で劣化しつつある小生の耳に比べ、フィジカルに良い耳をお持ちです。
 これまでも数回当家に来られて当家のマルチアンプシステムの変遷をご存じですし、
当家のスピーカー位置の前後調整等をお手伝い戴いたりして、小生宅の音質と小生の
目指す音の方向性を知悉しておられます。

 Kuroさんはご自宅で3Wayの巨大自作スピーカーシステムをマルチアンプで駆動して
主にJazzをお聴きになり、Donさんはハーベスをゴールドムンドで駆動され、多様なソ
ースを聴いておられて、多少路線が違うので、その意味でも、どの様な評価になるのか
小生としても興味津々でありました。

 Kuroさんは「Studio Kuroのオーディオ日記」というブログを開設されていて、セン
スの良い写真とともに、当家の訪問記も書いておられるので、小生がどうこう言うより
それをご覧戴くのが良いかと思います。
 http://flashdaiyo.exblog.jp/

 当家に来られる道中「こちらも進歩しているし、多くのマニアの音も随分経験した
から、今回のH.T家の音は良くなったと言っても、あまり感動しないかもね」と話
しながら来られたそうです。

 いつもお二人が聴いておられるソフトもご持参戴き、4時間を超える試聴会になり
ました。小生がまず、最初に”Miles DaVis”の”Four&More”から一曲かけました。
JAZZファンなら言わずと知れた、Milesの傑作Live盤でドラマーのTony Williamsの神
業的ドラミングをはじめ、メンバーの驚異的なアドリブセンスが堪能できるのですが
今回のシステム変更でTonyのドラミングの多彩なテクニックとタイム感覚がより明瞭
で立体的になり、ユニット全体が一層凄みを増して迫ってくる事を体験して戴きたか
ったのです。

 ”Don”さんの「前と次元が違う・・・」とポツリと言われたのが、印象的でした。

 結局自画自賛になり恥ずかしいのですが、時には辛辣なご意見を言われるお二人に
それなりに認めて戴き、正直胸を撫で下ろしたというのが正直なところです。

 マルチアンプの場合は必死に調整して、なんとかかたちになると、それ以後いろい
ろ入れ替えるのは、またまたゼロからの出発ということになり、再調整に時間がかか
るのですが、Εシリーズで統一化したのち、短期間に他人様に聴いて戴く状態までな
ったのは、やはり、Εシリーズの音質的な指向がピッタリ揃っていることと、Εシリ
ーズの個々の機器の基本的な優秀性に負う部分が多い事は確かだと思います。

 オーディオ好きでもマルチアンプ派は少数かもしれませんが、マルチシステム駆動
用アンプとしても強力なアンプ群の誕生を喜びたいと思います。

 WR版チャンデバ?・・・・川西様 如何でしょうか!
  

1560川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Jan 6 14:30:00 JST 2015
H.Tさん、改めてご投稿ありがとうございます。

 H.Tさんには、WRの現行製品を殆どご購入頂き本当にありがとうございました。凄い散財を
掛けさせてしまいましたが、「かつてないレヴェルまで来たかなと僭越ですが己惚れております」
と仰って頂けて、私も責務を果たせたかなと安堵しております。

 完成した音は未だ聴かせて頂いておりませんが、9月の時点での音を知っていますので、現在
の音はある程度想像できています。未だ暑さの厳しい頃でしたが、私がプリアンプEC-1とヘッド
アンプWR-αPH/RDを持参してお宅に伺って、結果的には良かったと思っております。

 「百聞は一見にしかず」と申しますが、EC-1に繋ぎ変える事によって、それまで悩まれていた
特に低域の抜けの悪さが、雲が晴れるようにスッキリした事によって、H.Tさんのシステムは
一気に完成に近づいたのだと思います。また音源ソースの観点からもLP再生を重視なさるH.T
さんに取って、WR-αPH/RDはかなりの効果があったように思われました。

 当時、パワーアンプは高域用アンプ(貸出機の WRP-α1/BAL)以外は既にΕシリーズ化されて
おりましたので、パワーアンプからは問題になる音は出ていなかったはずで、あるとすればプリ
から上流に原因があると睨んでおりました。

 H.Tさんも「これほどの3次元的な広がりや色彩感差を体験してしまうと、個性差を楽しむ
どころではなくなりました」と仰っていますように、普通はアンプによる音の差はそんなにある
ものではないと考えるのが普通です。しかし、私は全く逆の立場です。

 アンプこそがオーディオの全てを握っていると考えています。それは若い頃からの体験の蓄積
から来ているのですが、実際にそう考えて研究に着手し今こうして負性抵抗を除去する特許回路、
コレクタホロワ化、高帰還化を成し遂げて見れば、この事はある程度理論的に説明がつくように
なっています。

 その要は

 1.帰還アンプ特にパワーアンプ内部からは不安定要素の「負性抵抗」を完全除去する事。

 2.アンプの出力段にエミッタホロワの類が用いられる事が多いが、コレクタホロワ等に変更
   して出力段に「負性抵抗」を局在化させない事。

 3.1、2を完遂すればシステムは安定になるので、出来る限り帰還量を増やし出力インピー
   ダンスを極力下げる事。→ スピーカーが初めて本領を発揮するようになる。

となり、現行のWRアンプはそれが実現されています。また、旧型のWRアンプもアップグレードを
する事によって、同等レベルにする事が可能です。

 スピーカーは定電圧駆動する事が前提で設計されています。プリアンプだって、ハイ受けロー
出しと言われるように原則的には定電圧駆動が理想です。しかしこの事は案外蔑ろにされている
ように思います。それは何故でしょうか?

 定電圧駆動と口では簡単に言っても実は実現が困難だからでしょう。上記の1、2、3を満足
するアンプが普通は作れないからです。見掛け上多量の帰還を掛けても「負性抵抗」を完全除去
しない限り、システムは不安定になり、特に高周波ノイズの多い電磁環境下ではアンプの動作点
はフラフラ動く事になって、見掛け上の多量の帰還は砂上の楼閣に過ぎなくなるからです。この
事が原因となって、音楽信号以外の過渡ひずみが発生し耳を異様に刺激するのです。

 私の理論が我田引水でない事は、クラシック音楽では倉太郎さんが、ジャズではH.Tさんが
実験的にそれがある程度正しい事を証明してくれています。この証言から、WRアンプからは殆ど
過渡ひずみが派生しない事が裏づけられます。その意味でお二方には大変感謝しております。

 偶々ですがお二方ともマルチアンプ駆動です。H.Tさんも「よほどしつこく調整しない限り、
通常のLCネットワーク以下の音しか得られない事はその通りなのですが」と仰っておられます
ように、大体はマルチシステムのお宅にお邪魔すると「何じゃこれー」と言う音がするのが普通
です。

 この原因はチャンデバにあると私は今の今まで疑って来ましたが、お二方の成功でチャンデバ
が必ずしも元凶ではないと思い始めています。倉太郎さんは 6dB/OCTの特注製品、H.Tさんは
アキュフェーズのアナログ式チャンデバでこちらは12dB、18dBの混合です。私のチャンデバ疑惑
は、

 1.伝達関数が1でないから音場合成が上手く行かない。

 2.チャンデバに使われる増幅素子の不安定性の問題(負性抵抗)で上手く行かない。

の2点でしたが、1.はH.Tさんによって、2.はお二方によって一応否定されています。

 結局、良いチャンデバを選び、WRのパワーアンプ及びプリアンプを用いればマルチシステムも
成功する、と言う事なのだと思います。言い換えればマルチで失敗している人の多くは使用する
アンプ、特にパワーアンプをWR製にすれば改善される可能性が高いと言えるでしょう。マルチに
使うスピーカーは高能率でアンプの残留ノイズが気になりますが、その点でも全く問題がない事
はH.Tさんの「これほど低ノイズのアンプは当家に去来したアンプ群(それほど大した数では
ありませんが・・)で他に例を知りません」と言う行でご納得頂けると思います。

 あと必要な事は調整する人の感性です。ライブに通い耳を訓練し、どんな音が出れば正しいか
判断が直ぐにつく人でないとマルチは荷が重いと思います。イメージ上の理想の音を追う方には
向いていません。上記お二方はその点でも申し分なく、成功するべくして成功したと言えるので
はないでしょうか。

 WRアンプは以前ほどではないにせよデフレの世の中ではやはり高価です。しかし良いものなら
高価でも買う位の気概がなければオーディオだって成功しません。「投入した資金は100万を
超えましたが、逆に言うとこの程度の資金でこれ程の内容が得られるオーディオコンポーネント
はおそらく無いのでは」とH.Tさんが仰っています。良いものを識別する眼力も必要だと言う
事だと思います。他人様の投稿文の文脈からそれを読み取って決心できるかどうかです。

 今回の投稿でH.Tさんは敢えて具体的にWRアンプの特質を挙げなかったそうですが、しかし
「打楽器の微妙な奥行き感のある表現(曲によってミュージシャンがスネアドラムのテンション
を変えた事が解ったりします)や、ピアノの全帯域が全く気になる音域無しに深い響板の響きを
ともなって一様に鳴る事、ヴォーカルグループの各個人の存在が解り、且つ、それが溶け合って
絶妙なハーモニーとなって聴こえる事」を付け加えられ、挙げ出すと切りが無くなるとも仰って
います。

 そしてWRアンプの特長として「質量感、剛体感、音場感、いままでいろいろな表現で語られて
きましたが、小生としてはこれに「色彩感」という言葉を加えたいと思います」と結んで居られ
ます。「色彩感」と言う言葉は少なくても私は使った事がありませんでしたが、言われて見れば、
オーケストラのイメージが我が家で殆ど違和感なく再現できるようになったと言う事は、言って
見れば「色彩感」を伴っている証なのだと納得しています。

 私は美術的センスがありませんのでフランス音楽よりドイツ音楽を好みますが、「色彩感」が
分かる人は、きっとフランス音楽がお好きな方に多いのではないかと言う気がします。フランス
音楽がお好きな方に取ってもWRアンプは好都合なものになる気がします。

 最後にオーディオはやはり最終的には音楽を楽しむ道具であって欲しいと思います。「改めて
感じる事は「音楽を聴く楽しさ」です。オーディオマニアですから気になる点が無いわけはあり
ませんが、今はLP/CDをとっかえひっかえ楽しむ毎日です」とH.Tさんも仰っております。
 
 基本的に音楽を少しでもいい音で聴きたいと言う同志の方、どうかWRアンプを信用して下さい。
音楽好きの人に対して決して裏切る事はないと確信しています。倉太郎さんやH.Tさんがこの
事を証明してくれています。WRアンプを選択する事が結局は近道になるのです。安価なアンプを
買っても遠回りしたら、全く意味がないばかりか損失が累積するだけです。貴方は過渡ひずみが
生じる可能性の高いアンプを未だお買いになりたいのですか?(使い続けたいのですか?)

 最後になりましたが、全てのアンプをWR製にすると言う勇気あるご決断をされ、見事にマルチ
アンプシステムを成功に導いたH.Tさんに、改めて敬意を表したいと思います。  

1559川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Jan 1 00:00:00 JST 2015
謹賀新年 2015.1.1(巻頭言?)

 旧年中はユーザーの皆様には大変お世話になり、本当にありがとうございました。お陰さまで
WRアンプも最終段階に差し掛かって参りました。WRアンプのスタート時には、三種の神器は必須
の部品でしたが、今やSEコン、BGコンを使わずにWRアンプを作る事ができるようになりました。

 唯一、ERO コン或いはRIFAコンだけは使わざるを得ない状況ですが、殆ど特殊な部品を使わず
にWRアンプを製作できるようになっています。これはコレクタホロワ化や高帰還化で成し遂げら
れた技術革新に依るところが大きいと思っています。

 振り返って見ますと、結局全ての事は帰還を掛ける事によって派生する「負性抵抗」が原因で、
アンプの音に耳障りな異常音が生じ、それを何とか抑制しようとした結果だと思います。三種の
神器はその異常音を軽減させる効果が大きかったと言えるでしょう。

 特許回路+コレクタホロワ化+高帰還化で行き着いたところには、最早、異常音は基本的には
存在しないようになったのだと思います。それだけ系が安定になり、正しく音信号を増幅できる
ようになったのです。この異常音さえ無ければ音楽信号は正しく増幅されますので、倉太郎さん
の「バイオリンの弓と弦がつるっとすべる感じ」やH.Tさんの「スネアドラムのテンションを
変えた事が解ったりします」と言う事も再現されるようになったのだ思います。このような音が
再生装置から聴こえるなんて、昔のアンプからは想像もできなかった事だと思います。

 バイオリンだけではなく、今まで再生装置では無理だと諦められていたような音も再現可能に
なり、いよいよWRアンプも完成間近になったと考えられます。それは私の独善的な結論ではなく
倉太郎さんやH.Tさんの証言によって裏づけされています。私も含めてお二方に共通する事は
「原点はライブの音」にあると言う事です。

 現実に存在する音がスピーカーからも再生出来たと言う事実が重要なのです。だからアンプは
正しく動作しているはずだと結論付けられるのです。このような考え方は世の中では少数派かも
知れませんが、私はあくまでもオーディオの目指すところは「原音再生」であるべきだと考えて
います。ドンシャリを基軸にするイメージ上の音を追い求めるオーディオには懐疑的に成らざる
を得ませんし、ライブに行かない或いは行ってもバランスの良くない席でしか聴かない人の言う
事は当てになりません。

 では、この先WRアンプはどうあるべきかと言う事になりますが、少しでも多くの方にご賛同を
頂く事だと考えています。ライブの感激を我が家でも、と思いながら実現できていない方を掘り
起こす事が大切だと思います。或いは逆に、WRアンプを使って頂く事によって、自ずとライブに
行って見たいと思って頂く事です。良質なライブに通えばオーディオに対する考え方も変化して
来ると思います。

 その為にはWRアンプがもっと身近な存在になるように製作をより容易にする事が必要なのだと
思います。極端な事を言えば、回路だけ忠実に守ればWRアンプの音になると言う再現性が必要だ
と思います。もう三種の神器に縛られる事は殆どないと思いますが、あと残っているものが有る
とすれば EMe型のパワーTRでしょう。

 これも神器の一つだったのですが、WRアンプの大前提として敢えて触れませんでした。しかし
EMe 型パワーTRは正直に言えば過去の遺物です。この石が無ければ成り立たないアンプでは困り
ます。科学技術は一般性を有して、初めてその価値が決まります。そんな事は以前から分かって
いました。ですからEMe の代わりにEP型パワーTRを用意して実験した事がありましたが、見事に
失敗し、全く問題にならない音に愕然とした事を憶えています。

 それはコレクタホロワ化以前の話ですから、今現在の状況なら何とかなるかも知れないと最近
予見するようになっていました。その石はサンヨーの2SD613/2SB633 でTO-220型の小型パワーTR
です。構造はエピタキシャル・プレーナー型ですが、本当は三重拡散系(TMe など)のパワーTR
でも実験するべきだと考えています。この石が上手く行ったら次は避けて通れない道だと思って
います。

 このサンヨーの石は耐圧85V、最大電流6A、コレクタ損失40Wですから、無理をすればE-30にも
使えます。先ず、一番安全なところでヘッドホンアンプのTO-66 をこの石で置き換えて見ました。
スペック的にはお釣りが来ます。置き換え作業も比較的楽にできます。果たしてどんな音が出る
のか興味津々でした。

 早速パワーTRを非 EMe型に変更したヘッドホンアンプを、EC-1に繋ぎ試聴してみました。出て
来た音は明らかに従来のWRアンプの音とは違います。力強いと言うか線が太いと言うか、豪快と
言うか、ストレートと言うか、何かそんな感じの音なのです。しかし、だからと言って昔感じた
ような嫌な音はしていません。従来の音に慣れた耳には少々元気が良過ぎるかなとは思いますが
最初からこの音を聴けば、意外に支持して頂ける人も居るかも知れないと思いました。この音に
帰還の不安定性故の異常音が加われば、あの煩い音になったと言う事は容易に想像がつきます。

 そんな折、暮れで実家に戻ってきた息子に聴いて貰いましたが、録音やマスタリングをやって
いるプロの耳には受けが良く、曇りがなく嫌な音もしない極めて音筋が明瞭でモニターがし易い
と言う事でした。くぐもった音は一切ありません。ある意味ではモニターサウンドなのかも知れ
ませんが、それだけでなく壮大なマーラーの世界をより克明に浮き彫りにする分解能をも有して
いると言う事でした。

 倉太郎さんには「聴こえ過ぎ!」と言われそうですし、私自身も少し落ち着かない気はするの
ですが、音に貪欲な若い人には寧ろこのアンプの音の方が合理的かと思いました。なにしろ3.5W
程度しか出ないアンプとは到底思えない馬力、底力を感じます。50W 以上のアンプでないと駆動
不可能と言われた805MATIXがミニパワーで見事に鳴っています。パワー素子の変更によって此処
まで音色が変るとは思っても見ませんでした。九分九厘このヘッドホンアンプの定常特性を測定
して見ても何も掴めないと思います。全て過渡特性で決まる事なのでしょうが、真にオーディオ
は分からない事ばかりです。

 まだコレクタホロワ化や高帰還化を行う前はとても聴けなかったのに、不安定要素を取り除き
出来るだけ帰還を掛けて出力インピーダンスを本当の意味で下げた事によって、初めて得られた
この音は、これまで誰も聴いた事がない未知の音ではないかとさえ感じます。非 EMe型パワーTR
への挑戦は始まったばかりです。

 今後もう1台、E-10辺りの安定化電源付きのパワーアンプでも同様な実験を試みてみて様子を
伺おうと思います。結果次第では、パワーTRを三重拡散系に軸足を移してさらなる検討を試みる
予定です。何しろ三重拡散系のパワーTRはオーディオ全盛期に各社が競って使った代表的なバイ
ポーラ型トランジスタであり、サンケンの2SC1116/2SA747は余りにも有名です。三重拡散系でも
稀有で素晴らしい音色が得られれば、今後のWRアンプの製作がぐんーと一般性を増す事になると
思います。

 以上、新年に当たって今年の抱負を述べさせて頂きました。本年もどうぞよろしくお願い申し
上げます。WRアンプにご期待下さい。


お詫び)H.Tさん、ご投稿ありがとうございます。後日、ゆっくりとお応え致します。  

1558H.Tさん(会社員) Tue Dec 30 20:07:26 JST 2014
全アンプ、WRのΕシリーズ化なる!

 9月4日に川西先生に拙宅に来て頂き、小生の感じる問題点、すなわち、全体的に腰高で、
低域が沈み込まないこと、ボーカルの特定帯域のコモる様な部分があること、などをお伝えし、
先生に聴いて戴きました。

 その後、先生にご持参戴いたEC−1、そしてヘッドアンプに繋ぎかえて、
これらの問題点が一気に改善される様を間のあたりにし、更にこれまで聴いてきたソースから、
これまで知りえなかった情報を聴き取ることができ、音楽そのものの印象まで変った事に
唖然とせざるを得ませんでした。

 特にLPの音の充実感は、これまで色々なプリアンプを聴いてきましたが、特にこれほどの差は
感じた事がありません。今まで、プリアンプの個性の差をそれぞれ楽しんだりはしましたが、
これほど3次元的な広がりや色彩感差を体験してしまうと、個性差を楽しむどころではなく
なりました。

 結果的にEC−1とヘッドアンプ、更にE−100の製作をお願いし、
11月末にヘッドアンプ(別電源、新デザインで素晴らしい出来栄えです)が納入され、
すべてEシリーズによるマルチアンプ化が完了しました。
新たに作って戴いたヘッドアンプWR−αPH/RDにより、出番が少なかったSPUまで
満足に鳴る様になり、ソースによって繋ぎ変えて楽しんでいます。

 チャンデバだけは変わっていませんが、アナログに拘っているのでこれは致し方ありません。
(アキュフェーズ F25×2台)


 現時点のシステムの内容を改めて列記します。

  高域   8KHz〜    E−10        JBL2405H

  中高域  3500Hz〜  E−50カスタム    Fostex D1400   

  中域   500Hz〜   E−30        JBL2450J

  中低域  130Hz〜   E−100カスタム   JBL2012H

  低域   〜130Hz   E−120カスタム   ALTEC 515−8G

  プリアンプ EC−1カスタム ハイグレード・フォノイコライザ内臓
                 ファンクションセレクタ1段増設(4セレクタ)

  ヘッド・アンプ WR−αPH/RD 2系統入力切り替えスイッチ付


 尚、E−50、E−100、E−120はすべて5dBアップのカスタム仕様です。
すべてのパワーアンプは入力のボリュームは省いて戴き、各アンプのレヴェルはチャンデバで
コントロールする様にしています。

 中域がE−30なのはJBLの2450の能率がやたら高いのと、Fostexの
D1400が逆に2405Hや2450Jに比べて能率が低いので、こういう構成にしています。

 以前にも書いたかもしれませんが、何しろ中域以上のホーン群が高能率ですので、
ノイズとの戦いが、5wayマルチアンプの成否のかなりの部分を握っているのですが、
この点では全く問題ないどころか、これほど低ノイズのアンプは当家に去来したアンプ群
(それほど大した数ではありませんが・・)で他に例を知りません。
この点はWRアンプの隠れた特質と思います。

 ヘッドアンプはプリに近い位置に置くと、若干ハムノイズを引きますので、直線距離で
40cmくらいEC−1の電源トランスの位置から離しております。またヘッドアンプの
電源は他のアンプ類となるべく離した方が良いと思い、いろいろトライしてみて、
E−10脇の、プリアンプやヘッドアンプからかなり離れた位置に仮設置してあります。

 このおかげで従来ハムを引きやすかったSPUが全くハムノイズと無縁になり、繊細かつ
本来の骨太な表現力が本領を発揮し、50年代のJAZZ再生に真価をみせる様になりました。
(ヘッドアンプ、プリアンプの位置は「リスニングルーム拝見」の小生の装置の写真を
更新していただきましたので、ご覧いただければと思います)

 ヘッドアンプの電源は左側ラックの奥に位置しており見にくいのですが、往年のサンスイの
アンプを彷彿とさせるブラックパネルにグリーンのネオンが輝いているので、おわかり戴ける
かと思います。


 約1年近くをかけ、5WayマルチアンプシステムのE−シリーズ化が完成し1か月が
経ちました。前回は有名なJAZZアルバムを取り上げ、具体的に書かせて戴きましたが、
全アンプ、WR Eシリーズ化を遂げた今、改めて感じる事は、「音楽を聴く楽しさ」です。
オーディオマニアですから、気になる点が無いわけはありませんが、今はLP/CDを
とっかえひっかえ楽しむ毎日です。最早、機器にお金をかけるよりは、ソースにお金をかけたい
気分になっているのが正直な所です。

 ツイーターや低域のエンクロージャー、その他改善すべき点は多々あれど、少し時間をかけて
検討をしてみるつもりになっています。それくらい自身では、かつてないレヴェルまで来たかなと
僭越ですが己惚れております。全アンプをEシリーズ化し、投入した資金は100万を
超えましたが、逆に言うとこの程度の資金でこれほどの内容が得られるオーディオコンポーネント
はおそらく無いのでは、と思います。

 マルチアンプにすることはよほどしつこく調整しない限り、通常のLCネットワーク以下の
音しか得られない事はその通りなのですが、実現したい音のイメージを明確にもち、調整の勘所を
うまく捉えると、マルチアンプでしか再現し得ない世界を体験することが出来るようになります。

 こんな寄木細工みたいなシステムでもそれが可能になったのです。考えてみると苦労してきた
マルチアンプシステムですが、WR化してからは、調整に手間取る事はあまりなかった様に
思います。これもパワーアンプをEシリーズで統一した効果だと思います。

 具体的な表現をあえて避けてきましたが、WRアンプの良さは川西先生ご自身や皆様の
感想にある通りです。打楽器の微妙な奥行き感のある表現(曲によってミュージシャンが
スネアドラムのテンションを変えた事が解ったりします)や、ピアノの全帯域が全く気になる
音域無しに深い響板の響きをともなって一様に鳴る事、ヴォーカルグループの各個人の存在が解り、
且つそれが溶け合って絶妙なハーモニーとなって聴こえる事など、特質を個別にあげていくと
枚挙にいとまがない程です。

 質量感、剛体感、音場感、いままでいろいろな表現で語られてきましたが、小生としては
これに「色彩感」、という言葉を加えたいと思います。モノ・クロームでも解像度が高いと
それなりに良さはありますが、色彩がきっちり表現されて、始めてLIVEの奥行きのある、
まさに存在感・実体感のある音が再現される様に思います。WRアンプはそれを可能にする
稀有な存在に昇華した、と感じます。

 実は、4月にプロミュージシャンのアルバム収録に関わりました。もちろんJAZZ系の
アルバムですが、今回はラテン・パーカッションを入れようということになり、日本では
まずこの人の右に出る人はいない、というミュージシャンに参加を要請しました。

 リハーサルの時には、彼は曲想を理解する程度の叩き方しかしなかったのですが、本番の
彼の素晴らしい事。共演したドラマーも一流ですが、彼の演奏に触発され、これまた最高の
パフォーマンスを記録することが出来ました。

 収録直後のいわゆる「録りっぱなし」のモニター音は実に良い音ですが、CDを製作する
過程でいろいろ手が加わり、収録時の臨場感が消えて行くのが、音質にこだわる小生としては
残念でたまりませんでしたが、新調なった当家の装置で改めて聴いてみると、収録当日に
かなり肉薄した音が聴けたのです。一曲の中で慎重かつ大胆に音色を変え、かつ乗って行く
パーカッションの豊穣な響き、うるささなど微塵も感じさせない妙技が自室で再現できる
のですからこれはたまりません。

 これからも、オーディオマニアの性癖で装置いじり等逡巡するでしょうが、この上に行く
には、ヒマラヤ8000m峰に登るが如き覚悟がいるなあと思うこの頃です。  

1557川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Dec 22 15:00:00 JST 2014
バッハのピアノ協奏曲は如何ですか?

