オーディオアンプ WRアンプ掲示板40 コレクタホロワ

過去のWRアンプの掲示板40

この掲示板40は新しい順に並んでいます。
その1へ、その2へ、その3へ、その4へ、その5へ、その6へ、その7へ、その8へ、その9へ、その10へ
その11へ、その12へ、その13へ、その14へ、その15へ、その16へ、その17へ、その18へ、その19へ、その20へ
その21へ、その22へ、その23へ、その24へ、その25へ、その26へ、その27へ、その28へその29へ、その30へ
その31へ、その32へ、その33へ、その34へ、その35へ、その36へ、その37へ、その38へ、その39へ、その41へ
その42へ、その43へ、その44へ
WR掲示板へ、ホームページへ

1893川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Feb 10 14:00:00 JST 2019

小澤の「リュートのための古風な舞曲とアリア」は本当に凄い！

　先日Ｎ響の定期演奏会の様子をテレビで見ていたのですが、丁度レスピーギのタイトルに書き
ました第１組曲をやっていました。耳に新鮮に響き暫くの間見入っていました。有名な第３組曲
はやらずに第１組曲を選んだのは、木管と金管等を含むからなのかなとか考えていました。

　私がこの曲に触れるのは、学生の頃に参加していた音楽同好会「並木会」のメンバーのお宅で
聴かせて頂いて以来ですから、もう50年以上も前になります。その方は当時三井物産の課長さん
で著名な輸入品でシステムを構成されていました。トーレンス、グラド、クォード、グッドマン、
タンノイ等の実物を初めて見たのもこの時でした。そうそうリークのポイントワンと言うアンプ
も有りました。自分の作るアンプの音とは格の違いを思い知らされたのを憶えています。当時の
ブランド品はそれなりの実力を有していたのです。

　確か、ファザーノ／ローマ合奏団の演奏だったと思います。第３組曲のメロディーは何となく
聴いた憶えがありました。今考えて見ますと、当時NHK のラジオ放送のテーマ曲として使われて
いたからだろうと思います。特に第３組曲の出だしのメロディは有名です。しかしその後この曲
を買う切っ掛けに恵まれず、私のライブラリーから完全に抜け落ちていました。

　そうだ１枚買って見ようと思いました。ネットで色々物色してみたところ信頼できるディスク
はグラモフォン録音の小澤／ボストン響だろうと狙いを定めました。曲が曲だけに選択の範囲は
狭いのです。このディスクは相当前に発売されたものらしく、国内盤の中古しか見つかりません
でしたが、兎に角購入する事にしました。もしこれまでにバロック演奏スタイルの盤を購入して
いたら、こんなものかと思って今回買う気にならなかったと思います。小澤はこの他にもローマ
三部作を録音していて、この中の「ローマの祭り」は優秀録音だと思います。

　CD（UCCG-5134)が届いたので早速聴いて見ました。第１組曲から聴き始めましたが、最初音量
も低く音が貧弱に聴こえたのですが、やがてＮ響で聴いたイメージと重なって来ました。題材は
大体は16世紀の音楽から取られています。バロック音楽でもありロマン派の音楽でもある不思議
な響きです。オーボエが妙なる音色で彩りを添えトランペットも華やかに加わります。特に終曲
の「パッソ・メッゾとマスケラーデ」はリズミックで迫力もあり、素晴らしい曲だと思いました。
どの組曲も４曲で構成されており長くても20分を越えません。

　第１組曲の録音は1977年でグラモフォンのアナログ録音の絶頂期のものです。第２組曲は78年
と新しくなりますが、第３組曲は逆に75年録音です。有名な第３組曲だけテスト的に録音された
のかも知れません。その後に付け足して全曲録音が完遂されています。75年はグラモフォン録音
が上向きに転じた年でもあります。第２組曲は第１組曲に準じた音で録られていて、曲想も似て
いますので延長線上の音楽として同様に楽しめます。どちらにもリュートを意識してかハープが
使われていますがこの低音が見事に捉えられていて魅力的です。この録音を担当したエンジニア
が誰だったのかが知りたかったのですが、国内盤には珍しくエンジニア名等が記されていません。
外盤ならば書いてあるはずだと思って検索を重ねている内に、これも中古ながらやっと見つける
事が出来たのです。
　
　グラモフォンには少し古くなった録音を中心にした「ガレリヤシリーズ」と言うのがあります
が、その中にこの全曲盤（419-868-2)がありました。一種の廉価盤です。このCDが発売された頃
にはよくCDショップに行っていましたし、主だった小澤／ボストンものは購入していましたから、
見落としたのかそもそもCD棚に陳列されてなかったのか何れにしても買うべきCDを買いそびれて
いたのでした。届いて見ると殆ど新品です。長い間、棚にあって売れ残ったものかも知れません。
HMV の中古CDにはお買い得なものが結構あります。このCDを購入したのにはもう一つ別の理由が
ありました。実はこの録音は結構厳しく外盤の音も聴いて見たかったのです。

　早速バランスエンジニアを調べたところ、クラウス・ヒーマン／ハンス－ペータ・シュバイク
マンとだけ書いてありましたが、どの曲を誰が担当したかの詳述はありませんでした。オペラ等
の大曲は２名以上のエンジニアで録る事もありますがこの程度の規模で二人掛りで録る事は余り
無いと思います。唯、３曲の録音年代が離れているので、音調を統一する為に共同作業となった
可能性はあると思います。

　その為なのか第１～第３組曲までの音調はほぼ揃っていました。多分一番古い第３組曲に合わ
せたのでしょう。第３組曲は１曲目と２曲目は穏やかに進行しますが３曲目と４曲目は凄まじい
音で録られています。特に４曲目の「パッサカリア」は驚嘆ものです。これは演奏がそうなので
しょう。小澤もまだ若かったのでエネルギーが漲っていたのだと思います。ボストン響がそれに
応えて、これ以上踏ん張れないと言うギリギリの線で頑張った結果だと思います。実演も含めて
こんな凄い弦楽合奏を聴いた事はありません。これぞオーディオの極地です。

　流石に世界で５本の指に入れても良いボストン響です。バイオリンは勿論の事ですがビオラも
チェロ群も唸っていて、トロンボーンでも同時に鳴ってるのかと錯覚するような中音の充実振り
なのです。しかし昔に購入していたら十中八九お蔵入りになっていたと思います。「WR標準」で
何とかクリア出来るレベルですから最難関に属するCDではないかと思います。その意味でやはり
外盤の方がひずみ感が目立ち難く音が良い気がしました。それにしてもこの「パッサカリア」は
名曲であり名演であり名録音だと思います。これを聴かずして小澤／ボストンは語れないそんな
気がして来るCDでした。

　此処まで書いて本当にお蔵入りしてないのか一抹の不安が襲って来ました。そう思うと居ても
立ってもいられず急遽お蔵の中の調査をしたのです。そうしたら隅の方に有りました。ガレリヤ
シリーズの同じ盤が眠っていました。やはり買うには買ったのでしょう。しかし少しだけ聴いた
だけで「これはダメ！」と思って直ぐお蔵入りしてしまったので、記憶に全く残らなかったのだ
と思います。当時の装置ではまともに再生出来る訳がなかったのです。そう言うディスクです。

　それにしても、レスピーギに打ちのめされたのは２回目です。最初は内幸町の旧NHK ホールで
「ローマの祭り」を聴いた時です。彼方此方から音が飛んで来て、こんな凄い音楽があるのかと
一種のカルチャーショックを受けたのでした。その約60年後に今度は自宅の装置で、少し趣きが
違いますが、又してもレスピーギに遣られてしまったのです。この曲の真価は一流のオケが一流
の指揮者の下で演奏して初めて分かるのではないでしょうか。原曲を作曲したロンカルリはあの
世で苦笑いしているかも知れませんが。

　最後に、又「WR標準」を取得された方のお声を少し紹介させて頂こうと思います。最初は特別
価格でご提供したWRP-α30をご購入になった方です。この方はこれまで他社製プリメインアンプ
を使用されていましたので、取り敢えずVR付きとしプリメイン風にお使いになっていらっしゃい
ます。勿論、WRP-α30は基本的に「WR標準」です。プリは次の目標とされています。

★WRP-α30が無事届きました。
★早速接続してCDプレーヤーに入っていたリュート曲を聴いています。
★音を言葉で表すのは難しいですが、全体に重心がしっかりして、
★ホールを含めた楽器の実在が感じられます。
★B&W DM5 もまだ使い続けようと思いました。
★これからもよろしくお願いします、ありがとうございました。

B&W DM5 はMATRIXよりずっと前の1977年頃に発売されたモニターシステムです。

　次の方はWRP-Δ7 とΕ-50Hを使ってシステムを構成されている方で、マルチかバイアンプかは
存じ上げませんが、今回最終アップグレードをされてどちらのパワーアンプも「WR標準」を勝ち
取った方です。

●本日、10時に無事届きました。早速、繋ぎ6 時間ほど聴いおります。
●いままで有名な演奏家の演奏なのにいまいち、これがと思って聴いていましたが
●やっと素晴らしい演奏と納得できました。やはり素晴らしいアンプです。
●有り難うございます。これからもよろしくお願いいたします。

　最後の方はマルチの高音用に「WR標準」のΕ-5H をお買いになられましたがタンノイで聴いた
後にマルチに組み込んだ時のレポートです。

■昨日、マルチに組込みました。
■CD、レコードと音のチェック用に何点か見繕って鳴らしてみました。
■タンノイで聴いて、とても明瞭で表現力のあるアンプでしたので、
■問題なく相性の悪さは感じません。

　そして、次にそれまでWRの旧型に属するMOS アンプで鳴らしていた中音域にΕ-5H を入れた時
のご感想です。多分、高音用と中音用のアンプを交換されたか、高音域には昔の高音用アンプを
戻されたのではないかと思います。

■すると、音の輪郭が際立ち、打楽器の音が浮き上がり、
■それぞれの楽器が生き生きと聴こえ出して、臨場感のある素晴らしい音に変貌したのです。
■この変貌ぶりは予測を遥かに超えるものでした。

と言う事で、まだ多少の問題が残っているようですが結局、購入されたΕ-5H は中音用に回した
そうです。この帯域はアルテックの511Bと言うホーンを802-8 か何かのドライバーで駆動してる
と思われます。

　今回はここまでと致します。皆さんも「WR標準」のWRアンプを使って音楽を最高の音で楽しみ
ませんか？　オーディオアンプは色々な意味でストレスなく音楽に感動できてナンボではないで
しょうか。

1892川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Feb 7 13:00:00 JST 2019

千葉のK さん、其の二のご投稿を頂きありがとうございます。

　前回、電源フィルターが話題になりましたが、千葉のK さんがハイパワーモノアンプでC10 を
駆動されたいと言うお望みがある事を承知の上で、順序としては電源フィルターが先だと信じて
いましたので迷わずお勧めしておりました。理由は120Wステレオパワーアンプが本領を発揮さえ
すれば十分C10 をドライブできると思っていたからです。それでもダメならそれからでも遅くは
ないと考えていました。

　結果的に

★電源フィルターの効果もあって、ウチのデカイC10 はなんなく鳴るようになり、
★モノラルアンプへの執着が段々となくなっていきました。

と言って頂けたのです。政策的にはモノアンプを先にお勧めした方が良かったのかも知れません
が、私はやはり根っからのエンジニアなのです。オーディオの原則を無視することはできません
でした。

　その後プリとパワーアンプに関するアップグレードを「WR標準」に至るまで逐次やって頂いて
現在の状況に行き着かれている事になります。現況がどう言う音で鳴っているのかと言うことに
関しては次回以降に明らかにされると思います。

　装置の調子が良くなって来ますと優秀録音より、今一つ問題のあるソースの再生に関心が移る
傾向があります。千葉のK さんもご多分に漏れず色々なCDの品評会をお一人おやりになったよう
で、

★「おっ、かなり聞けるようになったなあ」とか
★「ん～、WRアンプをもってしてもやっぱり厳しいか」

と言うようなご感想をお持ちになったのです。前者は兎も角も後者の残念な結果は見極めが大切
だと思います。即ち、録音が悪いのか再生側に応分の責任があるのか類推しなければなりません。
音源にどんな音が入っているか故高城重躬氏に習えば「神のみぞ知る」ですから、本当のところ
は誰にも分からないのですが、其処は経験で積み重ねた知識を動員しなるべく正しい判断を下す
必要があります。また何かアップグレードを残した状態であれば「WR標準」までアップグレード
をして見る価値があります。

　「WR標準」に達したWRアンプを三種の神器で使いこなせば、再生側の責任は殆ど無いはずだと
私は考えています。だから「WR標準」と言うものを設けたのです。オーディオの歴史は再生音に
ガッカリする事の繰り返しだったのではないでしょうか。それが「WR標準」と三種の神器を適正
に使えば脱却できるようになったのです。これはオーディオ史上でも稀有な事ではないでしょう
か。その証拠として、幾ら高額なハイエンド機を揃えてても未だに「再生音にガッカリする」事
が起きている事からも分かります。K さんに依れば、1000万を越えるシステムでも

★もう全くのスカスカの音、高音は引き攣り、音楽としてていをなさない各楽器のバランス、
★驚くほどの酷い音でした。

と言う有様なのです。この高音が引き攣ると言う部分はブランド品を含む既成オーディオアンプ
の一大欠点であり、殆どのクラシック音楽の基本となる弦楽合奏の再生音を台無しにしてしまい
ます。WRアンプはこの難問を本質的に解決しており、だからこそ各楽器のバランスが取れて音楽
が生きて聴こえて来るようになったのです。この難問を解決する為には一流オケの弦楽合奏の音
を何回も聴いて熟知した上で、それを再生音上で具現化する為の技術を併せ持つ必要があります。

　CDがダメならLPが有るさと言う事になりますが、

★ただただうるさく、スコアの見通しも悪く、ブラームス特有のうねりも聞こえません。

と言う結果に終わったようです。LPの音をまともに再生するにも一定の技術が必要です。この音
をもしWRアンプを聴く前のK さんがお聴きになったとすれば、もう少し評価は甘くなったような
気がします。人間の聴感は、正しい音を聴くとドンドン研ぎ澄まされて行きますから、再生音に
対する評価がより厳しくなって来るはずだからです。

　アナログアンプがダメならデジタルアンプがあると言うご時勢ですが、

★奏者の熱が削ぎ落とされてしまったような気がして、一音楽家として寂しい気持ちになって
★しまいました。

と言う結果になったようです。大方のデジタルアンプに対する評価とも符号しますから、音楽
の情熱が伝わって来ないと言う致命的な欠陥をデジタルアンプは包含しているものと思います。

　またK さんは以前良いと思ってお使いになっていたアンプをアップグレードの時などの時に
引っ張り出してお聴きになる事があるそうですが、

★真空管の音を、生々しい！飛び出してくる！などと感激していたかつての自分が、
★なんだか滑稽に思えます。

と過ってのブランド品にガッカリされていらっしゃいます。こう言うお話は他のユーザーの方
からも偶に伺っていますので「WR標準」になったWRアンプの他社アンプに対する優位性が半ば
証明されたのではないかと思います。

　私は我が家で鳴る音は演奏会場の音のそれに近くなる事を目標にずっとやって来ましたので、
再生音とリアルな音を本質的に分けて考えた事はありませんでしたが、普通の方は当たり前の
事として「それらは別物」と割り切ってお考えになっているかも知れません。

　K さんも

★私は基本的にオーディオと実際の生音は違う、と思っています。

と仰っていて、それは寧ろ当然の事なのだと思います。しかしWRアンプの場合は一瞬見間違う
ような錯覚が起きるのです。違うと仰っているK さんも

★WRアンプでCD等を聞く時、コンサート会場や、音楽作りの現場にいるのでは、
★と錯覚することがしばしば起こります。

と錯覚が起きる事を認めていらっしゃいます。少し前になりますが、コントラバス奏者のO.M.
さんも似たような事を私に吐露された事があります。錯覚するのは私だけではなく良い状態で
WRアンプをお聴きになっているユーザーの方々の中にも起きているのです。

　K さんは何故錯覚するのか原因を追究されています。先ず、再生音にも色々あるわけですが、
次の文章は大切なところです。

★個々の楽器をきれいに録音しているものは多くあります。
★しかし、ここで問題になるのは、音楽を構成するそれらの音たちが、
★有機的に結び付いている様を録音出来ているか、そうでないか、という事です。

　よくビオラ・ダ・ガンバの音がどうのこうのと言うコメントがありますが、そう言う個々の
楽器の再生音の良し悪しは客観的な正しい判定が出来難いので、余り深追いすべきではないと
私は考えています。そうではなくて複数の楽器がハーモニーを形成する状態の方がその再生音
の判定が正しく出来ると私は思っています。

　ここら辺りの事をK さんは見抜いて居られ

★川西先生のおっしゃる録音の良し悪しとはそれを指していて、
★また有機的に結び付いていない演奏もあるわけで、それは悪いそれ、ということになります。

と付言されています。このご指摘を受けて無意識ながら私はそう言う風にコメントしていたの
かと初めて自覚したのです。私が良いと思う録音は此処でもご紹介していますし、個人的にも
K さんにお勧めした事があります。それは単なる美しいハーモニーではなく音楽として生きて
聴こえて来るか、情熱が感じられるかどうかが大切なのだと思います。

　さらに、

★作曲家に敬意を払い、奏者たちが持てる最高の技術と想いを込めて合奏(合唱)した
★音たちの競演を、忠実に再現するシステムを、世に送り出し続けておられる事です。

と付け加えられて、私のアンプ開発の目的をも明らかにして頂いています。

　しかしブランド品を含めて、

★いい『音』はかろうじて知っていても、それを組み合わせた先にある『音楽』まで
★理解しているメーカーなり、エンジニアはどれくらいいるでしょう。

と懐疑的になって居られます。他流試合の無残な結果からK さんがそうお考えになるのも無理
からぬ事だと思います。

　そして結論として、WRアンプは

★長い年月、音楽愛好家として（これが大事だと考えます）国内外のオーケストラなどの
★生の演奏に接し、音と音楽を熟知した審美眼(耳)と、それを具現出来る知識と理論、技術を
★兼ね備えた川西先生にしかなし得ないアンプなのだと思います。

と言うように、この上ないお言葉を頂戴致しました。大変光栄に存じます。

　そしてその身近な具体例として、昨年の夏にK さんが指揮なさった合唱のWR録音について

★私の思い描き、舞台で流れていたサウンドと音楽が、そのままに収められていたのです。

と評価なさって頂いています。当然ながらK さん宅のWRアンプシステムで再生されたご感想だ
と思います。

　この録音は色々な制約からワンポイントになりましたが、３点吊りが無かったのが逆に幸い
して良い音で録れたのではないかと思っています。３点吊りではマイクの位置がもう少し遠く
になっていたでしょうし、３点吊りに使われている長いマイクケーブルを使えばマイクの中に
セットされている送り出しアンプの負荷条件とWR製マイクプリの動作条件が不利になり、音は
もう少し悪くなった可能性があると思っています。ワンポイント録音としては理想に近い状況
だったのではないかと思います。これは企業秘密になりますが、ワンポイントマイクに依って
収録された音にもそれなりの処置を施しているからこそ、ひずみ感の少ない明快な音が得られ
ているのです。

　最後に駄目を押すかのように

★録音された演奏～それは単なる音の集合体ではありません～が、
★そのまま正しく再生されるには、
★研ぎ澄まされた聴覚と観賞力がないと到底到達し得ないことですね。

と私が訓練した聴感をもって「WR標準」の最後の詰めを行った事を評価して頂き、私の方法論
が結果的に正しかった事がK さんに依って半ば証明されたと感じています。この方法論が正規
に採られた事の証になる「WR標準」のアンプで聴くからこそ

★時折、CDなどを聞きながら、まさに演奏の現場にいるような感覚を覚えることが
★あるのでしょう。

と言う名誉ある結果になるのではないかと思います。そういう意味においてWRアンプは稀有な
存在なのです。

　次回の其の三を期待して、今回はこの辺りで失礼致します。

1891川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Feb 4 14:00:00 JST 2019

WRアンプ特価販売のお知らせ－－－Ε-5H １台　→　予約されました。

　少し前にΕ-5H のシャーシを纏めて作り置きしたのですが、今手元に１台だけが残っています。
余り長い間年月が経ちますと好ましくありませんので１台限定ですが特価販売を行いたいと思い
ます。シャーシ形体はVR無しのデザインになっています。取り敢えず、以下の２つの方法を提案
致します。

　１）標準タイプ　→　正価：\54,000

　２）「WR標準」タイプ　→　正価：\54,000 ＋高級部品化：\17,000 ＋ノイズ低減化：\5,000
　　　　　　　　　　　　　　合計：\76,000

ですが、それぞれ

　１）標準タイプ　→　特価：\45,000

　２）「WR標準」タイプ　→　特価：\60,000

とさせて頂きます。

　どちらでも構いませんし、その他のご希望のある方はお申し出下さい。ご相談の上決めさせて
頂きます。お申し出の早い方が優先されます。納期は２週間程です。WRアンプ入門のチャンスを
お見逃し無く。
        
追伸）千葉のK さん、その２のご投稿ありがとうございます。後日またお応えをさせて頂きます。

1890千葉のKさん(指揮者（オペラ、オーケストラなど）) Fri Feb 1 15:43:37 JST 2019

WR標準への道
其の二

前回は、電源フィルター導入時の失敗談を告白いたしました。
昨年始めからの、川西先生とのメールでのやりとりを読み返してみましたら、
私はモノラルアンプ×２導入を目標にしていたことを思い出しました。

そうして貯金を始めようとしていたところ、先生からそれよりも電源フィルター導入が先です、
と強く勧めていただき、電源フィルターの導入と相成ったのです。
電源フィルターの効果もあって、ウチのデカイC10 はなんなく鳴るようになり、
モノラルアンプへの執着が段々となくなっていきました。

そしてその後は、この掲示板での先生からの告知に従い、以下のアップグレードをしていただき、
2019年1月2日に、めでたくプリ、パワー揃ってWR標準となりました。
(現況については、次回以降にお伝えします)

今回レポートを書くに伴い、先生にアップグレードの内容を改めて教えていただきました。
私は本当に電気工学(？)に疎いので、先生に何回ご説明いただいてもちんぷんかんぷんなので、
出てくる音の感想しか申せません（笑）

アップグレードの経過

プリ

　１．高級部品化とTRの高ft化（送り出しアンプと安定化電源）→2017年12月

　２．送り出しアンプの電源電圧の適正な管理による動作の安定化
　　及び安定化電源の高帰還化→2018年7月2日

　３．プリ内ノイズの低減化、特にリレー基板のノイズ低減による高音質化→2018年暮

パワー

　１．安定化電源のTR高ft化→2018年2月

　２．安定化電源の高帰還化→201811月

　３．VRの短絡によるひずみの低減化→2018年11月

WRアンプの音に慣れてくると、この良い音が当たり前になったせいか、
私はしばしば変な行動をとるようになっていました。
かねてからイマイチだと思っていたソフトを進んで聞くようになったのです。
そして、「おっ、かなり聞けるようになったなあ」とか「ん～、WRアンプをもってしてもやっぱり厳しいか」
と妙な品評会を一人で開いていたのです。