 「バッハにピアノ協奏曲なんて有ったっけ?」と思う方もいらっしゃるでしょう。バッハの時代の
主たる鍵盤楽器はチェンバロでしたから、クラビーア協奏曲として作曲された楽曲は普通チェンバロ
協奏曲と呼ばれています。しかし、奏法が微妙に違いますがこれをピアノで演奏しても決して悪い事
はありません。

 昔から少数派でしたが、偶にピアノで演奏するピアニストが居ました。リヒテルなんかその代表的
な演奏家です。記憶が定かではありませんが、ラ技の演奏評で、故西条卓夫氏が高く評価していたLP
(確かビクター盤?)があり、その時バッハのチェンバロ協奏曲をピアノで演奏する事もあるのだと
初めて知ったのでした。

 それ以来ずっと気になっていたのですが、結局はアランやレオンハルトによるチェンバロの演奏で
これらの名曲を楽しんで来ました。アランは粋でフランス風、レオンハルトは力強くドイツ風で両者
とも別の良さがありました。CDになってからはピノックの全曲盤も購入しました。2台、3台、4台
の為の協奏曲もあり、その全体像はスケールが大きく流石にバッハだと思わせるものがあります。

 しかし全体が分かって何回も聴いていると、所謂「耳たこ」になり新鮮さがなくなります。そんな
時、先日アランの「バッハオルガン曲集」を買った時に、偶々隣りにこのCDが並んでいて2枚購入で
15% 引きと言う商法にも惹かれて、同時に購入してしまったのです。それはコルボ/ピリスが1974年
にリスボンでエラートに録音したもので、若いピリスとバッハ演奏に定評のあるコルボの指揮に魅力
を感じたのでした。ピリスはリスボンで生まれています。(WPCS-22161)

 アランのオルガン演奏を聴き終わった後、すぐさま聴いて見たのですが、ピアノはモコモコするし
弦はffで引き攣れ気味だし、これは楽しめないなと思ってしまいました。しかし、それは旧型プリの
音調調整中の事であり、プリの状態がベストでは無かったからだったのです。その後、プリの音調を
追い込んで行く過程で、徐々にこのCDを見直すようになり、最終的には結構楽しめるようになったの
です。勿論、音調過程で良い事が分かれば自分のプリにも還元する事にしています。

 ピアノの音はグルダの「平均律クラビーア曲集第1巻」と似ていて、素朴でありながら芯のある音
でソリッドな輝きがあり、直向なバッハの音楽には向いています。それにしても、平均律の第24曲は
素晴らしい集中力で演奏されていて、聴く者を深淵なバッハの世界に引き込んでくれます。ピリスの
ピアノの音もそれに似た直向さを感じ、両者には共通点があると思いました。それこそが、バッハに
対峙した時の音楽家共通の姿勢なのかも知れません。

 弦の音はffで一部濁り気味になりますが、それに目を瞑れば弱音はアナログ録音らしい柔らかさが
あり、ピリスのピアノの音と上手くマッチします。ピリス30歳の時の演奏は初々しく好感がもてます
が、偶に耳に異常音を感じます。調律が悪いとピアノは生でも耳に異常な刺激音がしますが、これは
多分録音の時に入ったものだと思います。

 マルチマイクで録音しますと、2つのマイクから入った音信号には必ず位相差が生じ、それが強め
合ったら弱めあったりし、異常音が発生する原因になります。3つ以上のマイクになれば一層複雑に
なります。デジタル録音の場合はディレーが掛けられますが、一筋縄では行きません。異常音を消し
去る事が出来ても、音に精彩がなくなったりします。それを嫌って指向性の強いマイクでマルチモノ
的に録って電気的に合成しても、アコースティックな音場感は得られません。

 だからマルチマイクで録音して成功する確率は非常に低く古今東西名録音が少ない所以です。天才
的なエンジニアでなければ不可能に近いと言っても過言ではありません。例えば、カルショーの下で
ゴードン・パリーやウィルキンソンが録音した物の中には素晴らしいものがありますが、全てが成功
した訳ではありません。そうかと言ってマルチマイクを敬遠してワンポイント録音をしても、音場感
は兎も角もリアリティの点で大いに物足りなさが残ります。あの遠い、モヤっとした音の何処が良い
のか私には分かりません。

 話を戻しますがピリスのCDには第1番、第4番、第5番の3曲が収録されています。普通全集には
1台の為の協奏曲が6曲、2台の為が3曲、3台の為が2曲、4台の為が1曲入っています。全集に
よってはチェンバロと2本のリコーダーの為の協奏曲 (BWV1057)を第6番として1台の為の協奏曲を
全7曲としているものもあります。ピノックはそうです。

 バッハのチェンバロ協奏曲は殆どが編曲もので、そう言う意味で余り高く評価しない人も居ますが
聴いて感激できれば、私はその事には頓着しません。1、2番は消失したバイオリン協奏曲、3番は
バイオリン協奏曲ホ長調の編曲ですし、4番はオーボエ・ダモーレ協奏曲、第5番は消失した何かの
協奏曲、第6番はブランデンブルグ協奏曲の第4番ト長調、第7番はバイオリン協奏曲イ短調の編曲
です。5番の第2楽章は甘美なアリア(アリオーソ)で魅力的です。

 同様に2台、3台、4台も殆ど編曲ものですが、2台の為の第2番 (BWV1061)のみオリジナルだと
されています。4台はビバルディの作品3の10番の編曲で、原曲も素晴らしいですがバッハも負けず
劣らず充実しています。2台以上になりますと音数が増え、必ずしもピアノで演奏する事が良いかは
私も迷います。チェンバロの方がスッキリ聴ける気もします。

 しかし1台の場合は、ストイックに音楽に浸るにはピアノの落ち着きある音の方が適しているよう
に感じます。私はグールド、カツァリス、ペライヤを聴いてないので何とも言えませんが、ピリスを
買って良かったと思っています。バッハのピアノ協奏曲の本質的な良さを見事に体現できます。聴く
内に徐々にバッハの世界に引き込まれて行きます。そこにはピッタリ寄り添うコルボのバッハに深く
共感するオケ伴の存在があります。

 ピリスとコルボの出会いは一期一会でその後の録音はありませんが、出来れば、残りの2番、3番、
7番を録音して置いて欲しかったと思うのは、私だけでしょうか。このCDは所謂千円盤ですが価値は
十分あります。ただし、再生はそう簡単ではないと思いますので、装置の実力チェックにも良いかも
知れません。このCDをお買いになり、バッハのピアノ協奏曲の良さに目覚めて頂けるのであればこの
拙文も少しは役に立つと言うものです。  

1556川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Dec 17 23:00:00 JST 2014
倉太郎さん、旧型プリ2機種の聴き比べのご報告と音調調整のご依頼ありがとうございます。

 掲示板1553で音調調整のお話をさせて頂きましたが、「待ってました!」と言うタイミングで
倉太郎さん所有の旧型プリWRC-ΔZERO/FBSE の音調調整を、倉太郎さんのご希望のような音調に
するご依頼を頂いたのです。基本的に2段差動化アップグレードの段階では、音調調整は行って
いませんので、アップグレードしただけではベストな状態で鳴らない事もあり得ます。

 ご希望の内容を端的に申せば、弦の柔らか味を少しは犠牲にしても構わないから、ピアノの音
をもっと強靭にして欲しい、と言う事だと思います。ピアノの音を剛体感と力感溢れる音にする
過程で、ΔZEROが有する弦の独特な魅力を殺ぐ事は最小限にして欲しいと言う高度なご要求です。

 ところで誤解のないようにお断りさせて頂きますが、旧型2機種にこのような音調の差が全て
に同じようにある訳ではありません。両者の違いは、製作年代が大きく掛け離れている事による、
使用部品の相違から来る事が一番大きな要因です。例えばα1 の方にはBGコンが標準的に使われ
ていますが、ΔZEROの方には部分的にしか使われていません。しかも何処に幾つと決めていた訳
ではありません。同様にERO コンも1826と1822の2つの型番が一般にWRアンプに使われています
が、同じERO コンでも微妙な音の違いがあります。α1 に1822を使う事は殆どありませんでした
が、ΔZEROには1822を使った事があります。具体的にどんな部品を使うかはプリ個体の製作日時
によって微妙に変って来る事もあります。要するに横並びで同じ部品を使った訳では決してない
と言う事です。

 このような使用部品の微妙な違いが音の差に繋がっているものと考えられます。BGコンを多く
使っている方が低音が豊かに聴こえる事がありますし、又安定化電源に使っているパワーTRにも
違いがあり、これも微妙な音調の差を生む可能性があります。このように、多くのファクターが
相互に絡んでいますので、慎重に音の違いを聴いた上で何がその違いを生んでいるのかを冷静に
判断する必要があります。長年の経験が生かせるチャンスでもあります。

 倉太郎さんの聴感は生演奏会、特にバイロイトが原点になって形成されていますので、高度な
ご要求になっていますが、受ける側は大変でも遣り甲斐がありファイトが沸いてきます。以下に
要点を整理して見ます。

 1.他社のアンプでは滅多に聴けない弦楽の摩擦音、浮遊感、弓と弦がつるっとすべる感じを
  十分に生かす事。

 2.舞台の上で演奏している音場感、距離感を大切にする事。

 3.鳴り過ぎずに、聞き耳を立てて聴きにいく、そんな良さを大切にする事。

 以上の要件を保ったまま、ピアノの音をもっと強靭にして、音自体に剛体感と存在感を合わせ
もつような音に仕上げると言うご要望です。2は特に大切な事だと私も思います。

 一方、貸出機は以下のような特徴があると仰っています。

 1.全体の剛性感が強く、ピアノの音は強靭で、音に輝きがあり低音の響きも魅力的。

 2.管楽器の響きも音がしっかりしていて太い。

 3.中高音にきついところがあり、ちょっと鳴りすぎな感じ。

 結局、貸出機の3に注意しながら、1と2の特長をΔZEROにも生かす事が倉太郎さんのお望み
を叶えさせる事になります。

 命題がよく理解できたところで、先ず両者の違いをとっかえひっかえして聴き比べて見ました。
確かに、倉太郎さんが仰っている違いが明確に存在しています。ゴトーユニットを使ったマルチ
アンプシステムでお感じなった事が、我がB&W805MATRIXでも100%理解できました。この話当たり
前のようで、実はそう簡単な事ではありません。

 マルチの調整が上手く行っていなければ、このような微妙な音調の違いは、その不完全性の中
に埋没してしまい、一発で聴いた音調と合致するする事は望むべくもありません。世の中の殆ど
のマルチシステムが上手く行っていない、と言う現状から考えてみれば、非常にレアなケースに
なります。

 近い内に、全く異なったアプローチで成功なさったH.Tさんにもご報告頂けると思いますが、
最新のWRアンプと適切なチャンデバを使えばマルチアンプで成功する確率はグッと高くなります。
但し、ハード面だけを充実させても上手く行かないと思います。肝心なのは調整する人の聴感で
あり、その人のセンスに掛かっています。

 調整中に良い音が出てもそれを認識できる耳が無ければ、そのポイントを通り過ぎるだけなの
です。倉太郎さんとH.Tさんに共通な能力はライブに行って耳を鍛えている事であり、本物の
音が出れば本能的にそれが分かるところまで聴感が研ぎ澄まされている事です。それが無ければ
一生闇の中を彷徨うだけでしょう。所詮、マルチは無理だと言う事です。

 さて、この両プリの音の違いをどうやって近づけるかです。第1にやるべき事はピアノの音を
貸出機に近い音にする事です。両プリの聴き比べをする前に、2台のプリの基板に使われている
部品を入念にチェックして、要点を頭に叩き込んだのは言うまでもありません。だから聴き耳を
立てていた時に、ピンと来たのです。

 前述しましたERO の2つの型番ですが、実は1822の2.2uF/63V と1826の2.2uF/50V とは微妙に
音調が違うのです。これはパスコンに使った場合とカップリングコンに使った場合で異なります。
詳細は企業秘密になるので敢えて明示しませんが、此処に目を付けてΔZEROのERO コンを貸出機
の使い方に近づけたのです。全て行うと行き過ぎてしまうので部分的に行ないました。同様の事
はケミコンによるパスコンにも当然ありますが、最近フィルムコンの方が影響が大きいと感じる
ようになりました。

 案の定、ピアノのくぐもった感じが一気に解消したのです。オーディオは難しいもので、同じ
1822の2.2uF/63V でも使う場所、使うアンプによってはそんな事は殆ど感じない場合があるので、
一概にこの事を全てのアンプに適用できる訳ではなくケースバイケースなのです。だから経験が
モノを言う事になります。

 これはある程度当たり前の事ですが、ピアノに剛体感が出れば弦の音にも影響し、倉太郎さん
が大切にしたい弦の柔らか味を犠牲にし兼ねません。そうなっては全く意味を成さないので、弦
の音を、他の方法で煩く聴こえないように整える事を考えました。即ち全体の音の質を正攻法で
レベルアップする方法が残されています。小手先の静特性上のテクニックは通用しません。この
正攻法ならピアノの音も、良くはなっても悪化する事は絶対にありません。

 弦の音のレベルが仮に高くなったように聴こえても、その質が良ければ耳への刺激感は減る事
になるはずです。最初に気が付いた事は、電源接続ケーブルに巻かれた導電性テープの事でした。
旧型のプリは別シャーシに電源部があります。倉太郎さんはノイズを軽減させる目的で導電性の
テープを接続ケーブルに巻いたのですが、そのアースが取られていなかったのです。

 皆さんもご注意頂きたいのですが、ケーブルにシールドを被せる場合は宙に浮かせて置かない
で必ずどちらか一方をアースに落として下さい。私も電源ケーブルやRCA ピン接続ケーブルには
シールドを被せていますが、必ず片側をシャーシにボデーアースしています。ところが一度だけ
電源ケーブルのアースを省略した事があったのですが、使っているケーブル自体はSHINAGAWA 製
であったにも拘わらず、全く酷いケーブルを使った時と同じ音がしたのです。この事からやはり
電源ケーブルの音の良し悪しには、何らかの形で高周波ノイズの問題が絡んでいると言わざるを
得ないと思ったのでした。

 片側をシールドに落として少し音の改善はありましたが、未だ弦の音のピークで硬さとか引き
攣れのような音が僅かながら存在するのです。こうなったら徹底的に嫌な音を排除するのみです。
次に思い付いたのは、電源ボックス内AC入力回路に入れている高周波ノイズを抑える為のSEコン
によるパスコンの事です。旧型プリにはこのような贅沢なものが色々施されています。

 入れる場所と容量値でその効果が変るので、その両方を有利になるように変更しました。その
結果また一段階嫌な音が減り、全体の音質は向上しました。これでほぼ良いかなと思ったのです
が、少し日が経つとまたまた気になる音がほんの僅かあるように感じて来て、未だやる手がある
かも知れないと思ってしまうのです。これは、あくまで漸近ですからゼロには絶対収束しません。
何処かで手を打たねば切りがありません。

 此処まででラインアンプ基板、電源接続ケーブル、別電源ボックスの気になる所をやりました
ので、残るは安定化電源基板だけです。ジッと見つめていたのですが、標準的製品には問題ない
として使用しているパワーTRに目が行きました。制御用TRには出来る限りftの高いものを使った
方が一般的に音質が向上します。実は残り僅少で標準的製品には使えない特別なパワーTRがある
ので、載せ代えて見る気になりました。10MHz 程度のものが一気に100MHz程になりますから音に
好影響が出る可能性が大いにあります。

 案の上、私の耳では殆ど問題が無くなったように感じるところまで改善されたのです。あとは
倉太郎さんの家の環境で、倉太郎さんの耳で判定するしかないところまで来たと思ったのでした。
そこで倉太郎さんのところに返送する決意をしました。倉太郎さんがどのような判定をなさるか、
ここまで来たらもう腹を括るしかありません。

 2、3日して倉太郎さんからの一報が入りました。第1行目に「ブラボー!!! 」と言う文字が
踊っていました。この一言で疲れが吹き飛びました。どのように倉太郎さんがお感じになったの
か詳細は後程ご本人に語って頂く事に致しますが、どんな難題もやれば何とか解決するものです。
WRアンプを忠実に使用しているにも拘わらず満足できる音にはならない方、遠慮や我慢をせずに
どうかその悩みを私にぶつけて見て下さい。絶対お役に立てると思います。同じWRアンプを所有
なさっているのなら、少しでもいい音で聴いて頂きたいのです。

1555倉太郎さん(モーツァルトと一緒) Fri Dec 12 10:47:20 JST 2014
2段差動化アップグレード済み旧型プリ2機種の聴き比べ

前回の掲示板(1548)で旧型プリのアップグレードについてご報告いたしました倉太郎です。
その時は貸出機WRC-α1/FBALがセラミックコンで、我がプリWRC-ZERO/FBSEがSEコンで、
そのどちらを選択するかまだ決定できない状態でした。
結局は私のシステム環境に合うということで、特にピアノの音を重視した結果、
WRC-ΔZERO/FBSEもセラミックコンにする事を決意しました。

お願いしたWRC-ΔZERO/FBSEのバランス出力用ラインアンプのセラミック化が終わりましたが、
その結果を検証したかったので、貸出機を返却せずにさらに両機を比較試聴して見ました。
もちろんどちらも基本的には合格で高いレベルにあるのですが、微視的に見ると、微妙なところで
聴き手の好みを問うているような違いがあることに気がつきました。
なお、パワーアンプは変りはなく、Εシリーズを、中低音と低音にはダブルにして使っています。
「リスニングルーム拝見」のNO.13を参照してください。

 今回は、私なりに感じた両プリアンプの違いをご報告し、音調調整の参考にしていただけたら
と思います。

A. WRC-ΔZERO/FBSEの良い点

1.弦楽の摩擦音、浮遊感が素晴らしく、しっとりとしていて松やにの存在を感じさせる音です。
 またライブでよく感じる弓と弦がつるっとすべる感じも再現されていることに驚きます。
 これらの音は他のオーディオアンプでは聞いた経験がありません。これらの音と関連することと
 思いますが、音は全体的にさらっとしていて端正で、とても格調高いものです。

2.音はやや遠くに聴こえ、オーケストラが舞台の上で演奏している音場感が再現されています。
 クラシックにはこの距離感が必要です。ジャズのように至近距離で聴く訳ではありませんから。

3.一般的には理解されにくいことと思いますが、このアンプは、鳴り過ぎないところが良いと
 思っています。私にとっては、ほとんどのオーディオは鳴りすぎです。ボリュームを絞ると
 弱音の魅力も消えてしまいます。一方ライブでは音は向こうから強引にやってくるのではなく、
 こちらから聞き耳を立てて聴きにいくと、表情豊かな弱音がしっかりと聴こえます。

 この感覚はバイロイトでの神秘的な経験が原点となっています。バイロイトではそれほど悪い
 席ではなかったと思いますが、音が遠いのです。舞台も暗いので、聞き耳を立て目を凝らして
 集中しているうちに、いつしか音に過不足はなくワグナーの世界に巻き込まれていたことを
 よく覚えています。このような経験はその後の演奏会でもよくあります。人間の耳は適応力が
 あるものだと思っています。

 WRC-ΔZERO/FBSEは弱音がとても魅力的で、細かい音までよく聴こえます。遠くで鳴っている
 表情豊かな音を聴き取る味わいがあります。もちろんフォルテは全く違う迫力に満ちた魅力が
 ありますが、それは、あつかましくいつもガンガン鳴っているオーディオとは全く異なります。

B. 貸出機の良い点と私にとっての問題点

基本的には同じアンプですので、概ね上記1.2.3.の特徴は同じですが、これらの良さは
WRC-ΔZERO/FBSEが勝ります。その代り、貸出機は全体の剛性感が強く、ピアノの音は強靭で、
音に輝きがあり低音の響きも魅力的です。また管楽器の響きも音がしっかりして太いようです。
ただし、私の耳には中高音にきついところがあり、ちょっと鳴りすぎに感じます。
聞き耳を立てて音を聴きに行くという、ライブ(或いはWRC-ΔZERO/FBSE)がかもしだす危うい
雰囲気はないように感じます。

これはWRC-ΔZERO/FBSEの弱点なのかも知れませんが、ライブ音も一度きりのものですから、
ある種の危うさをどこかに意識して聴くことになるので、WRC-ΔZERO/FBSEの弱点が魅力に
聞こえるのかも知れません。

C. WRC-ΔZERO/FBSEへの要望点

簡潔に表現しますと、上記1.2.3.の素晴らしさをキープしたまま、強靭なピアノの音を
再現するという虫のよい話です。上記1.2.3.の良さを若干失うのは、致し方のないもの
と思いますが、最後は妥協できる範囲でのバランスの問題かと思っています。

WRC-ΔZERO/FBSEはやはり、ピアノの音が貸出機に比べると少しくぐもっています。
管楽器や低音でのマイナス点はあまり気になりませんが、ピアノの音は私にはかなり差がある
ように思います。貸出機の剛性感を適度に取り入れることができれば、モーツァルトのピアノ
協奏曲がもっと楽しく聞けるのではないかと思っています。

以上大変身勝手な感想と要望ですが、こんなことが実現したら実に素晴らしいことだと思い、
ご報告しました。現在、上述したようなWRC-ΔZERO/FBSEの音調調整をお願いしているところです。  

1554川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Dec 9 11:00:00 JST 2014
日フィル12月定期を聴く

 残すところ僅かになり今年最後の定期になりました。今月の指揮は外山雄三です。最近、日フィル
には殆ど登場していないと思ったら、ホール入り口で迎えてくれた団員の方が、東京定期は10年ぶり
位ではないかとか仰っていました。その位、日フィルを振っていないのですが、では日フィルと疎遠
だったかと言えば決してそうではありません。

 本日の第1曲目は指揮者自身が作曲した交響詩「まつら」です。まつらとは佐賀唐津の松浦地方の
古称だそうで、唐津市民が「唐津くんち」の祭囃子をモチーフにした楽曲を故郷に残す為に、市民に
募金を募り、2000人もの市民が賛同して外山雄三に委嘱したのだそうです。その楽譜が完成したのが
1982年の春で、日フィルの九州公演で渡邉暁雄の指揮によって初演されています。

 外山雄三には有名な「管弦楽の為のラプソディ」がありますが、日本の民謡を上手く曲に取り込む
作曲技法は独特です。「まつら」も和楽器を思わせる2本のフルートのユニゾンのような、神秘的な
雰囲気で始まります。弦も繊細な動きを見せて、ちょっと武満風な感じさえします。お得意のリズミ
カルな動きはなく、あくまで持続的な曲想を維持します。遠くで響く祭囃子に郷愁を覚えます。色々
な日本民謡が出ては消え、消えては出てきます。一番印象に残ったのは、コーダに入ってから曲想が
一気に盛り上がり、トランペット群の凄い切れ込みで曲を閉じる瞬間でした。流石、客演首席の実力
がモノを言ったと思いました。

 2曲目はガラッと変わってベートーベンの「皇帝」です。私はこの曲を聴くと何時も元気付けられ
ます。独奏者は小山実稚恵です。日本を代表するピアニストの一人だと思いますが、殆ど聴いた事が
ないのに、何となくタッチは強力だけれどffで硬直するのではないかと思っていたのです。

 第1曲目が終わって、ピアノを入れたり舞台が作り直されます。「あれ?」と思ったのは、ピアノ
の先に透明な譜面台のようなものが置かれた事です。今までに見た事がありません。反響板にしては
面積が小さいし、最後までその意味するところが分かりませんでした。最近、ピアノの音を響かせる
為に色々とアクセサリーを付ける事が流行っているのかも知れません。ピアノの足に金属板を噛ます
方法とか色々あるようです。ピアノもオーディオ並みになって来たのかも知れません。

 1曲目に比べて弦が2プル位減らされました。モーツァルトならいざ知らずベートーベンの「皇帝」
で減らす必要があるのかなと思いました。ベートーベンには美しさより力が欲しいからです。しかし
始まって見ると、古典の曲らしい迫力は感じられたので納得したのです。協奏曲は自分の装置で聴く
より大体はオケが霞んで聴こえ、ソロ楽器も冴えずにガッカリする事が結構あるのですが、そんな事
はありませんでした。

 小山実稚恵のピアノはいい意味で裏切られました。強靭さの割りにはタッチは綺麗で決して硬直は
していません。異常音も殆ど無くクリアに聴けたので、かなり調律が上手く行ったのではないか、と
思いました。ミスタッチも私には分からない程でした。演奏は新古典主義的で変なアクセントを付け
ずに、どちらかと言えば直線的です。私が普段聴いているバックハウス/ウィーンフィル(UCCD-7134)
もそうなので、その意味でも大きな違和感を感じませんでした。

 感心したのは、普通の独奏者はオケの事を余り意識せずに自分のペースで演奏しているように見受
けられるのですが、小山実稚恵は自分のお休みの時にはオケの音に聴き入り、伴奏を体で受け止めて
一つの協奏曲を一緒に共同作業で作って行く、と言う気構えを感じたのです。当然の結果、纏まりの
良い「皇帝」に昇華したのではないかと思います。

 演奏会のあくる日、バックハウスのCDを聴いて見ました。プリは旧型プリWRC-α1/FBAL、パワーは
E-100 相当アンプです。小山/日フィルも良かったけれど、バックハウス/ウィーンフィルも中々の
ものだと思いました。それは演奏も勿論ですが、音質もです。1959年録音とは思えない生々しさです。
再生装置の脆弱な部分は往年のウィーンフィルが埋めてくれるので、プラスマイナス零と言う感じに
聴こえました。この音なら、ピアノの音も含めて殆どの人が納得してくれると思います。よくもまあ
こんな録音が1959年に出来たものだと感心します。当時の英デッカは流石です。その意味で今現在の
録音エンジニアは一体何をしているのだろうかと疑問に感じます。

 昔は演奏会の翌日に自分の装置で聴くと100%がっかりしたものです。これも長年の研究の積み重ね
の成果なのだと、改めてオーディオアンプの研究を続けて来た事に意義を感じました。この音が小型
ブックシェルフ型のスピーカーと8畳の部屋で満喫できる事に意味があります。CDプレーヤーだって
買値5万程度のもので、何一つ特殊で高価なものは使っていません。特別なモノはWRアンプだけです。
言い換えればその気になりさえすれば誰だってこの音を実現可能なのです。皆さんがその気になるか
ならないか、だけの事なのです。第一義的にはオーディオの難問は解決できたと思っています。同様
の成功事例が、マルチアンプシステムですが最近私の所に2報来ています。一発でも、非常に難しい
マルチシステムでも成功すると言う事は、其処に技術的な普遍性が存在する証だと明示的に言っても
差し支えないと思います。

 15分の休憩後は、謂わばバッハのオケ・トランスプリクションです。昔、ファンタジアと言う映画
を見た時にスクリーンに映し出される模様に、何で抽象的なものを使うのか素朴な疑問をもって見た
記憶があります。あの時はそれがストコフスキーの編曲だとは思わなかったのですが、その後それが
他の指揮者によっても演奏され、何時の間にか「トッカータとフーガ」のオケ版としての地位を確立
してしまいました。本日もストコフスキー版が演奏されました。

 バッハの曲がフルオーケストラで演奏されるとこれはこれで楽しめますが、所謂バッハの世界とは
ちょっと違う気がします。しかし、その音響的な迫力は一聴に値する魅力があります。原曲の良さを
さらに高めている部分もある気がします。トロンボーンが増強されていて金管の中低域の厚みがあり
オルガンの雰囲気を何となく感じさせます。フーガが弦パートで奏されるのも好ましく聴こえますが
私は編曲モノは原則的には買わないので、推薦するようなソースはもっていません。

 次に演奏されたのはバッハのカンタータからのアリアの編曲で「羊は安らかに草を食み」と言う曲
です。最後の曲も凄い音響なので、それを緩衝する意味で置かれた曲なのでしょう。カンタータには
名曲が多く存在し、非常に魅力のある範疇ではありますが、今回の編曲は余りパッとしませんでした。
これなら原曲を聴いた方が良いと思いました。それにしても教会カンタータだけで 200曲以上もあり
バッハの凄さが分かります。

 最後の曲はレスピーギが編曲した「パッサカリアとフーガ」です。この曲はその昔リヒターの演奏
するロンドン盤で嫌と言う程聴きましたが、当時の真空管アンプではオルガンの極低音はまともには
再生できずに、ブーブーと濁って音階が聴き分けられなかった事を思い出しました。今ならその点は
クリアされています。

 偶々買いものに出る用事があって、近くの山野に立ち寄ったらアランの「バッハ:オルガン作品集」
と言う千円盤(WPCS-21070)を見つけて衝動買いをしてしまいました。アランはLPの時代から聴いて
馴染みがあったので、大体の演奏・録音が見通せたのです。アランはドイツ系奏者とは違って直線的
と言うかせせこましいと言うか、ちょっと落ち着きの無い演奏スタイルですが、その事は横に置いて
「トッカータとフーガ」と「パッサカリア(とフーガ)」を先ずは聴いて見ました。

 括弧書きは本来は必要がなく原曲名は「Passacaglia in C minor BWV 582」です。どちらも録音は
上の部でffはあたかも教会でオルガンを聴いている、と言うよりコンサートホールで聴いている感じ
に近いです。サントリーホールで聴いてもこんな感じかなと思います。極低音も濁らず録れています
し、高音部もピーピーと煩くありません。バランスの良い音でヨーロッパの名だたるオルガンの音が
我が家で再現されます。このCDには大曲の間にカンタータからの編曲ものが挟まっていて多彩な音色
をもつオルガンが楽しめます。

 ところでレスピーギ編曲は一風変わっていてストコフスキーとは雰囲気が違います。ローマ3部作
の雰囲気がないでもなく、ラテン系の音楽を意識させられます。色彩豊かで何となくエキゾチックな
雰囲気が漂います。のっけからストバイ・セコバイのffで行き成り始まったのですが、その音は私に
取って大変魅力的でした。緊張感のある音でありながら倍音を含んで抜けが良くストリングスの魅力
此処にありと言う感じでした。この音が聴けるから日フィルは止められないのです。途中、ビオラの
独奏があるのですがトップの音は艶があってとても魅力的でした。その事はマノンレスコーの時から
気が付いていました。今後にも期待したいです。

 この曲も最後は圧倒的な響きで終わり、会場はブラボーが飛び出す程の盛り上がりを見せましたが
外山雄三はラザレフとは対照的に、常に控えめで後に下がり演奏する時以外には指揮台に登らないと
言う風に見えました。愛想はありませんが、真面目に実直に音楽を作り上げる指揮法は結果的に成功
したのではないかと思いました。


ご注意!)

 今夕、我が装置の音が急に派手に聴こえ部分的には煩くも感じましたので、昨日孫の為に施設した
クリスマスツリーを消したところ、劇的に音が元に戻りました。ツリーの点滅に伴うノイズが大きな
原因と考えられます。このシーズンの夜間に於けるリスニングには十分お気を付け下さい。 

1553川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Dec 4 17:00:00 JST 2014
貴方のお持ちのWRアンプの音調調整をして見ませんか?

 前回、普及型プリアンプWRC-α2/FBALの改造のお話をしました。狙いは普及型プリの音質を旧型プリ
並に引き上げる事でした。その為に内部の空きスペースにスペースファクターがよく漏れ磁束の少ない
トランスを新たに積み、安定化電源化する事でした。その他整流回路から発生するノイズをより強力に
抑え込んだり、パスコン、カップリングコンの質を上げる等、なるべく旧型プリで採用した技術を踏襲
しました。勿論、小手先のテクニックは使いません。

 その結果、やっと旧型プリ並みのレベルに音のクオリティを引き上げる事に成功しました。偶々来て
いた息子にも聴いて貰いましたので、決して自己陶酔ではありません。最終的には、実際に2段差動化
の済んだ旧型プリとも音の聴き比べをして見ました。使用したパワーアンプは、バランス入力が可能な
E-100 相当アンプです。

 ずっと改造プリで耳が慣れていましたので、久しぶりに聴いた旧型プリWRC-α1/FBALに最初ちょっと
違和感がありましたが、それは電源を入れたばかりで音が落ち着いて来ると、大雑把に言えば殆ど同じ
レベルの音だと感じるようになりました。そうは言っても細かく言えば色々違ったところがあり、全く
同じ音にはなりません。旧型プリに使っているケミコンは原則的にBGコンなので低域が豊かに聴こえる
反面、少しだけ低音が緩い傾向にある感じがします。尚、私の好みから剛体感を得る為に安定化電源と
2段差動による送り出しアンプのSEコンを全てセラミックに代えてあります。

 音の判定に使ったCDはシノーポリ/フィルハーモニア管の「未完成」「イタリア」(445 514-2) です。
このCDは息子が持ってきたもので、独グラモフォン録音の中でも再生の難しいソースです。バイオリン
パートが引き攣れないで実在感の音で鳴るか、木管群が距離感を持って定位するか、残響の多いホール
でのワンポイントに近い録音なので、過渡特性の悪いアンプで聴くと混濁して、ヒーヒー言ってしまい
ます。

 改造プリは取り敢えず合格ですが、若干ストバイが細く聴こえます。また中高音が一見清楚に聴こえ
ますが、少しだけ再生装置の音である事を意識させます。一方旧型プリはストバイの音が太く安定して
ffの音が伸び切ります。しかも普段は高音が出ていないようなふりをしながら、ここぞの時にちゃんと
倍音を伴ったバイオリン群の音を出すあたり流石です。

 これには少し理由があるようです。私のプレーヤーはRCA 出力なのでプリのアンバランス−バランス
変換回路を使ってバランス化してE-100 相当アンプに繋いでいます。この変換回路のクオリティが少し
違うのです。改造プリには未だ安価なケミコンがパスコンとして残っている事と、補償コンデンサーが
スチコンのままなのです。旧型プリにはそれぞれBGコンとSEコンが使われていて、その差が出た可能性
があると思っています。

 SEコンもBGコンも今振りかって見ると一長一短で、必ずしもメリットだけではありません。SEコンは
柔らかく滑らかではありますが剛体感を出すには不利な代物です。BGコンは一見低音部が雄大に聴こえ
ますが、裏を返せばブーミーなところがあります。唯、どちらも品位は高いので、硬直したり引き攣れ
たりするような低次元のデメリットはありません。

 3種の神器の内無条件に使っても問題が生じる事無く、アンプのパフォーマンスを上げる事ができる
のは独のERO コンです。これは多段に使い続けても癖が累積する事がありません。そこが素晴らしい所
です。国産のフィルムコンとは月とすっぽんです。国産フィルムコンは一つでも使ったらダメです。弦
の音が硬直したり引き攣ったりし勝ちです。殆どの部品は良きにつけ悪しきにつけ、重ねて使うと固有
の癖を出すのが普通です。私は一つのアンプ基板に同型のコンデンサーをなるべく重ねて使わないよう
にしています。謂わばスタッガリングの技術です。

 抵抗は昔は進抵抗(現ニッコーム)を使っていましたけれど、今はコストダウンの必要性からカーボン
抵抗の1/6Wを主に使っていますが、基本的に問題はないと思っています。しかし3種の神器を使った方
が無難なイコライザーやヘッドアンプ等にはニッコーム使います。音の焦点が明確になり音がしっかり
するような感じを受けます。

 このように、回路は同じであっても使用部品によって全く別物の音になる場合があります。典型的な
例は今回のWRC-α2/FBALの音です。最初改造前に聴いた音は「何じゃこりゃー」と言う程の音で、全く
今現在の高帰還化アンプのグレードには追いついていませんでした。それが部品交換だけで、相当な所
まで回復したのです。寧ろ、安定化電源化による音の違いの方が少なかったと言えるでしょう。

 折角の回路が部品で台無しになると言う事は十分に有り得る事です。また使用しているプレーヤーや
スピーカーとの相性が悪く、全体のバランスを欠いている為に音が全く冴えない場合もあると思います。
アンプの開発・設計者としては、同じアンプなのに本領を発揮されずに使われているのは真に忍びない
と思います。

 これまではアンプをお売りした後はユーザー各位の責任にお任せしてきましたが、それだけでは完璧
に使いこなす事は難しいのではないかと思うようになりました。また、一方をアップグレードした為に
全体のバランスが崩れてしまったと言う事も有り得ると思います。例えば高帰還化されたパワーアンプ
の前に、オリジナルのWRC-α2/FBALを接続したら幻滅する事は必至でしょう。

 既存のアップグレードだけでは痒いところまで手が回りません。そう言う方に新サービスとして部品
交換を行って音調を整え、その方のシステムに合うような改良を加えると言うこれまでにない技術提供
を始めたいと思います。大方は、部品の癖は分かっていますので、ご所望のような音調に近づける事は
100%は無理としても、試聴と部品交換を繰り返せばある程度は可能だと思っています。

 その技術料ですが、ケースバイケースなので固定料金にはできませんので、その内容に応じて金額を
ご提示したいと思いますが、基本的にはビジネスと言うよりはWRアンプを最高の状態でお使い頂きたい
と言う開発・設計者の希望でもあり、リーゾナブルなところを考えていますので、気楽にお問い合わせ
下さい。規模にもよりますが1〜2万円程度をお考え下さい。お電話でもメールでも結構です。以下に
部品交換の対象になるような、余り良くない事例を示して置きます。

 ◎低音がブーミー
 ◎低音不足
 ◎高音が如何にも出ていますと言う感じがする(高音楽器が鳴らなければ高音は聴こえない)
 ◎低音が常に鳴っているように聴こえる(低音楽器が鳴っていない瞬間は低音は聴こえないはず)
 ◎中高域が硬く引き攣れる(中高域が煩い)
 ◎中低域の厚みが出ない(音に安定感がない)
 ◎スピーカーの位置が明らかに分かる(音が広がり過ぎて中抜けの音になる)
 ◎音が前に迫り出して来る(奥行き感が出ない)
 ◎解像度が悪く定位が甘い
 ◎切れ味が悪く(抜けが悪く)音が鈍い
 ◎音に剛体感がない(力感が不足する)
 ◎ある特定の楽器だけが前に出てきたり方向感が変る
 ◎ピアノがある音階で変な音になる(特に右手)
 ◎ピアノの極低音がそれらしく聴こえない(現実のピアノの極低音は凄く魅力的)
 ◎ピアノがふやけてタッチがシャープに聴こえない
 ◎ピアノの木の温もり感が出ない
 ◎張り上げたボーカルが硬く感じる
 ◎ボーカルのサシスセソが目立つ
 ◎金管に切れや輝きがない
 ◎金管の厚みが出ない(中低音の剛体感がない)
 ◎木管が距離感をもって定位せず前に出てくる(ピッコロの方向感が定まらない)
 ◎弦の独特の柔らか味が出ない(匂うように漂う感じが出ない)
 ◎ストバイのffが剛体感をもって聴こえない(音が細い)
 ◎セコバイの存在感が足りない(影に隠れて聴こえない)
 ◎ビオラパートの実在感が足りない(霞んで聴こえない)
 ◎チェロが篭るように聴こえる
 ◎コントラバスのピッチカートがだらしない
 ◎ティンパニーが低い方に抜けずに上っ面の音になる
 ◎大太鼓がホールで鳴っているのではなくリスニングルーム内で鳴っている感じになる
 ◎オルガンの極低音が地を這うようにならずに部屋の中でダブついてしまう
 ◎打楽器が距離感をもって聴こえずにスピーカーから飛び出るようになる

以上のような現象があれば、システムに問題がある可能性が高くなります。 現今のWRアンプを正しく
使いこなせば、上記の再生は程度問題にはなりますが可能です。 

1552川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Nov 28 22:00:00 JST 2014
普及型プリアンプの WRC-α2/FBALをご存知ですか?

 WRアンプは、当初パワーアンプであるWRP-α1 のみでスタートしましたが、直ぐ続いてプリアンプである
WRC-α1 が発売され、かなりの間この2機種で運営されていました。これら2機種はSE、ERO 、BGコン等々
の3種の神器を含む高級部品を使っていましたので価格が高く、誰でもが気楽に買えるものではありません
でした。

 それを補う為に、新たに準コン基板による普及型パワーアンプを開発し、多少の紆余曲折はありましたが
それがWRP-α6 として一時は定番商品になりました。その頃、WRアンプはバランス化の道を歩んでいました
ので、WRP-α6/BAL が開発され、それに合わせたプリアンプとしてWRC-α2/FBALが開発されたのです。

 一方、本命の方はMK2 化され、WRP-α1MK2、WRC-α1MK2となり、続いてバランス化されてWRP-α1MK2/BAL、
WRC-α1MK2/FBAL となったのでした。従いまして、WRP-α1MK2/BALに相当する普及型がWRP-α6/BAL であり、
WRC-α1MK2/FBAL に相当する普及型がWRC-α2/FBALになります。普及型はコストの面から安定化電源は採用
されていません。

 普及型には3種の神器は原則的に使われていませんので、価格も比較的お求めやすく設定されていました。
この2機種の特徴は、弁当箱のような単純な直方体シャーシを使った事にあります。上蓋を取ると中が全て
見える構造です。このシャーシが意外にも評判が良く、それなりの台数が出たと思います。

 実は、我が家にそのプロトタイプが眠っておりました。パワーもプリもです。確認したらパワーアンプの
方は高帰還化されています。多分、最初の頃に練習台として真っ先にアップグレードしたのでしょう。その
事は失念していました。一方、プリアンプWRC-α2/FBALの方は手付かずでそのままの状態でした。こちらは
安定化電源を積んでいませんのでコレクタホロワ化は必要なかったのです。

 何故今になってこんな事を引っ張り出して来たかと申しますと、最近ヘッドホンアンプを見直して普及型
アンプに目が行った事、旧型プリアンプの2段差動化の注文を賜り、そのユーザーの方に高く評価された事
(例えば:音の存在感がまるで違います。音の陰影や色彩感がぐっと濃くなったように感じられます。)と
来れば、WRC-α2/FBALの2段差動化を試みたくなるのは自然の流れです。普及型で何処まで高音質になるの
かと言う興味もありましたし、あわよくば普段に使う事もできます。

 送り出し用のランアンプ基板2枚を取り出して、先ずは普通に2段差動化を行ないました。確かに音質の
向上はありましたが、普段使っているプリアンプの音に比べて音のランクが多少落ちるのは、使用している
部品の問題があり仕方ありません。そうなるとついつい欲が出て来てしまいます。パスコン用に使っている
フィルムコンと電解コンを少しいい物に交換して見ると、それなりに効果があります。普及型には使わない
ERO などを投入しました。

 こうなって来ると切りがなくなり段々エスカレートして来ます。結局、安定化電源を積む決意までもして
しまいました。現在積んでいるトランスはリレー電源用に残し、新たに漏れ磁束の少ないトランスを片隅に
取り付けました。弁当箱シャーシは深さが丸々使えるので、小型トランスを積むスペースが確保しやすいの
です。高級な旧型プリに何処まで肉薄できるかが興味の対象です。

 突貫で安定化電源基板も作り、案外短時間で安定化電源付きのプリに仕上げる事ができました。それでも
未だ旧型プリの豪華な電源部には敵いません。これで同等な音になるはずはないのですが、基本的な構造は
ほぼ同じになりました。

 そんな時に息子が来たので、いい機会だと思い聴いて貰いました。まだ完成してから日が浅いので無理だ
とは思っていましたが、やはりEC-1の方がまだまだ上だと言う厳しい意見でした。思い入れの無い第三者の
評価を聞く事は大切な事です。何でもそうですが、アンプも最後の詰めが大切で、全体のバランスを上手く
取る必要がある事が分かりました。

 使用したパスコンの値は適切か、パスコンの品質は大丈夫か、電圧配分は正確に成されているか、等々を
冷静に分析しながら、長年の経験から怪しいと思うところを修正しました。今度は、自分で聴いても悪くは
ありません。EC-1とは違った魅力があります。EC-1はオーディオ的魅力に富み、余計な神経を使わずに音楽
を楽しく聴く事ができます。

 一方旧型プリ系の音は端正で品格があり無色透明な魅力があります。偶々この時点で旧型プリは貸し出し
中でしたので比較検討はできませんでしたが、その音の記憶から近いところまで来ていると感じていました。
そんな折です。息子の録音の仕事が府中のウィーンホールであったのです。

 WRのマイクプリを使うような場合は、私は録音アシスタントとして着いて行きます。私の仕事はケーブル
の施設とマイクプリのセッティング、そしてモニターアンプ等の準備です。息子はマイクの管理と録音用に
使うインターフェース及びパソコンの運用です。これまでモニターはインターフェースからのバランス出力
をダイレクトに、WRのバランス入力型パワーアンプに接続していました。

 以前からプリを噛ましたいと考えていたのですが、旧型プリは電源が別になっていて、持ち歩くには使い
勝手が良くありません。しかし、今回アップグレードなったWRC-α2/FBALならば持ち運びが楽です。そこで
急遽、運搬用の車に積み込んでしまいました。

 全ての準備が無事終わり、あとは演奏者の方の音だしを待つばかりとなりました。今回はパワーアンプに
WRP-ΔZERO/BALを持参しました。スピーカーは何時ものQUADのLITEです。今回はバイオリンソロなので 50W
で十分だと考えました。演目はバッハの無伴奏ソナタです。無伴奏言えば、パルティータ第2番が注目され
ますが、今回の演奏を聴いて、どうしてどうしてソナタも良いもんだと思いました。

 音だしが始まりました。モニタースピーカーからバイオリンの何とも魅力的な柔らかい音、切れ味の良い
鋭い音が流れます。息子が開口一番、何時もより音が滑らかだと言いました。プリ効果があったと言う合図
でした。インターフェース直結では高周波ノイズも出力に混入して来るはずです。それを少しでも緩衝する
にはプリアンプはやはり効果的だったようです。

 こうして2日間に亘るセッション撮りが行われ、そのモニター音は、多分独奏者の方の参考になったはず
です。ウィーンホールはかなり残響があります。お客さんが入っていないので余計です。私は前から4列目
の真ん中で生の音を聴きましたが、直接音よりホールの間接音の方が勝るような感じで聴こえてきました。

 音の聴こえ方も好みですから残響豊かな間接音の多い音を好む方もいらっしゃるでしょうが、そして残響
の多いホールでワンポイント録音が行われるのでしょうけど、私はそのような音はどうも好きになれません。
モヤモヤしてスカッとしません。もう少しシャープな音を聴きたいと思います。

 丁度私が聴いていた時に、少し後の方でもう一方聴いて居られた方がいらっしゃって、その方がモニター
している舞台袖に来られて、これが本当の音だと言う意味の事を仰ったのでした。その時我が意を得たりと
思ったものです。何時もその演奏者の音を聴いて居られる方が仰るのですからこれ程確かな事はありません。
演奏者の方には複雑な事かも知れませんが、演奏会場よりモニター音の方がリアルだったと言う事なのです。
こう言うところにオーディオの存在価値があるのだと、私は思っています。

 生だから全てが良いとは限りません。演奏者とホールと聴く場所によってはとんでもない音の場合もある
と言う事なのです。生演奏会に足を運ぶ事は第一義的には大きな意味がありますが、上記3つの条件を確保
する事もまた大切な事なのです。日フィル、サントリーホール、一階中央上席と言う条件は捨て難いと私は
思っています。

 と言う事で、破格のWRC-α2/FBALのアップグレードは一先ず成功したようです。WRC-α2/FBALをお持ちの
方でアップグレードをお望みの方は、どうぞご相談になって下さい。WRアンプは古いものでも全て生き返ら
せる事が可能です。立派に蘇りますから、古いものでも捨てないで下さい。磨けば金になりますから、廉く
中古で売っていたら是非とも買って下さい。WRの中古アンプは金の卵なのです。あとはユーザー登録をして
アップグレードをするだけで、少しオーバーですが貴方のオーディオの悩みは一気に解決します。  

1551川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Nov 22 21:00:00 JST 2014
日フィル11月定期を聴く

 今月の指揮者は首席客演のインキネンです。インキネンは日フィルとマーラーの交響曲を連続的に
演奏しています。実は6月にも同指揮のマラ6があったのですが、都合が悪く息子に代わりに行って
貰いました。その時息子に感想を聞いて見たのですが、オケの出来は兎も角も指揮が多少力んでいて
疲れる演奏だと言う事でした。常時エンジン全開と言う事だったのだと思います。

 今回はさらに規模の大きいマラ7で聴き通せるか一抹の不安がありました。マラ7は流れるような
スムーズな音楽ではありません。支離滅裂、好き勝手と言う言葉が当て嵌まるような音楽です。元々
マーラーにはそう言うところがありますが、その頂点にある曲かも知れません。演奏時間も80分近く
あり聴く方も大変です。

 この一曲だけで十分なのですが、前半にインキネンお得意のシベリウスがありました。大抵の曲は
知っているつもりでしたが、この曲はその存在すら知りませんでした。交響詩「大洋の女神」と言う
曲です。作品番号が73なので初期の作品ではなく、所謂シベリウスらしさの出た作品だと思います。

 らしさとは、ある種の小刻みなリズムに乗ってフルートなどの木管が清楚に響き、それに爽やかに
弦パートが絡んで来ると言えばお分かり頂けるかと思います。この曲も途中まではその雰囲気を持続
し続けていましたが、後半、急にオケの音に厚みが増し、ホルンがもの凄い音で咆哮したのです。

 余り良い比喩ではありませんが「フィンランディア」で代表されるような、シベリウスの別の魅力
が味わえるいい曲だと思いました。そうそうホルンのトップが代わって久しいですが、今夜はトップ
の実力をはっきり認識できる演奏だったと思いました。厚みのある堂々としたホルンの音です。この
人なら安心して聴いていられると思いました。それにしてもシベリウスの曲は、聴いた事もないのに
退屈するようなところがなく結構楽しめたと思います。定期会員になっていると新しい発見に出会え
ます。

 15分の休憩後はお待ちかねのマラ7です。80分大丈夫かなと言う不安と期待が半ばします。マラ7
を始めて知ったのは未だLPを集めている頃に、ショルティ/シカゴ響のLP(L30C-2106/7)を何処かで
興味本位で買った事に始まります。パリー/ウィルキンソン/ショルティ/シカゴ響と来れば弥が上
にも興味をそそられます。確かに買った頃はしばしば聴いていましたが、結局音楽がよく分からない
ので長続きせずに何時の間にかお蔵入りになり、その後暫くはこの曲の存在を忘れていました。同じ
事がオーディオにも言えます。音楽を聴く目的で装置を構築しないと結局は飽きて次から次に代わり
のモノを求める事になります。