また、たまには他流試合もしないとな、と都内に出ては1000万円級のシステムも聞きました。
詳細は記せませんが、400 万円のスピーカーを、300 万円超のセパレートで鳴らしてもらいました。
持参のソフトは700 万円(！)のCDプレイヤーで再生。
さすがに素晴らしかったです、ただしアンプ以外は。

それは、このあり得ない価格のCDプレイヤーではさすがに参考にならないから、
と50万円クラスに替えてもらってから判明したのです。
もう全くのスカスカの音、高音は引き攣り、音楽としてていをなさない各楽器のバランス、
驚くほどの酷い音でした。
50万円クラスのCDプレイヤーは前に所有していて実力はわかっていたので、
アンプの程度が判断できたのです。

また、アナログも、超名録音と評判の盤を、定番のLINN LP12 でかけてもらいましたが、
ただただうるさく、スコアの見通しも悪く、ブラームス特有のうねりも聞こえません。
家に戻り、すぐに聞き直したのはいうまでもありません。

また、別のお店で、ネットワークオーディオをやはり300 万円ほどのデジタルアンプで
聞かせてもらいましたが、そこから出てくる蒸留水のような澄んだ音には感心したものの、
奏者の熱が削ぎ落とされてしまったような気がして、一音楽家として寂しい気持ちになってしまいました。

また、先生にアップグレードしていただいている間は、プリ、パワーどちらかが不在になるので
仕方なく以前使っていた、いわゆるブランド品でならしていました。
しかし、WRアンプ導入まで素晴らしいと思っていたそれらの音のなんと不完全なことか。
真空管の音を、生々しい！飛び出してくる！などと感激していたかつての自分が、なんだか滑稽に思えます。

私は基本的にオーディオと実際の生音は違う、と思っています。
しかし、WRアンプでCD等を聞く時、コンサート会場や、音楽作りの現場にいるのでは、
と錯覚することがしばしば起こります。
それは何故か考えてみました。

電気楽器は別として、個々の楽器をきれいに録音しているものは多くあります。
しかし、ここで問題になるのは、音楽を構成するそれらの音たちが、
有機的に結び付いている様を録音出来ているか、そうでないか、という事です。

川西先生のおっしゃる録音の良し悪しとはそれを指していて、
また有機的に結び付いていない演奏もあるわけで、それは悪いそれ、ということになります。
WRアンプは、個々の楽器の音を抜き出して目立たせ、デフォルメするような事はしません。
(録音自体がそういう事をしている場合もありますが)

川西先生の良心は、作曲家に敬意を払い、奏者たちが持てる最高の技術と想いを込めて合奏(合唱)した
音たちの競演を、忠実に再現するシステムを、世に送り出し続けておられる事です。
いい『音』はかろうじて知っていても、それを組み合わせた先にある『音楽』まで理解している
メーカーなり、エンジニアはどれくらいいるでしょう。

WRアンプは、長い年月、音楽愛好家として（これが大事だと考えます）国内外のオーケストラなどの
生の演奏に接し、音と音楽を熟知した審美眼(耳)と、それを具現出来る知識と理論、技術を兼ね備えた
川西先生にしかなし得ないアンプなのだと思います。

あえて「音作り」と言いますが、WRアンプの音作りを理解するためのヒントとなる
エピソードをご紹介します。
昨年夏、私の演奏会の録音を川西先生のお子息にお願いしました。
先生もアシスタントを務めます、と同行されました。

予算の関係、ホールの設備等でご不自由をおかけしましたが、録音された音源を聞いて飛び上がりました。
私の思い描き、舞台で流れていたサウンドと音楽が、そのままに収められていたのです。
三点マイクもなく、マイクも立てられない状況だったので、
バトンから小さな２つのマイクを垂らしただけでクリアかつ音楽的(！)に録音されていました。
マイクアンプは先生作のWR製で、収録から再生まで、川西親子の一貫した感性、音楽性、
また哲学を感じずにはおれません。

録音された演奏～それは単なる音の集合体ではありません～が、そのまま正しく再生されるには、
研ぎ澄まされた聴覚と観賞力がないと到底到達し得ないことですね。
そういう意味においてWRアンプは稀有な存在なのです。
ですから時折、CDなどを聞きながら、まさに演奏の現場にいるような感覚を覚えることがあるのでしょう。

アップグレードのたび、全くブレない「音作り」の路線の中で、まだまだ上があるのか、
と感心しながら、上級・高級になっていく音を楽しんでいました。

次回はフォノイコライザー導入の巻きへと続きますが、
そこには、川西先生のある言葉に対する、私にとっては少し大きな疑問がありました。

其の三へつづく

1889川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Jan 25 11:15:00 JST 2019

千葉のK さん、ご投稿を頂きありがとうございます。

　息子と一緒にお宅に伺ったのはもう１年以上も前の晩夏と言いますか初秋と言いますか９月の
終りの事でした。セッティングを終えて取り敢えずの音が出たのも束の間、お暇の時間になって
しまい念の為に持参した電源フィルターを取り去り、代わりのものを探して頂いてナショナルの
テーブルタップに置き換え、急場を凌いでお宅を後にしたのでした。

　普段ご使用になられているコンセントには色々なものが差し込まれていましたので、それまで
使われていなかった壁コンセントを試して、音の方も何とか落ち着いたのを確認するのが精一杯
でした。スピーカーが本調子でなかった事もありましたが後ろ髪を引かれるような気持ちだった
と思います。

　その後直ぐに、それまでのシステムとソフトを取っ替え引っ替え交互にお聴きになられて

●昼間不調だったスピーカーの左も正常になり、今はご機嫌に鳴っています。

と言うレポートを頂戴し取り敢えずホッとしたのを憶えておりますが、セッティングの時に RCA
接続ケーブルとスピーカーケーブルはWR製のものを持参して置いて参りましたので、三種の神器
の内の電源フィルターの事だけはずっと気になっておりました。機会があれば是非と思っており
ましたが、やっとそれが叶えられる日がやって来たのです。それはもう翌年の春爛漫と言う日和
でした。

　どれだけ効果があるのかレポートを期待しながらお待ちしていたのですが、中々お返事があり
ません。これは返事のしようがない異変が生じているのではないか？と嫌な予感がしたのですが、
案の定「電気がきれいになると、音にはどんな効果が出るのでしょうか？」と言うようなお困り
の様子が伝わって来るお問い合わせを頂いたと記憶しています。

　直ぐにでも飛んで行きたい程でしたが、八王子から千葉までは首都高の環状線を抜けなくては
ならず結構時間が掛かってしまいますので行くに行けず、兎に角メールで未然にお知らせした

■使わないデジタル機器（例えば、充電器、PC、プリンター等々）の電源ケーブルはコンセント
■から抜く事が大切です。

と言う格言？をお守り頂いた事で何とか解決に向かったようで胸を撫で下ろしたのでした。その
時のお言葉が

●先生のアドバイスを思い出し、PC関係の電源を全て取り除きました。
●するとどうでしょう。
●これぞWRアンプの音！それも以前より、繊細で、力強い芯のある音になりました。
●前後左右の広がりも格段に増し、音数が増え、よりリアルな音場となりました。
●そうなのです、電源フィルターを取る壁のコンセントに、PCの電源をとるタップをさしていた
●のです。
●しかし、先生ごめんなさい。デジタル関係の電源がこんなに悪さをするとは、正直思っていな
●かったのです。

　それもそのはずです。このような事を常識だと考えているオーディオマニアがどれだけ居るか
心許無いのが現状です。私は昔から高周波ノイズはオーディオの敵と思って研究をして来ました
が普通の方はそこまで考えませんし、デジタル機器が高周波ノイズの震源になると思っている方
も少数派ではないでしょうか。PCオーディオをやる方は余程注意をして頂きたいと思います。

　私もWRのHPを運用するサーバを自宅に設置しておりますが、電源には市販の電源フィルターを
幾重にも噛ませています。サーバはオーディオと無関係ですから市販の電源フィルターでも良い
のですが、PCオーディオの場合はDAC を含みますので、出来ればWR製の電源フィルターを使って
頂いた方が無難かと思います。O.M.さんは正規のWR電源フィルターの他に、テレビやLAN を含む
デジタル機器全てを賄う４口のWR電源フィルターを別途お使いになっています。此処まで対策を
しっかり為さっている方は例外的でしょうから、まだまだ電源フィルターの活用次第でWRアンプ
の音を向上させる伸び代が残っている事になると思います。

　斯くしてK さん宅には三種の神器が揃い、WRP-α9 ＋WRP-α120 ＋ PiegaC10 のシステムの音
は極上のものになったのだと推察しております。勿論、WRP-α9 及びWRP-α120 は「WR標準」の
認定になっています。そして、

●2017年夏、川西先生とWRアンプに出会い、長きにわたるオーディオとの格闘に
●終止符を打ちました。

と言うお言葉を頂けたのです。ブランドオーディオから抜け出せない方が多い中潔く実質を採る
事を決断されたK さんに敬意を表したいと思います。それは取りも直さずK さんは聴感に優れて
いて、ご自分で自信をもって音の良し悪しを判断できるからだろうと思います。さらに、

●WRアンプの、自然で、実存感ある音は、アナログばかりでなく、CDも積極的に鑑賞出来るよう
●になり、
●私のオーディオ人生は一変しました。

と私に取って光栄なるお言葉も頂戴したのです。アナログよりCDの方が再生が難しいのは仕様の
違いと言うよりは、CDプレーヤーがデジタル機器である事があると思います。既成オーディオを
熟知し且つ音楽で身を立てている方に高く評価されたWRアンプは私の宝であり、音楽を少しでも
良い音で楽しみたいと願うオーディオ好きの方に自信をもってお勧め出来るアンプになりました。

　最近、試聴するアンプの殆どが「WR標準」認定候補アンプばかりなのですが、色々なテストCD
を次から次に掛けてそれがクリアするかやっている内に、何だかんだ言っても結局は「楽しくて
ずっと聴いていたい音」になった時がその時だと気付きました。「WR標準」になったアンプの音
はそう言う音になっています。CDを取り出したくなくなるような音なのです。今風に言うならば
「グルービーな音」と言えるのかも知れません。

　K さんの文章は読んで楽しく且つ音楽とオーディオの本質を突いていて痛快です。次回を期待
して今回はこの辺りで失礼します。

1888千葉のKさん(指揮者（オペラ、オーケストラなど）) Sun Jan 20 14:32:21 JST 2019

2018年  WR標準への道
その一  電源フィルター導入と懺悔の巻

みなさま、ご無沙汰をしております。
2017年夏、川西先生とWRアンプに出会い、長きにわたるオーディオとの格闘に終止符を打ちました。
オーバーと思われるかもしれませんが、WRアンプをご使用の方々なら大きくうなずいていただける
と思います。
WRアンプの、自然で、実存感ある音は、アナログばかりでなく、CDも積極的に鑑賞出来るようになり、
私のオーディオ人生は一変しました。

それほど、WRアンプで聞くCDの音は豊かで、音楽的です。
長年増える事がなかったCDソフトも、昨年はずいぶん買い足しました。
さて、オーディオはもうこれで完結と思っていましたが、川西先生からWRアンプの完成には
絶対電源フィルターが必要です、と折にふれお勧めいただいていました。

しかし、なかなか導入に踏み切れなかったのは、川西先生が拙宅にみえた時、
「これは良くないです」と指摘されたブランド品のクリーン電源を外した経緯があったからです。
壁のコンセントからとったナショナル(！)のテーブルタップとWRアンプを繋いだだけで、
それはそれは良い音がしていたので、WRはどんな電気でもへっちゃらなんだ、
と高を括っていたのです。

しかし、信頼する川西先生のお勧めだから、きっともっと良い音になるのだろう、
と導入を決意しました。
電源フィルターが届き、どんな良い音になるんだろう！と期待満々でいざ音出し！
ん？ん？ん？
どうした？
スカスカで、バランスが悪く、なんだか悲しい音になってしまいました。
これってエージングが必要なの？と数日様子を見ましたが、変わらない。
焦ってスピーカーのセッティングを変えたり、アナログなどの水平を取り直したり、
システムを接続し直したり、とやれることは全てやりました。が、だめです。
万策尽きた... と落ち込み、先生になんとお伝えしよう、と悩んでいました。
そしてふとラックに目をやりました。

「えっ、まさかこれか？」
実は、WRアンプを導入してしばらく経ってから、良からぬ思いが首をもたげてきたのです。
HDD に貯めてあるリッピングした数千曲を再生したいなあ、
という悪魔の誘惑に負けてしまったのです。
いや、それ自体は悪いことではないのでしょうが、私は、WRアンプの電源をとっている同じ壁から、
PCオーディオの電源も取るというご法度を破っていたのです。
ただ、ただです。
それでもなんの影響もなく良い音がしたので、「なんだ、大丈夫じゃん」
とそのままにしていたんです。

全てやりきった後ですので、残りはやっぱりこれなのかな、とPCを取り外し、
アンプから遠ざけました。
そして、スイッチオン。

あら不思議、WRアンプの素晴らしい音が一層あざやかに蘇りました。
事の顛末を先生にお伝えすると「あら不思議、ではありません！当然です」
「でもそれまで大丈夫だったんですよ」
「それはたまたまです。それがオーディオの難しく、恐ろしいところです。
それまで良い音がしていたのは奇跡的になんとかなっていただけです。
良い電源が入ったことで、バランスが一気に崩れたのでしょう。
まさかそんなことをしていたなんて！」と心底呆れられてしまいました。

そういえば、有名店のブログで、強いトランスを持った古いアンプがアンテナになって、
他のシステムに悪さをしていた、というのを読んだ事がありました。
「そんな事もあるんですね。オーディオってやっぱり奥が深いです」
しかし、この事もはるか以前に、先生が雑誌に載せていたことだったそうです。
本当に川西先生の知識と経験の深さは、やはり並大抵ではありません。

さて肝心の電源フィルターですが、その効果はめざましく、
それまでもクリアだった音がますます澄み渡り、ソリッドになりました。
雑味がないという平凡な言い方になりますが、既製のシステムでは同時に旨味もなくなったり、
耳をすますとやはり引き攣りがあるのです。

それらを同時に最高水準で達成しているWRアンプの真価を、
更に発揮する必須アイテムとして、先生が強くお勧めするのは当然の事でした。
WRアンプのオーナーで、まだ導入されてない方がらいらしたら、是非お勧めいたします。

以上、電源フィルターの導入と、失敗ならび教訓の巻でした。
さて次回は怒涛のアップグレード、フォノイコ導入へと続きます。
長文、ご容赦ください。

1887川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Jan 15 10:00:00 JST 2019

ウィーン八重奏団　ＶＳ　ベルリン・フィルハーモニー八重奏団

　先日、新しいテストCDが加わったと申し上げましたが、メンデルスゾーンの八重奏曲のＢ面に
カップリングされていたのがベートーベンの七重奏曲でした。こちらの音も気になりましたので
じっくり聴いて見る事にしました。これまで七重奏曲はベルリン・フィルハーモニー八重奏団の
演奏で聴いていました。多分、ウィーン八重奏団の方の再生が思うように行かなかったからだと
思います。

　此処で両者のメンバーを紹介して置きたいと思います。

　ウィーン八重奏団員：

　　ウィリー・ボスコフスキー（バイオリン）
　　ギュンター・ブライテンバッハ（ビオラ）
　　ニコラウス・ヒューブナー（チェロ）
　　ヨハン・クランプ（コントラバス）
　　アルフレード・ボスコフスキー（クラリネット）
　　ヨゼフ・フェレバ（ホルン）
　　ルドルフ・ハンツェル（バスーン）

　ベルリン・フィルハーモニー八重奏団員：

　　アルフレート・マレチェク（バイオリン）
　　土屋　邦雄（ビオラ）
　　ペーター・シュタイナー（チェロ）
　　ライナー・ツェペリッツ（コントラバス）
　　ヘルベルト・シュテール（クラリネット）
　　ゲルト・ザイフェルト（ホルン）
　　ハンス・レムケ（ファゴット）

どちらも首席クラスの錚々たるメンバーです。前者はキングから発売されたKICC 8283 で後者
はタワーレコードが企画しユニバーサルが製作したPROC-1605/06の中の１枚ですが、こちらは
シューベルトの八重奏曲が収録されています。この曲もベートーベンの七重奏曲と並んで有名
な室内楽曲ですから、何れ取り上げたいと思っています。

　ウィーン八重奏団の方は1959年のデッカ録音で、エンジニアはジェームス・ブラウンが起用
されています。この人は地味ながらも手堅く録音するので私はコードン・パリーより好ましい
と思っています。ベルリン・フィルハーモニー八重奏団の方はフィリップス録音で音の良い時
（1970～1975年）のものです。

　「WR標準」のシステムで聴きますとどちらの音も甲乙が付けられない程に充実して聴く事が
できます。ＷＢＣの為もあると思いますが、どちらもコントラバスがしっかり低音部を支えて
いて安定感のある音です。この七重奏曲はバイオリンが１丁なので中高域が控えめなのが幸い
してるのかも知れません。

　演奏内容ですが、ウィーンの方が柔軟でppからffまで自在に使いこなしています。その為も
あってか古き良き時代のウィーンの香がして来ます。ちょっと篭って聴こえるウィンナホルン
の音がそれに輪を掛けます。録音のせいもありますがコントラバスも強いアクセントが地底に
這うようです。ボスコフスキーのバイオリンは流石で流麗でありベテランらしい味があります。
やはりウィーンフィルを思わせる音です。

　一方ベルリンの方はカラヤン全盛期のメンバーだけにアンサンブル重視で、一糸も乱れない
律儀な演奏です。録音のせいだと思いますがコントラバスが少し控え目です。コントラバスに
限らず余り個性を表に出さずに合奏に重点を置いてる印象ですが、名手ザイフェルトの端正で
締まったホルンの音が楽しめます。総じてちょっと糞真面目とも思える演奏なので少し単調に
感じる事もないではありません。この曲は６楽章制である上に時間にして40分を越しますから、
もう少し遊びがあっても良いのかなと思いました。こちらもベルリンフィルを思わせるような
演奏です。

　コンマスの演奏スタイルが全く違うのも興味深いものがあります。ボスコフスキーは本当は
正確ではないのかも知れませんが、それを感じさせずに滑らかに弾くのに対してマレチェック
の方はバカ正直に全ての音符を弾こうとして、少しぎこちなさを感じさせないでもありません。
特に終楽章にはバイオリンの早いパッセージがあるのでよく分かります。

　さて、皆さんは如何お感じになるでしょうか？　私は昔はこんな音では楽しめなかったなぁ
と感慨深く聴きました。ホルンがこんなにも距離感を持ちながらもハッキリ定位して聴ける事
は昔はありませんでしたから隔世の感があります。そもそも再生音が異様に響くホルンの音で
台無しになったのが始まりでした。酷い時はアルミサッシのガラス戸がビリビリと振動した事
もあった程です。それとほぼ同時期にピアノの音階の何処かで耳に異様に響く音がしたのです。
今ではどちらの音も自然な音で聴けるようになっています。

　この改善は、長年に亘る地道な基礎研究とオケの定期に通って訓練した聴感を以ってアンプ
の再生音を厳しく吟味して来たからこそ得られたものであると思います。オーディオはその場
限りの個人の趣味が表に出た評価法を繰り返す限り、現状から一歩も向上する事はないと思い
ます。学会で通用するような厳密性がなくても、もう少し科学的なアプローチが絶対に必要だ
と思います。巷のオーディオに関する記述には、電気の基礎知識を持ち合わせているのか疑わ
しい表現が溢れています。これでは調布さんも仰っていますが、「オーディオ機器の取っ替え
引っ替えに辟易」する事を繰り返すばかりでしょう。

　最後に、最近「WR標準」のWRアンプをお買いになったユーザーの方のお声もお届けしようと
思います。

　最初は半年程の間Ε-5H/M と言う10W のモノアンプを片チャンに使って、DAC ダイレクトで
お聴きになっていた方が、L-Pad 付きの完全アップグレード済みプリアンプWRP-α9/CUSTOMを
導入された時の感想文です。

★半日ほど前にWRプリを受け取っていたのですが、返信するのも忘れて
★いろいろなソースをとっかえひっかえ聴いていました。
★もうこのプリアンプは手放せません。

★プリの導入に合わせてスピーカーを新調しジョセフオーディオの
★RM7XL という製品にしたのですが、WRアンプのおかげで素晴らしい音が出ています。
★中高音は相変わらず素晴らしいのですが、バスドラの音に「おっ！」と思ったのは初めて
★です。
★音楽を聴くのがさらに楽しくなりそうです。

★この度は素晴らしい作品をありがとうございました。

と言う内容です。バスドラの音に「おっ！」と思ったと言う事ですが、スピーカーも良いので
しょうけどＷＢＣと安定化電源採用のWRパワーアンプの為も大いにあったのではないかと思い
ます。

　次の方はメインシステムはマルチなのですが、１発で聴けるセカンドシステムを構築する為
に先ず高音用アンプとしてΕ-5H をご購入になり、空いた高音用のアンプで１発を鳴らそうと
お考えになったのだと思います。それでどうせ購入するのなら「WR標準」のΕ-5H になさった
のだと思います。 

　私が発送した際に「出来るなら１発でも聴いて見て下さい」とお願いした事もあり、それを
守って聴いて頂いたのだと思います。以下が発送後に届いたメール文です。

●マルチのシステムの他に、タンノイのスピーカー（Berkeley-MK2）のものがあるので、
●今そちらの方でE-5Hをセットして聴いています。

●今まで、かなりパワーのあるアンプを使用しておりますが、
●E-5Hで、タンノイのスピーカーがいい音出しています。
●良いものを、コストパホーマンスの高い値段で購入出来て、大変満足です。
●どうもありがとうございました。

と言う内容です。

　この内容から伺える事は「かなりパワーのあるアンプ」よりいい音で鳴ったのではないかと
言う事です。それでないと「コストパホーマンスの高い値段で購入出来て、大変満足です。」
と言うお言葉にはならないだろうと思います。能率が91dBあると言ってもひ弱な5Wアンプでは
38cmのスピーカーを「いい音」では鳴らせないのではないかと思います。

　WRアンプの音を体験されていない皆さま方には信じ難い事かも知れませんがこれが現実なの
です。5Wx2と言うミニアンプが一桁以上もパワーのあるアンプに勝ると言う事が実際に起きて
います。5Wでも「WR標準」に認定されたアンプの実力は格別なのです。

　殿にご紹介する感想文は、プリアンプもパワーアンプも「WR標準」のものをお持ちで、WRの
三種の神器である

　１）WR推奨スピーカーケーブル

　２）WR製RCA ピン接続ケーブル

　３）WR電源フィルター

の内、１）と２）が既に揃っていて、この度３）のWR電源フィルターを入手された方の第一声
です。この方は過去に市販のものを使って以来電源フィルターには少し懐疑的になって居られ
ましたが、この度私を信用して下さりWR電源フィルターの導入を決断されました。三種の神器
に付きましては、これまで折に触れてお使い頂くようにお願いしております。WR掲示板に目を
通された方は心当たりがあると思います。１）や２）を軽く見て居られる方も多いと思います
が、多くのケーブルは既成オーディオに合うように作られていますから本質的に違うWRアンプ
に向かない場合が多いのです。

■今までの音に不満があったわけではない中での導入で、変化がわかるかどうか不安でした。
■接続すると音の輪郭が自然な感じで綺麗になった印象です。

■また、音の重心が下がり、実在感が出てきたように思いました。
■体調で音がよく聞こえたり悪く聞こえたりすることがよくあるので、もう一度元の電源に
■戻してみました。