 この曲にまた出会う事になったのは、息子の影響です。我がシステムの音を少しでも客観的に評価
しようと思い、偶に息子に聴いて貰っていました。息子はマスタリングや録音のエンジニアですから
ある意味私より耳が良いのです。私の気が付かない点を指摘してくれます。そのテストCDとして度々
登場したのが、アバド/シカゴ響(445 513-2) でした。息子が持ってくると言う事は再生上何らかの
難しいポイントが幾つかあるのです。

 例えば、この曲はのっけにユーフォニウムのソロが出てきますが、そして、嫌と言う程それが繰り
返されるのですが、この音がアンプが不安定ですと異様に響くのです。昔からホルンでもこの現象が
起こり閉口した事がありましたが、これはピアノの音が片耳の鼓膜を異様に圧迫するのと同種のもの
です。

 息子なりに幾つかチェックポイントがあって、必ずそれを一緒に聴かされたのが切っ掛けで、また
この曲への興味が湧いてきたのでした。このアバド/シカゴ響の演奏が一番良いと息子は言いますし
私もそう思います。アバドは自然体で臨んでいて決して我を通すような強引さがありません。腕利の
シカゴ響を自在にコントロールして、マラ7の理想像に近づいています。

 マラ7は最初にも触れましたが、マーラーが好きなように書き上げた曲なので(だと思われるので)
指揮者が我を通すとそれがぶつかり合って、音楽が荒れてしまうのです。その点、アバドはある意味
淡々と音楽を流していきます。シカゴ響はビルトゥオーソオーケストラですから、それが上手く進行
します。同じシカゴ響でもショルティ盤は、指揮者の個性が強く出過ぎるのでギクシャクして聴こえ
余り感心できません。

 ではインキネンの演奏はどうたっだのでしょう。マラ6の事があるので、多少心配していたのです
が、のっけのユーフォニウムの演奏から余り違和感を感じませんでした。マラ6での反省を踏まえて
の演奏だったのかも知れません。曲が曲だけに下手糞なオケが演奏すると空中分解しかねないのです
が、日フィルの演奏は総じて合格だったと思います。これもラザレフの強力な指導に、ずっと耐えた
からでありましょう。それにしても第1楽章は凄まじい曲想が断片的に連続して、聴く方も疲れます。
曲に乗って楽しく聴くと言う雰囲気ではありません。余り抵抗せずに身を任せて聴くしかありません。

 今夜はコンサートマスターが二人とも都合が悪かったのか、ゲストコンマスでした。仙台フィルの
コンマスのようでしたが、やはり偶に顔を合わせてもしっくり行かないのでしょう、何時もより音が
硬めです。もう一つ音が抜け切らないのです。トロンボーン、トランペットが好調なだけにバランス
が今一つかなと思いました。しかし80分の長い曲です。後半は徐々に息が合ってきたのか、多少音の
抜けが良くなってきました。高調波成分が豊富になったと言っても良いでしょう。そうそうシカゴ響
の弦は昔から力はあるのだけど少し硬めで、決して抜けの良い弦とは思えません。

 やっと、本当にやっと第2楽章に入りました。第2楽章はナハトムジークで少しほっとできますが、
それでもマーラー独特のグロテスクな音楽が顔を見せます。常に落ち着かない音楽ですが、それでも
狩の角笛が深い森の静けさの中で響き渡ると言う神秘的な音楽は、それなりに魅力があります。音が
遠くからこだまする効果は、バンダが奏しているからなのかと思いました。初めて聴いても馴染める
音楽のような気もします。

 当日配布された小冊子の解説に依れば、この第2楽章と第2楽章と似た構想で書かれた第4楽章が
最初に作曲され、あとからその間を埋める第1、第3、第5楽章が書かれたそうです。そう言う異例
の書き方もこのマラ7の独特の特徴に影響を与えているのかも知れません。

 第3楽章は当然スケルツォ楽章で3/4 拍子ですが、優美なワルツの雰囲気は全くありません。寧ろ
不気味でグロテスクな踊りのように感じます。なので聴いていて退屈するような音楽ではなく時間的
にも一番短い楽章なので、比較的楽しく過ごせたと思いました。特にチューバの響きが特徴的で再生
する場合もチェックポイントになります。ちょっとラベルの「ラ・バルス」を想い出しました。

 第4楽章は又ナハトムジークに戻ります。この楽章ではそれまで沈黙していたマンドリン、ギター
が活躍します。それにマーラーお得意のハープが絡んで、ちょっとメルヘンチックです。メルヘンで
ありながら、あくまで不気味さは消えません。何故、マーラーにはこのような暗い影が付きまとうの
でしょうか。やはり、厭世的で死の恐怖に戦いていたマーラーの心の中と無関係ではないのかも知れ
ません。各パートのトップが腕を競い合い室内楽的な雰囲気を醸し出します。腕の見せ所です。

 突然、ティンパニーの強打で最終楽章は始まり威勢の良い曲想が続きます。これまでの何処か暗い
感じは一転明るくなりますが、やはり支離滅裂と言うか気の向くままと言うかコロコロ雰囲気が変り
ます。強烈な金管に対抗するように4管編成の木管も負けじと頑張ります。クラリネットとオーボエ
が少しでも音を遠くに届かせようとして水平奏法が増えてきます。時たまピッコロがピーピーと叫び
ますが、何時もは乱れるはずの方向感が不思議と乱れずに安定した音で響きます。各種打楽器も打ち
鳴らされ、兎に角派手に聴こえます。

 しかし充実感はありません。直ぐにはぐらかされるからでしょうか。マラ9の充実感とは雲泥の差
です。持続性がなく散発的です。勢いで演奏できるような代物ではなく、楽譜に忠実に演奏するだけ
でも大変だと思います。その割りに日フィルには殆ど破綻はありませんでした。逆によくもこんなに
演奏し難い曲を正確に演奏できるものだと感心もします。モーツァルトの「後宮よりの逃走」に似た
ような不思議な音楽が挟まれたりします。本当にどん詰まりになって纏まりを見せ、コーダに入って
やっと充実した音楽が現れ大きく盛り上がって曲を閉じます。

 当然、もの凄い拍手が巻き起こりました。それは感激の余り手を叩いてしまうと言う拍手ではなく、
よく演奏したと言う労いの拍手だったと思います。少なくても私はそうでしたし、終わっても冷静さ
を保っていました。こう言うマーラーもあるのだと改めてそう思ったのです。ある意味ドライに聴き
流せる曲だとも思いました。80分聴き通したと言う安堵感が体中に広がり、力が抜けて行くのが分り
ました。  

1550川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Nov 16 16:45:00 JST 2014
ヘッドホンアンプWRP-α9 のパワーTRが変わります。−−−その3

 前回はヘッドホンアンプWRP-α9 のパワーアンプとしての音質について言及しました。最終回は
プリアンプとして、又、ヘッドホンアンプとして使用した場合の音質について述べて見たいと思い
ます。尚、WRP-α9 にはバランス入力が可能なWRP-α9/BAL もありますので、システムをバランス
で運用されている方にもお求め頂けます。


 2.プリアンプとして

 ユーザーの皆様に大変ご好評を頂いている、WRの最新型プリアンプであるΕC- 1の原型ですから、
プリとして使っても、それ相応の実力を発揮します。ΕC- 1との大きな違いは、少しだけゲインを
稼ぐ為の、ゲイン6dB のラインアンプが前段に有るか無いかです。今回の試聴は、E-10を接続して
行ないました。前回のテストと同じ音圧レベルにするには、ボリウムを時計の2時から2時半位の
位置にする必要がありました。

 パワーアンプとして用いた場合は、一見、E-10との違いが分からない感じでしたが、プリアンプ
として使った場合は、一瞬、高域がナローバンドに聴こえます。ΕC- 1はどちらかと言うと華やか
な感じがあり、濃くもあってどちらかと言うとオーディオ的な魅力も備えています。

 しかしWRP-α9 の音は無い袖は振らないと言うような実直な音で、ある意味音楽的に聴こえます。
特に室内楽にはピッタリで、弦楽四重奏曲などは最高です。神経質でチリチリするような中高域の
音は皆無で非常に安定しています。高域が一瞬ナローバンドに聴こえる事は生演奏会でも結構あり
ます。倍音を含む高音楽器が鳴っていなければ高音が聴こえないのは当たり前で、寧ろ、常時高域
の存在を意識させるようなシステムの方が不自然なのです。

 元々ΕC- 1も含めて、送り出しアンプにはE-10に使っているパワーアンプ基板と殆ど同じものを
使っています。だから、このヘッドホンアンプはパワーアンプにもなるのです。唯、ΕC- 1はハム
ノイズを極小にする為に、電源回路にパイ型フィルターを入れてリップルを除去しています。

 一方このヘッドホンアンプは、紛いなりにもパワーアンプですからパイ型フィルターを入れる事
はできません。どうもこの違いがプリとして使った場合の音の違いに繋がっていると感じています。
ノイズの点では明らかにΕC- 1は有利ですし、ラインアンプを積んでいるので、さらなるバッファ
効果もありましょう。

 だから一般的には、プリとしてΕC- 1の方が優れている事になりますが、ではヘッドホンアンプ
は全く不利かと言えば、必ずしもそうだと言い切れる訳ではありません。物事には必ず裏表があり、
反対側から見ればメリットにもなるからです。

 ヘッドホンアンプはミニパワーとは言えパワーアンプです。当然出力インピーダンスは低いはず
です。だからスピーカーを駆動できるのです。それだけのエネルギー供給が可能あると言う事です。
一般的にプリは電圧増幅の範囲で設計する訳ですから、パワーアンプである必要性はありません。

 しかしこれは原則論であって微妙な音を云々する高級オーディオでは、パワーアンプで構成する
プリの方が音が良い、と言う事があっても不思議ではありません。そもそもΕC- 1がご好評頂いて
いるのは、パイ型フィルターを入れていると言っても、歴然としたパワーアンプ基板を使っている
からだと思っています。

 ひずみ率など他のファクターが同じなら、電圧増幅より電力増幅の方が優れている、と言ったら
言い過ぎでしょうか? 私はプリでもエネルギー供給能力がモノを言うかも知れないと思っている
一人です。と言うより、最近、そう主旨替えしたのです。旧型プリの場合も単なるシングル増幅を
2段差動増幅にする事で、少しでもエネルギー供給能力を上げるべきだと考えました。電圧増幅も
全く電力ゼロでは有り得ないのです。だったら電力供給能力が高い方が有利になるでしょう。

 話を元に戻しますと、このヘッドホンアンプをプリにした場合殆ど例を見ない、パワーアンプで
パワーアンプを駆動すると言うシステムを構成します。その意味ではΕC- 1を使う場合より、より
完全な形で具現化されます。昔なら馬鹿げた事だと一蹴されるかも知れませんが、高級オーディオ
に於いて本当にそう言い切れるでしょうか?

 WR録音の弦楽四重奏曲を聴いていて、これは正に理想的な姿で聴けている、長年求め続けていた
弦楽四重奏曲のあるべき姿をやっと目の当たりにしたと思いました。非常に安定で実直な音である
と思います。オーディオ的な嫌らしさが全くありません。

 このヘッドホンアンプにΕC- 1と同様なラインアンプを積んで、パスコンなどの部品を見直せば
オーディオ的な魅力を併せ持つプリアンプにする事ができるかも知れません。或いは、いっその事
ΕC- 1の電源回路を安定化電源にすれば、本当に理想的なプリアンプが形成できるかも知れないと
思います。旧型プリのように電源部を別筐体にすれば可能でしょう。その点、旧型プリはパイ型の
フィルターと安定化電源を元々搭載していますので、電源部は理想的であり基本的に有利です。

 こう言う新しい発見は、WRアンプがコレクタホロワ化及び高帰還化された事によって初めて可能
になったと言えるでしょう。帰還アンプの不安定動作で先が見えないオーディオでは、このような
細かな違いを発見する事はできないでしょう。帰還が不安定になる事で生じる異常音によって微細
な音が掻き消されてしまうからです。このようなアンプを使う限り、オーディオは本質的には発展
できないと思います。最近の技術にハイレゾのような殆ど上っ面のものばかりしかない事が何より
の証拠です。


 3.ヘッドホンアンプとして

 私はヘッドホンで音楽を聴く習慣がありませんので、一番苦手な試聴になりますが、できる限り
皆様に必要な情報をお知らせできるように努力しました。なので、常用しているヘッドホンがあり
ません。どうしようかと思ったのですが、昔、息子がモニター用に使っていた、ソニー製の有名な
ヘッドホンMDR-CD900 が遊んでいましたので、これなら皆さんの参考になるかと思い使って見る事
にしました。尚、プリを使わずにプレーヤーを直結して試聴しました。ボリウムは 9時〜 9時半の
位置で丁度良い音量になりました。

 このヘッドホンは一般に中高域に癖があり、華やかであるけれどある種の煩さがあると言われて
いるように思います。息子はモニターがし難いと言って今はゼンハイザーのHD-600を使っています。
事実、私もそう思った一人で、旧型のWRパワーアンプにヘッドホン端子を初めて付けた時に、そう
感じました。しかし、モニター用として世界のスタジオで使われて来たと言う実績もあります。

 当然、そのような音を予想して聴いたのですが、結果は良い意味で裏切られました。昔のあの音
は何処へ行ったのかと言ったよう音で、どちらかと言えば大人しいノーマルな音です。全く違和感
なく音楽が楽しめます。ソニーが振動板などに固有の癖を持たせて設計したのではない事が分かり
ました。

 日頃から申し上げていますが、スピーカーもヘッドホンも単体では音は決まらないと言う事だと
思います。アンプと組合せて初めて音は決まるのです。それにはスピーカーなどを駆動するアンプ
の動的な出力インピーダンスが大きく影響してきます。

 動的な出力インピーダンスと言う言葉は、私が苦し紛れに初めて使ったのですが、少しだけ解説
する事にします。そもそもインピーダンスと言う概念は、正弦波を仮定した定常的な値で、過渡的
な音楽のようなもには本来は適用できません。しかし正弦波を仮定した実験や計算を拡張解釈して
オーディオ機器は設計されて来たのです。それで、概ね成功したと言っても良いかも知れません。

 しかし、高級オーディオは正弦波を仮定してモノを言っても現実とは遊離してしまい、真の姿を
捉える事はできません。例えばダンピングファクターDFと言うものが定義されていますが、これは
正に定常値です。しかし低音の切れ味が良いとか悪いとかは動的な事であって、DFをもって一義的
に低音の良し悪しを云々する訳には行かないのです。

 もっと言えば正弦波で測定されるDFが幾ら大きくても、もしそのアンプの帰還が不安定で外来の
刺激(音楽信号)によって動作点がふら付くような事があれば、最早、DFを適用する事は全く意味を
なさない事になります。

 私はそのような事がないように、動的な現象に対してもその特性が保証されると言う意味で前述
の「動的な出力インピーダンス」と言う言葉を使ったのです。例えば、低域から10KHz まで平坦な
出力インピーダンス特性が、過渡的な波形に対してもその瞬時瞬時に保証される、と言う事が大切
なのです。

 さて、WRアンプは帰還が安定に掛かっていますから、音楽信号のような外来刺激によって動作点
がふら付く事はありません。だから、アンプの出力インピーダンスは動的にも保証される事になり
ます。WRアンプのように、広い周波数範囲に亘って出力インピーダンスが低く抑えられ、動的にも
それが保証されるアンプで駆動すれば、スピーカーやヘッドホンは本来の特性を発揮する事が可能
になります。この事は即ち、ほぼ定電圧駆動が可能になると言う事です。

 それがある程度正しいと言える事は、今回のMDR-CD900 の試聴の結果が証明しています。旧型の
WRパワーアンプで確かに聴いた、あの派手な音は全く影を潜めました。その反動なのか少し物足り
なさを感じます。もう少し切れ込み感が欲しいとさえ思います。しかし、それは多分にオーディオ
的欲求を満足させたいと言う、我々オーディオを趣味とする者の良くない何時もの癖です。

 オーディオ的快感は長続きしません。刹那的な喜びです。やはり音楽が実直に聴けるシステムを
目指すべきではないでしょうか? その意味で、このヘッドホンアンプは必要にして十分であると
言えると思います。それでも、まだ物足りなさをお感じになった場合は、このヘッドホンアンプを
プリに回し、ヘッドホン端子付きのE-10をお買い求めになれば、もう少し充実した音が、お楽しみ
頂けると思います。その理由は、パワーが10Wx2 に増強されるだけではなく、電源インピーダンス
が直流域から可聴周波数限界までほぼフラットに抑えられ、その絶対値も大きく下がると言う事で、
ヘッドホンアンプに比べて有利に動作し、音の均質感、透明感、伸び、厚みなどの点で優位な音に
なるからです。それにプリのブッファ効果も加わるでしょう。

 最後に最近流行のバランスタイプのヘッドホンについて申し添えて置きます。ヘッドホンの構造
がバランスになっていないので、本来のバランスの意味がないと書いた事がありましたが、どうも
ブリッジ駆動をもってバランスと称している事が分かりましたので改めて言及します。残念ながら
これも余り意味がない、寧ろ改悪の可能性が高いと申し上げねばなりません。理由は、以下の通り
です。

 ブリッジ駆動はスピーカーやヘッドホンを両側から均一に駆動するもので、片側を固定する従来
の方法(ハーフブリッジ)と分けられています。ブリッジ駆動の特徴はパワーが実質的に3倍程度
に増強される事ですが、カーステなら兎も角もヘッドホンアンプのパワーを稼いで意味があるので
しょうか? それにそれぞれのアンプに対する負荷インピーダンスが半分になり、アンプの動作は
必然的に不利になり決して良い事ではありません。音質が悪化する一つの原因になります。

 それより私の心配事はブリッジ駆動にする事によって確実に出力インピーダンスが2倍に上がる
事です。6dB も帰還を浅くした事になり、それだけスピーカーやヘッドホンを制御する能力をミス
ミス弱めてしまいます。どんなスピーカーもヘッドホンも定電圧駆動する事が理想なのです。即ち、
一般にブリッジ駆動にすると、特に低音に締りがなくなり低音のダンピングは必然的に悪化します。
ヘッドホンは近接効果もあって低音は豊かに聴こえますから、わざわざダンピングを悪くしてまで
低音を豊かに聴こえるようにする必要は全くないのです。ブリッジ接続はこのように構造的欠陥を
有していると言えます。

 老婆心ながらもう少し解説します。ブリッジ接続は両方から均等に駆動するから片側を固定する
ハーフブリッジより優れていると思われる方があるかも知れませんが、それは違います。片側固定
でも、物理学の作用反作用の法則によって、内実的には両方から均等に駆動しているのと本質的に
何ら変わりません。唯、強いて言うなら中点が動くか動かないかの違いがあり、駆動するアンプの
アースラインに音声電流が流れるか流れないかと言う問題になりますが、それが音質に与える影響
については、今のところ筋の通った有意な説明はありません。

 また、スピーカーまでバランス増幅ができると言うメリットはどうでしょうか? 過去も含めて
バランス増幅回路は幾何学的に対称で美しく珍重されてきた傾向があります。バランス回路を採用
するば恰も音が良くなるような印象を与えて来た事は否定できません。

 しかし、バランス増幅は優秀だと考えられていますが、帰還が不安定になるような回路を使って
いれば元も子もなく、動的な特性はその保証の限りではなくなります。幾何学的に対称なバランス
増幅回路が帰還的に安定である保証は何処にもありません。要は、帰還を如何に安定に掛けるかが
キーポイントであって、これは全てに優先されるべき事柄なのです。ヘッドホンのブリッジ駆動も
又上っ面の技術と言わねばなりません。特殊なコネクタを使ってまで左右のリード線を完全に独立
させる意味が本当にあるのでしょうか?

 結論的に言えば、安定的に多量の帰還を掛けたハーフブリッジがパワーアンプとして一番優れて
いる事になります。バランスタイプに拘って余計なお金を使うより、WRのヘッドホンアンプを選択
された方がずっと正解に近づくと私は思っています。  

1549川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Nov 11 11:45:00 JST 2014
倉太郎さん、旧型プリWRC-ΔZERO/FBSEのアップグレードとご投稿ありがとうございます。

 旧型プリのアップグレードは、実はWR掲示板でもお名前が出ています増田さんから、何とかプリを
もう少し強力にできないものか、と言うリクエストがあって、一念発起2段差動化に踏み切った事で
実現したものです。

 増田さんはゴトーホーンの猛烈な愛用者で、その使い方は半端ではなく「リスニングルーム拝見」
の写真を見て頂いてもお分かりになると思います。増田さん曰く「ホーンシステムで本当に成功して
いる人は、日本広しと言えども殆ど居ないのではないか?」と仰っていました。それだけ、ホーンを
使ったマルチシステムは難しいと言う事でしょう。その増田さんがプリも重要なファクターを握って
いるとお考えになって、私に依頼されたのだと思います。オーディオは「プリに始まりプリで終わる」
とも仰っていました。勿論、増田さんは全てのパワーアンプの高帰還化を終えていらっしゃいます。

 2段差動自体は伝統的な回路であり、これまでもパワーアンプWRP-α1 に当初から用いて来ました
し、EQ基板やヘッドアンプにも重宝な回路として使ってきました。特長はプッシュプル回路である事
と原理的にドリフトが少ない事です。これにWRの特許回路を適用して高域補償を施すとほぼ理想的な
オーディオ回路に仕上がります。

 私の世代は貧乏性なところがって、最初からプリの送り出しに2段差動を適用して置けば良かった
のですが、当時はエミッタホロワを使用しない、負性抵抗を包含しない回路なら、例えシングル動作
でも大丈夫だと考えていたのです。事実、旧型プリでもそれなりの効果を齎している事は多くの方に
認めて頂いているところです。

 しかし、コレクタホロワ化、高帰還化と技術が進歩して音質がワンランク上がりますと、相対的に
プリの能力が低く感じられるようになったのだと思います。その事は私自身もΕC-1 の出来栄えから
薄々は感じ取っていました。ΕC-1 で聴いた後に旧型プリで聴くと明らかに聴き劣りがしたからです。

 そんな矢先、増田さんからのご要望があり、迷わず2段差動化に踏み切ったのでした。増田さんは
プリのレベルが高帰還化パワーアンプのレベルに追いついていない事を見抜かれたのです。唯、なる
べく大げさな改良工事にならないように工夫する必要があると思いました。特に、バランス型のプリ
には許される空きスペースは殆どありませんから、現状の基板を使うしかありません。そこで基板の
裏にトランジスタ、コンデンサー、抵抗を潜り込ませる方法を取ったのです。

 こうして何とか2段差動化に成功し、増田さんから「このプリを使ったらもう元に戻れません」と
言うお応えを頂いて自信になりました。早速、手持ちの旧型プリにも適用し、ΕC-1 とは音の傾向が
多少違うけれど、ランクは確実に上がり勝るとも劣らないと思ったのでした。この貴重な結果を眠ら
せて置くのは勿体ないと思い、正式なアップグレードとして今夏、告知させて頂きました。

 いの一番にアップグレードのお申し込みを頂いたのが「倉太郎」さんでした。倉太郎さんのお気持
ちの中にも「プリにもっと期待したい」と言うものがあったのではないかと思います。倉太郎さんも
プリの効果を大いに認められておられるからこその、アップグレードのお申し込みであったと思って
います。その結果今回のご報告のような大いなる改善があったと言う事だと思います。因みにお二方
とも、ゲインを0dB にして欲しいと言うご要望でした。正にプリも高帰還化ですが、WRの補償法なら
不安定さを招く事無く0dB 設定が可能です。0dB の世界は未知の世界でしたがもの凄いバッファ効果
があるように感じました。

 倉太郎さんは本物のバイロイトを実際にお聴きなっていらっしゃいますし、私以上にライブを重視
なさる方です。家に閉じ篭って独自の音を追求している方では決してありません。そしてその感激を
ご自宅で少しでも再現させたいと言う事だと思います。第一のポイントはクラシック愛好家なら殆ど
の人が憧れるであろう「弦楽器群の柔らか味」の自宅装置での再現です。

 弦楽合奏に、独特の浮遊して匂うような柔らかい音が存在する事を最初に教えてくれたのは、私が
尊敬する先輩でした。それ以前にも、ラ技の録音評価で故高城重躬氏が「エーテルが漂うような」と
言うような表現を使われていた事は知っていましたが、それが具体的にどんな音を指すかは分かって
いませんでした。

 先輩に言われた事もあって、生オケのコンサートに行くとそれらしき音があるかどうかに注目して
聴くようになり、徐々にこの音なのかな?と分かってきました。それからと言うものはコンサートに
行く度に「ああ、聴こえる・・・」と自分の装置では決して聴こえない音とのギャップに、がっかり
するようになりました。

 その期間は相当長く続く事になります。コンサートに行くと何時も落胆すると言う結果に終わって
いました。やっとWRアンプを開発する頃から、少しずつ、その擦れて粒子が空中に浮遊するような音
が我が家の装置からも聴こえるようになってきました。今では、100%とは勿論言えませんが、かなり
満足できる程度に再生できるようになっています。

 倉太郎さんは弦の魅力について「SEコンは弦楽合奏の音が素晴らしく、私が長年求めていた弦楽の
摩擦音、浮遊感そして弓と弦がつるっとすべる感じまで再現される」と仰って、「こんな音は今まで
聴いたどんな高いオーディオ装置でも聴いたことがありません。」とメールに書いて頂いております。
失礼ながら多分、WRアンプ以外のアンプをお使いの殆どの方は、この音を認識すらしていないのでは
ないかと思います。だとしたら、本当に勿体無い事です。

 何故そう思うかと言えば、この音は上質のオケのコンサートに足繁く通わないと、その存在に気付
かない事、他人が教えてくれて直ぐ具体的に理解できるような単純な音ではない事、帰還に失敗して
いるアンプでは、キリキリ、チリチリしたり、引き攣れたりして、この音の再生は望み薄になるから
です。