■すると、今まで感じていなかったのに音の輪郭にノイズがまとわりついているのに
■気付きました。

■音がきつくなることもなく、力感がなくなることもなく、ノイズだけがなくなる印象で
■本当に素晴らしいです！
■これは必須ですね。

と言う内容です。そうなんです。ノイズが直接聴こえる訳ではありませんが壁電源コンセント
にはアンプに有害な高周波ノイズが氾濫している事は事実です。その意味ではこれはデジタル
化され便利になった生活の附けだと思います。平成と言う時代はそれを最も顕著にしたのでは
ないかと思います。残念ながら高周波ノイズに依って帰還アンプの過渡ひずみは増大する事に
なります。WR電源フィルターは市販のものと違って、パスコンにSEコンやASC コンしか使って
おりませんので音質劣化の心配は無用でありその原因となる高周波ノイズを軽減し音質を改善
します。

　この方が「今まで感じていなかったのに音の輪郭にノイズがまとわりついているのに気付き
ました。」と仰っていますが、これは現在の音に慣れてしまいますと余程酷い音でない限りは
現状を受け入れようとする本能が働くからです。その方が色々な意味で幸せだからでしょう。
「今までの音に不満があったわけではない中での導入」と冒頭に言われている事からも分かり
ます。しかし一度ワンランク上の音を聴いた途端、それまでに実はあった過渡ひずみに気付く
或いは過渡ひずみが有った事を認めざるを得なくなります。これを繰り返す事で、聴感が訓練
されるのです。これはアナログの世界ですから理想に向かって漸近する事になりますが実用的
には「WR標準」のWRアンプと三種の神器をキッチリ揃えて頂ければ、必ず終止符が打てるもの
と私は信じています。

　これまで余り大きな声で申して来ませんでしたが、WRアンプを最良の状態でお聴き頂くには、
WR電源フィルターも実は必須なんです。特に「WR標準」まで高音質化した場合はそれだけ聴感
も良くなっているはずですから尚更だと思います。決してお安くありませんので後回しにして
先ずアンプのご購入をお願いしておりますが、アンプだけで万事が解決する訳ではなく最高の
状態でお聴き頂くにはWR電源フィルターまで揃えて頂きたいのです。贅沢品かも知れませんが
此処に改めてお願いする次第です。私の試聴記も「WR標準」の認定も全て三種の神器を使って
の話なのです。

1886川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Jan 9 14:00:00 JST 2019

初荷は「WR標準」を満たした、WRP-α9/CUSTOMのブラック仕様でした。

　実は新規Ε-5H では初の「WR標準」であるΕ-5H/CUSTOMもほぼ同時に完成していました。勿論、
WRP-α9/CUSTOMの方は我がΕC-1Hと置き換えて試聴を行い、「WR標準」の認定を実施しましたが、
それをそのまま拝借して、今度はΕ-5H/CUSTOMが「WR標準」に達しているかどうかの判定を行い
ました。

　このように原器を変えても「WR標準」の認定が問題なく実施できるのは、「WR標準」に達した
WRアンプはほぼ区別が付けられない程に音質レベルが揃うからなのです。だからこそ「WR標準」
と認定する意味があるのですし、その価値も保たれるのです。

　プリのΕC-1HとWRP-α9 はシャーシが違いますが、回路が同じであれば音質レベルには違いが
殆ど生じません。両者にはEQ基板が入るか否かと外形的なコスメティックの違いがありますので
その辺りが選択のポイントになります。パワーアンプの方は出力に相違がありますが、基本的な
音質レベルに差がある訳ではありません。「贅沢」と言える部分での音質の違いがある程度です。
これさえも無いと言うのであれば、それは嘘になるでしょう。

　「贅沢」に属する部分の音の違いは、聴感がきちんと鍛練された人で無いと分からない部分だ
と思います。生楽器の豊かな原音を再生音で100%再現するのは至難の技です。微妙なニュアンス
の違いは当然あると思います。しかしその雰囲気が酷似する程に再生音をレベルアップする事は
不可能ではありません。その際、より酷似させるには「贅沢」に属する部分の音質が多い程有利
になります。換言すればハイパワーアンプの方が有利な訳ですが、それはご自身の懐と相談する
話ではなく、ご自身の聴感と相談すべき事なのです。

　しかしこれとて、ブラインドでテストされたら果たして100%言い当てられるでしょうか。私は
実際にΕ-5H/CUSTOMの音を聴いて「それは無理なのでは？」と思いました。確かに違いがある事
は分かっても正確に言い当てる事は難しいと感じました。音楽ジャンルに得手不得手もあります。
私は木管・金管よりは弦の方が分かり易いですし、室内楽よりオケものの方が分かり易いですが
それでもブラインドで100%言い当てる自信はないと感じました。ウッカリすると聴き逃す程の差
なのです。

　行く行く聴感が鍛えられる可能性があるので、それを見込んでよりパワーのあるパワーアンプ
を先行投資してご購入になるのも一つの選択子ではありますが、そんなに聴感に自信がある訳で
はないものの、生の演奏会の雰囲気を少しでも感じながら音楽を楽しんで行きたいと常日頃から
考えていらっしゃるのであれば、Ε-5H/CUSTOMでも十分ではないかと思いました。その辺りの事
を実際のテストCDに照らして見て置こうと思います。

　試聴に欠かせないのは例のサンサーンスとモーツァルトです。どちらも一定の基準を想定して
いて、それに達していないものは「WR標準」には認定致しません。例えば前者であれば弦の音が
ザラつく、極低音がブーミー、木管の定位が悪い等、後者であればストバイが左に引っ張られる、
耳にキツク響く、高域の微細音が物足りない等です。納得できない場合はアンプの見直しを行い
ます。勿論、Ε-5H/CUSTOMもこれをクリアしなければ「WR標準」に認定しません。

　次にカラヤン／ベルリンフィルの「パルジファルの第３幕への前奏曲」です。前半部分の曖昧
模糊とした感じが何処までクリアに清楚に聴こえるか、後半部分は当然ながら目一杯に鳴るあの
カラヤン／ベルリンフィルの強奏が無ひずみで堪能できるかどうかが鍵になります。バイオリン、
金管のエネルギーバランスが上手く取れているか、聴いた後「ああ凄いな！」と打ちのめされる
かどうかです。今回も冷静に確認しましたがΕ-5H/CUSTOMでも合格だと思いました。

　最近ジャズファンもいらっしゃるので、ホリー・コールの「TRUST IN ME 」も聴くようにして
います。ポイントは彼女の声もそうですがそれ以前にピアノの音が安定してリアルに聴こえるか
どうか、ベースの極低音が少し強調されて録音されていますが、それが食み出さないかどうかを
重点的に聴きます。パワーアンプのドライブ能力が足りないと、だらしない音になり勝ちですが
Ε-5H/CUSTOMはこれもクリアしました。

　今回から加えた新たなテストCDを次にご紹介します。それはメンデルスゾーンの八重奏曲です。
シューベルトの八重奏曲とは違って弦楽四重奏団２つで構成されています。なのでバイオリンの
勢力が強く、低音部を受け持つチェロが余程頑張らないと、中高域にエネルギーバランスが偏り
勝ちになり、バランスの良い再生が難しいのです。音数も多くなりますのでスッキリした音には
なり難い謂わば難曲です。演奏はウィーン八重奏団(KICC 8283）です。これまではずっとお蔵に
なっていました。昔のWRアンプではまともに再生できなかったからでしょう。録音はカルショウ
が去った後のデッカ録音なので、カップリングされているベートーベンの七重奏曲とは肌合いが
少し違ってハードでシャープです。その分再生は難しくなります。

　それが「WR標準」のプリとパワーアンプを組み合わせると聴けるようになっていました。この
曲は生でも聴いていますが、ほぼその音質レベルで聴けるようになっています。ストバイの強烈
な伸びはまだ良いとしても、その他のバイオリン、ビオラが支える中音部分はグチャグチャした
感じがあって、普通のアンプではそれがひずみ感になって聴くに耐えない嫌な音になるのですが
流石「WR標準」です。生で聴いた感じにかなり近いプレゼンスで聴く事が出来ました。この曲を
この程度の音質で楽しめるのであれば取り敢えず文句はないと思います。Ε-5H/CUSTOMでも全く
問題はありませんでした。

　最後は「さまよえるオランダ人」です。「水夫の合唱」とその後のオランダ船の不気味な合唱、
オランダ人、ゼンタ、エリックの三重唱、そして幕切れと聴きどころを聴いて行きます。オペラ
の醍醐味が自分の装置で等身大に楽しめるかどうかです。音数が多いので混濁し易いアンプでは
総合芸術であるオペラを楽しむ事は出来ません。正直に申してΕ-5H/CUSTOMが少し引けを取ると
すればこのオペラかなと思いました。それだけオペラの再生は難しい事になります。唯、VR付き
仕様でしたので、その問題がオペラで少し顔を出した可能性も否定出来ないと思います。

　大体、このようなテストをして「WR標準」を認定しています。Ε-5H/CUSTOMは、5WX2の低出力
です。我ながら凄く健闘してると思いました。片手で軽く持てるこのミニパワーアンプから出る
音とは思えません。これこそ技術の勝利なのだと納得しました。調布さんも仰っていますが蟻が
巨人をやっつける事もあり得るのです。Ε-10H等のこれ以上のパワーを有するWRパワーアンプは
「贅沢」な部分が増えて行くとお考え下さい。何処までオーバーエスティメートするかはご自身
の聴感とご相談頂ければと思います。

1885川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Jan 3 10:30:00 JST 2019

謹賀新年　2019.1.3

　調布さん、オーディオに対する的確なご投稿を頂きありがとうございます。

　線材交換以降のアップグレードを、一気に３台纏めてアップグレードさせて頂きましたので、
ハードな作業になりましたが、音質も一気に「WR標準」に駆け上りましたので、謂わば劇的な
変貌を遂げたのではないかと思います。調布さんも

★CD再生での自然さ (鮮烈さ滑らかさ実在感 )に驚きます。

と仰っています。そして

★同じスピーカー (オーディオ業界では高くもない中級スピーカー) で
★このような音が出せるのかと思いました。

とその変化の大きさを認めていらっしゃいます。WRアンプの標準型の音と「WR標準」の間には
かなりの差がある事が分かります。確かにアップグレード代は掛かりますが、やれば例外なく
音質が特上品質の音に向上します。オーディオはスピーカーではなくアンプで決まるのです。

　調布さんは

★10W という数字の印象とは真逆で、
★お蔵入りした60W の某メーカーアンプより締まった上質 (自然そのもの) な
★低音が出ています。音楽の再現性は比較になりません。

と吐露されていて、他メーカー製のアンプの音質とは格段の開きがある事を認識されています。
これは調布さんだけではなく直近にご投稿のK.G.さんも同様の事を仰っていますし、これまで
にも多くの方が指摘されています。WRアンプはOne of them ではなくOnly oneなのです。

　WRの音質は音楽を出来るだけ自然に聴きたいと言う欲求のある方には100%受け入れられる音
であり、その意味に於いて普遍性があります。調布さんは

★個人の感性による趣味の聴き方を除き

と断っておいでです。そうなんです。オーディオが混乱してしまったのは、楽器の自然な音を
基準にする事なしに、この「個人の感性による趣味の聴き方」で音質を判断して来たからだと
思います。要するに個人の趣味ですから基準が曖昧なのです。謂わば、物差しが無いも同然で
あり、オーディオが科学的に正しく発展出来なかった理由でもあるのです。
　
　そう言う趣味を志向する事は勿論自由なのですが、アンプを作る側がそうであっては購入者
を混乱させる事になってしまうのです。

　K.G.さんも同様の事を仰っていますが、調布さんもWRアンプの価格やアップグレードの費用
が安価であると

★アンプの価格やアップグレードも費用対効果は
★私の知る常識では考えられませんし
★仮にどれだけ払っても実現できないように思います。

と指摘されています。単純なハイC/P アンプで無い事は「仮にどれだけ払っても実現できない
ように思います。」と言うお言葉からも明らかです。

　先程オーディオが混乱していると申しましたが、調布さんもその煽りを受けたお一人であり

★WRアンプに巡り会う前の
★オーディオ機器の取っ替え引っ替えに辟易しながらも
★オーディオ沼にはまっていた自分に
★散財をするなと言いたいです。

と懺悔されています。調布さんだけではないでしょう。トータルすれば百万いや一千万以上の
散財をしてしまった人も多くいらっしゃるはずです。WRアンプに辿り着いてやっとその迷い道
から抜け出せた人も少なくありません。

　調布さんもそのお仲間であり

★よく足を運んだオーディオショーでは聴けなかった
★この素晴らしい稀有なアンプを知ることができ
★答えのないオーディオ機器選びから解放されたのは
★本当に良かったです。

と安堵されていらっしゃいます。

　自分はあくまで「個人の感性による趣味の聴き方」で通すとお考えの方は、WRアンプの音は
趣味に合わないかも知れませんから、無理にお買いになる必要はないと思いますが、そうでは
なくて音楽会やライブの感覚を我が家でも味わいたいと真剣にお考えの方は、是非WRアンプを
お求め頂ければと思います。

　満足の行くような音で音楽に没入出来るようになるだけでなく、今後の散財が無くなります
ので落ち着いて音楽ライフを楽しむ事が出来るようになると思います。今からでも遅くはあり
ません。今の音にご不満があるのならば勇気をもって乗り換えた方が得策だと思います。WR製
のアンプは他社メーカー製のアンプと本質的に違うのですから。

　末筆になりますが、WRアンプの音質をここまで高められたのは、私を信用して下さり多くの
アップグレードにお付き合い頂いたユーザーの方々がいらっしゃったからだと思います。此処
に改めて謝意を表したいと思います。

　ありがとうございました！

1884調布さん(会社員) Sun Dec 30 22:51:27 JST 2018

「WR標準」にアップグレードしていただきました。

はじめまして。
先日、高スルーレート化で止まっていたE-5Hと E-10H、購入時のままの EC-2Hを
「WR標準」までアップグレードしていただきました。
WR三種の神器のうちWR製 RCAケーブルとWR製スピーカーケーブルも揃いました。

一気にアップグレードしたので総合での感想ですが、
CD再生での自然さ (鮮烈さ滑らかさ実在感 )に驚きます。
機器のアップグレードにより
同じスピーカー (オーディオ業界では高くもない中級スピーカー) で
このような音が出せるのかと思いました。

以前はバイアンプでしたが、今はE-10H の 1台にしています。
10W という数字の印象とは真逆で、
お蔵入りした60W の某メーカーアンプより締まった上質 (自然そのもの) な
低音が出ています。音楽の再現性は比較になりません。

個人の感性による趣味の聴き方を除き、純粋に自然な音楽を楽しむ人には
これ以上のアンプはないのではと思います。
アンプの価格やアップグレードも費用対効果は
私の知る常識では考えられませんし
仮にどれだけ払っても実現できないように思います。

WRアンプに巡り会う前の
オーディオ機器の取っ替え引っ替えに辟易しながらも
オーディオ沼にはまっていた自分に
散財をするなと言いたいです。

よく足を運んだオーディオショーでは聴けなかった
この素晴らしい稀有なアンプを知ることができ
答えのないオーディオ機器選びから解放されたのは
本当に良かったです。

1883川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Dec 29 21:00:00 JST 2018

K.G.さん、何時もご投稿ありがとうございます。

　プリアンプは最後のリレー回路のノイズ低減策と総合診断を行い「WR標準」に仕上げる作業を
実施しました。またパワーアンプは安定化電源の高帰還化とノイズ低減策を行い「WR標準」まで
引き上げる努力をしました。その結果、それぞれが何処に出しても恥ずかしくない音質レベルに
レベルアップした事が確認されました。

　「WR標準」の目安は気になる過渡ひずみ感が殆どなく音楽が自然に聴こえる事です。特に生の
音楽会に足を運ぶ方でも違和感無く音楽が楽しめるレベルにある事が重視されます。素朴な疑問
としてパワーアンプの出力の違いに依る音質差があるのではないかと言う問題ですが、Ε-5H を
「WR標準」の最低基準にしています。即ち、それ以上の出力をもつパワーアンプはお釣りがくる
訳です。そのお釣りの分は有れば直結構と考えており、謂わば「贅沢」に属するものと解釈して
います。

　例えば、ハイパワーアンプで聴きますとビオラの音が太くてタップリ聴こえますし、全体的に
余裕が感じられますが、それは楽器の音に余程慣れた人でないと検知出来ない可能性があります。
だから誰にでも必要な音である訳ではなく、その音を明確に求めている人にしか必要とされない
音であり、一種の「贅沢」だと私は考えるのです。

　経済的に余裕のある方は高出力のパワーアンプを購入する事で、その分だけ贅沢が出来る事に
なりますが、だからと言って、Ε-5H しか購入できなくても望みが断たれる訳ではなく、音楽を
自然な形で楽しむ事が出来る最低限の条件は具備されています。最低限と言いますと、聞こえが
悪いですが過渡ひずみで汚される事無く、生楽器がそれらしく聴こえると言う事が保証されます
し音量感も十分ですから、全く問題はないと思っています。

　さてそのような条件を満足したK.G.さんのWRアンプがどのような形で評価されたのか、要点を
見て行きたいと思います。

　先ずプリWRP-α9 単体をヘッドホンで試聴した評価ですが、レベルアップした音を聴きますと
それまで聴いていた音の欠点が見えて来る事がよくあります。K.G.さんも

★ほんの少しピークで神経質な部分があったように思います。

と仰っています。神経質な部分とは私流に言えば過渡ひずみの事ですが、リレー回路から高周波
ノイズが回路に飛び込む事で起きていたのだと思います。それが無くなった事で

★ヘッドホンでも音場の奥行きも出るし、音の重なり合った部分も自然に分離します。

と言う風に音質が改善されたようです。奥行きが分かるようになるには飛び出してくる音が無く
なる必要がありますし、音の重なりが分離して聴こえるには個々の楽器がそれらしく聴こえる事
が必要になります。これらは結局、過渡ひずみが軽減される事で実現されるのです。

　次はパワーアンプでスピーカーを駆動した場合の評価です。

★ヘッドホンには負けていました。それが逆転したような印象です。

とまるっきり変ったとお感じになられたようです。それだけパワーアンプのクオリティが上がった
のでしょう。「WR標準」の威力かも知れません。

★三次元的な定位や音場感はもともとスピーカーからの方が良かったのですが、
★ここまで来て何を取ってもスピーカーからの方が良くなったように思います。

と感想を述べられています。

　お聴きになった音源はステレオで収録されたものでしょうから、原理的にスピーカーで聴く方が
自然であり音場感が良く聴こえるはずですが、

★音の押し出しや明瞭度、滲みのなさ

と言った点に於いてもスピーカーからの音が勝るようになったのでしょう。こうなれば全ての点で
スピーカーからの音の方に軍配が上がる事になるのだと思います。家屋事情の問題があるにしても
ヘッドホンで聴く方が意外に多いのは、案外スピーカーを鳴らす事が難しいからかも知れません。

　そしてK.G.さんも

★それにしても価格からは信じられない素晴らしい音です。
★アンプが里帰り中に以前使用していた某メーカー製の倍以上したアンプにつなぎ変えて
★聞いていましたが、差が余りにもありすぎ、音楽を聞いていても楽しくありません。
★つないだはいいものの結局ほとんど聞かずじまいでした。

と吐露されていらっしゃいます。WRアンプの音に耳が慣れた方の殆どの方が仰る事です。

　これまでずっと世の中の標準であった既成オーディオは、WRアンプの出現で危ういものなりつつ
あると思います。特に音楽を奏でる生の楽器の音の魅力を知ってしまった方には避けては通れない
アンプになったと思います。「WR標準」がそれを確実にしたのではないかと思います。K.G,さんは
その違いを

★低音の出方やスピーカーからの音離れ、耳に入ったときの自然さなど、全く違います。

と分析され、

★ノイズから解き放たれ、ほぐれた自然な音に耳が慣れると、もう手放せません。

と結ばれています。

　このように「WR標準」は伊達ではありませんし又ハッタリでもありません。少なくてもK.G.さん
の言動からもその事がお分かり頂けたかと思います。WRアンプが大変完成度の高い音になった証拠
なのです。

1882川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Dec 23 13:00:00 JST 2018

「WR標準」に認定されたWRアンプが続々誕生しています。

　K.G.さん「WR標準」に関するご投稿を頂きありがとうございます。そのお応えは又別の機会に
させて頂く事にして、良い機会ですから「WR標準」についての最近の動向に付きまして少し書き
加えさせて頂こうと思います。

　私が「WR標準」と言う制度を思いついたのは、確か10月の下旬にアップグレードさせて頂いた
hiroさんのアンプが切っ掛けだったと思います。特にプリメインアンプWRI-βZEROが大幅な改造
で一気に最新のWRアンプの音に蘇ったのが印象的で、殆ど誰が聴いても文句のつけようの無い音
に「WR標準」と言う一種の称号を与えたいと思ったのでした。そして認定したアンプにはシール
を貼りたいと思ったのです。

　早速、息子にシールの制作を依頼して手元に届いたのが２週間程後でしたので、実際にシール
を貼らせて頂いたのは11月も下旬になっていました。その間、２、３台はシールを貼らずに発送
してしまったアンプもあるはずです。もしご希望であればお申し出頂ければシールを郵送させて
頂きます。

　昨夜シールの減った分を調べて見たら９枚でしたので、実質的に「WR標準」のレベルに達した
WRアンプは新規のアンプも含めて12台程度に登ります。その中で特に印象的だった事例について
言及させて頂きたいと思います。

　これはWRP-α9 をお持ちのユーザーの方のお話です。この方のプリはL-Pad 化までは為されて
いて次は高級部品化と言う段階で一度立ち止まっていらしゃいます。多分、まだプリが不十分な
音質レベルであった為にL-Pad に依る音量調整に疑問を持たれたのでしょう。もっと良い調節器
としてトランス結合を使った超高級なパッシブプリ（定インピーダンス型アッテネーター？）を
ご購入になったのです。

　これをα9 の前に入れて音量を調節しL-Pad は全開で使うのがその時点でのベストだとお感じ
になっていたのです。唯、ひずみ感等は確かに向上するもののそれは静的なものであって、人間
が奏でる音楽が有する本当の美しさや楽しさは、やはりアクティブプリに頼らざるを得ないとも
お感じになっていたようです。

　その頃「WR標準」の話が持ち上がっていましたので、残る高級部品化、安定化電源の高帰還化、
そしてリレー回路のノイズ低減のアップグレードを為さる決意をされたのです。その時私は予言
をして、それを全て成し遂げれば、WRP-α9 を単体で使うのがベストになるはずである事を申し
上げたのです。

　結局３つのアップグレードを一気にやって「WR標準」のレベルに為さりたいと言う事になって
α9 が送られて来ました。私のΕC-1Hに勝るとも劣らないレベルになるように調整を重ねお返し
したのです。勿論後面パネルには「WestRiver Standards 」のシールを貼らせて頂きました。

　どのような感想を待たれるか一抹の不安はありましたが、結局パッシブプリを外してL-Pad で
音量調節するのがベストだと潔く認めて頂けたのでした。結果論ですがWRアンプが未熟な段階で
の、WR以外の如何なる行為も的を得ない可能性が大であると言う事だと思います。