 弦とはまた違った別の難しさがあるのがピアノの再生です。先ずは異常音です。片耳の鼓膜が打鍵
の瞬間に圧迫されるような音です。この音にも悩まされ続けたのですが、これもWRアンプ誕生と共に
徐々に改善されてきました。これは、生の音にもその素があり、それが録音の位相ひずみで拡大され、
さらに再生装置の不安定さによって、もの凄い嫌な音になると言うのがその大まかなメカニズムだと
考えられます。従って、調律師、録音技師、再生アンプの3拍子が揃わないとこの異常音は克服でき
ません。WR掲示板でご紹介した事のある調律師岩崎 俊氏は、そのような調律ができる数少ない人だ
と思います。

 メジャーレーベルを含めて、またジャズも含めてこの異常音が出ないように録音されたものは殆ど
ないと思っています。よく聴くとどんなソースにも何処かに入っていて、片耳に異様な圧迫感を受け
ます。岩崎 俊氏が調律したピアノで沢田千秋がバッハを演奏し、息子が録音したソースにはこの音
は入っていません。曲にもよりますが、やればできるのです。

 ここまで書いて思い出したのですが、そう言えば倉太郎さん宅に伺った時にピアノの録音も聴いた
はずですが、この音に意識が行きませんでした。思うに、ゴトーホーンはピアノ再生に有利ですから
非常に軽微だったのでしょう。再生アンプのみでは決まらずに、やはり最終的にはスピーカー込みで
その再生音は決まってくるのだと思います。明らかにコーン型スピーカーはこの異常音には不利だと
思います。

 ピアノの音をそれらしく聴くには、この音を克服す事だけでは足りません。左手が篭らずに、低く
下方に伸びる事と、右手が粒立ち良くコロコロと転がる事です。トリルで一音一音を正確に区別して
聴ける事も重要です。一般に、バイオリンの音とピアノの音は両立し難いものです。装置の安定度が
良くなるに連れて、徐々にどちらも満足の行く程度に揃ってきます。

 倉太郎さんがモーツァルトP協でテストされたのは非常に理に叶っています。SEコンとセラミック
は得て不得手があり、一般に弦にはSEコン、ピアノにはセラミックが適しています。なので痛み分け
に終わったのでしょう。本当は両立するコンデンサーがあると良いのですが、今のところ残念ですが
それは望むべくもありません。我々が日頃楽しむ音楽はモーツァルトだけではありません。

 クラシックには大管弦楽があり、この場合は中低音に厚みと剛体感があって中高音の倍音が綺麗に
出る金管の音が要求されますが、これだけではバランスが取れません。本当の快感を実感する為には、
金管の音に拮抗するくらいの力強い芯のある弦楽の音が左手から聴こえてくる事が必要です。下手な
オケは弦が細くて弱く生でもバランスしないオケもあります。世界3大オケは勿論、その条件を満足
しています。日本のオケの中では日フィルは合格点を上げられるレベルにあり、私が定期に通う気に
なった一つの大事な要件でした。

 金管と打楽器だけに痺れているのは序の口です。ベートーベンなら否応なしに弦の音を認識します
が、チャイコフスキーの場合はどうでしょう。金管がバリバリ鳴って、打楽器がドスンドスンやって
いても、必ず弦楽器群もバランスが取れるように同時に鳴っているはずです。しかし、聴く耳を持た
ないとそれは聴こえて来ません。結果的に金管と打楽器に掻き消されてしまいます。作曲家は両者を
バランスさせているはずです。両者を均等に聴いてこそ、その曲の真価を味わえるのです。この事は
生オケでも再生音楽でも共通して言える事だと思います。そう言う私も若い頃、チャイコの曲に弦が
どんな風に活躍してるかなんて殆ど、いや全く気にしていませんでした。

 倉太郎さんは大管弦楽には圧倒的にセラミックが良いと仰っていますが全く同感です。だから私は
少なくてもパワーアンプとプリのラインアンプにSEコンを使うのを諦めたのでした。このレベルまで、
片や大型ホーンマルチ、片や小型ブクシェルフと違った環境ながら同一のオーディオ感を共有できる
方が現れて、私のこれまでの研究とWRアンプ開発の手法は間違っていなかったと改めて感じています。
この高度な次元で趣向が合致する事は単なる偶然ではなく、寧ろ物事の本質で一致した事を示唆して
いるのではないかと思います。

 WRアンプはこのレベルまで到達した事を、改めて皆様に告知させて頂きます。学会から見放されて
孤軍奮闘してきましたが、やっと私の考え方が正しかった事を半ば証明できたのではないかと思って
います。倉太郎さん始め、ユーザーの皆様が支えてくれたお陰だと改めて感謝申し上げる次第です。

 さて倉太郎さんは一番お好きなモーツァルトの弦楽五重奏曲をお聴きになって、一体どちらを選択
なさるのでしょうか?  

1548倉太郎さん(モーツァルトと一緒) Sat Nov 8 14:11:14 JST 2014
旧型プリのグレードアップ

今年6月にリスニングルームを紹介させていただいた倉太郎です。アンプは全てWR製ですが、
導入当時プリアンプはWRC-ΔZERO/FBSEでWRではいわゆる旧型アンプでした。今年8月になって、
旧型アンプのグレードアップをご提案いただいたので、早速お願いすることにしました。
そこでとても楽しい経験をさせていただきましたのでご報告させていただきます。


先ず、グレードアップの件をお話しする前に、前回システムの紹介から今日までシステム上
変わったところをお知らせしておきます。主なものは次の2点です。システムについては
当ホームページの”リスニングルーム拝見”No.13とWR掲示板1519を参照してください。

1.Mytek Dacに外部クロックとして、dCS社のPaganiniクロックを導入
2.全てのケーブルを主に銅とニッケルでできたチューブでシールドを施したこと


さてグレードアップの件ですが、私のシステムは強力な地中アースがベースになっていますので、
グレードアップ時に3P電源アース接続をお願いしました。グレードアップ済の貸出機をお借りした時は、
あまりにも素晴らしい改善に、小躍りして、川西様に次のような趣旨の報告をさせていただきました。

1.EC-1によって音にコクがでたといわれますが、今回のグレードアップはコクどころの話では
  ありません。その改善ぶりはワンランクもツーランクもアップしたように思います。
2.もともとオーディオは音楽鑑賞のためにあります。音楽鑑賞で一番の醍醐味は、音楽家の
  真摯な精神に触れることです。今回の進化の凄さは、オーディオにとって一番大事な、
  音楽家の精神をより身近に感じるための表現力をアップしたところにあるように思います。
3.聴衆が音楽家の心を感じ取ったとき、その間に音は存在しない、私はそんな瞬間があるように
  思います。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、音を意識しないようなオーディオ、WRアンプは
  そんな方向に進んでいるような気がします。

そんな進化をもう少し具体的に言いますと、

1.音の立ち上がりや消え方がソリッドである。
2.深く静かな背景に立ち上がる音は、一つ一つがクリアーに浮かび上がる。
3.音そのものも混濁感がなく澄んで美しい。
4.その結果、今まで気がつかなかった、演奏家の一音一音に対する思い入れをより身近に感じる。
5.そして、楽しい曲はより楽しく、悲しい曲はよりシリアスに感じる。

このようなグレードアップは我々ユーザーにとっては思いもよらぬボーナスのようなもので、
今後も改善点があればどんどん提案していただきたいと思います。生の音の魅力は奥が深いので、
オーディオもそれを目ざすのは自然のことと思います。


次に、もう一つ楽しい経験をさせていただいたのでご紹介しておきたいと思います。
それはSEコンデンサーとセラミックコンデンサーの違いです。

私の上記に記載したコメントはセラミックコンデンサーを使用した貸出機を聴いた時のものです。
私のアンプはWRC-ΔZERO/FBSEで、コンデンサーはSEコンデンサーを使用しています。
川西様にはセラミックコンデンサーに交換することも可能だというご案内を頂きましたので、
比較の結果を手短にご報告いたします。

1.コンデンサーが違うだけでも音は結構違うことに驚いた。
2.モーツアルトのピアノ協奏曲で聴いてみると、SEコンは弦楽合奏の音が素晴らしく、
  私が長年求めていた、弦楽の摩擦音、浮遊感そして弓と弦がつるっとすべる感じまで再現される。
  圧倒的にSEコン有利。
3.しかしピアノはセラミックコンデンサーが有利で、音の強靭さと輝きが素晴らしい、
  直後にSEコンを聴くとややくぐもった感じさえする。ここまではドローというところ。
  さて困った。
4.ワグナーのリエンチ序曲の大管弦楽で比較してみると、華々しい金管に対峙する強靭な
  弦楽の音が作曲家の強烈なカリスマ性を盛り上げるセラミックコンが圧倒的に有利。
  大きくセラミックコンに傾く。
5.後はSEコン有利と思われるモーツアルトの弦楽5重奏曲を聴いてみようと思う。

こんな自分オリジナルの音作りの過程に参画させていただけることは大変ありがたいことと
感謝しています。


最後になりますが、私がこだわった地中アースとノイズカットのために施したシールドが
新たなアースループの問題を引き起こしていたようで、プロテクションの誤動作が偶に起きました。
この問題の解消のために最後まで丁寧にご対応いただきました川西様に改めて感謝したいと思います。 

1547川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Nov 5 17:00:00 JST 2014
ヘッドホンアンプWRP-α9 のパワーTRが変わります。−−−その2

 前回はヘッドホンアンプWRP-α9 のパワーTRが変更された事をお伝えしましたが、今回はその
音質についてコメントしてみたいと思います。

 先ずこのヘッドホンアンプWRP-α9 は唯のヘッドホンアンプではなく、スピーカーを鳴らせる
パワーアンプの機能、パワーアンプを引き立てるプリアンプの機能そして高級ヘッドホンアンプ
の機能を有しています。3つの機能が小さなシャーシに収まっているスリー・イン・ワン方式の
ヘッドホンアンプなのです。

 潰しの利くアンプですからWRアンプ入門用として最適です。このアンプに飽き足らなくなった
ら、これをプリに回してE-10等をお買いになれば、一気にレベルアップが可能になります。特に
ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴く事に慣れていらっしゃる方にお勧めです。

 それでは、それぞれの機能がどの程度のものなのか、私が改めてテストして見ましたので報告
させて頂きます。ソースは何時も座右に置いてあるテストCDを使いました。プレーヤーはパイオ
ニアのマルチプレーヤーBDP-LX55、スピーカーは能率87dB/WのB&W805MATRIX、リスニングルーム
は8畳の洋間です。

 使用したCDソースを列挙します。(順不同)


 1.チャイコフスキー くるみ割り人形:ドラティ/コンセルトヘボウ管(PHCP-9359/60)

 2.パガニーニ V協1、2番:カントロフ/オーベルニュ室内管(COCO-70456)

 3.「煙が目にしみる」:パガニーニ・アンサンブル(COCO-70819)

 4.「未完成/イタリア」:シノーポリ/フィルハモニア管(445 514-2)

 5.マーラー交響曲第7番:アバド/シカゴ響(445-513-2)

 6.ベートーベン P協5番「皇帝」:バックハウス/ウィーンフィル(UCCD-7134)

 7.チャイコフスキー3大バレエ・ハイライツ:カラヤン/ウィーンフィル(KICC-9210)

 8.モーツァルト ディベルティメント KV287:アカデミー室内アンサンブル(412 740-2)

 9.TANGO BEST20:スタンリーブラックと彼の楽団(K30Y-4033)

 10. in the DIGITAL mood:The Glenn Miller Orchestra(VDP-1157)

 11.Farmers Market Barbecue:COUNT BASIE BIG BAND(J33J 20056)

 12.All About HAWAIIAN:バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ(TECD-252289)

 13.最新WRレコーディング:バイオリンソロ、バイオリンとピアノ、弦楽四重奏曲(CD-R)

以上ですが、これらのソースを聴くポイントを簡単に書き添えます。若干偏った選曲かも知れま
せんが、各種楽器(声楽を含む)を網羅するより、一つの楽器でダメなものは、それだけで失格
ですから、自分が聴き分けられる自信のある楽器を選ぶべきでしょう。WRアンプは、ある楽器で
突出した表現力を狙う事はありません。どのような楽器にも普遍的である必要がある、と考えて
います。


 1.序曲のバイオリン合奏が綺麗に抜けるか。

 2.冒頭のオケがどの程度綺麗に聴こえるか。(録音が余り良くない)

 3.1曲目のバイオリンが神経質にならないか、コンバスのピッチカートが深く沈み込むか。

 4.オケがどれだけ崩れずにバランス良く聴こえるか。

 5.複雑なオーケストレーションが綺麗に分離して聴こえるか。

 6.59年録音がどれだけ蘇るか。ピアノの音が綺麗に抜けるか。

 7.古い英デッカの名録音がどの程度蘇るか。

 8.ストバイの強奏が、どれだけ硬さを抑え潰れないで聴こえるか。

 9.ストリングスが煩くないか、中高域に偏らずに全体がバランス良く聴けるか。

 10.トランペット群のffが綺麗に抜けるか。中高域に偏らずにバランス良く聴けるか。

 11.トランペット群のffが綺麗に抜けるか。ピアノが綺麗に粒立つか。

 12.スチールギターが円やかに弾けるか。アコースティックギターの刻みが自然に聴こえるか。

 13.何も加工を施していない純粋な生録が、どの程度新鮮に聴こえるか。


 1.パワーアンプとしての評価

 何時も聴いているように、常設プリアンプであるEC-1の後に接続して聴いて見ました。音量は
敢えて何時も聴くレベルにしました。その理由は音量が変わると音質まで違ったように聴こえる
からです。比較試聴の場合は聴取レベルを合わせる事が肝要です。EC-1のボリウムの位置は時計
の1時の位置です。この時の音圧レベルはかなり高く、マンションなら確実にクレームの対象に
なる音量だと思います。

 尚、パワーアンプの前にプリアンプを置く場合は、パワーアンプのボリウムを最大にしプリで
音量を絞って使うのが原則です。

 私の耳にはE-120 相当アンプやE-10で聴いた印象が残っていました。従ってそれを基準にした
評価になりますから、ヘッドホンアンプに取っては多少不利になります。その事を考慮した上で
お読み頂ければ幸いです。

 実はヘッドホンアンプの音を久しく聴いていませんでした。開発した当初の印象しか、正直の
ところ記憶に残っていませんでした。それは、安定化電源付きアンプに比べて聴き易いけど少し
弱腰のところがある、と言う印象でした。当時は、パワーも3〜4W ですし非安定化電源方式です
から、この程度で仕方がないと思っていたのです。

 今回、その印象は余り、或いは殆ど感じませんでした。これは私に取っても意外な結果でした。
当初は完全コレクタホロワではなく、SEPPの片側にエミッタホロワが残っている準コンだった事
もあるのかも知れません。勿論、完全コレクタホロワ化した後も聴いたはずですが、その事には
余り気付かなかったのです。

 パワーも思った程ひ弱に聴こえません。ソース(未完成など)によってはピークでクリップして
いるのは分かるものの、音が大きく崩れたりせずあくまで全体の骨格は維持されています。即ち
一部が瞬時にクリップしていても、アンプとしては成り立っていて、殆ど実用に供せると言う事
です。勿論、ほんの少し絞れば問題は解決します。

 だから、3〜4W 丸々使えるアンプだと言う事ができます。普通、結構大きな音で聴いていても、
せいぜい2、3W だと言われている事を裏付けています。これを可能にしたのは、安定的に高帰還
を掛ける事ができる技術(2つの特許)があったからだと思います。

 帰還は、安定に掛ける事さえできれば良い事尽くめで、電源が変動する、電源インピーダンス
が高いと言う弱点もある程度は克服できると言う事ができます。それでも、深く沈み込む低音が
ほんの少しだけ軽く聴こます。これは致し方ないでしょう。同じに聴こえるのなら、安定化電源
付きのパワーアンプは必要ありません。

 結果的にこの音なら、E-10とブラインドで聴き比べをしてその違いを一体どれだけの人が言い
当てる事ができるだろうかと思います。これには TO-66にしたメリットも、もしかしたら生きて
いるのかも知れません。高域も中域も低域も少しずつ劣っている気はするのですが、それを聴き
分けるには、相当訓練された耳が必要だと思いました。安定化電源付きに比べて若干雑味が感じ
られると言ったら、お分かり頂けるかも知れません。

 その少しずつ違う音は何処から来るのかを考えて見ると、結局は電源インピーダンスの問題に
帰着するように思います。安定化電源の電源インピーダンスを測定した事がありますが、 10KHz
からは少しずつ上昇に転じるものの、直流域から10KHz 程度までは完全フラットになり、しかも
非安定化電源に比べて絶対値もかなり低くなります。

 この事は「概略可聴帯域で均質な音質を保持できる」と言う事を示唆しています。逆に言えば、
このヘッドホンアンプについて言えば、音の均質感、透明感、伸び、厚みなどの観点で少しだけ、
安定化電源方式に比べて落ちるのかな?、と言う風に感じました。高帰還技術だけでは救えない
問題もあると言う事です。或いは、もっと帰還を掛けないと安定化電源方式には追い付かないと
言えるのかも知れません。安定化電源の効用は電源電圧が変動するような音の大きな所以外にも、
実はあるのだと言う事を、今更ながら確認した事になります。

 以上から結論的に言える事は、低能率のスピーカーを大きな部屋で鳴らさない限り、また凄い
識別能力のある聴力をもった人でない限り、このヘッドホンアンプはパワーアンプとして十分に
使えると言う事だと思います。

 少し長くなりましたので、プリアンプとして、ヘッドアンプとして使用した場合のコメントは
次回に繰り下げさせて頂く事にします。ご期待下さい。  

1546川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Oct 31 21:00:00 JST 2014
ヘッドホンアンプWRP-α9 のパワーTRが変わります。−−−その1

 WRアンプに使われているパワーTRは例外なくEMe 型構造のものです。WRアンプを発売する
以前は、まだパワーTRによって音が違う事を認識していませんでしたので、当時、標準的に
使われていたTMe 型構造のものを使用していました。しかし、徐々に部品に依る音の違いに
気付くようになり、パワーTRについても検討する気になっていました。

 最初はコンデンサーによる音の違いが気になりだしてSEコンに辿り着くのですが、パワー
TRによって大きく音が変わる事も体験しました。それまで使っていたTMe 型に代えて有名な
EMe 型パワーTRである 2SD188/2SA627を使ったところ、音楽を聴くのには凄く良いと感じた
のです。音楽が楽しく聴けて変な音が出難いと言う事です。

 今や 2SD188/2SA627は貴重品でペアーで\5,000が相場のようですが、私の記憶では秋葉原
で最初に購入した時の金額はペアーで\700でした。真空管にはもっと高いものがありました
から、発売当初は決して高級品では無かったのです。しかし、オーディオメーカーも最初は
この石を使ったところが多かったと思います。ソニーのアンプにも、このコンプリを載せた
ものが確か有ったと記憶しています。

 2SD188/2SA627 の良さに気付いてからは、WRアンプにはEMe 型を使う決心をしたのですが、
この石だけに頼るのは心許無いと思い、他社のEMe も含めて可能性のあるパワーTRを探した
のです。しかし、EMe 型パワーTRの生産はとっくに終了していましたので、実際に入手する
事はかなり難しい作業でした。あちらこちらの半導体店を探し回り、やっと数種類のEMe を
確保する事ができました。確保とは少なくても50個単位で買える事が条件でした。5、6個
では売り物は作れないからです。

 購入したパワーTRは、全てパワーアンプに組み込んで実際に試聴を行い、同質の音が得ら
れる事を確認し、世間で評価の高い2SD188/2SA627 は氷山の一角で、これに拘る必要は全く
ないと確信しました。2SD188/2SA627 が偶々良かったのではなく、其処には、EMe 型と言う
構造上の本質的な問題があるのだと私は考えました。

 EMe 型が良い理由は構造上、軸が綺麗に揃うように結晶を成長させて作るので、不純物が
少なく高周波特性の良いものができるとされています。しかし、歩留まりが悪く堅牢さにも
欠けるところがあり、拡散技術を使って結晶を作る丈夫な構造のTMe 型に取って代わられた
と言われています。オーディオ全盛期のパワーTRにはこのTMe 型が使われていたと言っても
よいと思います。その代表例は、SANKEN製の2SC1116/2SA747でしょう。当時、既にメーカー
からはEMe 型パワーTRは見捨てられていたのです。

 多分、オーディオメーカーは音質より安全にハイパワーが取り出せるTMe 型のパワーTRを
選んだのでしょう。その後は、高ftの時代に入り色々なパワーTRが作られるのですが、結局
メーカーもTMe 型を諦めMOS-FET に軸足を移して行きました。MOS-FET は構造上高入力容量
になり、それが独特の中高域の艶(癖?)を生んだと言われています。WRでも、テスト的に
HC-MOSを使った準コン型アンプを作った事があり、このタイプは結構使えると思いましたが、
適当なコンプリが余りなく二の足を踏んだ記憶があります。

 例外的には、日立の有名なMOS-FET のモールドタイプでドレインホロワ型パワーアンプを
お作りした事もあり、EMe 型が無くなれば、HC-MOSのコンプリを探してドレインホロワ型の
高帰還パワーアンプを作っても良いかも知れない、と考えています。HC-MOSはデジアン用に
開発されたようですので、この先もずっと製造されるであろう、と言うメリットがあります。

 それでは、入手したEMe 型パワーTRとそれが使われているWRアンプ名を対照して示す事に
します。尚、これは標準的な使用法であり、当然例外がある事をお断りして置きます。


 1.サンヨー : 2SD732/2SB696(TO-3)   → E-120等ハイパワーアンプに2パラで使用
                           E-50の安定化電源に使用

 2.NEC      : 2SD188/2SA627(TO-3)   → E-50のパワーアンプに使用
                       旧型パワーアンプWRP-α1、ΔZEROに使用
                       旧型パワーアンプの安定化電源に使用

 3.NEC       : 2SD180/2SA626(TO-3)   → E-50のパワーアンプに使用
                       E-50の安定化電源に使用
                       旧型パワーアンプWRP-α1、ΔZEROに使用
                       旧型パワーアンプの安定化電源に使用

 4.NEC      : 2SD73/2SB506(TO-3)   → E-30のパワーアンプに使用
                    (電電公社認定品)         E-30の安定化電源に使用
                        現在E-10のパワーアンプに使用                      

 5.松下     : 2SD731/2SB695(TO-3P)  → 当初、E-10のパワーアンプに使用
            (在庫切れ)          当初、WRP-α9(ヘッドホンアンプ)に使用

 6.松下     : 2SD751/2SB713(TO-3P)  → E-120、E-50の安定化電源に使用
         (古いタイプのもの)    旧型パワーアンプの安定化電源に使用
                       E-120等ハイパワーアンプに2パラで使用可

 7.NEC      : 2SD255/2SB550(TO-66)  → 現在、E-10の安定化電源に使用
                        EC-1の送り出しアンプに使用
                       旧型プリの安定化電源に使用

 8.NEC/SANKEN: 2SD155/2SA764(TO-66)  → WRP-α9 に新たに使用予定(当HP写真参照)

 9.SANKEN  : 2SC1777/2SA807(TO-3)  → 2SD73/2SB506と互換性有り(予備)

 10.NEC/SANKEN: 2SC1237/2SA957(TO-220)→ 当初、E-10の安定化電源に使用
                       旧型プリの安定化電源に使用
                       マイクプリ等の安定化電源に使用

 以上の表の中にはメーカー指定のコンプリではないものもありますが、長年の経験から見て
コンプリとして使っても全く問題ないと考えています。またこの他にも有りますが、数が多く
ないので臨時的にしか使えない状況です。

 この表を見てお気付きかと思いますが、日立にはEMe は全く無く、東芝にも良いものが余り
ありません。ソニーは一時作っていましたが、いち早く製造を中止していて殆ど入手不可です。
やはり、2SD188/2SA627 を作ったNEC が一番EMe には力を入れたように思います。この他にも
2SD218/2SA649 等何種類かのコンプリを作っていました。これに次ぐのが松下とSANKENおよび
サンヨーです。

 本題に入りますが、当初ヘッドホンアンプのパワーTRには5番を使っていましたが、在庫が
切れましたので、急遽8番に切り替え実験を継続中です。ヘッドホンアンプは小型に作る必要
がありますからTO-3型は使用できませんし、ミニパワー(4W程度)の為、TO-66 で十分賄える
と判断した訳です。

 またTO-66 は小型キャンタイプで、超有名なものに2SC1161/2SA653があり未だに人気があり
ますが、残念ながら、2SC1161 の方はEMe 型ではないようです。このように一方がEMe でない
コンプリが世の中には存在します。SANKENの2SC1584/2SA907は、前者がTMe です。SANKENには
このような組み合わせが他にもあります。コンプリの条件に、TRの構造が二の次にされた事も
あったようです。ちょっと意外なのですが、EMe 型はPNP よりNPN の方が作るのが難しかった
ようです。

 普通、パワーアンプはアンプ基板とパワーTRは別に取り付けます。パワーTRを放熱器に取り
付ける必要があるからです。ヘッドホンアンプの場合はそのスペースがありませんからアンプ
基板に直接パワーTRを取り付け、パワーTRにアルミ板を共締めして放熱効果を狙っています。

 その点、TO-3P 型はフランジの穴にアルミ板を共締めするだけで容易に目的を達成できます
ますので、当初はTO-3Pを使った訳です。TO-66 型はアルミ板に直径4mmの穴を4つ空ける必要
があり、専用取り付け具も必要になり面倒ですが、今となっては背に腹は代えられません。唯、
TO-66 の方がペレットが小さいのでヘッドホンアンプには寧ろ向いているかも知れません。
 
 意を決してアルミ板をTO-66 の縦寸法に合わせて切断し、4mm の穴をずれないように正確に
空けて、先ずTO-66 を取り付けました。コレクタにはラグ端子を共締めし、直角に折り曲げて、
エミッタ、ベース、そしてそのラグ端子に1mm の銅線を半田付けして、コレクタの2つの穴を
結ぶ方向にその3本の銅線を伸ばしておきます。

 この3本の銅線を、アンプ基板に垂直にパワーTR用の3つの穴に正しく差し込み半田付けを
します。この時アルミ板を背負ったTO-66 はアンプ基板に垂直に取り付けられる事になります。
1mm の銅線3本で半田付けされるので、TO-66 はかなり堅固に固定されます。これで結果的に
TO-3P にアルミ板を取り付けた場合と殆ど同じスペースに、TO-66 を取り付ける事ができます。

 尚、このTO-66 の取り付け方法の基本は、既にEC-1の送り出しアンプで実は経験済みだった
のです。EC-1はプリですから放熱板は不要で裸のまま取り付けていますが、取り付け方自体は
今回の方法と同じで、大きな違いはありません。

 斯くして、新生ヘッドホンアンプを作る事ができるようになりました。現在、放熱の問題や
音の問題をチェックする為にエージング中です。次回は実際に聴いた感じについてご報告する
予定です。ご期待下さい。


注)左フレーム内にある「WestRiver Topics」に写真を掲載してあります。ご参照下さい。  

1545川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Oct 26 17:00:00 JST 2014
日フィル10月定期を聴く

 今月は、日フィルを一躍実力オケに導いた首席指揮者ラザレフの登場です。現在、ショスタコ・
チクルスが継続中で、今月は何かと問題のあった交響曲第4番(タコ4)です。前プロはチャイコの
弦楽セレナード(弦セレ)でした。

 弦セレはどちらかと言えば室内楽的なイメージがありますが、今回はモーツァルトの交響曲など
の弦5部より遥かに大きな編成で、ロマン派の一般的な2管編成程度のボリューム感がありました。
その上ラザレフの熱い指揮もあり、質量ともにもの凄いスケール感のある弦セレでした。スーパー
ストリングスと言っても過言ではないでしょう。海外オケ並みのパワー感を感じました。唯、弦楽
奏者の方々は、かなり扱かれた事と思います。

 「ドレミファソラシド」と言う分り易い導入部で曲が始まりますが、多分弦の難易度は相当高い
のではないかと思います。音程が細かく上下する早いパッセージが結構ありますし、朗々と聴かせ
なければならない部分もあります。チャイコらしくメロディーに富み、第1楽章から最後まで何処
を取っても魅力的な曲だと思いますが、少々エキセントリックな感じにさえ聴こえるところもあり、
それがロシアの伝統なのかも知れないと思います。

 次に演奏された「タコ4」はその典型例だと思いますが、極寒の地ならではの音楽なのかも知れ
ません。「タコ4」はそれにイデオロギーの問題が複雑に絡んで来ますから、さらにその度合いが
増すように思いますが、帝政ロシア時代にも似たような状況はあったのかも知れません。

 確かに凄かったけれど、本当にこの曲を楽しめたのかと言えば少々疑問符がつくように思います。
圧倒されて気が付いたら終わっていたと言う感じでした。ゆっくり音楽に酔う暇がなかったという
風にも言えるかも知れません。そう感じてしまうのは、そのエネルギーを受け止めきれない年齢に
私がなってしまったと言う事なのでしょうか。

 私は弦セレは長い間レッパード/イギリス室内管のLP(X-7685)で聴いていましたが、CDに切り
替わる頃そのCDを幾ら探しても見つからず、とうとう痺れを切らしてデービス/バイエルン放送響
のCD(442 402-2)で代用したのでしたが、結局、長続きせずに現在に至っています。今日、LP棚を
探して見たのですが、その貴重なLPが見つからず非常に残念です。LPをしょっちゅう聴いていた頃
は、あのLPはあの棚のあの辺とか、そのLPを想像しただけでどの辺りにあるか直ぐにピンと来たの
ですが、最近はLPから遠ざかっているので、すっかり勘が鈍っています。CDの方は発売されたよう
ですが、今は廃盤で入手不可のようで何とか手に入れたいものです。このソースは演奏・録音共に
良好で私がイギリス室内管とレッパードを見直した盤だったのです。裏面のドボルザークも非常に
良い出来です。

 15分の休憩後は覚悟を決めて聴かなければならない「タコ4」です。覚悟とは凄まじい音の洪水
に圧倒されるであろうからです。家を出る時からその気でいたのですが、ホール入り口で何時もの
ように団員の方に挨拶すると「今日は凄いですよ!」と言う言葉がすぐさま返ってきたので、念を
押されたようで、やはりと思ったのです。

 タコ4が作曲された当時ショスタコは当局から睨まれており、タコ4の初演を断念せざるを得な
かったと言われています。それを飛び越え、ある意味迎合して作曲した「タコ5」を出版する事で
からくも面目を保っていたようです。初演の機会を逸したあと、相当長い期間、この曲は葬られて
いました。この曲の初演はずっと後の戦後になります。それは1961年と言われていますから、四半
世紀の間お蔵入りになっていたのです。

 それだけこの曲は刺激的な内容を含んでいた事になります。私の解釈ですが、当時の圧政を象徴
する音の表現だったに違いありません。ショスタコの気持ちを100%ぶつけた作品だったのでしょう。
初演を敢行しようとリハーサルまでやったそうですが、身の危険を感じて総譜を回収して何も無か
った事にしたのでした。

 曲はのっけから全開で、ショスタコの面目躍如たる音が体を圧倒します。最初はオーディオ的に
いい音だと思ったのですが、それも束の間徐々に神経が逆撫でされてきます。オケは拡大4管編成
で、例えばフルート4本にピッコロが2本加わります。ストバイも2プル増えていました。ショス
タコが好んで用いるピッコロが2本重なって耳に刺激的に響きます。バスクラ、グロッケンと言う
ショスタコ好みの楽器が活躍します。音量が大きいだけでなく、曲想に支離滅裂なところがあって、
それが余計に気に障るのです。

 ホルン8本が咆哮し、トロンボーンと2本のチューバが強奏で唸ります。ティンパニーが2組も
あって強打が連続し、それにシンバルがこれ以上無理と言う程の力で打ち鳴らされ、もう頭の中が
飽和してきます。早々に私の前の席の中年の女性が気分が悪くなり退席して行きました。私も沈没
を恐れて左耳に指を入れ、適当に減圧して聴いたりしました。これまでで一番大きな音を体感した
と思います。その意味でも恐ろしい曲です。オーディオ装置で再生できるのか、いやその前に録音
できるのかと思いました。(当夜は録音されていたので結果は兎も角、何時か発売されるかも知れ
ません。)

 その音が25分も続いたのです。スケルツォ的な第2楽章で少し落ち着きましたが、それも10分程
で終わり、最終楽章に突入しました。この曲には心に残るような美しいメロディーは殆ど無く、唯
強烈な音が連続すると言う印象でした。最終楽章は4本のファゴットが特徴的で、マーラーを意識
したのか2台のハープが合いの手を入れ、その対照は面白いと思いました。最終楽章も第1楽章に
劣らず強烈な音響が20分程続きましたが、最終部になると大きな音は止み、初めてと言ってもよい
ような静寂が訪れました。

 これは罪滅ぼしの音楽だと思いました。ここまで我慢した聴衆にショスタコはご褒美を提供した
のだと思いました。弦も優しい弱奏に変わり、全てが打って変わって美しい音楽と化したのでした。
疑り深い私は、どんでん返しがあって又強圧的な音が蘇って曲を締めくくるかも知れないと予防線
を張ったのですが、見事に裏切られ、時たま美しいチェレスタが絡むゆったり静かな曲想で徐々に
心が洗われて行く想いがしました。

 ppp の音楽が微かに持続して、もう終焉も時間の問題だと感じたのですが、ラザレフの手が下り
ません。弦楽奏者も弦に弓を当てたまま静止しています。沈黙は1分以上は優にあったと思います。
これも初めての経験でした。定期のお客さんは心得たもので、本物の静寂が続いたのです。シーン
としたホールに千人を超す人が居るとは思えない程でした。

 やっとラザレフの腕が下り、待ち切れなかった人が少しフライング気味に拍手をし始めてしまい
ましたが、まずまず日本の聴衆も成長したと思いました。本当はもう少しゆっくりと拍手を始めて
欲しかったと思いました。ラザレフに真っ先に立たされたのはトロンボーンのトップだったと思い
ます。前のトップも上手いと思っていましたが、今度の若いトップも中々良いと思います。

 活躍した団員が次から次に立たされて大きな拍手で労われていました。ラザレフに拍手が向かう
と「俺じゃない、オケだよ!」と言わんばかりに、両手の親指を立ててオケの方を強く指し示すの
でした。確かにラザレフの要求に此処まで応えたのですから、日フィルも大したものだと思います。
貴方も好学の為に「タコ4」を一度実演で聴いてみませんか?

 もし、昔の独グラモフォンクラスのエンジニアが成功裏に録音できたとしたら、WRアンプでこの
音はかなりの確度で再現できるかも知れないと、密かに考えながら帰路に着いたのでした。  

1544川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Oct 19 01:00:00 JST 2014
ベートーベンの弦楽四重奏曲は如何ですか?

 先日、府中の森のウィーンホールで某カルテットのセッション録りがありました。曲はベートーベン
の弦楽四重奏曲第10番「ハープ」で、中期の名曲の一つです。このところべートーベンの弦楽四重奏曲
から遠ざかっていましたので、久しぶりに充実した中期の名曲を聴いてやはり弦楽四重奏曲はいいなと
思ったのです。

 弦楽四重奏曲は室内楽の基礎をなすもので重要なレパートリーのはずですが、必ずしもオーディオに
向いているとは言い難い楽器バランスです。バイオリンがキーキー、チーチー泣き叫ぶのに、中低域の
厚みが感じられず、音としては最悪になる可能性が高いのです。弦楽四重奏曲が、充実して楽しめれば
オーディオ装置としては合格と言えるでしょう。

 昔、もう亡くなりましたが私の良き相談相手だった先輩がロイスマンのバイオリンがチリチリいって
とても楽しめないとよく嘆いていました。ロイスマンとは、当時CBS から発売されていたブタペスト盤
のストバイ奏者の事です。確か、ダイアモンドシリーズ(10吋LP)でも発売されていて、ラズモフスキー
第3番が裏表に入っていたように記憶しています。(もしかしたら思い違いで、第3番とセリオーソが
カップリングされた12吋LPだったかも知れません)

 まだ院生だった頃に、研究室の技能員の方がそのLPを研究室のプレーヤーと自作のアンプで聴かれて
いたのを思い出します。その光景が鮮明に焼きついているところ見るとある意味ショッキングな出来事
だったのかも知れません。管弦楽や交響曲ばかりを聴いていた自分に取って、ラズモフスキーを聴く事
は有り得なかったのでしょう。何でこんな曲を真剣に聴いているのかと思ったのかも知れません。

 唯ラズモフスキーと言う言葉は、高校生の頃に手製の鉱石ラジオで寝ながら聴いたラジオ東京のクラ
シック音楽番組で、山根銀二が弟子の門馬直美を相手に偉そうに解説していた時に、既に聞いて知って
いました。当時有名だった四重奏団はバリリだったと思います。現今は、そう言う威厳のある解説者が
皆無なので、逆に寂しさを感じます。評論家たる者はオーディオを含めて商業主義から独立して、自分
の信念に基づいた評論をして欲しいものです。その最たる人物はラ技でお馴染みだった故西条卓夫氏で
しょう。ある新進の四重奏団がベートーベンの後期を出したのですが、「大体、曲に位負けしている!」
との一言で片付けていました。

 ところでベートーベンの弦楽四重奏曲は全部で16曲あります。初期の作品18に6曲、中期に5曲、耳
が不自由になった後期に5曲書いています。中期にはラズモフスキーの第1番から第3番の3曲があり、
それにハープとセリオーソが加わります。後期には作品127、作品130、作品131、作品132、作品135 の
5曲があり、現在は作品130 の旧第4楽章としての「大フーガ」作品133 が別に添えられているケース
が殆どです。ベートーベンは後になって作品130 の最終楽章を書き換えたのです。

 私が自分からベートーベンの弦楽四重奏曲を購入したのは、VOX 盤のレーベングート弦楽四重奏団の
LPだったと思います。多分、デパートのバーゲンセールで売っていたので買い易かったから手を出した
のだと思います。それに先輩と話を合わせたかったと言う事もあったと思います。しかしそれが意外に
楽しめたのですが、その時買ったのが確か「ハープ」だったような気がします。タイトルが付いていて
分り易いと思ったのかも知れません。第1楽章にハープを奏でているような顕著なピッチカートがあり、
それが「ハープ」と言うタイトルに結びついたのでしょう。

 実は、それ以来「ハープ」は殆ど聴いていなかったのです。中期を聴く時はラズモフスキー第1番が
多く、次いで3番、セリオーソまでは聴いたのですが、何故かハープは聴かなかったのです。自分の中
でハープは卒業したとでも思っていたのでしょうか。

 中期を聴きたいと思い出した頃は、もう音にも目覚めていて、なるべくいい音の演奏団体を買いたい
と思いました。ブタペスト盤は先ず敬遠しました。アルバンベルグもEMI で冴えませんし、スメタナは
デノン系で買い慣れていませんし、当時フィリップのLPが気に入っていたので、フィリップス盤に狙い
を定めました。本来なら英デッかにもそのような弦楽四重奏団が有っても良いのですが、何故かデッカ
は系統的に弦楽四重奏曲を出し続ける事がなかったように思います。

 そうなると必然的に浮かんだのがイタリア弦楽四重奏団でした。特に中期はフィリップスの一番良い
時期(70年初頭)に録音されています。イタリア人のベートーベンはどうなの?と言う声もありますが
私は何より録音の出来栄えを優先しました。後期ならば、独グラモフォンのラサール盤も良いのですが、
(後期の全集は購入済み)中期は音を考えればイタリア盤(LP:SFX-9579-81、CD:PHCP-9223〜4)の右に
出るものはないと思います。

 このLPは、先輩が我が家に来る時には結構聴いて貰いました。音も含めて先輩からはケチを付けられ
ませんでした。アルバンベルク盤を買ったしまった先輩の耳には、遥かにいい音に聴こえたからに違い
ありません。その当時の自分は、演奏も音も含めて先輩の言葉を信じ一喜一憂するところがありました。

 それ以降もラズモフスキーの1番、3番は偶に聴いてきましたが、2番とハープは殆どパスしていま
した。それが行き成りライブで久し振りに聴く事になったのでした。録音の時は、モニター用にQUADの
LITEを持って行って、WRアンプ(今回はWRP-ΔZERO/BALの高帰還化版)で聴いていますが、ライブの音
も、モニターの音もベートーベンの弦楽四重奏曲に再び火を点けるには十分なプレゼンスでした。

 誰も居ない、中央数列目の客席で聴いてみました。考えて見れば贅沢な話です。自分の為に演奏して
くれている訳ではないけれど、結果的にはそう言う事になります。これは録音アシスタントの役得です。
丁度その時は、途中で演奏を止める事無く最後まで流していた時でしたので、音楽鑑賞には持って来い
でした。この感覚が録音でどうなるのか、その基準を頭に叩き込んだつもりです。

 一方、舞台裏のモニターの音も何回となく聴き込みました。QUADのLITEですから中低音のボリューム
感は知れていますが、それでもバイオリンが浮いてしまうようなバランスにはならずに、弦楽四重奏曲
の体を成していました。バイオリンとチェロが左右に別れ、中央からセコバイとビオラの内声部が聴こ
えてきます。弦楽四重奏曲は4つの楽器が渾然一体となって面で押してくる充実感が必要であると共に、
1つ1つの楽器の動きが分かる分解能も必要です。やはり、相反するような音を再生できる能力が必要
なのです。

 それに何より必要な事は、弦を弱く弾いた時に出る独特のフワッとするような、柔らかな擦れる音が
聴こえる事です。ベートーベンの弦楽四重奏曲からこの魅力的な音がふんだんに聴こえてきます。この
音があるから、ベートーベンの緩徐楽章は魅力的に聴こえるのではないかとさえ思える程です。一方で、
ベートーベンらしい力強いテュッティが凄いダイナミズムで突き抜けます。この対比は本当に見事です。
モニター音はそれを見事に具現化していました。それにスケルツォ的なリズミカルな音形が彩りを添え、
一度虜になると容易には抜け出せないのが、ベートーベンの中期なのです。

 今日は久し振りに「ハープ」を上記のCDで聴いて見ました。録音の時に聴いた感覚とは多少のずれは
ありましたが、基本的には演奏上の大きな違和感はありませんでした。ただし、このハープは録音年代
が71年で少しだけ古さを感じました。多少の位相ひずみがあるように感じたのです。モニター音の方が
当然ながら遥かに新鮮な良さがありました。40年以上も前の録音ですから仕方ありません。

 念の為、このCDの1〜4トラックに入っているラズモフスキー2番を聴いて見ました。こちらは73年の
録音ですから少しは有利のはずだと思ったのです。それと、ラズモフスキーの中では2番は余り聴いて
来なかったので、どう言う曲だったか久し振りに確認したかったのです。3曲の中で一番暗く渋いので
多少敬遠していたのです。

 今聴いて見るとこの曲も中々の名曲で、ラズモフスキー1、3番と共に、それぞれ別の特長をもった
素晴らしい曲である事を改めて感じたのです。ベートーベンは凄いの一語で、これだけ納得させられる
作曲家は他に居ないと思いました。それにこの2番はハープよりずっといい音で録れています。2年の
差ですが、73〜74年の2年間のフィリップス録音は本当に良いと思います。他社レーベルは、明らかに
この音のレベルでは録れていません。今回のWR録音は当然、この上のレベルを狙っています。WRアンプ
は室内楽再生にも十分耐え得ると思いました。  

1543川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Oct 12 17:00:00 JST 2014
オーディオアンプの音はどうあるべきなのか?

 「このアンプの音は良い」とか「このアンプの音は華やか」とか「このアンプの音は爽やか」とか
色々言われますが、これと言って決め手がないのが実情のようです。形容詞の数くらい言い方がある
と言っても過言ではないくらい、オーディオアンプの音は多様です。

 WRアンプの音はどう言う音ですか? と聴かれて言葉に窮する事がありますが、最近、ユーザーの
方々の証言を色々お聞きしていて、少しだけ見えてきた事があります。此処では、オーディオアンプ
からどう言う音が出て来れば正解なのか、少し考えて見たいと思います。

 先ずいい意味でも悪い意味でも、強烈な印象を与えるアンプは落第だと言う事です。理由はアンプ
は本来色を持ってはならず、唯、入ってきた信号を正しく増幅してスピーカーを素直に鳴らせば良い
からです。つまり、「アンプで音を良くする」と言う事は原理的には有り得ないのです。高忠実度と
言う意味は、そう言う事であって、あたかも音を良くする部品とか、ケーブルとかがあるような錯覚
に陥っている人が実は多いのではないでしょうか? あるいはそう思わせるビジネスに毒されている
人が多い、と言えるのかも知れません。

 世の中のオーディオアンプの殆どは何らかの特徴的な音がして、それがセールスポイントになって
いる場合が多いと思います。そのセールスポイントに一時的に惚れ込んで、衝動的に買ってしまう事
が多いように思います。勿論、それ以前のアンプもあり、誰が聴いても煩い、硬い、ひずみっぽいと
感じてしまう全くダメなアンプも数多くあるはずですから、それからすれば、まだ益しだとは言える
でしょう。

 従来型の帰還アンプは負性抵抗を消し切れていないので、多かれ少なかれ不安定性が残っています。
そうしますと、部品が本来の目的以外の形で作用する事が起き易くなります。例えば、コンデンサー
は高周波等価回路によれば、静電容量以外に僅かなインダクタンスと抵抗を直列に含みます。周波数
が高くなりますと、実体はコンデンサーでも内実はインダクタンスとして動作するような事も起きて
きます。

 アンプが安定であればこのインダクタンスは何ら悪さをしませんが、アンプが不安定ですと、この
インダクタンスが何処かの容量と共振回路を形成し、悪さをし出す事があります。悪さとは、例えば
増幅素子とこの共振回路が発振回路を形成してしまう事です。発振回路ができれば其処に負性抵抗が
必然的に生じる事になり、元々あったオーバーオールの帰還による本質的な負性抵抗と微妙に相関し、
アンプの音に相当の変化を与え音が派手になったり、硬くなったり、ひずみっぽくなったりする原因
になり得るのです。

 旧型WRアンプに三種の神器が必要であったのは、この事の裏返しと言えるかも知れません。今でも
フィルムコンだけは何でも良いと言う訳ではありませんので、まだ問題が完全に払拭できたとは言い
切れないのかも知れませんが、大方の部品は許容できるようになりました。だからΕシリーズに移行
して、音質向上とコストダウンに成功できたのです。

 それでは、入力信号を正確に増幅し素直にスピーカーを鳴らすと、どのような聴こえ方をするので
しょうか? 

 どうも確からしい事は、直ぐに特徴を言い出せないのが正解のようなのです。簡単に「高音が綺麗」
「低音が伸びる」「音が華やかな」「メリハリがある」「解像度が凄い」のような感想が一元的には
言えないのが実は正しいのだと、最近、思うようになってきました。アンプの特徴が直ぐ分かるよう
ではまだまだと言う事です。それは、アンプに強烈な特徴が出ていて、本来のアンプの領分を越えて
おり、入力信号に余計な色付けをし、いずれはその特徴に飽きてくる可能性が大きくなると思うから
です。例えば、どんな音楽を聴いても、「爽やか」とか「華やか」とか「高分解能」などが常に付き
纏っていては、良し悪しと言うものです。音楽はそう単純に割り切れるものではありません。

 では、本当に正しいアンプの音を聴くと一体どうなるのかを説明したいと思います。オーディオ的
に何が良いのか何処が優れているのか、それを探そうと聴いている内に何時の間にか音の事を忘れて、
眼前で奏でられている音楽に聴き入ってしまっている自分を発見する、これがどうやら正解のようだ
と思われます。音楽はオーディオに優先しなければならないのです。これまでのオーディオは嫌でも
何処かで音の事が気になってしまい、音楽を楽しもうにも楽しめなかったと言うのが実情ではないで
しょうか。

 WRユーザーの方の中にこれと似た経験をされた方は少なくても2、3人居られ、気が付いて見ると
CDを一気に終わりまで聴いていた、と皆さん仰っていました。CDを途中でイジェクトするのは、音楽
に飽きたと言うよりは音に問題がある時ではないでしょうか。音の事を忘れ目の前で奏でられている
音楽に自然に没入してしまう事こそ、本物の音の証拠ではないかと最近思うようになりました。

 少し前に、オーディオアンプは柔らかい音も剛性感のある音も、同時に再生できなくてはダメだと
申しましたが、これが具現化され、理想的な再生音に近づいて来ますと、音の事が気にならなくなり、
最早オーディオ装置の存在を忘れてしまうと言う事になるようです。そう言う私も、最近は音の事を
余り考えなくなり、気が付いて見ると音楽を楽しんで聴いている事が多くなって来ました。これでは
アンプ屋としては失格だとは思うのですが、この心理状態は如何ともし難いのです。

 最新のΕシリーズのプリとパワーアンプを組み合わせて頂くか、旧型WRアンプのアップグレードを
全て行って頂くかすれば、そこそこのCDプレーヤー(10万円程度)とスピーカー(片側数万円程度?)
を使う事で、この感じを享受して頂けるものと思っております。

 何れにしても以上の事は、オーディオを音楽を聴く為の一手段だとお考えになる事が前提ですから、
音そのものを聴く為にオーディオをやっている方は、この限りではないと思います。  

1542川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Oct 6 14:00:00 JST 2014
オーディオは複雑で難しいホビー?