　もう一方を紹介させて頂こうと思います。この方はΕ-5H 、Ε-10Hの２台のWRパワーアンプを
お持ちです。これをΕC-1Hに比べて横幅サイズが50mm程短いΕC-2H（標準型）でバイアンプ駆動
なさっています。やはり「WR標準」に魅力をお感じになってこれらを一気に「WR標準」に格上げ
したいと言うお申し出を頂きました。線材交換以降のアップグレードは何もされていませんので、
線材交換から始めなくてはなりません。３台を一から作り直す事になり、結構大変な作業になり
ました。無駄時間は当然有ったとしても１週間以上もお預かりする結果になってしまいました。

　余りの長丁場になった事もあって途中でケーキをもって陣中見舞いに来て頂いた程です。丁度
その時には２台のパワーアンプの作業は終わっていましたので、Ε-10Hの音を聴いて頂きました。
私のΕC-1Hを使いましたが、「これが自分の10W アンプの音？！」と言う程にその音のレベルに
驚嘆されていました。私自身も、このΕ-10Hの出来映えは最高位に属すると思っていましたので、
びっくり為さるのも無理からぬ事だったと思います。ジャズボーカルがお好きだと言う事でした
のでホリー・コールを聴いて頂きました。ひずみ感皆無で安定した音がタップリ出ると言う感じ
で鳴っていました。

　最後のΕC-2Hの大改造も無事に終りました。ΕC-2H＋Ε-10Hで聴いて見ましたが、あの時の音
がほぼ蘇っていると思いました。「WR標準」までのアップグレード作業を丁寧に重ねれば、ほぼ
間違い無くある一定の音質レベル、即ち「WR標準」の音になる事も分かり自信になりました。

　これからは少しずつ「WR標準」になった方々のお声を掲載させて頂こうと思っています。幾ら
私が良いと言って見ても手前味噌だと思われてしまうでしょうから、「WR標準」に達した方々の
ご協力を得ながら、第三者評価を明らかにして行きたいと思います。慣れないと文章を書くのが
億劫になりますがWRアンプ普及の為にお手をお貸し頂ければ幸いです。音楽を自然な音で楽しむ
事が出来るアンプが世の中に現存していると言う事実をそれを望む方々に知って頂きたいのです。
「WR標準」に認定されたアンプをお持ちの皆様、是非ご強力をお願い申し上げます。

1881K.G.さん(自営業) Sat Dec 22 11:15:43 JST 2018

「WR標準」アップグレード完了しました。

川西先生、みなさま、こんにちは。

先日、みなさまの投稿に背中を押されて「WR標準」にアップグレードしていただきました。
うちで使用しているのはプリアンプがWRP-α9、パワーアンプがE-5HとE-10Hです。

プリアンプから順番に進めるのがいいかと思いましたが、今までのアップグレードで
川西先生を信用していることと、音が聞けなくなる期間が長くなると辛いことを考えて
３台まとめてお願いすることにしました。

アップグレードは台数が多かったにも関わらず２日ほどで完了、３日目には戻ってきました。
まず、プリアンプの音だけを確認するのにヘッドホンで聞いてみました。
今までも素晴らしいと思って聞いていましたが、記憶と比較すると以前はほんの少しピークで
神経質な部分があったように思います。

これは音源に問題があるのだろうと諦めていましたが、帰ってきたプリアンプでは
全く問題無くなっています。
また、ヘッドホンでも音場の奥行きも出るし、音の重なり合った部分も自然に分離します。
今までも素晴らしかったのですが、更に一段上がったように思います。

今度はパワーアンプも電源を入れ、スピーカーでも聞きました。
これはまるっきり変わりました。
今までももちろん不満なく聞いていたのですが、音の押し出しや明瞭度、滲みのなさは
ヘッドホンには負けていました。それが逆転したような印象です。

三次元的な定位や音場感はもともとスピーカーからの方が良かったのですが、
ここまで来て何を取ってもスピーカーからの方が良くなったように思います。
今までは少し曖昧に聞こえていた部分が有ったのだなと改良版を聞いてよく分かりました。

それにしても価格からは信じられない素晴らしい音です。
アンプが里帰り中に以前使用していた某メーカー製の倍以上したアンプにつなぎ変えて
聞いていましたが、差が余りにもありすぎ、音楽を聞いていても楽しくありません。
つないだはいいものの結局ほとんど聞かずじまいでした。

低音の出方やスピーカーからの音離れ、耳に入ったときの自然さなど、全く違います。
ノイズから解き放たれ、ほぐれた自然な音に耳が慣れると、もう手放せません。
良心的な価格でアップグレードしていただけるのも本当にありがたく思っています。

またいつか、今度は大出力のパワーアンプに挑戦してみたいと改めて思いました。
今後ともよろしくお願いいたします。

1880川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Dec 16 19:00:00 JST 2018

Ｈ．Ｙさん、ご寄稿ありがとうございます。

　世の中は狭いものでＨ．Ｙさんからメールを頂く前日にあるユーザーの方から「オークション」
で手に入れたΕ-10Hを手放しましたと言うご報告を頂いておりましたので、その時ピンと来たの
でした。「こう言う内容のメールを貰ったのですが、ひょっとしてその人なのでは？」と聞いて
見ますと「多分そうではないかと思いますよ」とのお返事でした。

　こう言う内容と言いますのはご寄稿文にありますように、世間のオーディオとは一線を画す音、
「これだけ自然な音のアンプを私は他に知りません」と言う行です。これこそがWRアンプが目指
して来た音でもありますので、私は理解者がいらっしゃった事に大変嬉しくなりました。多勢に
無勢でも、我が方こそオーディオの奔流だと言う自負があります。それが決して負け惜しみでは
ない事が証明された気持ちでした。

　諄いようですがオーディオの原点は Hi-Fi（高忠実度再生）にあります。それは音楽があって
生楽器の演奏があって初めて成り立つものです。音楽会やライブが規範になるべきオーディオと
言っても良いと思います。しかし、Ｈ．Ｙさんが指摘されていますように、今現在のオーディオ
は

　★早晩飽きるたぐいのハイエンド
　★呼吸を阻害されるような息苦しさを感じる「高音質」の音

が主流になっています。これは戦後の高度成長期にビジネスの一貫として成立していたメーカー
主導のオーディオが招いた結果だと私は思います。其処には原点である高忠実度再生と言う概念
は乏しく、あくまでも商品として売れるアンプが優先された為であろうと思います。本来ならば
アンプの技術者は音楽会やライブに足繁く通って聴感を訓練する必要があったはずですが、殆ど
そう言う話は聞いた事がありません。

　演奏会やライブの音を物差しとして客観的に判断する事が余儀なくされる聴感ではなく、個人
のイメージ（好み）で音の良し悪しを決めてしまったからではないでしょうか。その時点で高忠
実度ではなくなっていて、物差しの無いオーディオが一人歩きしてしまったと思われます。物差
しの無い世界は科学とは認められず、日本音響学会や電子通信学会等からも早晩見放される結果
になってしまったのです。学会からのフィードバックの効かなくなったオーディオが糸の切れた
凧の如くになったとしても不思議ではありません。

　ですからどう足掻いたところで音楽を正しく再生出来るアンプを作る事は出来ず、その結果が
Ｈ．Ｙさんがこれまでずっと抱き続けて来たメーカー製アンプに対する評価に繋がっているのだ
と思います。Ｈ．Ｙさんも含めて少数派ながらそれではいけないと思っている方もいらっしゃる
はずですが、声無き声にしかならないのが現実なのです。民主主義とは違ってオーディオは多数
派が正しいとは限りませんが、殆どの方は既成オーディオこそが正しいと信じているのではない
でしょうか？

　最近、アップグレードされた方がWRアンプの代わりに過去に所有されていたメーカー製アンプ
を一時的に引っ張り出して来て繋いで見たものの「聴く気にならなかった」とか「こんな酷い音
だとは思わなかった」等と、現時点のWRアンプの水準とのギャップに愕然とされていらっしゃい
ます。多分Ｈ．ＹさんもΕ-10Hをアップグレードに出された暁には同じ感想を持たれるであろう
と思います。人間は一度ワンランクの上のアンプの音を聴いてしまうともう元には戻れなくなる
のです。

　それでは正しく動作するアンプのメリットは何でしょうか。答えは簡単です。極端に申し上げ
れば「音楽以外の嫌な音がしない」と言う事です。ですから音楽が自然のままに聴こえて来るの
です。「飽きる音」や「息苦しさを感じる音」には嫌みが入っているのです。それらの音は自然
には聴こえず何処かに不自然さを伴います。それでは肝心な音が掻き消されてしまい微妙な音の
襞が見えて来ないのです。

　又こうも言えます。音楽のジャンルを選ばない事です。独奏バイオリンは綺麗に聴こえるけど
オケものは混濁してしまうと言うような事はありません。室内楽でもオペラでも最高の雰囲気で
楽しめます。勿論、ジャズもOKです。両立しないのは、アンプが正しく動作していない証拠です。
同じような事ですが、録音さえ保証されていればソースを選ばないとも言えます。LPはまあまあ
聴けるけどCDはどうも音が硬くてと言うような事は無くなります。

　音楽はメロディーラインだけで出来ている訳ではありません。それを支える内声部があります
が当然の事ながらメロディーより目立つ存在ではありません。耳に着くような嫌な音があります
とその内声部は掻き消されてしまい、音楽が味気なくなってしまうのです。逆に言えばWRアンプ
で聴いていると内声部が聴こえるのは勿論の事、指揮者や演奏者が出す一種のノイズも聴こえて
来ます。

　Ｈ．Ｙさんも

★奏者の動きや、コントラバスの胴に奏者の手が当たるポクッという音、
★演奏中に興が乗って、ベースのソロに合わせてピアニストが鍵盤の下を拍子をとって
★コツコツ叩いている、そういった音があまりにも生演奏の「その場所」のままであることに
★驚きました。

と仰っています。ノイズが聴こえて来るから良いと申し上げている訳ではなく「そういった音が
あまりにも生演奏の「その場所」のままであることに驚きました」と言う事なのです。つまりは
演奏の現場に居るような感覚で音楽が楽しめると言う事なのです。

　音楽会やライブには感心がないと言う方には無理にお勧め致しませんが、日頃生演奏の雰囲気
を少しでも感じながら音楽を楽しみたいと切望されている方が居られましたら、是非WRアンプを
一度お試しになって頂きたいと思います。

　Ｈ．Ｙさんは

★時たま目当ての奏者の演奏会やライブに行きますが、その時の感じにとても近いです。

と仰っています。

　そして最後に、WRアンプは「真空管アンプの音、トランジスタアンプの音」と言うような次元
の論争を、全く無意味にする存在であると結論付けていらっしゃいます。

1879Ｈ．Ｙさん(一音楽愛好家) Mon Dec 10 00:42:25 JST 2018

初めまして。

先日、初めてウェストリバーアンプの音に接しました。機種はWest-River E-10Hです。
素晴らしい音に驚きました。

鮮烈な音で印象的ではあっても早晩飽きるたぐいのハイエンド機や、
電気的にどれだけノイズが少ないかを謳う、
呼吸を阻害されるような息苦しさを感じる「高音質」の音とは一線を画す、
ながく親しめるであろう音で、これだけ自然な音のアンプを私は他に知りません。

JBL の2ウェイ(高域075 + 12インチフルレンジD123 2.4kHz クロス) を鳴らしました。
この大きなスピーカーはずっと以前から我が家にあって、ズンドコいうので
私はあまり好きではないのですが、ためしに鳴らしてみたのです。

そんな案配で新参のWRアンプに意地悪をしてJBL で鳴らしたにも関わらず、
音の自然さに驚いた次第ですが、低域の締まり・誇張のなさや高域の細かい差異以上に、
奏者の動きや、コントラバスの胴に奏者の手が当たるポクッという音、
演奏中に興が乗って、ベースのソロに合わせてピアニストが鍵盤の下を拍子をとって
コツコツ叩いている、そういった音があまりにも生演奏の「その場所」のままであることに
驚きました。聴いたCDは知人のピアニストが弾いている盤だったので、
演奏中の本人の癖を再発見したりできたほどです。

私はピアノトリオや小編成の弦楽が好きで、時たま目当ての奏者の演奏会や
ライブに行きますが、その時の感じにとても近いです。

私のような電気に疎いシロウトマニアがしばしば陥りがちな
「真空管アンプの音、トランジスタアンプの音」という素子の音を云々論ずるということを
まったく無意味にしてしまうアンプだと思います。

もっと早くにウェストリバーのアンプと出逢っていればと、つくづく思います。

1878川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Dec 5 22:30:00 JST 2018

初期の頃のWRP-α1 を蘇生させるの巻

　11月の末に大学のクラス会が母校の近くの中華料理店でありました。私は出席率の悪い部類で
久し振りに昔の友と再会しました。中にはオーディオ好きも居て「WRアンプを安く落札したけど
高音が出ないしパッとしない」と言う意味の事を言われてしまいました。「どんなアンプなの？」
と聞いて見ると「ボンネットも付いてない多分α1 と言うやつかな？」と言う事でした。

　そりゃー無理だと思いました。最初WRアンプの頒布はラ技編集部で行われたのですが、当時は
まだボンネットも付いていなかったのです。確かキット制で自分で最後少しを完成させると言う
方式だったと思います。その製作を一手に引き受けてくれたのがクラスは違うのですが、やはり
大学で同期だった平野紘一氏でした。もう20年も前の話です。

　兎に角このままでは引き下がれないので「最新の状態にするから少し出費を覚悟してくれる？」
と聞いてみたところ全否定ではなかったので、気が向いたらメールしてくれるように言って別れ
たのでした。その後何日かして彼からメールが来て、アップグレードして見たいので見積もりを
して欲しい言う事でしたのでお友達価格を提示したところ、納得してくれて早速OKと言う返事が
帰って来たのでした。

　直ぐにアンプが送られて来たのですが予想に反して綺麗で、俗に言う「美品」と言うやつです。
よくも傷や汚れを殆ど付けずに使われたものだと感心したのです。これは最初のロットではない
のではないかと思ったのですが、何しろ20年近くも前の話ですから本当のところは分かりません。
しかし使われていた部品から推察するとやはり初期の頃に属するものに違いないと判断しました。
例えば入力のコネクタには茶色の日本航空電子ではなく白いコネクタが使われています。その後、
このアンプは大変身を遂げるのです。

　当初WRアンプは、一般のアンプと同じエミッタホロワでスタートしたのですが、真っ先に取り
組んだのがコレクタホロワ化でした。負性抵抗の権化のようなエミッタホロワをアンプから追放
して、出来得る限り不安定要素を少なくするのが目的でした。この考えは準コン回路がヒントに
なって採用する気になったのです。旧型基板は純コン回路ですから、本当は基板を作り直す必要
があります。しかし結構な費用が掛かるので、兎に角基板のパターンを彼方此方切って結果的に
コレクタホロワになるように工夫しました。

　当初コレクタホロワ化のアップグレード代は５万円程度頂いたはずです。パターンを14個所も
切って必要なところはジャンパー線で繋がなくてはなりませんし、パワートランジスタのNPN と
PNP との入れ替えもしなくてはなりません。同時にプリドライブ段以前も簡素化して大幅な回路
変更をする必要があります。使っている基板は同じでも回路は全く違ったものに生まれ変わるの
です。コレクタホロワ化はアンプ基板だけではありません。同様に安定化電源基板もパターンを
切ってコレクタホロワ化する必要があります。

　この大変なコレクタホロワ化の後にハイブリッド化、高スルーレート化、線材交換、高級部品
化、安定化電源の高帰還化と矢継ぎ早にアップグレードが重なりましたので、今回これらを一気
に行う事になったのです。先ずはアンプの解体です。機構部品及びトランスからの引き出し線を
除いて全てを取り除きました。使える部品はなるべく生かして、もう古くて使えないものは新品
に交換します。例えば、切替SWは新品に交換、VRはパスするように変更してあります。

　外した放熱器ユニット３つ（アンプ基板ユニットx2、安定化電源基板ユニット）、リレー基板、
プロテクション基板をそれぞれ今のレベルになるように改良する必要があります。先ずは外堀を
埋める為にリレー基板からスタートしました。リレーの交換、プロテクション動作時にリレーを
切る為の駆動TRの取り付け、ダイオードのFRへの交換等々です。次にプロテクション基板の動作
確認とパスコンの追加、リレーoff 用信号の取り出し、整流回路のノイズ防止用コンデンサーの
ASC コンへの交換、コネクタを使わずに直付けしてるところのコネクタ化等を行いました。この
基板には整流回路が相乗りしています。これらの基板は所謂私が旧型基板と言ってるものです。

　いよいよアンプ基板ユニットです。上述しましたように、コレクタホロワに不要な部品を取り
除いてから、14個所のパターンを切断します。使える部品は残し半田付けをやり直します。半田
も古くなると脆くなりますから補強が必要になります。補償コンデンサーにはSEコンが使われて
いますが、現在の値と違うところはセラミックに交換します。最近アンプが安定動作するように
なったせいかコンデンサーの悪さが表に出難くなったように思います。抵抗も進（ニッコーム）
が使用されていますが、値が変わったところは日本製の金皮もしくはカーボン抵抗に交換します。
また以前とは違って新たにASC コンが必要になったところには追加します。

　トランジスタは原則同じものを使いますが、ハイブリッド化の為パワーTRの片側は非EMe 型に
交換します。どちら側でも音質には影響しないようですが今回はNPN に三重拡散型を使いました。
必要部品の取り付けが出来たら最後に裏配を行います。必要なジャンパー線や抵抗、ダイオード
を追加します。全作業が終われば安定化電源を使ったDCテストに移ります。アイドリング電流が
適正に流れるか、出力端子のオフセット電圧がゼロに調整できるかがポイントになります。同様
の作業を行って左右のアンプ基板ユニットが完成できたら、最後に安定化電源ユニットの作業に
移行します。そう言うと簡単そうですが、１つのユニットにほぼ１日掛けてじっくりやりました。
もう私の仕事率は落ちていますし疲れ易くもなっていますので１日と言ってもそう長時間は出来
ません。

　安定化電源基板の肝は、コレクタホロワ化の為のパターンの切断とドライバーの石を高ftのTR
に交換する事、そしてツェナーに依る基準電圧を少し上げて帰還率を4.3 くらいに下げ高帰還化
する事です。この為に必要なツェナーダイオードや抵抗の交換を行います。ツェナーは流す電流
で基準電圧が変りますので、規定の電圧になるように定電流ダイオードを選ぶ必要性があります。
基板の作業が終われば、安定化電源を使ったDCテストを行います。必要な電圧が正しく出てるか
負荷電流が流れても出力電圧が変化しないかに注目します。α1 は30W アンプなので出力電圧は
±27V です。これにもほぼ１日掛かりました。

　３つの放熱器ユニットが完成したら、ガランとしたシャーシ内の下準備をします。パイロット
用のLED にパスコンを抱かせる、スピーカー端子に120 Ωを付ける、スピーカー端子のアース側
からパスコンをシャーシに落とす等です。次にプロテクション基板と安定化電源基板を取り付け
ます。ACインレットから最新のビニル銅線で配線してトランスに電源供給が出来るようにします。
トランスの２次側の引き出し線をプロテクション基板のコネクタに差し込みます。さらに整流器
からの出力をブロックケミコンまで、ブロックケミコンから又プロテクション基板までコネクタ
で接続します。これで整流された電圧を取り出して安定化電源に供給する事が可能になりますし、
プロテクション機能も生きる事になります。安定化電源基板への電源線も両方共コネクタを使用
します。これらの配線材にも選び抜かれた最新ビニル銅線を使います。プロテクション基板には
LED 用、スピーカー端子の直流電圧検出用、リレー駆動用信号のコネクタがありますので正しく
接続します。

　此処で一度AC電源を入れて無事に安定化電源の出力に±27V が出ているかチェックします。又
プロテクション基板が異常動作してLED が点灯していないかも確認します。問題が何も無ければ
リレー基板を取り付け、リレー基板から左右のスピーカー端子までの配線を行います。此処でも
コネクタを使います。コネクタを使う理由はメインテナンスや修理をし易くする為です。今まで
コネクタに依る音の劣化は確認されていません。十分「WR標準」をクリアしていますのでご心配
には及びません。勿論古いコンタクトは全て破棄して全て新しいものを使いました。この段階で
安定化電源からアンプ基板への電源供給線を左右で２組取り出して、左ch用の電源線と右ch用の
電源線を準備します。勿論、両サイドにコネクタを付けます。

　いよいよ最終段階です。左chのアンプ基板放熱器ユニットを先ず取り付けて安定化電源からの
コネクタを差し込みます。出力端子からリレー基板までを電源線と同じビニル銅線で結びますが
両端はコネクタ接続です。左chが済めば右chのアンプ基板ユニットを取り付けて同様の事を行い
ます。あと残すところはアンプの入力処理です。殆どの場合はアース端子のところで安定化電源
からのアースと入力側のアースを合わせて落とします。入力端子からVRまでは細いビニル銅線を
使いますが、切替SWからRCA 端子まではセレクトした２芯シールド線を使います。これで全ての
配線作業は終了です。これらの作業にはほぼ２日掛けています。

　間違いがないか、特に電源関係に注意をしてチェックします。どう見てもミスが無いと自信が
持てれば通電です。赤いLED が点灯してないか、電力計を入れて消費電力を観察しながら素早く
スピーカー端子のオフセット電圧を測り、ほぼゼロである事を確認します。予備的にDCテストを
していますので微調程度で正常範囲に入るはずです。今回も特に問題はありませんでした。暫く
通電して放熱器が多少温まったところで放熱器上の温度を測定し、左右の放熱器の温度差が無い
事を確認します。偏りがあればアイドリング電力を監視しながらアイドリング電流を適当に調整
して合わせるようにします。

　最後に残留ノイズの測定です。高感度の交流電圧計をスピーカー端子に取り付けてVRを絞るか、
RCA 端子にショートピンを嵌めて測定します。一番良くて14μV（DIN-AUDIO）位、悪くて 20μV
が目安です。大幅に超過する場合はアースの取り方を別の方式にするとか工夫をします。今回は
左右両ch共にその必要性はありませんでした。あとの定常特性は回路の再現性が高いので測定の
必要性はないと考えています。

　待望の試聴です。寝ぼけた音がどうなったかですが、古い部品を使ったとは言え、私は最新の
状態にしたつもりですので何も心配していませんでした。案の上サンサーンスもモーツァルトも
問題なく通りました。最近我がプリに手を入れたお陰もあってか問題になる音が以前より減った
ように聴こえました。これまでは正直に言って「パリ」の第１楽章を最後まで聴く事は無かった
のですが、逆に最後まで聴きたくなるような音になりました。モーツァルトの交響曲がこの位の
品位で聴ければ御の字でしょう。

　引き続き「悲愴」の第１楽章をほぼ最後まで聴いて見ましたが、相変わらずバイオリンパート
の強奏と各種金管の咆哮が上手くバランスして、この音楽の魅力に心地良く酔う事ができました。
カラヤンの「パルジファル」も聴きましたが、ベルリンフィルのスケール感を満喫できたのです。
最後に「さまよえるオランダ人」の「水夫の合唱」の一部で合唱の透明感をチェックし少し先の
オランダ人、ゼンタ、エリックの３重唱を聴いてオケの中で３人の声が上手く分離して聴こえる
かどうかを確認しました。テスト中なのについ音楽にのめり込んで結局幕切れまで聴いてしまい
ました。

　問題になる音が殆どなくこれだけの満足感を持って聴ければ「WR標準」の認定も自信をもって
出来ると思いました。斯くして高音の出ない冴えないアンプは完全復活したのです。確かに対価
を払う必要がありますが、オークションの落札価格を足してもそんなに大した額にはならないと
思います。WRアンプは古くても蘇生する余地が十分に残されています。皆さんもオークションで
見かけたら再生の道があると思って下さい。テスト中のWRP-α1 の画像をトピックス欄に載せて
置きますので見てやって下さい。まだまだ現役で十分頑張れるのです。


注）このアンプとほぼ同格のアンプが現在のWRP-α30です。30W のせいで敬遠されたのか、未だ
特価品(項番1868参照)は残っています。この価格ではもう絶対に買えないと思います。30W 程度
でも十分だとお考えの方や現在E-5H 又はE-10Hでお聴きの方に是非お勧めしたいと思います。

1877川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Nov 29 12:00:00 JST 2018

新型プリ（WRP-α9 、ΕC-1H）の入出力番号に依る音質の違いについて

　ご承知のように新型プリには、３つの入力用、２つの出力用のRCA 端子があります。原則的に
どの番号を選んでも同じ音質である事が建前になっています。しかし、実際には微妙に違う事が
あります。特にアップグレードが進んで高度な音質になりますと、その微妙な差が明確に分って
来る事があります。

　つい最近、安定化電源の高帰還化、高級部品化そして新アップグレードの３つを一度に行って
一気に「WR標準」の認定になったWRP-α9 の所有者の方から、出力の２番と入力の２番が自分は
良いと感じるので、そちらでもチェックして欲しいと言うリクエストが未然にありました。この
ような事を依頼されたのは初めてですし、私自身もこれまで特に意識していませんでした。

　出力はRCA 端子直前までパワーアンプ並の低インピーダンスで来て、２つの抵抗で分岐させて
います。つまり見掛け上は同じであり常識的には同じ条件なはずです。もしもこの２つの端子に
音質の違いがあるのであれば、その原因は抵抗かRCA 端子の問題です。そう言う事も含めて最近
はなるべく日本製の抵抗を使っていますが、念の為完成したら聴き比べて見る事にしました。

　一方入力は同じシールド線を使っていますので、普通は同じ音質になるはずですが、使用する
ケーブル長に若干の差がありますし接点も違う訳ですから絶対ないとは言い切れません。そこで
アップグレードされたプリを試聴する時にチェックする事にして、１番のケーブルを予め最新の
シールド線に交換する事にしました。最近はアップグレードが最終段階を迎えたプリの場合には
入力線を最低１本は交換する事にしています。でないと正確な試聴が出来ないからです。当初の
線材交換時は、切替SW以降の入出力線および直接に関与する電源線に限定して交換していました。
それでも十分に線材交換の効果が確認出来ていたのです。

　３つのアップグレード自体は無事に終りいよいよ試聴の段階になりました。入力は１番にして
出力は２番を選んで試聴を開始しました。サンサーンスとモーツァルトが済んで大体の音の傾向
が分ったところで、高域の過渡ひずみがよく分るこのモーツァルトの「パリ」で決着を付けよう
と考えました。先ず出力を１番に変更しました。申告通りに１番の方が過渡ひずみが多く聴こえ
ます。そこで抵抗を疑いました。RCA 端子の接触の問題であれば、毎回毎回同じ結果になるはず
はありません。１番に使われている抵抗だと思いました。

　一旦試聴を打ち切って内部を見ると何んと良いと思って選んだ日本製です。ちょっと裏切られ
たような気になりましたが、今は偶々他の日本製抵抗を使っています。取り敢えず１番の抵抗を
交換して見る事にしました。１番の方に入っている抵抗をニッパで切断して他メーカーの日本製
抵抗に変更しました。試聴をし直すと何んと過渡ひずみは完全に消失していました。抵抗が原因
だったのです。直ぐさま出力を２番に変えて見たのですが１番の方に軍配が上がりました。僅か
ですが２番にも過渡ひずみが残っていたのです。一度良い音を聴くと悪い音に気付きやすくなる
のです。

　そこで入力も良いと申告のあった２番に変えてみましたが、半ば当然かも知れませんが新しい
シールド線に交換した１番の方が良かったのです。斯くして、ユーザーの方の申告は正しかった
のですが、入力も１番、出力も１番を使う事に依ってそれを上回る結果を得る事が出来たのです。
それぞれ、オリジナルより良い抵抗と良いシールド線に交換する事で解決できたのでした。この
条件でその後の試聴を続けましたが、各テストCDをほぼ理想的にクリアする事ができ、躊躇なく
「WR標準」の認定をする事が出来ました。入出力共に２番は証拠として残しましたので２番同志
を使った場合は残念ながら「WR標準」に達しない事になりますが、後日ご希望があれば送料程度
で修復をさせて頂くつもりです。

　日頃、入出力番号に依る音質の差が気になっている方は、最終的な新アップグレードの際には
その旨を是非お伝え下さい。こちらでも試聴時に「WR標準」に達しないような過渡ひずみ感等が
あれば善処しますが、未然にお伝え頂いた方がより確実に補正できると思います。今回も、もし
申告が無かったら、このような結果に至ったかどうかは断言は出来ないように思います。

　それにしても今回のWRP-α9 は我がΕC-1Hを凌駕するような音に仕上がり、テストCDを楽しみ
ながらの試聴になったのです。こうなりますと自分のプリの出力に使われている抵抗が何なのか
気になり始めました。かなり昔は日本製ではないもの（台湾製）を使っていましたし、それにも
何種類かあったはずです。直近では２つの日本製の抵抗を使っていますが、少なくてもその内の
１つにバラツキがある事が判明した事になります。WRアンプの音質レベルが「WR標準」に近付く
に従い、抵抗の質まで問われる事になった訳です。

　ΕC-1Hの内部を見てみると当然昔に付けた抵抗でしたが、日本製ではないだろう程度の事しか
分かりませんでした。疑わしきものは罰するしかありませんので、今回採用した日本製の抵抗に
交換して見ました。私の場合は日頃から過渡ひずみには厳しく対処している事もあり劇的な変化
はありませんでしたが、それでもやはりほんの僅かですが音の質が改善されたように感じました。
何とかユーザーの方のWRP-α9 に並んだのかなと思えたのです。

　抵抗は抵抗体自体の問題もありますが、抵抗体とリード線の固定の仕方でも問題が発生します
ので、音に何らかの影響が出ても不思議ではありません。日本製の方がその確立は低いと思った
のですが必ずしもそうでもないようです。結局、音質をできるだけ改善して抵抗の質が露見する
レベルにまでアンプ自体を高めるしかないのではないでしょうか。「WR標準」はそのレベルまで
昇華した証になると思います。全ては、僅かな過渡ひずみも見逃さない聴感を常日頃から磨いて
置く事が大切だと思います。そう言う意味でも、今回のユーザーの方の聴感は大したものだった
のではないかと思います。

　一つのWRアンプに使う抵抗の数は半端な数ではありません。１箇所１箇所試聴して決める事は
不可能に近く現実的ではありません。結局、総合的な音質で「WR標準」が認定できるかどうかで
判断するしかないと思います。今後は見掛け上全ての条件が整っているにも拘わらず「WR標準」
に達しない場合には、今回のように出力端に入る抵抗をも疑う必要性があると言う事を学習した
事になります。

1876川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Nov 24 00:30:00 JST 2018

Ε-5H 、Ε-10Hを聴き直して見ました。－－－Ε-5H 、Ε-10Hでも「WR標準」は可能！

　前回、完全アップグレードされた新型プリ（WRP-α9 、ΕC-1H）の新アップグレードの提案を
させて頂きました。要点は、これまで全く考慮して来ませんでしたリレー回路の高周波ノイズを
低減し、最後の総仕上げを行って最高レベルの音質に引き上げる事でした。主たる方策はリレー
回路の電源にローパスフィルターを挿入する事ですが、そのままになっているはずのリレー電源
線の線材を最新のものに交換する作業も併せて行う事にしております。この効果を高めるために
高級部品化で既に布設しておりましたAC電源（電源トランスの１次側）のパスコンを倍の容量に
増やし高周波ノイズの流入を減らして、さらなる過渡ひずみの抑え込みを図ります。結果として
「WR標準」を認定させて頂き、その後１年間は送料程度で何回でも音質又は音調の調整を承る事
が可能になります。

　勿論、我がΕC-1Hは一足先にアップグレードを済ませてあり僅かに残る過渡ひずみを極限まで
減らす事に成功しております。その結果パワーアンプの潜在能力を最高レベルまで引き出す事が
可能になり、等価的にパワーアンプの音質は向上する事になります。その一例として我が100W機
のピアノ再生はより安定性を増し、何処かの音域で微妙に起きる異音は殆ど無くなってストレス
フリーでピアノ音楽を楽しむ事が出来るようになっています。勿論、私が重視するストリングス
の再生品質も同様に高くなった事は言うまでもありません。

　この事は、パワーの小さいΕ-5H やΕ-10Hにも同様の効果がある事を物語っています。先ずは
高スルーレート化と線材交換で止まっていたΕ-10Hプロトタイプに着目し諸々のアップグレード
を試みました。それらは安定化電源の高帰還化、高級部品化そして今回の新アップグレードです。
久し振りにΕ-10Hプロトの音を聴いて見ました。確か以前にΕ-10H相当アンプについての試聴記
を書いたはずですが、これは非安定化電源のWRP-α6 をΕ-10Hに相当するアンプに改良したもの
でΕ-10Hプロトとは別物なのです。その時、10W 辺りに閾値があると書いたと思います。

　これは120W～30W アンプまでのパフォーマンスとちょっとした落差があるような気がしたから
ですが、10W アンプは丁度その境に位置するような感じを受けたのでした。そしてΕ-5H は当然
ながらそれ以上に非力なところが気になったのでした。そしてΕ-5H と心中する気にはなれない
と言う意味の事も書いたはずです。当時はプリの能力を100%と仮定していましたので問題は全て
パワーアンプにあると考えたのです。しかし実際にはプリも100%に達していなかったのですから、
当時の評価は改める必要がある事になります。即ち、プリの能力が高まればその後に入るパワー
アンプの能力も結果として高まる事になるはずなのです。だからセパレートタイプの存在意義が
あるのだと思います。WRユーザーの殆どの方が私の言う「プリ効果」を認めて下さっています。

　Ε-10Hプロトの試聴結果ですが、一聴して30W 以上のパワーアンプ群と大きな違和感が無い事
に気付きました。10W と言うハンデを殆どと言うか全く感じないのです。此処でもう一度我が家
の試聴取条件について説明させて頂こうと思います。音質評価と聴取条件は切っても切れないの
です。聴取条件を無視したパワーアンプ選びは感心出来ないと言う事です。

　ａ）使用スピーカーのインピーダンス、口径、能率、間隔：８Ω、16cm、87dB、1m45cm

　ｂ）リスニングルームの広さ：絨毯やカーテン等で適当に吸音した８畳洋間

　ｃ）聴取音量：大ホールの10～12列中央上席でのフルオケの音量

　ｄ）音楽ジャンル：クラシック音楽

　ｅ）試聴位置：スピーカーから約２ｍ

となっていますので、皆さんの聴取条件との違いを適当に補正してお考え頂ければと思います。

　聴いたテストCDは最近よく聴くもので、

　１）サンサーンス　交響曲第３番：KICC-9274

　２）モーツァルト　交響曲第31番：426-063-2

　３）チャイコフスキー　交響曲第６番：9 93750 2

　４）ワーグナー「パルジファル」第３幕への前奏曲：WPCS-50074

　５）ワーグナー「さまよえるオランダ人」：POCL-3935/6

　６）ワルツ・フォー・デビー：PHCE-4182

　７）キング・オブ・スイング：TOCJ-8011

です。聴きどころは以下の通りですが、ライブ感の家庭での再現が主たる目的です。

　１）第１楽章の後半部分で、弦の品質、オルガンの重低音、木管の定位感のチェック。

　２）31番「パリ」の冒頭部のストバイが左に引っ張られないか、ffがきつくないかのチェック。

　３）第１楽章又は第４楽章に於けるバイオリンパートと金管のffでの品質チェック。

　４）オケのffでのバイオリンパート、金管パートの品質チェック。

　５）オケ、独唱、重唱、合唱のffでの品質チェック。

　６）主にビル・エバンスのピアノタッチの品質チェック。

　７）主にテディ・ウィルソンのピアノタッチの品質チェック。

　これらのテストCDの中で何と言ってもミニパワー又はローパワーアンプに取って厳しいソース
は４）のカラヤンの「パルジファル」前奏曲です。その他のソースを何とかクリア出来たとして
も、往年のベルリンフィルのもの凄いエネルギー感がEMI 録音に依って的確に捉えられています
ので、パワーアンプに皺寄せが来易いのです。ベルリンフィルのストリングスは世界一強力です
し金管の圧倒的な響きが重なって得られる独特のベルリンフィルトーンをひずみ感なく再生する
事は至難の業です。

　以前このソースの第１集を入手した時に書いたと思いますが、当初は我が100W機でも音が食み
出す傾向があったのでした。仕方なくパワーアンプの安定化電源の高帰還化を慌ててやった結果
このソースの再生がスムーズに行くようになったのです。それ以来、オケのffでも音が青天井で
伸び切る、何とも普通のオーディオシステムでは得難いライブ感が得られるようになったのです。
正にこの点に注目して、100W以下のアンプの良し悪しの目安にして来ました。

　その結果、上述しましたように10W アンプ辺りに何となく閾値があるように感じていたのです
が、今回のプリの新アップグレードの効用なのか、改めてΕ-10Hプロトで４）のソースを聴いて
見ますと、今までの印象とはちょっと違ってこのソースが問題なくクリア出来たのです。しかも
殆ど不安感なく楽しめたのです。そうそう、５）の第２幕エリックとゼンタの２重唱があります
が、その最後にゼンタの叫び声が鋭く響き渡りますが、そのパルシブなゼンタの声も難なく再生
出来ていました。ゼンタが高い岩から身を投げる予告だったのでしょう。これならばΕ-10Hでも
「WR標準」は可能だと思いました。

　意を強くしてΕ-5H にもう一度挑戦する気持ちが湧いて来ました。前回Ε-5H の高帰還化及び
高級部品化を既に行いましたが、もう一度丹念に抜かりはないか、リレーの電源線は新しいもの
に交換されているか等についてチェックをして、必要なところは容量を増し古い電源線は新しく
交換して、少なくても見た目には完璧な状態にしました。果たして結果はどうか改めて試聴して
見る事にしました。

　テストCDの１）～３）までは上々に通りました。これは行けるかもと直感しました。いよいよ
最大難関の４）です。ストバイのffが苦しくなるか、金管に綻びが出るか強気と弱気と交錯して
いましたが、何んとどちらも普通に問題なく聴けたのです。４）のゼンタの声も問題ありません。
ちょっとした事でパフォーマンスが確実に上がったのでした。以前Ε-5H しか聴いてはならない
と神に言われたとしても少しも困らないと書いた事がありますが、多少は未練は感じたとしても、
再びそう思えるΕ-5H に蘇ったと思いました。そしてΕ-5H も一応「WR標準」に認定しても良い
かなと思ったのです。

　誤解のないように申し添えますが、120Wアンプと同じ意味を持つ「WR標準」と言う事ではあり
ません。それは物理的に不可能に決っています。出力に応じた「WR標準」があっても良いと思う
のです。新アップグレードを含めた完全アップグレードのプリと組み合わせれば、ａ）～ｅ）の
条件付きですが、音楽を十分に堪能できるシステム構築が可能だと言う事で「WR標準」の認定が
可能だと考えた訳です。そうでないと色々な出力のパワーアンプを作る意味がありません。皆が
皆、120Wアンプを追い求める必要はないのです。

　大切な事は、聴取条件です。ご自分の聴取条件に合致した出力のパワーアンプを選ぶ事こそが
大切な事ではないかと思います。Ε-5H 、Ε-10Hを既にお持ちの方もこれから購入を計画されて
いる方も、正々堂々「WR標準」を勝ち取って頂ければと思います。

1875川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Nov 18 00:15:00 JST 2018

SW切替式Ｐ型アッテネーターの効果は抜群－－－新型を含めてWRプリの底上げを図る

　先日予告させて頂きましたが旧型のバランス型プリWRC-ΔZERO/FBSE のアップグレードを行い
ました。FBSEとはフルバランスでSEコン仕様である事を意味しています。事実、内部を拝見して
安定化電源、２枚のラインアンプ、３枚のアンバランス－バランス変換基板の各基板に使われて
いる高域補償コンデンサー等は全てSEコンである事を確認しております。

　先ずは別電源部です。ACラインを調べて見ましたら、昔の標準値より少し大きい510PF が使用
されていました。0.01μF には程遠い値でしたが、何でも彼んでも0.01μF で解決すれば良いと
言う事でもありませんので、此処はそのままにして他に問題の箇所がないかをチェックしました。
本来リレー用電源の整流回路に入れた方が良いパスコンが、未だ追加されていませんでしたので
１個フィルムコンを付加し、リレー用電源線の線材交換も併せて行いました。面白いもので全て
を交換しなくても部分的な交換でも効果を発揮します。

　線材交換のアップグレードを賜った時にリレー回路は当初対象外だったのです。直接音に影響
する入出力線と主電源の１次、２次の電源線に限定していたのです。それでも当時のレベルでは
相当の効果を確認出来ていたのです。しかし、オーディオと言うものは一つクリアすると又その
上のレベルの壁に突き当たります。最終段階を迎えた今では、リレー電源にも神経を使う必要が
ある事が分かってきました。それは新旧を問わず言える事なのです。

　当初はリレーの接点は確かに出力回路に入りますが、直接の影響は少ないと踏んでいたのです。
しかしリレー接点の近辺にリレー駆動コイルがありますから、厳密に考えればコイルから漏れた
高周波ノイズが信号回路に飛び込む事もあり得るかも知れません。事実、旧型プリ時代にその事
に気付いて何らかのアップグレードの際に本体内のリレー電源ラインにパスコンを入れたりして
音質改善を図った事がありましたが、これは必ずしも徹底されておりませんでした。当プリには
SEコンに依るパスコンが既に入っておりましたが、当時は線材まで気が回っていませんでした。

　しかし最近パスコンが少しでも効果があるのであれば、リレー用電源の線材も影響するのでは
ないかと思い始めたのです。それで、別電源部のリレー用の電源線を最新の線材に交換して見た
のでした。此処で新型プリについて少しだけ言及しますが、最新のプリを除いてリレー用電源線
については何も考慮して来ませんでしたし、パスコンを入れる等と言う考えもありませんでした。
旧型プリで凄い効果があったと言う訳でもありませんし、新型プリに敢えて適用して来なかった
のですが、当時の音質レベルと比較してかなりレベルアップした現在ならば、新型でもやるべき
であると思い始め、最近我がΕC-1Hで色々実験してその効果を確かめています。この事に関して
は文末の方でもう一度言及致します。

　さて旧型プリの話に戻りますが、リレー回路以外の本体内の主なアップグレードは安定化電源
の高帰還化です。これは形通りに行えば良いので特に問題は無いのですが、他に抜けたところが
無いかなどをチェックしました。線材交換が徹底してないところが無いか、アース線の引き回し
に問題が無いか等々、現在の私の目で気になるところを改修して置きました。アップグレードを
重ねても、人間がやる事ですから何処かに問題が残っていないとは言い切れません。今回で多分
最終のアップグレードになると思いましたので、遣り残す事がないように必要なところは漏らす
事のないように努めたつもりです。少なくても見た目では問題は無くなったはずでした。

　いよいよ試聴です。パワーアンプには我が100W機を用いバランスで接続しました。VRの交換前
に一度は聴いて見るつもりでした。何時も聴くテストCDを色々聴いてみましたが、何となく雑味
があり、中高域に硬質感もあります。旧型プリは抵抗に進抵抗（ニッコーム）を基本的に使って
いますので、何処かに問題があると硬質気味になり易いのです。特にカラヤンの「パルジファル」
はベルリンフィルのパワーに負けて余裕が無く聴こえましたので、これでは「WR標準」には認定
出来ないと思いました。勿論、悪いの音ばかりではないのですが、SEコンの良さが生きてないの
です。

　しかし、見た目にはもう殆ど完璧に仕上がっています。もうVRをSW切替式ATT に交換するしか
ありません。交換は比較的簡単です。シャフトの取付穴径が少し違いますので、厚み1.5mm の鉄
シャーシの穴を大きくするのが少し大変ですが、RCA の穴をXLR にするよりは全然楽です。VRと
ATT の形状も殆ど同じなので配線替えもスムーズに行えました。交換自体は特に問題もなく終了
する事が出来ました。

　いよいよまた試聴です。今回ばかりは祈るような気持ちでした。最初に掛けるサーンサンスの
交響曲第３番の第１楽章の後半部分を聴いただけで音が柔らかくなって、音の雑味も無くなった
ように感じました。案の定次に掛けるモーツァルトの「パリ」は随分聴き易くなりずっと聴いて
いても良いような音に変身していました。第一関門通過です。次は「悲愴」の第４楽章を聴いて
見ましたが、ホールで聴く柔らかさも戻っていてこれなら問題ないと思いました。次はドラティ
の「さまよえるオランダ人」です。「水夫の合唱」の激しいところと次の「オランダ船」の出現
のところを聴いて見ました。合唱やオケがffで奏する音や、ピッコロ等がピーピー鳴って音場が
乱される可能性のある場面の音も随分安定して再生出来るようになっていて、楽器等の実在感も
健在です。

　一番問題のあったカラヤンの「パルジファル」も、これまで聴いて来たような力強くも美しい
バイオリンパートの音が再現され、それに厚みある金管セクションが拮抗して出現するその様は
正にカラヤン／ベルリンフィルの独壇場と言うところでした。独グラモフォンに比べてベルリン
フィルの嫌みがなく、自然の中にも凄味があるこのEMI 録音は貴重な存在ではないかと思います。
その他ジャズピアノ（ビル・エバンス、テディ・ウィルソンなど）も聴いてみましたが、昔では
考えられないような安定した音で楽しむ事が出来ました。もうピアノも怖くないと思いました。

　やれやれです。このSW切替式ATT は送料込みで\27,670 です。交換手数料を含めればL-Pad と
ほぼ同額になります。これで音質が改善されなければ、もう解決策はなく万事休すになるところ
でした。流石は東京光音です。これと言った色付けもなく自然で優しい音に変身できたのでした。
唯、誤解のないように申し添えますが、これはSW切替式ATT を使えば何んでも彼んでもこの音が
実現すると言う事ではなくて、偶々完成度の高いWRのバランス型プリではこのような効果が出た
と言う事に過ぎません。言える事は、これも場合に依ってですが、摺動部を伴うVRは音を害する
場合が結構あると言う事です。こうなりますと我がWRC-α1/FBALもVR交換をしたくなりました。