 音楽好きな者に取っては、オーディオはこれ以上にない魅力的なホビーである事は間違いあり
ませんが、その難しさはホビーの中でも最右翼ではないでしょうか? 何故こんなにも難しいの
かを少し考えて見ようと思います。

 1.オーディオには科学が容易に入り込めない問題がある。

 2.人間の感覚は、人それぞれである。

 3.音楽が何処まで好きか個人差があり過ぎる。

 先ずこの上2つが大きな問題です。オーディオに用いるアンプ(増幅器)は本来は「電子回路
学」で扱えるはずですが、最終的な価値判断が耳で行われる為、必ずしも電子回路学で割り切る
事ができません。耳で行われる価値判断も、人の好みが入り込む為一様ではなく非常に複雑です。

 つまり1と2は当然ながら相関があります。この折り合いが実は問題なのですが、オーディオ
を扱うべき学会が実質的に「オーディオ」を見放した事からも、その深刻さが分かります。私が
院生の頃は学会の重鎮にオーディオを理解する方が居られ、口頭発表会場でも熱い議論が行われ
ていたのですが、日本音響学会、電子情報通信学会とも次第に、オーディオを正面から扱わなく
なって行きました。また、オーディオ協会も学術的な活動を停止してしまいました。

 理由は、技術と心理の狭間でオーディオの論文はリジェクションされる確立が高く、研究者は
オーディオでは飯が食って行けなくなったのです。その事は、オーディオの斜陽化と微妙に関係
していたのかも知れません。私も「帰還増幅器の高周波変調メカニズム」と言う問題を数学的に
解析したところまでは原著論文として認められましたが、その過程で生れた「負性抵抗」と言う
概念を取り入れたアンプの実現の話になると、リジェクションと言う高い壁に遮られてしまった
のです。しかも、そのリジェクションの理由には正当性がありませんでした。唯、オーディオの
域に入っていると言う趣旨だったように思います。

 この時、つくづく思ったのですが、一匹狼の社会での活躍には目に見えない高い障壁があると
言う事でした。学会がダメなら特許がある、と思ってその内容を特許申請したのですが、なんと
審査に7、8年も掛かり特許が下りた時には既にオーディオ産業は壊滅状態だったのです。多分
毒にも薬にもならない時まで塩漬けにされたのだと思います。技術的に間違ってはいない発明に
特許庁として却下はできなかったのでしょう。

 最後に、アメリカのオーディオ協会(AES)があると思って投稿したのですが、これも随分待た
された挙句の果てに、何のコメントも無しにリジェクションされたのです。リジェクションする
なら理由を書くべきですが、日本の学界のリジェクション、特許庁の塩漬け、AES の無言却下の
この一連の動きから、世の中の裏の世界が透けて見える気がしたのです。唯、何処からも新規性
と間違いを指摘されなかった事で、少しだけ勇気を持ち続ける事が出来たのです。そうだ特許を
拠り所にアンプを作り、ユーザーの方に論文が正しい事を証明して貰おうと、その時決意したの
でした。

 話が少し反れましたが、要するに学会には、オーディオを科学的に育てて行こうと言うような
考えは毛頭無かったと言う事だと思います。もう少し言えば真にオーディオを理解している会員
は殆ど居なかったのです。私のような少数派の研究者は他にも居た可能性がありますが、結局は、
オーディオの根幹に影響を与えるような技術は闇に葬られたような気がしています。

 その事が、今現在のオーディオが混迷を深める大きな原因になっていると思います。デジタル
技術もその範囲内では科学的に扱われていますが、それを応用したオーディオ製品になると最早
科学の及ばないものになっています。オーディオに於ける科学無視の風潮はこのような風土から
必然的に起きたのでしょう。

 技術と心理の科学的思考を必須とするオーディオから、そのエッセンスを骨抜きにしたのでは
オーディオの現在、未来は知れています。どう足掻いても、唯、面白おかしく、同じところぐる
ぐる回っているだけでしょう。私はそう言うオーディオには巻き込まれたくない、と言う一心で
この30〜40年頑張って来ました。特にWRアンプを商品化してからは、その事を強く意識して頑張
って来たつもりです。私の言葉に棘があるとすれば、悲しいけれどそう言う境遇から生れたもの
だと思います。人間社会の縮図のようなものだとも感じています。

 この16年間、私の基本理念である帰還アンプに不可避的に生じる負性抵抗を回避したアンプを
作り続けてきました。特に直近の7〜8年は、全ての基準になる物差しを、生の音楽会の音と定め
心理面を補強してきました。技術は「負性抵抗理論」心理は「生の音楽会の音の感じ方」に絞り
アンプの音の向上に努めてきました。

 前項で触れました部品の選択は、心理面を重視した結果です。技術的に如何に完璧と思われる
アンプを開発しても、それで音楽を聴いて感動できなければ何の価値もありません。音に快感を
感じるのは生理的現象ですが、其処に実演の音と音楽が我が家で再現できたと言う満足感が必要
に思います。昔ドンシャリを聴いた時にもそれなりのオーディオ的快感はありましたが、それは
残念ながら音楽で裏付けられていなかったのです。それでは長続きしません。

 今でも、そう言う快感を求めてオーディオを志向されている方も居られましょうが、一過性で
それが終わってくれて、次のステップとして音楽に裏打ちされたオーディオに進んでくれる事を
望みます。それはオーディオでありながら、音楽と深く関わることです。3のように、人の音楽
趣味は一様ではありません。それがオーディオをより複雑にします。しかし昔は音楽のジャンル
によってアンプに向き不向きがあると思っていましたが、よく出来たアンプならジャンルを選ば
ないと言う自信が、最近少し芽生えてきました。ジャンルや造詣の程度に関係なくWRアンプなら
オーディオを有意義に続けて行って頂けると思います。事実、オーディオの事を考えなくて済む
ようになったと言う方が増えています。

 今はメーカーに力がありません。ハイレゾと言う一昔前に学会で否定された概念を金科玉条に
製品開発している状況では、先が思いやられます。(故にCDのスペックは20KHz止まりになった!)
ソニーやテクニクスが全盛時代に生きた者に取っては、余りにも寂しい話です。iPhoneやiPodを
遥かに凌ぐ製品を開発してこそ、先が開けるのではないでしょうか? 日本人として大いに期待
したいところです。高級オーディオと称するものが、ハイレゾだけではレベルが低過ぎると思う
のは私だけでしょうか? 従来型の帰還アンプやデジアンを使っている限りは、ハイレゾも何も
あったものではありません。「負性抵抗」と言う不安定要素を抱えた帰還アンプの本質的欠陥は
スピーカーやケーブルでは絶対カバーできない事に早く気付いて欲しいのです。 

1541川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Sep 29 16:00:00 JST 2014
三種の神器をどうするべきなのか?

 平成10年、第1回ベンチャー甲子園大会に出場するのを機に、WRアンプ第1号WRP-α1 が開発
されました。勿論、何もないところから行き成り完成できた訳ではなく、それまでに行ってきた、
帰還アンプに不可避的に生じる負性抵抗を如何に処理すべきか、と言う基礎的な研究がほぼ確立
出来ていた事と、それに基づく実際のパワーアンプを自分用に何回も手を入れながら、紛いなり
にも完成出来ていた、と言う事実が裏づけになっています。

 実際のアンプを作り上げる過程で選んだ部品に三種の神器が有ったのです。それらは

 1.SEコンデンサー

 2.ブラックゲート・ケミカルコンデンサー

 3.ERO1826 フィルムコンデンサー

でした。これを三種の神器と呼ぶ事にします。

 それにプラスアルファとして付け加えるなら、進抵抗(ニッコーム)があります。この三種の
神器は、直ぐ後に開発されたプリアンプWRC-α1 にも踏襲され、新しいΕシリーズのアンプ群が
開発されるまでずっと続きました。

 WRアンプはこの三種の神器に支え続けられて来たと言っても過言ではありません。では、何故
この三種の神器に辿り着いたのかをご説明致しましょう。

 音楽を気持ち良く楽しみたい或いは生演奏会のあの感激を我が家でも味わいたい、と言う目的
の為にはアンプの音は決してアグレッシブで一本調子になってはなりません。硬い音、柔らかい
音、のように一見矛盾するような音が同時に再生できないといけないのです。

 目の覚めるようなメリハリのある音も、真空管アンプのような聴きやすい音も、それだけでは
この目的に沿いません。勿論、少し聴いていると耳が疲れるとか、飽きるとか、そう言う音も又
ダメなのです。弦の浮き上がるようなフアッとした音も、オケが全体で押して来るような剛体感
も同時に再生できないと、この目的に使えません。

 それを達成する為に、先ずはアグレッシブな感じになったり、ひずみ感を伴う部品を排除しま
した。往々にして帰還アンプが不安定ですと、このような音になり勝ちですし、このような音に
なる部品が多いと言う事です。「半導体アンプの音は硬い!」と言う固定観念を与える原因にも
なったと思います。それを避けようとして、選び抜いていったらこの三種の神器に辿り着いた訳
です。

 そして、これ以外の部品ではWRアンプの音は出ないとまで思うに至ったのでした。特にSEコン
の代わりは無いとまで思い込んだ事があります。しかし、アンプの価格を下げる為にはSEコンの
代用品を探す必要を感じました。そこで同じ双信が製造している、途中まではSEコンと同じ製造
工程のチップコンデンサーを取り寄せ、両端に足を半田付けしてSEコンと置き換えて見ましたが、
全くWRアンプの音からかけ離れてしまい、やはり、SEコンしかダメだと念を押されてしまったの
です。

 同様な事はパスコンに使うケミコンやフィルムコンでもあって、BGコン、ERO コンの右に出る
ものはないと思ったのです。ケミコンは時代と共に同じ耐圧・容量でも形が小さくなって、性能
は上がったはずでしたが、WRアンプに使うと何故かアグレッシブな音になり、昔ながらの大きな
ケミコンの方が音が良いと思いました。具体的に言えば、ニッケミのSLはBGコンと同じ大きさを
有していてBGコンに置き換えてもそう問題はないと感じた事があります。他のケミコンが小型化
されるなか、BGコンは基本的には最後まで大きさを変えませんでした。やはり何か理由があった
のでしょう。しかし、今はディスコンで使う事はできなくなりました。

 フィルムコンも良いものが少ない部品です。ΕシリーズになってもERO とRIFA以外は使いもの
になりません。これはオーディオの七不思議の一つだと言っても良いと思います。これが本当に
関係するのかどうかは分かりませんが、ダメなフィルムコンは、例外なく足が磁性体で作られて
います。抵抗は廉いカーボン抵抗でも足は非磁性体ですが、何故なのかコンデンサーは高価な品
以外は全て磁性体のリード線が使われています。因みに、三種の神器のリード線は全て非磁性体
です。

 ダメなフィルムコンを使うと、アグレッシブでひずみ感を伴うので始末が悪いのです。ERO と
一部のRIFAだけは何故かそれがありません。幾つも同一アンプに重ねて使っても、色が着いたり
しません。残念ながら国産品は私の知る限りダメです。ダメと言う意味は、WRアンプが志向する
音に適していないと言う事です。大体、硬くて癖があり、ひずみ感を伴うものが多いです。

 この三種の神器の中で現在も入手可能なものはSEコンのみで、あとはディスコンになりました。
これまでのWRアンプなら、もう製造できない!と言うところまで追い詰められていたと思います。
幸い、コレクタホロワ化、高帰還化でWRアンプも性能向上を達成できましたので、今では三種の
神器は必須ではなくなりましたが、ERO とRIFAだけは使い続けています。しかしこの両者も既に
ディスコンになっています。在庫品がなくなる前に、これと同等以上のフィルムコンが何処かで
製造される事を祈るしかありません。

 それでは、この三種の神器は今でも貴重な音を提供し続けてくれているのか、と言う問題点に
ついて論じてみます。コレクタホロワ化、高帰還化されたWRアンプの音に対して、三種の神器は
どう評価されるかと言う事です。

 1.SEコン → 柔らかい音は相変わらず良いが、剛体感については?が残る。

 2.BGコン → 中高域については特に問題はないが、低音には?が付く。

 3.ERO コン → 特に問題はない。あるとすれば供給源だけ。

と言う事になると思います。金科玉条のように思ってきたSEコンにもBGコンにも欠点はある事に
なります。これは寧ろ正常な事で、全てが良いと言う事の方が不自然でありましょう。今現在は
SEコンをセラミックで置き換える事が可能なところまで進歩しました。セラミックは大別すると
従来からある円盤型と積層型があります。何故か円盤型のリード線は非磁性体が多く、積層型は
磁性体が多いので、旧タイプの円盤型を使うようにしています。積層型は高い方の音に癖がある
気がするので、なるべく使わないようにしています。

 先ずSEコンの剛体感不足と言う問題点ですが、プリよりもパワーアンプで感じますので、未だ
高級EQ基板やヘッドアンプ、マイクプリアンプには、SEコンを含む三種の神器を使うようにして
います。ただし、BGコンは入手不可なので、Vishayなどで代用しています。プリのラインアンプ
基板やパワーアンプ基板にはSEコンの代わりにセラミックを使う事が考えられます。

 セラミックは音の柔らか味を出すには今一歩ですが、生の音特有の押し出しの強い、剛体感を
出すには打ってつけです。生の音は複雑で、一様ではありません。凄くドライに感じたり、同じ
曲中で絹のような柔らかい光沢感を感じる場合があります。ですから、一芸に秀でたアンプでも
明かな癖があるアンプはこの目的に使えません。もう少し言えば、前方に一列縦隊で楽器が迫り
出して来るアンプもNGで、楽器配置が分かる奥行き感が必要です。さらに言えば主旋律を支える
裏旋律を奏でる楽器が掻き消されてしまうアンプもNGです。この類のアンプは比較的容易に設計
製作できますが、どんな音も理想的に表現できるアンプを作るのはちょっとやそっとでは不可能
だと思います。先ずは帰還アンプの本質を見抜く力が必須だと思います。話が少し反れましたが、
生演奏会の音は、柔らか味と剛体感・力感が入り混じり、多くの楽器が距離感をもって聴こえる
のです。

 この場合、柔らか味と剛体感のどちらを取るか決断する必要があります。安定化電源を残して
送り出しに使うラインアンプやパワーアンプ基板だけをセラミックにする、所謂ハイブリッドも
それなりの効果があります。私は思い切ってプリもパワーもオールセラミックを選択しています。
オールセラミックにする気になったのは、Εシリーズで成功したからでしょう。Εシリーズには
1個たりともSEコンは使っていません。私の感覚は生の演奏会の面で押して来るような剛体感に
惹かれるのかも知れません。そうそう、厚みと芯のあるストバイ・セコバイのテュッティも凄く
魅力的に感じます。

 次にBGが有する、低音が量的には良いが少し篭る癖について申し添えます。最近低音の有り方
がやっと分かってきました。何回も書きますがfeastrexで本当の低音を聴いて以来、切れのある
篭らない低音でないと、生本来の魅力は出せないと思うようになりました。特にグランドピアノ
の左手の音、コントラバスのピッチカートでそれを感じます。正直に言って、BGコンはこの事に
関しては不利です。勿論、好みがありますから、今の低音で満足されているのであれば、敢えて
寝ている子供を起こす事はありませんが、ずっと疑問をお感じになっていた方は、どうぞご相談
になって下さい。低音の変な篭りはBGコンを他のケミコンに代える事で取り去る事ができる場合
があります。特に古くなったBGコンの低音はだらしなくなるような気がします。

 旧来のアンプではそれなりにバランスが取れていたのかも知れませんが、今から考えて見ると、
真の音は何かが、分かっていなかった、或いは見えていなかったのでしょう。オーディオアンプ
の音質は、その設計者の音に対する哲学で決まってくるのだと思います。私の場合は、方向性は
変わっていませんが、詳細な部分でより真の音が何かが分かって、細かな詰めの段階に入ったと
思っています。今回は、その修正部分を明らかにさせて頂きました。   

1540川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Sep 21 17:00:00 JST 2014
旧型プリのアップグレード効果は結構なレベルにあるようです。

 旧型WRアンプをお買い上げ頂いた方には、これまで散々アップグレードを繰り返しご迷惑をお掛け
してきましたので、「もういい加減にしてくれ!」と言うお気持ちが、正直のところあっても仕方が
ないと思います。しかし言い訳になるかも知れませんが、ビジネスの為のアップグレードを繰り返し
たのではなく、本当にいい音のアンプを提供したいと言う純粋に技術的発想から生まれたものばかり
ですので、どうかご理解を頂ければと思います。

 旧型アンプが開発されたのは1998年の秋の事でしたから、かれこれ16年が経過しています。基礎的
研究はその時に既に終了していましたが、その「負性抵抗理論」を実際のアンプに適用して行く地道
な研究はその時がスタートだった訳ですから、WRアンプの性能は16年の間に徐々に進歩し続けて来た
と言えます。

 「バランス伝送」「コレクタホロワ化」「高帰還化」と進んで、今やっと極みに達したと言えると
思います。結局は基礎的理論である「負性抵抗理論」を如何に正しくアンプに生かすか、と言う事で
あったと思います。そして「バランス伝送」は必須ではないと気が付き、「コレクタホロワ化」及び
「高帰還化」を効率よく取り入れた新しいアンプ、Εシリーズを開発したのです。

 誤解のないように申し添えますがバランス伝送に問題がある訳では全くありません。アンバランス
伝送でも十分に効果を上げられるようになったと言う事です。バランス伝送は単純に言って倍の回路
が必要ですから、半分で済むならそれに越した事はありません。それでΕシリーズはコストダウンが
可能になりました。高価なアンプと言うWRアンプのイメージは払拭されたはずです。其処にはSEコン
を卒業できたと言う事も大きかったと思います。

 Εシリーズでは新たにプリアンプを開発し、ΕC-1 が誕生しました。このプリアンプは旧型プリと
違って、パワーアンプを最終段にすると言う大胆な発想が生きています。全ては因果関係で結ばれて
いますが、これは高帰還型ヘッドホンアンプを開発した事が幸いしたのです。これに対して旧型プリ
の送り出しは、アンプとして最低限のシングル動作のコレクタホロワ型電圧増幅回路で賄っています。

 その昔、エミッタホロワを使わない事に大きな意義を見出した頃のアイデアですから、これで十分
だと信じていました。そして、それはΕC-1 が開発されるまでは正しかったのです。しかし、現実に
ΕC-1 の音を聴いて、明らかな違いを認識したのです。しかしシングル動作のコレクタホロワ型電圧
増幅回路を、簡単に強力な回路にする手立てがないと半ば諦めていました。 

 一方旧型パワーアンプの方は、全く問題もなく「コレクタホロワ化」と「高帰還化」が施せました
ので、電源部が贅沢に出来ている分、寧ろ旧型の方が優れている位だと思っています。唯、プリとの
総合的な音となると必ずしもΕシリーズに勝るとは言えないのが現実です。この事がずっと私の頭の
中で引っ掛かっていました。

 そんな時に、熱心な旧型アンプシリーズをお持ちのユーザーの方からお申し出を頂き、旧型プリを
何とかしなくてはいけない、と強く決心したのです。やはり他人様からリクエストがあれば、サボる
事は出来ません。何とかしようと思います。その結果、送り出しをシングル動作から差動増幅にして
プッシュプル動作にするアイデアが浮かびました。今更ですがプッシュプル動作は上下対称となって、
偶数次ひずみが原理的に存在しないだけ有利です。だから、必然的に低負荷に強くなります。

 即ちラインアンプを2段差動にする事で強靭化が可能です。この回路はWRアンプに多用されており、
既にパワーアンプ、EQ回路、ヘッドアンプで経験していて慣れてもいます。その昔EQ回路を設計して
いた時にEQ素子の重い負荷に耐えられる回路として2段差動を選んだ経緯があります。シングル動作
では全くダメでした。ヘッドアンプ、マイクプリアンプも同様な事から2段差動を採用してます。

 ラインアンプを2段差動にするには、基本的には基板交換が必要になりますが、新たに基板を興せ
ば基板サイズが大きくなって、アップグレードは上手く行きません。EQ基板を使うとそれ自体が少し
大きいのとリレー基板を増設する必要があり、これもスペースの点で問題を含みます。

 そこで思い付いたのが、ライン基板の下に一石を潜らせて終段を差動回路にすると言う芸当でした。
やって見ると思いの他上手く行き、無駄がなく合理的に下配線が実現できたのです。構造的に不安定
さがなく、実用上全く問題がないと判断しました。これならアップグレードが比較的容易にできます。
一気に旧型プリの先が開けた瞬間でした。
 
 案の定2段差動化された旧型プリの音を聴くと、大まかに言ってΕC-1 と同等レベルになった事が
分りました。強いて言えばΕC-1 の方がオーディオ的であり、旧型プリの方が本格派的な品格のある
音です。それは回路構成からもある程度納得できます。片や非安定化電源のパワーアンプ回路、片や
安定化電源駆動の2段差動回路です。回路的には全く違いますが、普通の人には音の違いが分らない
ほどの差に納まっています。これは根底に「負性抵抗理論」が合理的に生きている証拠だと思います。
このように回路が違っても、それが理想的に機能すれば、最終的に行き着くところは同じでなければ
ならないと思います。

 旧型プリの音は、大げさに言えば見違える程に進歩したと思います。但し、これは聴く耳を持った
人でないと分らないレベルの話ですから、大した違いはないとお感じになる方が居られても不思議で
はありません。この辺りは、同じオーディオでもライブ経験、ソースの聴き込み方、センス、音楽に
対する考え方次第で、大きく変わってくるところです。だからオーディオは一筋縄では行かないのだ
と思います。

 設計者自ら幾ら良くなったと言っても信憑性は今一つです。やはり第三者評価が必要です。アップ
グレードされた方から頂いた、途中経過ではありますが絶好の感想文がありますので、一端をご紹介
させて頂こうと思います。


◎コクがあるどころの話ではありません。ワンランクもツ―ランクもアップしたような気がします。
◎いや数字では表せないほど別な素晴らしい音楽の世界を提供してくれるように思います。
◎はっきり言えるのは、表現力が増したということです。

◎私はかねがね音楽の素晴らしさは、音楽家の真摯な精神と出会えることだと思っています。
◎それを体感した時は音や音響は手段にすぎません。極端に言えば演奏家でさえ、
◎精神の仲介者に過ぎないとさえ思える時があります。
◎今回のプリの音は、そんな音楽家の真摯な精神をより身近に感じさせるような進化をしている
◎ように思います。

◎1.背景が静かで、音の浮遊感が増した。
◎2.一つ一つの音がクリアーでより混濁感のない美しい音になった。
◎3.その結果、楽しい曲はより楽しく、悲しい曲はよりシリアスに感じる。
◎4.今まで気が付かなかった演奏家の一音一音に対する思い入れに改めて感動です。

 以上のようにこの方に取っては音の変わり方が尋常ではなく、音楽の精神性にまでも影響を与える
変革として捉えていらっしゃいます。オーディオが此処まで昇華すれば、アンプ設計者として大変に
名誉であり光栄です。アップグレード費用は確かに廉くはありませんが、その効果がもし莫大なもの
であれば、ハイC/P になり寧ろやった方がお得と言う事もあるでしょう。どうかご一考願えれば幸い
です。

 最後にΕC-1 +WR製高帰還アンプのユーザーの方からお礼状が届いていますので、これも合わせて
ご紹介させて頂こうと思います。


●本当は、お礼もかねて掲示板で感想を書き込もうと思ったのですが
●なかなか捗らず、このままではお礼も言えなくなってしまうので
●メールを致しました。

●音楽を聴いているときは「ああ、ここがすごい。こんな音も入っていたのか」など
●色々感じる事があるのですが、いざ書き込みしようとするとこれが思うようには
●いかないもので…
●と言うわけで簡単な感想を書きます。
●パワーアンプ単体で聴いていた時との比較になりますが

●パワーアンプのみの場合 … パズルに例えると全ピース完成はしているがピース間の境目
●が見えている。且つモノクロ。
●EC-1を加えた場合 … 同じくパズルに例えると完成はもちろんピースの境目が
●見えない、つまり一枚の絵になっている。おまけにこちらはフルカラー。
●簡単に言うとこんな感じですがEC-1を入れることによって癖があるわけではない
●が色気(滲みや偽音ではなく)があって音楽として楽しめる。まさにコンサート会場
●の空気さえ表現されているような気がします。

●あと、パワーアンプのみでは若干音楽のジャンルを選ぶような気がするのですが、EC-1使用
●ではどのジャンルを聴いても良いです。
●全帯域で破綻がなく安定しているからかも知れませんね。
●お蔭様でもうオーディオのことは考えなくなりました。
●先生に感謝いたします。ありがとうございました。

 このようにΕC-1 の効用を明確に認められています。何よりオーディオの事を気にしないで音楽に
没頭できるようになった事は、画期的です。旧型プリ当時からプリ効果がある事は分っていましたが、
ΕC-1 をWR製の高帰還アンプの前に前置する事によって、システムの音を相乗的に向上させられると
言う事が、第三者の方によって検証された事になります。

 ΕC-1 のユーザーの方は他にも沢山いらっしゃいます。後に続く方の為にメールで感想を頂ければ、
このような形でご紹介させて頂きますので、どうかよろしくお願い致します。  

1539川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Sep 16 16:00:00 JST 2014
日フィル9月定期を聴く

 夏休みコンサート以来の久しぶりの生演奏会です。8月にも何らかの演奏会はありますが、
これと言ったものは無いですし、やはりあの暑さの中出歩くのも億劫です。ですから8月に
ちゃんとした演奏会に行った記憶はありません。昔から言われるように「ニッパチ」は休眠
を決め込むのが良いのかも知れません。

 今月は正指揮者の山田正樹でした。指揮者自身のプレトークがありました。土曜日は毎回
専門家が行っているようですが、金曜日は原則的にプレトークはありません。しかし、山田
正樹は自ら買って出ているのだと思いますが、軽妙なお話を聞かせてくれます。出しものに
添って話が進みます。

 最初はR・シュトラウスの薔薇の騎士から「ワルツ1番」についてです。この曲を選んだ
最大の理由は、手兵スイスロマンドとこの曲を録音していい曲だと感じたからだ、と言う事
でした。普通は薔薇の騎士と言えば組曲を選定する場合が多いようですが、果たしてこの曲
の方が本当に良かったのか、私には分かりませんでした。

 オケも久しぶりの定期で、しかも最初の曲です。正直もう一つ纏まりに欠けた演奏だった
と感じました。それに「R」は難しいのだと思います。オーケストラで表現できないものは
無い、と豪語した作曲家ですからオーケストレーションが複雑なのです。だから、音が色々
有り過ぎて、必ずしも耳に心地よく響くとは限らないように思います。少しケバケバした音
が散見されました。

 「R」と言えば「ティル」と言うくらいに、先ずはこの曲で洗礼を受ける人が多いのでは
ないかと思います。しかし、バッハ、ベートーベン、ブラームスと聴いてきた人間には俄に
理解できない曲想です。ドイツ古典音楽からすれば異質に感じます。だからこそ、「R」の
存在価値があるのかも知れません。私が唯一いい曲だと思うのは「アルプス」です。あれは
自然が対象の為か音楽の流れがゆったりしていて雄大で、気持ちが大きくなります。

 最近、見直した曲に「ツァラトゥストラ」があります。冒頭はオルガンを伴う壮大な音楽
で、誰しも魅力を感じると思いますが、それは最初のほんの数分だけで、あとは面白くない
と思っていました。それが録音・演奏共に良いハイティンク/コンセルトヘボウ管の録音を
聴くようになってから、その後の曲にもいいものがあると思い始めました。今では最後まで
違和感なく聴く事ができます。

 山田正樹のプレトークは次の曲に移りました。2曲目はこれも苦手なシェンーベルグです。
12音階の元祖ですが、今夜の曲は多分、それ以前のどちらかと言うと聴き易い「浄夜」です。
「浄められた夜」とも言われています。昔、LPやCDを買う時に意識的に避けていたものです。
それは多分に食わず嫌いだったのだと思います。シェンーベルグと言うだけで逃げていたの
でしょう。

 山田の独白によれば、御茶ノ水のカザルスホールが閉館する時に、記念演奏会が行われた
そうですが、その時の指揮者は元々は小澤征爾であったにも拘わらず、がん宣告で急遽山田
にその御鉢が巡ってきて、否応無しにこの曲を勉強す羽目にになった、言わば因縁の曲だと
言う事でした。それまで山田も聴いた事がなく、演奏会までの約2ヶ月間寝る間も惜しんで
受験勉強さながらに猛勉強した、と言ってました。

 そしてこの曲は、ロマン派までの作曲家が多かれ少なかれベートーベンを意識して作曲を
したように、近代・現代の作曲家はこの曲を原点にしていたはずで、その位価値のある曲だ
とも言ってました。この譜面を見ると、その景色は既に見たものと共通性があるとも言って
いましたが、それは後継の作曲家がお手本にした証拠であり、指揮者ならではの見解です。

 曲は基本的には弦楽合奏で奏でられますが、説明はまだ続き、弦楽5部ではなく7部位に
細かく細分化されているのが大きな特徴なのだそうです。バイオリンが第一第二に分かれて
いるのは当然ですが、ビオラ、チェロも第一第二に分かれていてコントラバスも別のパート
を弾いているように見えました。ですから、舞台上の配置も複雑でコントラバスはウィーン
フィルのように後に6人並んでいました。

 曲は、全ての弦の演奏法を盛り込んだように、弱音あり強音あり、遅かったり速かったり
と目まぐるしく動き、色々な奏法が出現して飽きさせず、それが30分もの間延々と続いたの
です。12音階独特の不安定な雰囲気は全くなく、その意味では全然違和感はありません。

 寧ろ、悲しい、寂しいと感じる部分、美しいと感じる部分、力強いと感じる部分、非常に
分かり易かったと感じました。これならもっと早く手に入れて置けば良かったと反省しきり
でした。山田の説明に依れば、身篭った女性の子を男性が自分の子として育てようと言った
瞬間に、それまで下降音階を繰り返していた曲想が、ニ長調となって一気に明るく開けると
言ってましたが、そこまで明確に一線を画しているとは感じませんでした。しかし、この曲
にそんなドラマが仕込まれているとは思ってもいませんでした。「浄夜」とはそう言う意味
だったんだ、とやっと分かりました。

 2曲目になり、山田も思い入れがあるのでかなり練習をさせたはずで、弦楽合奏はかなり
良く、普段から惚れ込んでいる日フィルの弦パートもそれによく応えていたと思います。

 15分の休憩を挟んで又「R」です。これも私が避けてきた「ドン・キホーテ」です。その
昔、デパートのLPバーゲンセールでよくお目に掛かったのですが、何時も素通りして、結局
これまで買った事がありませんでした。唯、独奏チェロ、ビオラが活躍する曲だと言う事は
知っていました。題材はスペインの騎士道の話、それも本当の騎士ではなく、貴族の騎士道
遊びを描いたものです。

 ですから交響詩でありながら協奏曲風であり、作曲面から言えば変奏曲であって、複雑な
要素を内包しています。独奏チェロには日フィルの菊池知也、独奏ビオラにベルリン放送響
の首席奏者、パウリーネ・ザクセを迎えて行われました。菊池はやはり上手く音色・音量共
満足の行くレベルでした。パウリーネは力感より美しさで、いい音色だと思いました。

 山田正樹のプレトークは時間配分が悪く「浄夜」までで時間切れになり、この曲の解説は
殆どありませんでした。唯、パウリーネはそろそろ一線を退き、大学で後進の指導に当たる
ので、その前に日本に呼んできたと言ってました。美貌と長身の格好いいビオラ奏者でした。

 この曲は規模も大きくて4管編成に近く、ユーフォニウム、ウィンドマシン、各種打楽器、
ハープなどが舞台狭しとばかりに並んでいました。それらを駆使して作曲した「R」の曲想
は、これまた凄いの一語に尽きる感じがしました。繰り返して聴けば本当の魅力が分かるの
かも知れませんが、今更、もういいかなと言う気もしました。勿論久しぶりの生音を聴いて
耳はリセットされましたが、最近は再生装置がまともになった為か大きくオフセットする事
は、最早ないように感じました。  

1538川西 哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Sep 11 20:00:00 JST 2014
H.Tさん、ご投稿ありがとうございます。

 実は、ご投稿の前にH.T宅に招待されておりましたので、パワーアンプが全てWRアンプに
なった事でもあるし、良い機会かと思い先日お邪魔して参りました。装置の概要はH.Tさん
が「リスニングルーム拝見」および、WR掲示板第1512、1537項で紹介されていますので参考に
なさって下さい。

 お邪魔する前から問題点としては低音の量感不足と、一部詰まるようなブーミー感があって、
今ひとつ満足できないところがあると言う事を伺っていました。H.TさんはLPもよくお聴き
になるので、WR製のヘッドアンプと新型プリアンプEC-1を持参しました。

 掲示板の第1537項でも述べられているソース(LP)を2、3掛けて頂きました。ジャズには
疎いので、それらの着目点を書いておきます。

 1.全体的に低音不足に聴こえ、もう一つ低く沈み込まないので満足感が得られない。

 2.1とは逆に、一部の周波数で「ブッ」と詰まるような嫌な低音の響きが聴こえる。

 3.シンガーの声が少々硬く、しなやかさや艶が感じられない。

 以上のような問題点が現在の悩みの種であると言う事でした。最初は、低音不足は密閉箱の
せいであり、詰まるような低音は部屋の定在波かと思っておりましたが、H.Tさんが実測を
されたデータを見る限り、20Hzで-5dBであり、定在波と思われる160Hz のピーク値も+5dB程度
ですので、大きな問題にはならないと私は思いました。

 メールでそのようなお話を伺った時点で、スーパーウーハーの代わりとして低域をブースト
するラインアンプを用意したのでした。H.Tさんの低域用のパワーアンプE-120 はゲインを
5dB 上げる為にラインアンプを積んでいます。それと置き換えれば簡単に低音ブーストが可能
だと考えたのです。

 しかし、行き成り置換するのは得策ではありません。小手先のテクニックはなるべく控える
べきなのです。先ずは、WR製品ではないプリを置き換えて見る事にしました。多分、そのプリ
にはヘッドアンプが積み込まれているはずです。それをそっくり、WRのヘッドアンプとEC-1に
置き換えて頂きました。

 先ほど聴いたLPをもう一度掛けて貰いますと、今度は心なしか低音が下に向かって深く沈み
込んでいるように聴こえます。その点をご本人に確認すると「確かにいい!」と言う事でした。
次いで先程は詰まって嫌な低音に聴こえた部分を掛けて貰うと、その素になる音はあるものの
特に意識しなければ問題にならない程度に軽減されていて、ご本人も納得されたのです。

 低音の問題が一先ず片付いたところで、上述した女性ボーカルを掛けて貰いました。硬さは
確かに未だありますが、酷い金切り声ではなく、女性特有のしなやかさ艶が少し出てきました。
その事はH.Tさんもお感じになったはずですが、この硬さは録音の癖でもあるように私には
感じました。

 こうしてプリを置き換えただけで、H.Tさんの懸案事項は殆どクリアされ、音楽が心から
楽しめる装置に昇華したのでした。つまり、マルチの調整は非常に上手く行っていたのですが
低音に問題点があった為に、その事が明確に認識できなかったのだと思います。しかも、その
低音の問題はマルチとは無関係なプリにあったのです。たかがプリされどプリと言われる所以
です。

 私が最初にこの部屋で耳にした、H.Tさんがほんの軽い気持ちで出したFM放送の室内楽の
音、その音を聴いた時点で、意外にクリアで上手く音場感が出ていると直感したのは間違って
いなかったのです。流石、ライブに通いジャズの録音を手がけている方の耳は訓練されている
のでしょう。どう言う音が本当のリアリティさなのかを本能的に判断できるのだと思います。

 こうなると色々とソースを再生して見たくなるのが人情です。私も持参したテストCDを再生
して貰いました。H.Tさんの趣味趣向がジャズなので、クラシックのCDは最低限にして主に
ジャズのCDを持ち込みました。クラシックのテストCDはかない難しい部類に入るものでしたが
特に問題なく再生できたのには、私もびっくりするくらいでした。これならどんなものが来て
も大丈夫だと思ったほどです。ジャズのソースで調整しても、マルチが真に成功すればその他
のジャンルにも通用するお手本です。

 私が自分の装置でよく聴く、コンチネンタルタンゴの弦はキリキリと煩くないかを確認しま
しましたが大丈夫でした。ハワイアンのスチールギターは綺麗にそして甘く聴こえるかどうか、
これも大丈夫でした。ベニーグッドマンのクラリネットが硬くないか、テディー・ウィルソン
のピアノが耳に来ないか、これも難なくクリアです。

 ダイアン・リーブスの声はどうかベースはブーミーに膨らまないか、これも問題ありません。
カウントベーシーオーケストラは迫力と切れ味が実演さながらに聴こえるか、大型装置で聴く
ビックバンドは、やはり格別に聴こえます。GRP レーベルのサイドワインダーに至ってはもう
H.Tさんもノリノリです。持ってきた10枚程のテストCDは全て問題なく鳴ったのです。

 何時の間にか夕方が迫ってきました。最後に、息子が府中のウィーンホールで録音したもの
を2、3再生して見ました。ピアノソロは我が家より良いと思いました。やはりホーンは有利
のようです。勿論、上手くチューニングされた場合の話です。ピアノ伴奏付きのバイオリンと
独奏バイオリンを聴きましたが、バイオリンの微妙なニュアンスが良く出ていました。H.T
さんもその音に感心して居られました。

 私も、多分H.Tさんも大満足の内にヒアリングテストは終了しました。相当大きな音量で
聴いていたのですが、帰りしなになっても耳は疲れていませんでした。装置のバランスが良く
調整されると2、3時間大きな音で聴いても耳は疲れないのです。この事は一つのポイントに
なります。

 結果的には、プリさえEC-1にすればH.Tさん宅のマルチは理想的な装置になると言う事が
分かりました。H.TさんはEC-1に関する印象を

「なにより他のプリと違うのは、質量感、前後感です。ここが圧倒的に素晴らしいポイントと
思いました。そのせいで深く濃く安定感のある、本当に音楽に浸れる音になるのだと感じます。
音のキレとか解像度とかを超える感覚です。これすなわち音場感の再現と思いました。楽器派
の小生も本当にこれがわかりました。」

と述べられています。上手く調整された装置は、楽器派でも音場派でも最早感覚的に納得して
しまうものなのだ、と私も思いました。


注)上記のようにEC-1は素晴らしいプリになりましたが、その反面旧型プリは残念ながら少し
 落ちるように感じていました。しかし熱心なユーザーの方のお陰で、旧型プリも進化を遂げ
 アップグレードが可能になり、EC-1に勝るとも劣らない音質を実現するに至りました。既に
 アップグレードされた方から「アップグレードされたプリの音が予想以上に(失礼ですが)
 素晴らしいので、休暇後に聴くのが楽しみです。」と言うメッセージを頂いております。  

1537H.Tさん(会社員) Sat Sep 6 17:46:53 JST 2014
  オールウエストリバーアンプによる 5wayマルチアンプその後

  前回5月にウエストリバーアンプ3台を導入しての感想を述べさせて戴ました。
 その後、WRアンプの持つスピーカーの潜在力を引き出す能力に驚き、追加で2
 台のWRアンプを導入し、さらに川西先生のご厚意に甘え、1台のWRアンプ
 (α1−mk2)をお借りして、5wayマルチアンプシステムのメインアンプ部
 が5台共WRアンプになっています。全てWR化した効果は想像以上で、今まで
 以上に音楽を楽しむ事ができていますので、未だ調整途上でありながら僭越です
 がまた報告させて戴くことにしました。
  
  その間、スピーカー側も多少弄りましたので、チャンデバ以降のシステム内容
 を再度記しておきます。

  高域  8000Hz以上 WRP−α1 MK2   JBL 2405H
  中高域 3500Hz〜  E−10         Fostex D1400
  中域  500Hz〜   E−30         JBL 2450J
  中低域 130Hz〜   E−50         JBL 2012H
  低域  〜130Hz   E−120     ALTEC 515−8G
  (本HPの「リスニングルーム拝見」の3枚の写真をご参照下さい)

  中低域のE−50、低域のE−120は中域のホーンスピーカーの能率と合わ
  せる事も考慮し、ラインアンプ部を5dBアップで川西先生にお願いしました。
  スピーカーはユニット自体は変わっていませんが、中高域のホーンはより小型
  のH−400に、中低域の箱は独特の篭り音の付きまとう以前の箱から30L
  のバスレフ箱に変更してあります。

  聴くソースは基本的にJAZZが大半です。
  今回は特に、中低域、低域にE−50、E−120を導入した効果がポイント
  ですが、上の帯域をWR化した為に、低域、中低域に一旦用いた球OTLとの
  差がどうなるか、興味津々でした。内心はTV用水平偏向管を用いた球OTL
  の音質にそれなりの自信もありましたので、耳の一番敏感な帯域でもないし、 
  それほどの事はないのではないか、とも思っておりました。
  しかし、2台のWRカスタムE−シリーズアンプの効果は大きく、中域以上の
  WRアンプの効果と相まって、自分的には、かつてないレヴェルに来ている事
  を実感しております。JAZZのLIVE会場と自室を往復し、やっぱり、L
  IVEのリアルで手触り感のある音色を実現するには、マルチアンプしかない
  と思い立ち、マルチアンプ化してから、10年以上経ちますが、完成されたメ
  ーカー製のスピーカーシステムに無い可能性を改めて感じる昨今です。これも
  WRアンプとの出会いが無ければあり得なかった事と思います。
  
  では、どこがどう違うのか、小生にはそれを的確に文章で表す文才など持ち合
  わせておりませんので、JAZZファンなら、まず聴いているであろう、名盤
  のどこがどう聴こえたのか書くのが良いかと思い、何枚かのJAZZアルバム
  をとりあげて記述してみることとしました。


● 「The Popular/Duke Ellington (RCA)」

  エリントンの言わずと知れた後期の名盤ですが、音の良い事で、オーディオフ
  ァンにも有名かと思います。かつてのエリントンの名曲の再演が主で、総花的
  過ぎる、という人もいますが、ジョニー・ホッジス、ハリー・カーネイ、クー
  ティ・ウイリアムス、キャット・アンダーソン等の役者もまずまず揃っていて
  メンバー的にいう事はありません。
  いつもの調子で、まず最初の「Take The A−Train」に針を落
  としましたが、いきなりエリントンのピアノがガキーンと響き、思わず前に乗
  り出しました。どうやら、E−30が2450を完璧にドライブした効果です。
  OTLだと若干丸くなっていたのか、と思いました。その後展開されるエリン
  トン楽団だけしか出しえないと思われるアンサンブルの厚さ。但し団子状に、
  響くのでは無く、それぞれのソロイストの顔が見えるリアルさです。やっぱり
  カーネイ、ホッジス、ゴンザルベス・・・役者がちがうよなあ、あれ?キャッ
  ト・アンダーソンのトランペットがこんなに丸く、ふくよかに聞こえるのはど
  うしてだろう? 今まで耳にタコができるほど聴いてきたので、ちょっと驚き
  です。A面後半近くなって「Mood Indigo」のサックスセクション
  の重層的な響き。エリントンが指一本たてて、指揮をしているのが目に見える
  様です。そこをジョン・ラムのベースが低く明瞭に持ち上げるのですが、ここ
  のところ、サックスセクションと微妙に重なってしまい茫洋となるのですが、
  明瞭に前後感豊かに描き分けます。これぞエリントン楽団の妙義! まったく
  感激です。各ソロイストの名人芸もさることながら、バンドカラー全体をここ
  まで表現するには、やはりそのバンドの醸し出す空気感(前後感)が表現でき
  なければなし得ないのではないか、と思います。
  このアルバムが収録されたのは1966年、エリントンの亡くなったのは19
  74年で、確か1972〜3年に最後の来日を果たしたはずですが、この時、
  小生は実演に接するチャンスを逃してしまい、後悔しきりでしたが、このたび
  これを聴いてなんとか留飲を下げた次第です。
  ここで、改めてJAZZのビッグバンドを楽しむ為に思うのは、バンドの骨格
  であるリズムセクションを単にリアルなだけでなく、深く、広く、前後感も含
  め明瞭に再現すること、それではじめてトランペット、トロンボーン、サック
  スの各セクションのアンサンブルや各人のソロが活きる気がしました。


● 「Flight To Denmark/Duke Jordan(Steeple Chase)」 

  デューク・ジョーダンはモダンジャズの初期から活躍する名手ですが、晩年は
  ヨーロッパを拠点に活動することも多かった様です。バド・パウエル直系の
  ピアニストと思っていましたが、このアルバムでは、年齢を重ねた彼の、枯れた
  味わいの中にも、全く無駄の無い静謐で美しい演奏が多くのJAZZファンの心
  を捉え、雪の中にたたずむジョーダンの品の良いジャケット写真の効果もあって
  か、いわゆる大名演ではありませんが、ピアノトリオの佳作として、一時期ジャ
  ズ喫茶でリクエストされることも多かったと思います。但し、音質はなんともピ
  アノが奥に引っ込み、切れのない音で、ベース、ドラムスもちょっと遠慮した様
  なバッキングで、そこが物足りない、というのがJAZZファンの定説でした。
   これがSteeple Chaseレーベルの音作りかなあ、とあきらめても
  いましたが、今回のシステム変更で、前述のエリントンのアルバム同様ピアノが
  「立つ」のです。グランドピアノ本来の饗板の響きが聴けるのですから、これは
  今まで以上に楽しめます。多くのJAZZファンはこのアルバムをCDでもLP
  でも所持されていると思いますから、皆様如何でしょうか? 満足のいくピアノ
  の音になっていますか? ここに来てピアノの音のリアリティや響きの豊かさは
  意外と低域の表現力と関係あることに気が付きました。はじめにE−30を中域
  に入れた時には気が付きませんでしたが、E−120が低域に座ってから、ピア
  ノ全体の音をバランス良く表現できる能力が付いた事が大きいと思います。鍵盤
  の単音を叩いた時にその帯域だけ鳴れば良い、という事ではなく、ピアノ全体が
  共鳴している事を表現できると、大型のフルコン用ピアノの良さがわかる様に
  なるのだ、と感じました。
  当然、このアルバムで「遠慮がち」と思っていたベース、ドラムスも細心の注意
  を払ってジョーダンをサポートしていたことも判ります。ドラムスのエド・シグ
  ペンはオスカー・ピーターソントリオの名ドラマーなのですが、この様なサトル
  な表現力も抜群なのだと再認識した次第。え?そんなの常識ですかね?


● 「The House of Blue Lights/ Eddie Costa(Dot)」

  ピアノの低域に触れましたので、やっぱりこれを聴いてみたくなりますね。
  31歳で夭折したエディ・コスタの傑作です。ヴァイヴラホン奏者としての評価
  が高かったコスタですから、ピアノのアルバムは極少ないと思います。ちなみに
  小生のレコード棚にはコスタがピアノを弾いたアルバムはほとんどなかったかと
  思います。いわゆる打鍵的奏法というか、鍵盤をことのほか強く弾く、強弱のは
  っきりした独創性に富んだ奏法は、彼がヴァイブ奏者だった事と関係が深いと思
  います。
   特にアルバムタイトルになったThe House of Blue lig
  htsの低域の打鍵は圧倒的です。ここではE−120を入れた効果が歴然と出
  ました。曲の中盤でコスタがピアノの低域を多用するアド・リブを聴いて感動し
  た人も多いと思いますが、OTLを含め真空管のアンプでは音が極端に言うと繋
  がってしまい、小生のシステムでは今まで十分表現しきれなかったのです。低域
  を多用する圧倒的な左手の迫力とスピード感、これに相まっての右手のサトルな
  表現の一体感がこのアルバムを名盤たらしめていると思った次第。
   E−120ががっちりALTECをコントロールしたのはダンピングファクタ
  ーの高い半導体アンプだから、という事もあるのでしょうが、他の半導体アンプ
  でも経験しなかった、ピアノ全体の大きさをイメージできる、豊穣さを伴った低
  域を表現できるのはいわゆる「楽器派」の小生でも音場表現にすぐれるE−12
  0の能力を認めないわけには行きません。
   このアルバムにはもう一つ聴きどころがあります。ウェンデル・マーシャルの
  ウォーキング・ベースです。実にツボを心得た乗りが良いベースワークで、コス
  タのピアノに綿上花を添えています。これも深く、明瞭に沈み込むE−120の
  低域表現力にかなりの部分を依存します。密閉箱のアルテックでは低域端が落ち
  ているのですが、質的表現の向上がそれを意識させません。

      このdotというレーベルはマイナーレーベルなので、元テープはどこにある
  か判らないとのことですが、元テーブが発見されれば是非またリマスターして戴
  き聴いてみたいものです。オリジナルの米国盤はおそらく何万円もするのでしょ
  うから。


● 「The Great American Songbook/Carmen Mcrae(Atlantic) 

   カーメン・マクレエのアルバムにはDeccaなどに傑作がありますが、彼女
  が円熟してからのアルバム(1972年録音)としては、本アルバムがLIVE
  の楽しさもあって評価の高いものです。きっと多くのJAZZボーカルファンも
  このアルバムをターンテーブルに乗せておられる事と思います。
   但し、カーメンの声質はいわゆる豊かさとは対極にある金属的とも言ってよい
  部分があり、歌のうまさに文句のつけようは無いのですが、オーディオ的に扱い
  が難しく、特にホーン・スピーカーでは鳴らしにくい印象がありました。
   前回書いたのですが、気に入っていたツイーターが先の震災で落下、破損して
  しまい、ちょっと荒っぽい?JBLの2405を代用?していてその部分の表現
  がうまくできないと思って危惧しておりましたが。このたびWRアンプを高域に
  入れると、不思議に中高域、中域と自然に繋がり、しっとりとした感じも出て実
  に良い感じです。切れ味は以前の2405のままですから、言う事はありません。
  中域以上は3台ともWRアンプにしたのですから、当然と言えば当然なのですが、
  それにしても、表現力のレヴェルが一段上がった事は確かです。
   このアルバムはカーメンの曲間のウイットに富んだおしゃべりも含め、LIV
  Eの雰囲気を眼前にどれだけ再現できるかがポイントですが、今回の全帯域WR
  化は著しい効果がありました。客席とカーメンの位置関係、まるで自分も会場の
  「Club Dante」に居る様な気になります。これまでもその気分に浸っ
  て聴いてきたアルバムですが、クラブの空気感、特に客席のざわめき等の手触り
  感が数十年の時空を飛び越えてそこに再現されるのですから、驚きます。これも
  低域、中低域の表現力の充実に原因があると思っています。E−120、E−
  50によりLIVEの暗騒音が明瞭になり、したがって客席内のおしゃべりの内
  容(英語ですが)までが再現できる様になりました。低い帯域の充実が、中高域
  に大きく影響を与える事がこんなことからも理解できます。
   2枚組ですが、システムの存在を気にすることなく、あっという間に4面を聴
  き通してしまいます。

   もちろん、マルチアンプシステムですので、欠点も随所にまだまだあり、頭を
  抱える部分もあるのですが、メインアンプをWR化した自身の決定は基本的に間
  違っていなかったことが実証でき、安堵しています。しがない給与生活者の小生
  にはマルチアンプのメインアンプをすべて変更することは、大変に勇気が要る行
  為でしたが、今は決断して良かったと思っています。
   年初に、今年の目標はマルチシステムの後段、メインアンプ以降をブラッシュ
  ・アップすることでしたが、スピーカー群の多少の手直しと、メインアンプをす
  べてWR化することで、新たな高みに進む事ができました。

   国内にはゴトーやエールなど、もっと素晴らしいシステムが存在することは知
  っていますが、現状の小生のスピーカー群でもLIVEを彷彿とする再生が可能
  ではないか、と思っています。
   また、JAZZファンも聴き方、好みも一様ではありませんから、小生がJA
  ZZファン代表というのは僭越の限りとわかっていて申し上げるのですが、WR
  アンプ・Eシリーズは多くのJAZZファンの多様な聴き方に十分対応できる、
  表現力を有していると思います。

   是非一度ご自身のシステムに入れて、聴いてみて戴ければと思います。
   最近のオーディオ界はさびしくなり、供給メーカーも減り、技術的な革新も少
  なくなりましたが、これと反比例する様に製品価格は上昇の一途です。その様な
  中にあって、WRアンプの存在は誠に貴重と実感しております。