　立て続けにアンバランスとバランス型の２台の旧型WRプリのアップグレードを行った訳ですが、
これまでの経験を総合すると、やはりバランス型の方が難しいように思います。それはホットと
コールドの音質が完全に揃わないと、合成した時にいい音になり難いと言う本質的な問題を含む
からだと思います。確かに、オーディオ機器間の接続はXLR の方が簡単ですし、信頼性も高いと
思いますが、半分のハードで済むアンバランス型に致命的な欠陥はなく寧ろ安価で容易にいい音
が得られる気がします。

　これで一件落着ですが、最後にお約束通りに、これら旧型プリでの経験を生かした新型プリの
本当の最終アップグレードについてご説明したいと思います。先ずアンバランス型の旧型プリで
再び脚光を浴びたACラインに入れるパスコンについてです。今現在でも高級部品化の一環として
新型プリのACラインにはASC コンの0.01μF を入れていますが、これを２倍又は３倍に増やすと
どうなるかと言う実験をして見ました。前回も説明しましたが、容量を大きくする事はそれだけ
インピーダンスを低くする事は出来るのですが、逆に共振周波数を下げてしまいますので、高い
周波数のノイズに無力になる可能性があります。従ってやって見て結果で判断するしないのです。
プリに我がΕC-1Hを用いた事は言うまでもありませんが、WRC-α9 でも同様の結果になると思い
ます。

　0.02、0.03μF の両方やって見ました。この両者には優位な差はありませんでしたが 0.01μF
に比べますと嫌な音が減り音が安定したように感じられました。此処は容量を増した方が良いと
結論付けました。もう一件はリレー回路のノイズ対策です。これまで新型プリでは一切やった事
がありませんでしたので初めての挑戦です。新型プリのリレー回路は方式が異なり正負２電源で
動作しています。旧型は別の巻線から電源を取っていましたが、新型はコストダウンと言う事も
あって、主電源の整流回路の根元から取っています。

　根元は結構ノイズがあるところです。プリの場合は、此処からパイ型フィルターを経てノイズ
の減った直流が安定化電源に供給されます。今から考えれば此処に存在するノイズがリレー回路
に流れていた事になります。偶々リレー回路の電源部の入口に抵抗が入れてありますので、その
抵抗の後にパスコンを入れれば、ローパスフィルターが構成されノイズの流入量を大幅に減らす
事が出来そうです。早速正負共に0.01μF のASC コンを入れて見ました。以上の３箇所に新しく
ASC コンを処置をして本格的に試聴をして見ました。私のΕC-1Hのリレー用電源線は新しいもの
に交換されていましたが、これまでにアップグレードされたΕC-1Hの中には以前のままの線材が
残っているものが多いと思いますので、当然この線も交換の対象になります。

　これまでは我がΕC-1Hは完成度が高いと思っていましたが、一方で例えば「パリ」の初っ端で
ストバイがほんの少しだけ左に引っ張られるような気がしたり「オランダ人」の激しいところで
何となく方向感に不安定性が顔を出すように感じたり、聴き慣れて来ますとほんの僅かながらも
気になる音があったのでした。もしかしたらこれが軽減されるかも知れないと言う期待感が出て
来ました。

　案の定、残っていた僅かな不安定な音がかなり軽減されたのです。完璧だと言うとウソになり
ますから控えますが、大袈裟に言えばワンランク音のレベルが上がったと思いました。こうして
得られた音と今回の旧型バランスプリの音が実はかなり接近したのでした。つまり偶然にも同じ
音質レベルの音、それもかなり似た音調の音になったのです。旧型と新型プリではラインアンプ
や安定化電源等に共通点はありますが、回路構成も総合ゲインも電源部も違いますので全く別物
のプリと言っても差し支えないところです。

　それが結果として得られた音が酷似しているのです。粗を探せば違いはあるでしょう。しかし
生の演奏会の雰囲気を家庭で再現すると言う目的に於いては、音は殆ど一致していると思います。
これは偶然ではなく、ルートは違っても数学のように同じ正解に行き着いた証なのではないかと
思います。音が一致したと言う事は決して偶然ではなく、解が正しい事を示しているのではない
かと思います。そう言うオーディオこそが、科学的なオーディオと呼べるのではないでしょうか。

　この一方のWRC-ΔZERO/FBSE を旧型のバランス型プリの「WR標準」第１号に認定して、お返し
しました。それにしてもプリの影響力は今更ですが凄いものがあります。幾ら良いパワーアンプ
を使ってもプリで台無しになる事があると言う事です。逆に言えばプリの能力を高めればパワー
アンプのポテンシャルを最大限まで生かせる事になります。今回ΕC-1Hに手を入れましたが我が
100W機も男を上げています。同様にΕ-5H やΕ-10Hのパフォーマンスも見直す必要があると思い
ますが、これは機会を改めて報告させて頂くつもりです。

　さて完全アップグレードが済んだ新型プリが対象になりますが、３個のASC コンを交換または
追加してノイズの軽減に努め、必要ならリレー用電源線を交換してさらなる飛躍を遂げるアップ
グレードを提案させて頂こうと思います。部品代と作業代は大したものではありませんが、これ
だけやって終りだと言う単純なものではありません。要は音質のレベルが有意に良くなる必要が
あり、もうこれ以上手を入れる隙が無い程に総仕上げを行う必要がありますので、最後まで責任
を持つと言う事を含めまして、今回も \10.000とさせて頂きたい思っています。該当される方の
ご応募をお待ちしております。旧型のバランスプリをお持ちの方でSW切替式Ｐ型アッテネーター
に興味のある方は、実現は２ヶ月ほど先になりますがメール等でご相談下さい。

　最後に「WR標準」認定のお話ですが、近い内に「WR標準」または「WR Standards」のシールを
作りアンプの後面に貼らせて頂こうと思います。日付を記入し向こう１年間は、もし気になる音
があった場合は送料程度（\2,000）で何回でも面倒を見させて頂く事に致します。ですから安心
してアップグレードを為さって頂けるようになると思いますので、出来るだけいい音を目指して
頂ければと思います。最後まで行くにはそれなりの代償を伴いますが、既成オーディオとは違い
確実にいい音のアンプに巡り会えるのです。その代償も新規にアンプを購入する方には凄く有利
になっています。部品代が伴うものを除いてこれまでの新技術が価格据え置きで全て投入されて
いるからです。勿論、新αシリーズのパワーアンプなら最初から「WR標準」が認定されます。


注）「WR Standars」のシールの画像（案）はトッピクス蘭を参照して下さい。

1874川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Nov 14 20:00:00 JST 2018

旧型プリの別電源部に入れるパスコンについて－－－旧型プリをお持ちの方に福音！

　先日ご注文を頂いていたWRP-α50が完成しさぁ試聴しようと思ったのですが、ユーザーの方の
ご希望で入力がXLR のみなのです。必然的にバランス出力のある旧型プリを使うしかありません。
しかし前回も少し触れましたが、私の旧型プリのAC電源に入れているパスコンはSEコンではなく
代替品しか入っていません。それも調べて見て分かったのですが、ジャンクで買った素性のよく
分からないものが使われていたのです。

　出来上がったパワーアンプを試聴する前に、先ずは自分のプリに手を入れて「WR標準」にして
からでないと正確な試聴が出来ないと思いました。かと言って0.01μF のSEコンが手持ちにある
訳ではありません。こう言う場合はASC コンを使う事にしています。コストがSEコンの1/10です
から気楽に使えます。事実、高級部品化の一環として、ASC コンの0.01μF を既に使っています。
新型のプリやパワーアンプではお馴染みなのです。しかし効果はSEコンと同等と言う事にはなり
ません。

　この辺りは少し説明を加えないとご理解頂けないかも知れません。コンデンサーは高周波領域
では単なる静電容量としてだけ動作するのではなく、容量に損失抵抗とインダクタンスが直列に
入る等価回路になります。損失は主に誘電損で決まりますし、インダクタンスは主にその構造で
決まります。高周波特性の良い誘電体を使い、両端をメタリコン処理をすると一般に高周波特性
の優れたコンデンサーを作る事が出来ます。上記の３つの要素が直列共振回路を構成しますので、
共振周波数以上の周波数ではコンデンサーとしての機能が失われてしまうのです。その周波数を
境にインダクタンスとして動作するようになります。因みにインダクタンスは周波数と共にその
インピーダンスが増大して行きます。従って、共振周波数の低いコンデンサーは高周波用に使え
ないのです。昔のケミコンはこの周波数が10KHz 位のもがあった程です。換言すれば10KHz 以上
のノイズは殆ど吸収できない事になります。

　SEコンはマイカコンデンサーの一種で、ASC コンはポリプロピレンコンデンサーですから特性
は少し違うのです。マイカコンデンサーは、戦前から高周波に使える唯一のコンデンサーでした。
元々高周波用なのです。戦後はチタコンやスチコンが開発されて高周波に使えるコンデンサーも
増えましたが、安定性の良いマイカコンデンサーは歴然として残っています。スチコンも含めて、
プラスチックをフィルム状にして作ったコンデンサーを一般にフィルムコンデンサーと呼びます。
SEコンに使われているマイカはルビーマイカだと聞いた事がありますが、かなり高級なマイカが
使われている事は確かです。だから高価でもあるのでしょう。

　フィルムコンデンサーはスチコン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどを使ったものには
高周波特性の良いものがあります。ポリエステル余り良くありません。ASC コンも勿論、悪くは
ありませんが高周波用として使われている例は少ないと思います。同じ0.01μF のものを使って
もSEコンと等価的な損失やインダクタンスが違うので同じ効果を発揮するとは限らないのです。

　例えばインダクタンスが大きいとしますと、直列共振周波数が下がりそれ以上の周波数からは
コンデンサーではなくなりインダクタンス化しますので、その共振周波数がSEコンに比べて低い
と高周波用としての能力が劣る事になります。しかし、現行のSEコンは耐圧が低いのでAC電源に
入れる場合は最低でも２個直列にして使う必要がありますが、ASC コンの耐圧は高いので１個で
済み容量的には有利になります。その為、もしかしたら効果が同等程度になる事もあり得ます。

　あとは実験して試聴して見るしかありません。早速旧型プリの別電源部に入っていたジャンク
品をASC コンの0.01μF に交換し、我が100W機で試聴して見ました。勿論、これだけではなくて
自分のモノであると、例えば線材交換に不完全なところが有ったり、パスコンの入れ方にも多少
問題があったりしましたので、最善になるように真剣に努めました。これまではVRのひずみ感が
無視出来ず、どうしてもΕC-1Hの音質レベルに届かなかったのですが、何とか同レベルになった
ように感じました。やはりジャンク品よりASC コンの方が良い結果が出たのでした。欲を言えば
切りがありませんが、これならパワーアンプの試聴に耐えると思いました。やはり、オーディオ
アンプには高周波ノイズが大敵なようです。

　斯くしてWRP-α50の試聴を無事に終える事が出来ました。最近よく聴く諸々のテストCDが問題
なくクリアされました。このアンプは新αシリーズの最新作ですから、当然「WR標準」のレベル
に達したのだと思います。今は部品の選択に困窮する事もありませんし、大体思い描いたように
作り上げる事が出来殆どドンピシャでした。しかしこの状態を何時まで続けられるのか多少不安
にもなります。それはディスクリート用の部品が市場から徐々に姿を消しているからです。その
最たるものはやはりトランジスタでしょう。

　トランジスタは無数に作られましたから、贅沢を言わなければ適当なモノを入手する事は暫く
は大丈夫だと思いますが、問題はパワートランジスタでしょう。どんなものでも良いと言う事で
あれば未だしも音質を重視するとなると難しくなると思います。今現在私の所有する在庫の範囲
内でWRアンプを製作しています。世間のパワーアンプはすべてパワーモジュール１個で作られる
日が来るのではないでしょうか。上辺は綺麗に見えても中味の薄いものになって行くような気が
します。その時には既に音の分かる人も殆ど居なくなり、オーディオと言う趣味もかなり限定的
なものになるはずです。唯、WRアンプは長持ちしますのでそう言う時代になってもずっといい音
で鳴ってくれると思います。

　そう考えると折角開発したWRアンプの将来は決して明るくはありませんが、それでも今現在の
ユーザーの方々にいい音で音楽を楽しんで頂き、結果的に幸せな日々を送って頂ければ、それは
それで意義がある事ですし、十分なのかも知れないとも思っています。若い人の車の購入意欲が
薄れていると聞いていますが、オーディオもそう言う運命にあるのでないでしょうか。昔の価値
観が何時までも続くものではないのでしょう。やはり昭和は色々な意味で面白い時代だったのだ
と思います。平成が終り新しい時代になればこの傾向に拍車が掛かるようになる気がします。

　最後に、旧型のバランスプリはL-Pad 化が不可能ですから、新型に劣るところがありましたが
hiroさんのプリの一件から、何とか同等レベルに引き上げる事が出来る見通しがつきましたので
旧型プリをお持ちの方には福音になると思います。たかがパスコン一つの話ですが、旧型プリは
別電源方式である事と整流回路にバイポーラ接続した複数のケミコンを用いていますので、新型
プリに比べて高周波ノイズ上有利な条件が相まって得られた結果なのだと思います。

　もう一つ可能性をお話して置く事にします。L-Pad 化は無理でもSW式のアッテネーターに変更
する事は可能です。東京光音からＰ型ながらSW切替式VRが発売されています。トピックス画像を
ご参照下さい。少なくても摺動部の問題からは逃れられるはずです。特注のみですから入手まで
２ヶ月程掛かります。この情報はあるユーザーの方が見つけられてご自身で交換なさって具合が
良いと言う事で私にお知らせ頂いたものです。私自身はまだ検証しておりませんが近々別のある
ユーザーの方の交換作業を安定化電源の高帰還化と併せて行う予定になっています。結果に付き
ましては、後日又ご報告が出来ると思います。

1873川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Nov 10 19:30:00 JST 2018

hiroさん、アップグレードのご感想ありがとうございます。－－－「WR標準」の創設と認定

　お気に召して頂いたようで本当に良かったです。我が家で聴いても最新の状態になっていると
感じましたので、ソコソコ気に入って頂けるものとは思っておりました。このような音の状態を
これからは「WR標準」または「WRスタンダード」と言う風に呼びたいと思います。皆さんも是非
このレベルを目指して頂ければと思います。このレベルに達したアンプの場合は、その旨をお告
してご返却する事に致します。そうすれば皆さんも安心できると思います。

　物理的には、新旧を問わず完全アップグレードされたプリアンプとΕシリーズのパワーアンプ
に高級部品化を行ったもの、又は新αシリーズのパワーアンプを組み合わせて頂ければ実現する
音のレベルと言う事になります。旧型プリの場合はAC電源に入れるパスコンが重要な鍵を握って
いますし、パワーアンプの出力の違いでも多少の差が生じますが、「悲愴」や「パルジファル」、
または「さまよえるオランダ人」などのテスト盤を聴いて問題なく通るかどうかが判定の目安に
なります。何より大切な事は、生の音楽会の雰囲気が味わえる音である事です。これは量よりも
質がモノを言いますので、5W＋5Wのミニアンプでも可能だと思っています。

　WRアンプの開発はほぼ終盤を迎えており、上述したような音のレベルを実現する事が偶々出来
たと言う事ではなく、意図的に出来るようになった事がこのように音質まで保証する気になった
最大の理由です。既成オーディオの常識を越えたアプローチを試みようと言う事です。ですから
物理的な条件が揃っていながら、そのレベルに達しない場合は私の責任で必ず合格まで仕上げる
義務を負う事になります。これはアップグレードでも新規アンプでも同様です。但し出来る限り
新三種の神器を併用して頂ければと思います。

　hiroさんの旧型プリWRC-α1MK2と、プリメインWRI-βZEROをその第１号と認定させて頂きます。
どちらか一方の場合は相方はこちらのプリまたはパワーアンプを使って判定させて頂ます。勿論、
既に納めたWRアンプの中にも「WR標準」のレベルのものが既にあると思いますが、取り敢えずは
ご容赦頂きたいと思います。これまででも上記の物理的条件を満たしていれば「WR標準」の音に
なっているはずですが、もし納得できない音質であれは遠慮なくお申し出下さい。最後まで責任
を持たせて頂きます。

　さて、hiroさんは開口一番

★繊細で優しい部分も音の粒が立ち、低音はいっそう締まりながらも深みと伸びがある事を
★感じます。この充実感は以前になかったものです。

と仰っています。

　「繊細で優しい部分も音の粒が立ち」と言う事は私流に言えば、限りなく美しい「微弱音」が
聴こえると言う事だと思います。これは「WR標準」になる為の必須条件でありそう簡単な事では
ありません。過渡特性が良いアンプのみが為し得る音なのです。「低音はいっそう締まりながら
も深みと伸びがある」と言う行は安定化電源を積んでいるWRアンプの本領発揮と言うところです。
これを低音が出ないと評する人は本当の低音を知らない人ですし、その誤解を解く為にもＷＢＣ
の導入に踏み切ったのでした。hiroさんのWRC-α1MK2にも当然搭載されています。

　次にhiroさんは、

★さらに音が安定したためか安心して音楽に入り込めます。
★以前は、音が滲むというか散漫な部分があって十分に音楽が伝わりきれてない部分が
★あった事を感じます。

と述べられています。

　これは私流に言えば「過渡ひずみ」が激減したと言う事を物語っていると思います。音が滲む
と言う事はひずみ感があると言う事です。既成オーディオの常識では音の良さに注目し勝ちです
が、私は寧ろ逆で、耳に付く嫌な音＝過渡ひずみに注目します。これさえ無くなれば自然に良い
音が聴こえて来るのです。これには主に線材交換が役に立っていると思いますが、安定化電源の
高帰還化も無視出来ないと思っています。特に音が大きくなった時のひずみ感にはパワーアンプ
の安定化電源の高帰還化は大きく影響していると思います。何処までも伸びる音をお聴きになり
たいのであれば外せない技術です。生の音楽が正にそうですが、良い音ばかりに注目していても
過渡ひずみを積極的に抑え込まない事には「WR標準」の音のレベルには達し得ないと私は信じて
います。

　次に、

★メインアンプ単独としての試聴でしたが、これは以前の面影が全く見い出せない程、
★別のアンプに大変身しました。鮮度が全帯域で向上しながら品位は高く、
★表現が直に伝わる感じで演奏の躍動が気持ち良く伝わります。

の行の意味ですが、以前はセパレートに切り替えて独立したパワーアンプとして聴くと例えプリ
と組み合わせても余り良い音で聴けなかったけれど、アップグレード後は一人前のパワーアンプ
として立派な音で鳴るようになったと言う事だと思います。βZEROの方は大手術でしたから音も
激変したと感じられたのでしょう。それだけ、WRのアップグレードは一般性があり、どのような
WRアンプにも絶大な効果を発揮すると言う証になると思います。

　その音の良さをご本人の言葉をお借りすれば

★細やかな響きは明確になり、空間の奥方向への流れる様は目に見えるようで、これは見事です。

と言う事です。奥行き感も感じられるようになったと言う事だと思います。既成オーディオでは
誤解があり、音が前に迫り出して来るのが良いと思われている節がありますが、一般的には音が
引っ込んで聴こえて奥行き感が分かる方が正解なのです。実演を聴けば分かりますが、距離感は
有っても楽器の存在感はしっかり聴こえて来ます。過渡ひずみを含む音は概して飛び出して来る
ように聴こえます。この過渡ひずみの無い音を評して

★まったくストレスなく芸術的ともいえる仕上がりにまとまった今回の音

と書き添えていらっしゃいます。オーディオの音は最終的には「芸術的」に聴こえるべきである
と私も思っています。その域までWRアンプは昇華しつつあります。

　そしてプリメインのラインアンプ部は有って良し、無くて良しと言う事ですが、私もそう思い
ました。少し穏やかに聴きたい場合とスピード感のある音で聴きたい場合を使い分けできるのも
また一興かと思います。

　最後のΕ-10Hの一件は、新規にご購入になったΕ-50Hとの比較のお話しなのですが、少し誤解
のないように補足させて頂こうと思います。ご本人も仰っていますがパワーの違い以外にかなり
本質的な違いがあるのだと思います。現時点では詳細は不明ですが、Ε-10Hは高スルーレート化
まではお済のようですが、その後の例えば線材交換、安定化電源の高帰還化は行われていないと
思われます。

　一方、新規Ε-50Hの方は高級部品化を除いて全て実施済みです。WRアンプはアップグレードが
進んだ場合、高額部品が必要な高級部品化を除いて全て新規アンプに還元する事になっています
ので、常に最新状態のアンプをご購入になれるのです。価格は据え置きですからお得になります。
私としましても殆どコストに影響が出ない範囲であれば、わざわざ音の悪い状態で納入する事は
出来ないのです。これは取りも直さず、WRユーザーとしての先輩ユーザー方々のお陰になります。
普通のメーカーなら名称を少し変更して価格を上げるところだと思いますが、WRアンプの場合は
アンプ名称も価格もずっと据え置いています。しかしその音質は驚異的に進歩しているはずです
から、その辺りをご理解頂ければと思います。そう言う意味からすればアンプの仕様なんて殆ど
内容を表わしていない事になります。現状では音質は仕様にはならないからです。出来れば近き
将来は

　音質：「WR標準」

とか書きたいと思っています。皆さんも本当はそれを一番お知りになりたいはずです。

　hiroさんは、Ε-50Hの音を聴くまではΕ-10Hの音に疑問をもっていらっしゃらなかったのでは
ないでしょうか。しかし一旦良い音を聴いてしまうと、もう耳が昔の音に我慢できなくなるのだ
と思われます。このように聴感はどんどん学習して鋭敏化して行きます。一番良いのはライブで
本物の音を聴いて来る事ですが、WRアンプのように音質が保証されたアンプであれば充分に聴感
を鍛えて行く事ができます。それは生に近い音が聴こえるからです。

　皆さんも「WR標準」目指してアップグレードを為さって頂いて、本当に良い音が分かるように
なって、

★出てきた音は申し分ないもので幸せな心持ちでいます。

と吐露されたhiroさんのように、幸せな一時を過ごして頂ければと思います。それが開発者冥利
に尽きると言う事だと思います。一歩一歩行くも良し一気に行くも良し、兎に角一歩を踏み出し
ましょう。そうでないと何も始まりません。踏み出せば必ず頂上に辿り着けます。音楽を聴いて
本当に心から幸せな気分に浸りたくないですか？　私はいい音で音楽を聴いたあとは何時もそう
言う気分を味わっています。ああ、生きてて良かったと。

　最後にhiroさんにご賛同頂けた事は、私の独り善がりでは無い事の一分の証明になると思って
おります。これが二分となり徐々に増えて行けば、客観的な事象として認められる日も何時かは
来るかも知れません。どうか、第三者評価にご協力をお願い致します。


注）　新三種の神器とは、以下の使用を指しています。

　１）推奨スピーカーケーブル　→　HPに作り方を掲載してあります。

　２）WR製RCA ピン接続ケーブル又はWR製バランスケーブル　→　ショッピングサイトで購入可。

　３）WR電源フィルター　→　メール等でご相談下さい。

1872hiroさん(音楽好き人間) Tue Nov 6 10:06:11 JST 2018

アンプのアップグレードをして頂きました。

少し前に掲示板に書かれていたWRC-α1MKⅡ とWRI-βZEROの、アップグレード後の感想です。
WRC-α1MKⅡ をプリに、最初はWRI-βZEROの内蔵ラインアンプ経由で聴きましたが、繊細で
優しい部分も音の粒が立ち、低音はいっそう締まりながらも深みと伸びがある事を感じます。
この充実感は以前になかったものです。

音調としては少し穏やかで濃厚になる感じでしょうか。
さらに音が安定したためか安心して音楽に入り込めます。
これを聴くと以前は、音が滲むというか散漫な部分があって十分に音楽が伝わりきれてない部分
があった事を感じます。

次はラインアンプをパスしてメインアンプ単独としての試聴でしたが、これは以前の面影が全く
見い出せない程、別のアンプに大変身しました。
鮮度が全帯域で向上しながら品位は高く、表現が直に伝わる感じで演奏の躍動が気持ち良く伝わ
ります。

特に細やかな響きは明確になり、空間の奥方向への流れる様は目に見えるようで、これは見事です。
以前はメイン部を単独で使用すると軽い感じになり、ラインアンプを経由する方が落ち着きと奥
行き感が増すので経由するのは必然と思っていましたが、その必要はなくなり安定感も十分です。

過去のハイブリッド化した時の、余計な音がなくなり静かになった時の思いは今だ強く心にある
のですが、まったくストレスなく芸術的ともいえる仕上がりにまとまった今回の音は、それにも
増して得難いものと感じています。

WRI-βZEROのラインアンプ経由ありと無しでは違う音調になり、今回のアップグレードでそれ
はより明確になりました。
どちらが良い悪いではなく、贅沢にもどちらも音として良いのですから迷うのですが、いろいろ
楽しめます。
ゆっくりと聴きながら試して行こうと思います。

２台のアップグレードをお願いする前に、所持するE-10H 相当の高スルーレート化したアンプと、
これまでのノウハウが詰まっている最新のE-50H を比べる機会がありました。
それなりにアップグレードして来たE-10H なので、パワーによる違いはあるにしても本質的なもの
はさほど違わないだろうと思ってましたが、その差は私にとって衝撃的なもので、音の品位の違い
は明らかでした。

E-10H は音が純化されてないというか何か大雑把な部分があるように聴こえてしまいます。
この時アップグレードの必要性を強く感じました。

今回はプリも同時にアップグレードを行ったので個別の貢献度は分かりませんが、出てきた音は申
し分ないもので幸せな心持ちでいます。

1871川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Nov 2 23:00:00 JST 2018

ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」

　先日、ショルティの新旧２枚のワーグナー序曲集から「タンホイザー序曲」を聴いて、甲乙を
つけ難いと書いたと思います。タンホイザーはオランダ人より聴き疲れしないので余り身構える
事なく聴けるのですが、オランダ人の方は結構激しい曲想ですからそれを受け止めるエネルギー
が漲っていないと中々最後まで聴き通せません。

　しかしオランダ人の音の方も気になり始めました。と言うのは特に旧盤のオランダ人に対する
音の値踏みは昔のまま固定されていたからです。それは学生の頃に大学祭の時に行ったレコード
コンサートで、前出のカラヤンのオランダ人とショルティのオランダ人を掛けて、どちらも似た
ようなレベルの音だったと言う記憶が強く残っていたからです。三つ子の魂百までもです。

　最近カラヤンのオランダ人が今になって見ると大した音では無かった事が判明した以上、もう
一方のショルティ盤も改めて聴き直す必要があると思ったのです。一度その評価を決めてしまう
と中々見直そうとしないのが普通の人間です。敢えて聴く事にしました。結果は想像よりも良い
音で録れているし演奏もやはり凄いと認識を新たにしました。タンホイザーが終わった瞬間の音
がホールに木霊すると書きましたがオランダ人もそのレベルで演奏されていた事が分かりました。
当時はショルティ盤の真価を正確に計り知ることが出来なかったのです。

　ではショルティの新盤はどうなのかと思って聴いて見ると、演奏も録音もこれはこれで凄いと
思いました。トランペットの鋭さが印象的に録れています。どちらがどうだと結論できない程に
肉薄していると感じました。流石はショルティと言うべきか流石はデッカと言うべきか悩ましい
ところです。15年の年月は殆ど影響していないのです。勿論、細かな部分では色々あるとは思い
ますが、私はどちらでもワーグナーの音楽を堪能出来ると思いました。それで良いのではないで
しょうか。

　実はこの序曲は1976年録音とありますので、全曲盤(L54C-5046/8）からのものだと思われます。
良い機会だと思って少し序曲以外も聴いて見ようと思いました。ところがオランダ人が登場して
「期限は切れた。」を歌い出すとオランダ人の声がどうもしっくり来ないのです。昔、購入した
1960年録音のビクター盤のジョージ・ロンドンの声が懐かしくなりました。

　この頃英デッカとRCA ビクターが相互乗り入れして数々の録音を行っています。有名なところ
ではカラヤン／ウィーンフィルのブラ１がそうですし、ライナー／ウィーンフィルのベルディの
レクイエムもそうだと思います。珍しいところではカラヤン／レオンタイン・プライスの共演で
「アベマリア」と題したクリスマス音楽を集めたLPがありました。前二者はどちらもビクター盤
でしたが、後者はロンドン盤で発売されました。何れもバーゲンセールで売っていた記憶があり
ますが、その中の１つに上述したロンドンがオランダ人を歌う「さまよえるオランダ人」があり
ました。録音は主に英デッカが担当したようで音の良いものが結構あったと思います。その証拠
に目ぼしいものが英デッカから復刻されています。

　指揮はドラティで、演奏はコベント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス管及び合唱団です。
「期限は切れた。」は序曲が終わって暫くして始まりますが、オランダ人のアリアであり延々と
独白が続きます。神を呪った為罰を与えられたのですが、７年に１度上陸を許される間に乙女を
射止めれば救済されるのです。白羽の矢が立ったのがノルウェーの船乗りダーラントの娘ゼンタ
でした。財宝に目が眩んだダーラントは二人を応援しますがゼンタもオランダ人に運命を感じて
しまいます。

　当時、このロンドンによる独白が耳を強烈に刺激して13分程のアリアを聴き続ける事が出来ず
とうとうこのLPをマスターズの平野紘一氏に譲ってしまったのでした。それ以来暫くこのソース
の事を忘れていたのですが、CDとしてロンドンレコードから発売(POCL-3935/6）されたのを機に
もう一度聴いて見たいと思いました。序曲とその後に続く「ホヨヘ！ハロヨ！」とノルウェーの
船員達が歌う辺りが、結構迫力があって好感が持てたので再度チャレンジしたのです。激しい嵐
で押し流されてノルウェー船は入江に一時避難をします。舵手の見張りが睡魔に襲われている間
にオランダ船（幽霊船）が現れ錨を下ろします。幽霊船から船長のオランダ人が上陸して来ます。
そしてロンドンが歌う「期限は切れた。」が始まります。

　購入当初は我がシステムも未だ未完の状態でしたので、このソースの真価を正確に推し量る事
は出来ていなかったのですが、今回チャンス到来とばかりに序曲から聴き始めました。期待通り
なかなか良い音ですしショルティとは些か違った魅力がありますが、共通するのは目一杯にオケ
を鼓舞しているところです。やはり、ドラティも素晴らしい指揮者だと思いました。中学生の頃、
ドラティがミネアポリス響を振った「くるみ割り人形」を聴いて感激してから、その新盤も買い
ましたし、比較的最近のものでは「我が祖国」も立派な演奏だと思います。どちらもコンセルト
ヘボウ管の秀演です。

　ところでその「期限は切れた。」ですが、キリキリと来るような刺激感が全くなくロンドンの
声量のある歌声をタップリ味わう事ができて大満足でした。この録音の２年前にロンドンは指輪
の「ラインの黄金」でウォータンを好演しています。ビクター盤で耳に強い刺激感を受けた時は
自作の真空管アンプでしたが、その事を脇に置いてロンドンはダメだと思ってしまったのですが、
とんだ勘違いでした。今では本当に良い歌手だと思います。

　「さまよえるオランダ人」は1966年ベルリン・ドイツ・オペラが来日した時の演目で、テレビ
中継があって、その音楽と不気味な舞台が印象的で改めて魅入られてしまったのです。ビクター
盤を手放してからかなり経過していましたのでショルティ盤を購入したのですが、オランダ人の
歌唱の問題があって今一つ聴き込むまでは行ってなかったのです。

　そんな折、マスターズの平野紘一氏から本当に久し振りに電話を貰いました。話の内容は絶対
位相の件でした。今、それを気にする人が増えていてボタン一つで変えられるオーディオ機器が
人気があると言う事でした。そう言えば過って使っていたアキュフェーズのDC-91 にも反転SWが
付いていましたしプイメインにも付いている機種があったはずです。同じ事が再三繰り返される
オーディオ界の現状は、本質的には殆ど変ってない事を示している気がしました。もっと大事な
事があるのではないかと思います。そもそも絶対位相は録音から始まってソース源が出来上がる
までの経路は全く不明であり何の保証もないので、一般のソースはまちまちだと思われます。

　オーディオは何をやっても音が変りますから、絶対位相は兎も角も位相反転でも何らかの形で
音に影響するかも知れません。問題はそれが本質的に根幹を揺るがす事なのかどうかです。意見
を求められたので、先ず逆相で聴いて見る事にしました。逆相のやり方で一番問題が少ないのは
スピーカー端子の接続を入れ替える方法です。入れ替えてもしっかり締めればその前後で条件が
殆ど変化しないからです。位相反転回路を入れる方式は当然それだけで音が変りますしトランス
の巻き始め巻き終わりとか、バランス系の２番と３番をスイッチで切り替える方法等は、接点の
問題と線材の影響がないとは言い切れません。簡便な方法は往々にして本質的な事を犠牲にする
事があります。

　最近よく聴く「悲愴」と「パルジファル」を聴いて見ましたが、私の満足度は何も変りません
でした。もし、本質的に音質が変るとすれば再生系、もしくは聴感系に偶数次の高調波ひずみを
発生するメカニズムがあって、上下非対称である音楽信号に対して何らかの異なった応答を示す
結果、違った音と認識する事になるのではないかと推察されます。例えば2A3 シングルの無帰還
アンプならあり得るかも知れません。あとはスタート時に一瞬押すか引くかの相違が生じますが
音楽が進行すれば、その影響は無くなりますので問題にならないと思います。大切な事はアンプ
システムの完成度が高くなれば、その影響も殆ど無くなるのではないかと思います。何でもそう
ですが、弱点があると悪魔はそこを突いて来るのです。但し、聴感に何らかの非対称性があれば
その違いを感じる人が居ても不思議ではないと思います。その場合はその方が聴き易い方で聴け
ば良いと思います。

　深入りしても仕方がないので正相にしてまたドラティのオランダ人に戻りました。ロンドンの
モノローグは感動的で充実しています。音質的には音が大きくなった時にほんの僅かながら音の
伸びに限界を感じる事があるくらいです。今でも十分通用する音質と言えます。このオペラの中
でも有名で聴き堪えのあるところを選りすぐって聴いて行きました。序曲に出て来る親しみ易い
メロディーがあちこちに散りばめられていますので、殆ど退屈する事無く鑑賞ができます。序曲
の存在意義が此処にあります。

　第２幕のバラード「ヨホホエ！ヨホホホエ！」はオランダ人独特の雰囲気があり、特に楽しく
聴く事が出来ます。第２幕はゼンタとオランダ人がお互い打ち解けて幸せな時間をこの世で過ご
しますが、音楽は少し中だるみの感がなくはありません。何と言っても第３幕が短い（30分程度）
ながらも一番充実しています。冒頭の有名な「水夫の合唱とアンサンブル」は本当に見事な音楽
です。これを聴けば誰だってワーグナーの音楽に魅入られてしまうでしょう。これはノルウェイ
船の水夫達の合唱で、舞台右側で一頻り賑わうのですが、その間舞台左側のオランダ船は沈黙を
守ったままです。

　間もなく風が吹き波が高くなって、突如静まり返っていたオランダ船から不気味な合唱が聴こ
えて来ます。風が吹く効果音のようにピッコロでしょうか強烈に交じって聴こえて来ます。この
合唱も「ヨホホエ！ヨホホエ！」と歌います。ノルウェイの水夫は怖がって船室に篭ってしまい
ます。再びオランダ船は静まり返ります。ゼンタは、オランダ船に行こうとしますが、ゼンタの
許婚であるエリックがゼンタに「君はかって永遠の貞節を誓ったはずだ！」と責めると、物陰で
聞いていたオランダ人は「もはや終りだ。救済は永遠に失われた」と叫び、オランダ船を強引に
出航させます。ゼンタはオランダ人に貞節を誓い高い岩から海に身を投じてしまいます。すると
オランダ船は沈没し、ゼンタとオランダ人が昇天して幕が下ります。ここぞと言う時ストバイが
激しくリズムを刻みますが、全く引き攣れる事も無く感動的に聴く事が出来ました。イギリスの
オケでも指揮者次第である程度の厚みを持ったストリングスが楽しめるのでした。リザネックの
ゼンタの声も高い方に伸び切って、ロンドンの朗々としたオランダ人の声と調和して見事ですし
素敵です。

　この最後の３幕の音楽はワーグナーのエッセンスが凝縮されており、聴く者の魂を揺さ振らず
には置きません。ワーグナーなんてと思っている方にも是非一度は聴いて頂きたい壮大なオペラ
です。そして出来るなら過渡ひずみ感の無いアンプシステムで聴いて頂きたいと思います。３人
以上が同時に歌ったり（例えば「もはや終りだ」と言うところはオランダ人、ゼンタ、エリック
がこの順に左から並んで三重唱になります）合唱が絡んでくるオペラは、普通の楽曲よりひずみ
感を感じ易いのですが、完全アップグレードされたプリ（WRP-α9 またはΕC-1H）と、出来れば
新αシリーズのパワーアンプを使って頂ければ明日からでもこのようなオペラを何の障害もなく
楽しむことが出来ます。仮にそうだとしたら、良い音が確実に保証されているオーディオなんて
面白みに欠け却って触手は伸びないものなのでしょうか？ 


注）理想的な音を得るには、ソース源のクオリティ、電源の電磁環境、接続ケーブルも大切です。
　良質のプレーヤー、WR電源フィルター、WR製RCA ピン接続ケーブル、推奨スピーカーケーブル
　を使っていらっしゃいますか？　音にご不満がある場合は今一度チェックして頂きますように
　お願い申し上げます。私の試聴記はこれら全てを完備している事が条件になっています。

1870川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Oct 28 22:30:00 JST 2018

旧型WRアンプのアップグレードを終えて

　旧型当時以来のユーザーの方から、WRC-α1MK2およびWRI-βZEROのアップグレードを依頼され
ました。内容は以下の通りです。

　１）プリアンプWRC-α1MK2（アンバランス型）　→　線材交換、安定化電源の高帰還化

　２）プリメインアンプWRI-βZERO　→　高スルーレート化、線材交換、安定化電源の高帰還化、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一部の高級部品化

　WRプリは当初WRC-α1 としてデビューしましたが横幅を20mm短くして400mm とし、前面の出力
端子を省略してMK2 として再デビューしました。又当初はアンバランス型のみで、バランス型は
ずっと後から発売されました。私のプリは初代のものですがバランス型を発売する際にバランス
化加工して現在に至っています。

　一方プリメインアンプWRI-βZEROは、WR初のプリメインアンプWRI-β2 、β3 のフラグシップ
機として開発されましたが、今現在プリメインアンプは全てディスコンになっています。やはり
音質的にはセパレート型に敵わないからです。これらプリメインアンプは準コン回路を搭載して
デビューしました。

　当初、WRのパワーアンプは純コン回路でしたが、当時は終段にエミッタホロワを採用するしか
ありませんでした。しかし私の頭の中では、出来るなら不安定動作に陥り易いエミッタホロワは
使いたくなかったのです。ご承知のように、準コン回路は半分はコレクタホロワです。準コンの
方が少しは増しかも知れないと思い、準コン回路のアンプを開発したのでした。

　しかし純コンであるWRP-α1 がある限り、発売すのるなら別の形式にしないとダメだと思った
のです。それでプリメインアンプを思いついたのでした。それが結構当たりWRI-β2 はそこそこ
売れたのです。気を良くしてその最高峰であるWRI-βZEROを引き続き開発したのですが、価格が
倍増した為（\294,000）余り売れませんでした。世の中には数台しかないと思いますが、その内
の１台がアップグレードの為に里帰りしたのです。

　内部を拝見すると今回が初めての里帰りではなく、準コン回路は現今の標準型であるコレクタ
ホロに依る純コン回路に既にアップグレードされ、ハイブリッド化まで済んでいました。準コン
回路は、今現在のコレクタホロに依る純コン回路に発展的に解消されたのです。もう細かな仕様
を失念していましたが、アンプ基板の数値から40W 型である事が分かりました。上述したアップ
グレードの内容を完遂するには相当の工程が必要になりますので、先ずプリの方から手を付ける
事にしました。最近は無理せずに２日掛けてゆっくり行う事にしています。早ければ良いと言う
訳ではなく、結果としての音が良くなる事が最重要課題だからです。

　プリも何回か行き来しており、別電源部にはかなり手が入っていました。そこで思い出したの
ですが0.01μF のSEコンがAC電源のパスコンに使われていました。このSEコンが数個見つかった
時何人かの方に処方させて頂いたのです。元々WRアンプのAC電源には300PF のSEコンをパスコン
として入れていましたが、これは破格の容量値でありかなりの効果が期待できたのです。

　本体内を拝見しますと既にＷＢＣ付きのラインアンプになっていました。EQ付きですがゲイン
を落として高帰還化し、その減ったゲインをラインアップを増設して補うと言う手法が採られて
いました。横幅が400mm あるのでアンバランスならば色々な細工が施せます。当然、L-Pad 化も
可能になります。

　実は私のWRC-α1/BAL はL-Pad 化が出来ない為、新型プリのΕC-1Hには敵わないところがあり
ますので、いざとなったらお時間を頂いてL-Pad 化する事も止むを得ないと思いました。しかし
です。それは取り越し苦労に終わったのです。線材交換と安定化電源の高帰還化を行って、取り
敢えず試聴して見る事にしました。パワーアンプには100W機を使い「悲愴」「パルジファル」等
の最近よく聴くソースを中心に聴いて見ました。
　
　何んと何時も聴く音にそんなに引けを取りません。これなら合格です。少なくても、私の旧型
プリより良いようです。ちょっと意外でもありましたが、やはり0.01μF のSEコンが効いている
ように思いました。そう言えば私のプリも一時は入れて効果を確認してあったのですが、ご希望
の方が居られたので融通してしまったのです。今から新しく購入するとなると約\5,000／個です
から２個必要なので１万円の負担になります。

　何故、L-Pad でなくてもかなりいい音で鳴ったのかですが、AC電源からの高周波ノイズの流入
を限りなくシャットアウトすれば、VRの摺動部分で生じる過渡ひずみはかなり軽減されるのでは
ないかと想像されます。このプリには其処だけでなく、他の２箇所にも0.01μF ではないものの
SEコンに依るパスコンが入っていたのでその相乗効果もあったと思われます。これまでに、交流、
直流を問わず電源ラインにSEコンに依るパスコンを入れると、過渡ひずみが減少すると言う事を
経験していますので、案外当たっているかも知れません。

　気を良くして難物のβZEROに取り掛かりました。高スルーレート化はローノイズのヘッドホン
アンプWRP-α9/A を開発した時に、初段の電流を下げる為に負荷抵抗を高抵抗化した事に依って
生じたスルーレートの悪化分を取り戻す為に必要でした。これは一律に行えば良いと言う訳では
なく、パワーに応じた適正値があります。これだけでは簡単過ぎるので、アップグレードの中に
LED にパスコンを抱かせる、SP端子のアース側を高周波的にアースに落とす、SP端子に120 Ωの
終端抵抗が無ければ付ける、電源のケミコンが10000μF以下ならば適当に補う等の項目がプラス
されていました。今回も部分的に満足しているところがありました。

　βZEROはフラグシップ機ですから当然かも知れませんが、アンプ基板が準コン回路である他は
旧型基板を使って構成されていました。また以前のアップグレードの際にラインアンプのゲイン
がユニットゲインに高帰還化されていました。しかも２段差動化も行われていたのです。従って
プリ部には余り手を付けずに済んだのでした。線材交換は半田付けで交換できるとは限りません。
コネクタ部は新しいコンタクトを使ってやり変える必要があります。旧型基板の電源部は凝って
いますのでコネクタも多いので大変です。

　安定化電源の高帰還化には、制御の石の前段のドライバーを高ft化する作業も含まれています。
ツエナーや定電流素子、帰還率の変更等々を行います。作業後は規定の電圧が得られているか等
の測定が必要になります。旧型アンプは高級部品化率が高いですが、昔の施工と今現在のレベル
は違いますので、100%OKと言う訳には行きません。特にアンプ基板は、コレクタホロワ化の際に
高級部品から脱皮しようと普及部品を使いましたので、今なら高級部品に交換した方が良い箇所
が無いではありません。

　以上の作業を２日間掛けて行いました。パワーアンプは測定が必須です。アイドリング電力が
適当かどうか、残留ノイズが規定値に納まっているかどうかをチェックします。今回はノイズが
多少多かったので手直しを行いました。測定が済めばいよいよ試聴です。普通はΕC-1Hをプリに
しますが、今回はWRC-α1MK2をそのまま使いました。何時ものテストCD、サンサーンスの３番と
モーツァルトの「パリ」をウォームアップを兼ねて必ず聴く事にしています。サンサーンスの方
では特に低音部の出方を「パリ」では中高域の荒れをチェックします。これで大体の事は分かり
ます。

　特に問題ありませんでしたので、最近よく聴く「悲愴」と「パルジファル」の３幕の方を立て
続けに聴いて見ました。相変わらずジュリーニの「悲愴」が演奏と言い録音と言い申し分ない事
を確認しました。これが本当に1959年の録音なのか？本当に良く録れています。ビオラパートの
厚みが実演を彷彿とさせますし、エネルギー感のあるバイオリンパートが左手側に大きな立体像
のように定位します。日フィルとサントリーホールのコンディションの良い時に聴いたあの感触
が蘇って来ます。

　ところでβZEROはセパレートとしてパワーアンプ単体でも使えますし、プリメインとして 0dB
のラインアンプを通しても聴く事も出来ます。ラインアンプを通して聴きますと少しだけですが
聴き易くなります。バッファ効果でしょう。特にモーツァルトには良いのではないかと思います。
唯、このレベルになりますと、パワーアンプダイレクトの方が立ち上がりのスピード感に優れる
ような気がします。このアンプは40W ですのでスピード感を重視するのも一興かと思います。

　それでもカラヤンの「パルジファル」を殆ど崩れずにこなしました。殆どと申したのはΕC-1H
と100W機で何時も聴いている音に比べてと言う意味合いです。ふと机上を見るとショルティのCD
が目に入りました。ワーグナーの序曲集です。ウィーンフィルとの旧盤とシカゴ響との新盤を常
に置いてあります。急に聴いて見たくなりました。

　シカゴとのタンホイザーは朗々と鳴るトロンボーンに痺れますが相変わらずと言うかこれまで
より以上と言うか、久し振りにその厚みのある合奏に酔いしれました。実演でもこれだけの音に
遭遇する事は滅多にありません。オーディオの醍醐味と言うべきでしょう。ではウィーンフィル
の方は？と思いました。1976年の録音に対して一昔前の1961年の録音です。少し落ちるのかな？
と思ったのです。

　確かにトロンボーン合奏の音はシカゴに軍配が上がりますが、全体的に劣っている音とは思え
ません。聴き進めますと徐々にこちらはこちらで凄いと思い始めました。ショルティがウィーン
フィルを強引に引っ張って、最初は抵抗するもついには一緒になって頑張ってしまう姿が其処に
ありました。最後の辺りになるとウィーンフィルの凄みが増して唸って聴こえて来ます。終った
瞬間その余韻がゾフィエンザールに木霊する感じまで捉えられています。こんなに凄かったんだ
と改めて認識させられました。ショルティもやはり立派ですが、これらを録音したカルショウ／
ゴードン・パリー／ジェームス・ブラウンのコンビも凄いです。因みにシカゴ響の方はその下で
働いていたエンジニアのウィルキンソンが録音しています。だから音が似ているのでしょう。

　ジュリーニやカラヤンにしてもそうですが、指揮者の格が今とは違うと思いました。これだけ
の指揮が出来る人が今現在居るでしょうか？　もっともオケの実力も相当に落ちているそうです。
キュッヒルがウィーンフィルを退いたのも、その事と無関係ではないと聞きました。クラシック
音楽が売れなくなったのも、ある意味当然の事なのかも知れません。世の中進んでいる事ばかり
ではないのです。クラシック音楽と録音技術は衰退しています。私はせめてオーディオ再生技術
だけは一歩前に進めたいと頑張って来ました。

　それが成ったかどうかは皆様のご判断に委ねられるのですが、今回のアップグレードをする前
は多分、絶対にこのレベルの音では鳴らなかったと私は思っています。数万の費用が必要になり
ますが、それで実演並みの音が家庭で蘇るとしから、考えように依っては寧ろ安いのではないか
と思うのです。旧型アンプを未だお持ちの方々諦めずにトライして下さい。もう本当にいい音は
目の前まで来ているのです。あとは貴方が一歩前に歩を進めるだけです。

　新αシリーズのWRパワーアンプにしてもそうです。一見高価に見えますが、今お話したような
レベルの音が、完全アップグレードされたプリが必要にはなりますが、難なく再生できるのです。
120W機が買えるのであればそれに越した事はありませんが、４Ωの大型のスピーカーでなければ
それに拘る必要はありません。仮に最低ランクの30W 型でも本質的に劣る事は絶対にありません。
重箱の隅をつつくレベルの話は別にして、30W 型であってもジュリーニやカラヤンやショルティ
の凄い音楽がご自分の部屋で満喫出来るのです。それを心からお望みなのであれば、どうか私を
信じて決断して頂ければと思います。

1869川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Oct 21 21:00:00 JST 2018

手持ちのEMI 録音を色々聴いてみました。

　カラヤンのアイーダやショルティのワーグナー序曲集を英デッカ録音で聴いて以来、何時しか
音の良いLP盤はロンドン（キングレコード発売）と言う常識が、私の中で定着してしまいました。
それでもデパートの催し会場で偶に開かれるLPのバーゲンセールでは、各社のLPが並ぶため当時
日本コロムビアから発売されていたEMI 録音を偶に買ってしまう事がありました。

　そうして手に入れたLPが数枚ありましたので先ず聴いて見ました。先日聴いたジューリーニの
ボックス盤と似通った録音年月日だと思いますが、当時は録音年月日を明示する習慣がなく詳細
は不明です。殆どは推定です。

　１）ベートーベンＶ協：クリュイタンス／オイストラッフ／フランス国立放送局管（OS-3008）
　59年頃
　　過渡ひずみが目立つEMI 録音の中にあって比較的良好な音質で少し我慢すれば立派な演奏が
　楽しめます。指揮者がクレンペラーになって翌年録音されたブラームスの方も然りです。

　２）リムスキー　シェエラザード：マタチッチ／フィルハモニア管（OS-3023）59年頃
　　意外に聴ける感じです。他に名録音が多いのでマタチッチをどう評価するかでしょう。私は
　コンドラシン／コンセルトヘボウ管で聴く事にしています。

　３）ブラームスＰ協１番：ジュリーニ／アラウ／フィルハーモニア管（OS-3045）60年頃
　　冴えません。この曲の再生は難しいですがハイティンク／ブレンデル／コンセルトヘボウ管
　が良いと思います。

　４）バッハ　ブランデンブルグ協奏曲：クレンペラー／フィルハーモニア管（OS-3081～2）60
　　年頃
　　パッとしません。やはり過渡ひずみが邪魔をします。それでも昔、この第１番を結構聴いて
　いた事がありますが、その時はもう少し増しに聴こえていた気がします。私の聴感も再生する
　アンプも揃ってレベルが低かったと言う事でしょう。６曲の曲想が全く違うので録音も難しい
　のかも知れません。

　５）序曲は楽し：魔弾の射手、さまよえるオランダ人他：カラヤン／ベルリンフィル(OS-3105）
　　60年頃
　　音が粗く楽しく聴けません。カラヤンにしては音も遠いです。このLPも真空管アンプ時代に
　結構聴いていたのですが、やはり隔世の感があります。この程度の録音で昔は満足出来ていた
　のでしょう。

　以上のように何れもジュリーニの「悲愴」の頃の録音ですが、どれもそのレベルに達してない
と思います。この５枚のレーベルは、本国の英コロムビア盤で言うブルー・シルバーと呼ばれた
デザインですが、日本コロムビア盤はゴールド・グリーンに見えます。その後EMI 録音が東芝に
移ってからはエンジェル盤になりました。因みにアメリカでもEMI 録音はエンジェル盤でした。

　当時のLPのカッティング技術、製盤技術等はまだ途上でしたので、LP特有の問題かも知れない
とも思い、CD盤も２、３聴いて見ました。そう言えば思い出した事があります。日本のカラヤン
ファンが日本のLPの音が悪いのでカラヤンに直訴したのですが、それ以来輸入メタル原盤を使い
プレスするようになり、以降例外を除いて日本グラモフォンのプレスは輸入メタル原盤を使う事
が慣例化し音質改善に繋がったのです。キングも大事な英デッカ録音は輸入メタル原盤でプレス
していました。それはZAL 番号の入れ方で分かります。フィリップスは国内カッティングが殆ど
だったと記憶しています。

　　６）メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」：クレンペラー／フィルハモニア管（TOCE-3064）
　　60年
　　演奏が良いと言う事で厳格な西条卓夫氏が推薦したLPでしたので購入したCDですが音は似た
　ようなものでやはり過渡ひずみが目立ちます。このCDに「フィンガルの洞窟」も入っています
　が代わり映えしませんでした。この外盤（CDM 7 64144 2)も購入して見ましたが本質的な違い
　はありません。このCDの中には「こうもり序曲」と「リストＰ協１番」が収められていますが
　（64年、62年頃）どれも良いと思う録音はありませんでした。

　それでは、もう少し新しい録音はどうなのかと思い、LP棚から数少ないEMI 録音のLPを探して
見ますと、比較的新しいLPが数枚見つかりました。

　　７）プロコフィエフ　ロミオ＆ジュリエット：プレビン／ロンドン響（EAC-80168）73年 
　　この曲は音が良くないと楽しめませんが、やはり過渡ひずみが結構あります。迫力不足でも
　あります。これは小澤／　ボストン響（独グラモフォン）でしょう。

　　８）オッフェンバック　パリの歓び：ロザンタール／モンテカルロ管（EAC-80322）76年 
　　凄く良いと言う程ではありませんが過渡ひずみが目立たない分、音楽が楽しめるレベルには
　達してると思います。ロザンタールの編曲だけに絶妙な指揮ぶりは貴重かも知れません。

　　９）ピエルネ「シダリーズと牧羊神」組曲他：マリ／パリ国立歌劇場管（EAC-80342）76年 
　　意外に良いです。この曲は我が家に戦前からあった「ボレロ」のSP盤のＢ面に収録されてた
　懐かしい曲でやっと見つけて買ったLPでした。昔の「ボレロ」は一部がカットされていたよう
　です。

　　10）ベルディ　ナブッコ（全曲盤）：ムーティー／フィルハーモニア管（EAC-77291～93）
　　77、78年
　　序曲を聴いてみましたがやはり冴えません。ベルディの壮大なオペラが満喫できるレベルに
　至っていないようです。オペラは英デッカ、独グラモフォン、フィリップス録音に良いものが
　多いようです。

　　11）シベリウス　交響詩集：ベルグルンド／フィルハーモニア管（EAC-90182）80年 初頭の
　デジタル録音。
　　少し硬質ながら音はしっかりしています。演奏はお国ものだけあってレベルは高いようです
　が、長い間聴いていたいとは思えません。唯、「４つの伝説曲」の第４曲「レミンカイネンの
　帰郷」が入っているのは魅力です。有名な第２曲「トゥオネラの白鳥」も収録されています。

　CDでも新しい録音を数枚聴いて見ました。私がこれまでに購入した数少ないEMI 録音の比較的
新しいCDです。

　　12）フランク　交響曲ニ短調他：カラヤン／パリ管（CDM 7 69008 2）69年 
　　当時話題になった有名な録音。しかし今聴いて見ると録音が冴えません。何でこう言う音に
　なるのか分かりませんが、EMI 録音の中には摩訶不思議な音がするものが多いように思います。
　何か篭った感じに聴こえます。

　　13）ベルリオーズ　幻想交響曲：バースタイン／フランス国立管（CDM 7 69002 2）76年 
　　これも音が不自然です。結局は過渡ひずみが多い事になります。ちょっと興味本位で買って
　見たのですが「やっぱりダメか！」と思った事を覚えています。

　　14）サンサーンス　交響曲第３番他：小澤／フランス国立管（CDC 7 47477 2）85年
　　やはりストバイが左に引っ張られます。カラヤン、バースタインに続いて小澤も冴えないと
　思いました。こう言うスター的な指揮者の時は録音側も一工夫するものですが、それが見受け
　られないのが残念です。

　　15）チャイコフスキー「偉大なる芸術家の思い出」他：ナージャ他（CDC 7 54800 2）93年 
　　この曲は録音に恵まれませんが当該CDも例外ではありませんでした。これはボザールトリオ
　が意外にいい音です。

　結局、新しい録音のCDの中にも感心できるものはありませんでした。これは私の所有するCD盤
等に偶々良いものが無いと言う事かも知れませんが、ジュリーニのボックス盤も含めますと良い
録音に恵まれる確立はかなり低いように感じました。

　これだけ聴いてもジュリーニの「悲愴」クラスが無いのは非常に残念でなりません。こうなり
ますと、カラヤンのワーグナー序曲集とジュリーニの「ブル９」を含めても優れた録音がほんの
例外的にしか存在しない事になります。59年録音の「悲愴」は正に奇跡に思えます。それを入手
出来たのは非常にラッキーだったと思います。

　だからと言って、他の録音レーベルを買えば解決すると言う程この世界は甘くないのだと思い
ます。EMI は確かに良い録音に巡り会える確立が低いようですがデッカ録音でも独グラモフォン
録音でも、またフィリップス録音でも時期を選ばないと似たり寄ったりのところがありますから
要注意です。そう言えば、昔から新しいレコードを買っても大抵は「失敗した！」と思ったもの
ですが、ある意味、理に適っていたのかも知れません。

　唯、昔は自分のアンプシステムにも多くの過渡ひずみがありましたのでどっちの責任かが明確
に分からないまま、何となく諦めていましたが、今はソースの責任であると自信をもって言える
ところまで来ました。その点はスッキリしたと思います。昔、故高城重躬氏がLPの溝にどんな音
が入っているかは「神のみぞ知る」と書いて居られた事を思い出します。

　フルアップグレードしたWRアンプシステムを使えば、使用するパワーアンプの出力に拘わらず
録音の良し悪しを立ち所に判断できますが、果たして其処まで明らかにする事が良いのかどうか
は議論の余地があるかも知れません。今でも評論家の録音評があると思いますが、当たるような
当たらないような曖昧さがあるところに、逆に救いがあるのかも知れません。自身が未然に密か
に知る事が出来れば、本当はそれが一番良いのですが。

　それにしても、発売する会社が当該ソースの音の状態を把握していないはずはないと思います
が、このような音のレベルで発売する事に躊躇はないのでしょうか？　もっともソース源の命は
録音の良し悪しだけで決まる訳ではありませんので、総合的に判断して発売すると言う建前なの
でしょう。私は音に拘り過ぎているのかも知れませんが、それが私の立場なのですからその点は
ご理解頂ければと思います。

　私はソースの音が悪いと演奏まで下手くそに聴こえてしまうのです。だからなるべくいい音で
ソースを楽しみたいのです。他意はありません！。LP棚やCD棚には相当数のソースがありますが、
取り出して聴く機会のあるソースは極限られたものです。殆どは、枯れ木も山の賑わいになって
います。EMI 録音だけが悪い訳ではないのです。もう一つ釈然としませんが、それが録音の現実
なのかも知れません。

　それにしても、録音現場では指揮者、プロデューサー、エンジニア等がプレイバックを聴いて
納得をしOKを出し、それからリリースされるのですから、結果としてのソース源の音のレベルが
こんなにも下がってしまう原因は一体何なのでしょうか？　何処かのプロセスに音質劣化の原因
（過渡ひずみが加わる原因）が潜んでいる気がしてなりません。

1868川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Oct 15 11:45:00 JST 2018

30W 型パワーアンプの安定化電源を高帰還化して見ました。－－－－－総括

　我が100W機から始まったパワーアンプの安定化電源高帰還化アップグレードは、いよいよこの
30W 型で一応最終回を迎えます。100W機の直ぐ後に行った50W 型アンプは100W機の印象が色濃く
残っていた時期でもありましたので、足りない部分が目に付く結果になりましたが、何でもそう
ですが欲を言ったら切りがありません。これだけ単独で聴けば当然それだけの価値はある音質が
得られていると感じるはずです。現にWRP-α50をご注文為さったお客様方からご満足頂けている
と言うお話を直接お会いして伺っております。

　次いで行ったΕ-5H は100W機に及ばなかったのは当然としても、どか弁を少し大きくした程度
のアンプの音とは思えないパフォーマンスを示しました。それまで自身でもΕ-5H は5Wだし仕方
がないかなと思うところもありましたが、このアップグレードを行えばかなりの水準の音で音楽
を楽しめる事が分かったのです。小型ミニパワーアンプの音とは思えない音になり5Wクラスの他
のアンプの追従を許さない自信があります。その後に行ったのがΕ-10Hでした。100W機の面影を
少し感じる音を聴いて、10W の辺りに一種の閾値があるのかも知れないと思ったりしました。

　その後に新規120W型アンプを試聴する機会がありましたが、やはり全ての点で優れている事を
思い知らされました。自分の100W機も何とか格上げしたいと思った程です。意中の電源トランス
の在庫の関係で未だ実現はしていませんが、設計者としては一応最高クラスの音で聴けるように
して置くべきかと考えています。唯、私の音を聴く基準は生音の再現性にありますのでそこまで
求めない方であれば、此処までの要求は不要だと思います。生音の再現が可能なアンプであれば
他の用途の場合なら十分にお釣りが来るからです。

　理由は生音を再現するにはアンプが理想的に動作して、入力信号を出来る限り損なわずに出力
信号として送り出す必要があるからです。もう少し言えば、入力信号に忠実にスピーカーを駆動
する必要があります。普通は多かれ少なかれスピーカーからの出力が入力に対してずれてしまい
ます。その差分が私の言う過渡ひずみです。WRアンプは過渡ひずみを極限まで減らして来ました
ので、過渡ひずみで音楽が汚される事が殆どありません。程度の問題はあるにしてもΕ-5H から
WRP-α120 に至るまで、この条件を満たしています。ですからどのような音楽ジャンルにも適合
出来るのです。

　ラインナップの中で抜けていたのが30W 型アンプでした。WRアンプの歴史の中で、最初に製作
されたのが30W のパワーアンプWRP-α1 でした。1998年の秋でしたから、丁度20年前になります。
１号機は未だに健在ですが中味はアップグレードを重ねていますので、特にアンプ基板は相当に
変っています。今回、安定化電源基板に最後のメスを入れたのでした。僅かの帰還量ですが深く
なった分、やはり音に色濃く反映されています。如何にオーディオアンプには電源部分が重要で
あるかが分かります。何回も言いますが、非安定化電源の場合は負荷電流に応じて電圧が多かれ
少なかれ変動してしまいますので、正確な増幅は叶わない事になります。

　常識的には負荷電流は低音の方で大きく変化しますので、中高域以上の音は非安定化電源でも
良さそうですが、実際には僅かな帰還量でも深くした方が中高域以上にも大きな改善が認められ
ますので、そう単純な問題ではないような気がしています。全て電子回路は電源インピーダンス
ゼロが大前提です。どの教科書もそうです。電源インピーダンスの変動をも考慮した理論解析を
私は知りません。なのに何故、世の中の殆どのパワーアンプは非安定化電源なのでしょうか？

　30W 型アンプの安定化電源の高帰還化アップグレードを行い、これでWRの全てのラインナップ
が出揃った事になります。最近は100W機を常用アンプにしている為、120W型以外では音が細身に
感じる事はありましたが、それは今回のアップグレードの問題ではなくもっと根源的なパワーの
問題ですから、その事でこの高帰還化が意味を失う訳では決してありません。電源の高帰還化の
最大の目的は、特に音が大きくなった時の過渡ひずみを減らす事であり、現実に全てのアンプで
過渡ひずみ感を殆ど感じなくなりました。それに依って最大出力まで丸々いい音で聴けるように
なったと思います。聴く音楽のジャンルとかに依らず、是非WRパワーアンプをお持ちの方全員に
行って頂きたいアップグレードだと思っております。

　アップグレードが無事に終了し試聴して見ました。直前まで100W機で聴いていますので当初は
どうしても、それとの比較で聴いてしまいます。120W型アンプを聴いた時に、我が100W機が若干
細身に聴こえたように今回もそれはありました。これは致し方の無い事です。要は30W 型アンプ
なりに音楽が楽しめれば良いのです。人に依って使用するスピーカーやリスニングルームの広さ
聴く音楽が違う訳ですし、聴く音量にも差があるでしょう。出力に応じた使い方があっても良い
はずです。

　一通り何時も聴くテストCDを聴いたあと、最近チェックしたジューリーニの「驚愕」と「悲愴」
を聴いて見ました。「驚愕」の印象が少々違います。少し中高域～高域に掛けて違和感を覚えた
のです。何時もは余り聴いた事のない音なのでどうしてかな？と考えたのですが、もしやと思う
事がありました。それは前回お話した青色のマッキーの問題でした。17枚のCDに塗り終わる頃に
インクが掠れていた事を思い出したのです。

　それで「驚愕」の入ってるCD1 の中心の穴の中を見ると青色が薄く十分に塗られていない事が
分かりました。慌てて塗り直したところ、その違和感は見事に消失したのでした。そう申し上げ
ますと、それじゃ100W機では何故気付かなかったのか？と言う疑問をお持ちになるのではないか
と思います。もっともな事ですが、これはハイパワーアンプの方が嫌な音に対する許容度が高い
からだと考えられます。

　昔、これと似たことを仰ったのがO.M.さんです。WRP-α100 単体で聴くよりもモノステで聴く
方が嫌な音が気にならないと言うような意味の事を述べられています。半分の負荷電流しか流れ
ないと言う事はアンプに余裕が出る事になり、結果的によりハイパワーなアンプで聴いたような
効果が得られる事になるのではないかと思われます。ですから資金に余裕があるのであれば出来
るだけパワーは大きい方が良い事になります。

　気を良くして次に「悲愴」を一曲通して聴いて見ました。結果的に大満足でした。途中で中断
する気が全く起きなかったのです。それにしても1959年に録音されたこのCDは本当に今でも十分
通用するばかりでなく、ホールで聴く生の感じと大きな違和感がありません。最新録音でもこの
レベルのモノを探す事は難しいでしょう。EMI 録音は中々良いものに巡り会えませんが当たれば
一番良いかも知れません。理由は人工的な嫌み、雑味が殆どないからです。だから優良なホール
で聴く音を彷彿とさせるのです。

　この「悲愴」には過渡ひずみが殆どありません。30W 型でもffでの飽和感を感じることが全く
ありません。S/N 感も良く第１楽章のバスクラがppppppで消え入るように奏する音もはっきりと
聴き取れます。その後の爆発も全く混濁感なしに重厚な金管合奏が味わえます。チューバの下支
えが背景にある事が分かって来ます。第２、第３楽章も標準以上です。

　白眉は何と言っても第４楽章でしょう。此処を生かすも殺すもバイオリンパートの力量に掛か
っています。チャイコは確かに金管の使い方が上手くオーディオ的ですらありますが、金管だけ
では曲の魅力を引き出す事はできません。それと拮抗するバイオリンのエネルギー感が必要です。
イギリスのオケの弱点はバイオリンパートが弱い事です。「ドボ７」もそうでした。しかしです。
此処のフィルハーモニア管は合格以上です。バイオリンパートが凄く頑張っている事が分ります。
これは指揮者の力量でもある訳です。だからジュリーニは偉大と思うのです。この金管をも圧倒
するようなバイオリン群の何処までも伸びるパワーある音を全くサチル事なくこのアンプは再生
できたのですが、この音をきちんと再生できるシステムが一体どれだけあるのか、他人事ながら
気になります。このようなバイオリン群の力のある合奏は生オケでも聴けるとは限らないのです。
非力なオケでは望むべきもありません。オーディオの存在意義が此処にあります。

　これだけの音を再生出来ればもう他をチェックする必要はないと思いましたが、カラヤンのCD
も一応聴いて見ました。勿論パルジファルの第３幕の方の前奏曲です。これはベルリンフィルが
目一杯に演奏してるのですから、まともに鳴らすには相当のリニアに伸びるエネルギーを必要と
します。パワーアンプに依ってはちょっと苦しいかなと言う音もします。しかしこれも気になる
ような飽和感やサチリ感はなく、堂々とワーグナーの音楽を奏でたのでした。

　このアンプの旧名称は上記しましたがWRP-α1 です。所謂、旧型アンプに属しますが、今風に
言えばWRP-α30でしょう。比較的最近、WRP-α50なるアンプを製作した旨の報告をしていますが
考えて見ればWRP-α30も有っても良いのかなと思い、此処に全てのラインナップを記述して見る
事にしました。パワーの大きい順に並べますと

　１）WRP-α120 ・・・・・ \330,000 

　２）WRP-α100 ・・・・・ \300,000 

　３）WRP-α50  ・・・・・ \250,000 

　４）WRP-α30  ・・・・・ \230,000 

となっています。これらは一種の特注仕様なので標準機としてショッピングサイトに登録されて
おりませんが、興味のある方はメール又はお電話にてご相談下さい。

　４）は初めて記述しました。因みに、旧型の50W 型パワーアンプであるWRP-αZEROは\399,000
でした。それを最新技術をフルに投入して製作したのがWRP-α50です。今回、WRP-α30を初めて
製品に投入しますがこれも然りです。その記念として、手持ちの電源トランス（橋本製のEI型：
旧型アンプのオリジナル品→通常はトロイダル２段重）と手持ちのケミコンを使うと言う条件で、
各１台限定特価で

　１）WRP-α50  ・・・・・ \190,000

　２）WRP-α30  ・・・・・ \170,000

とさせて頂きますので、このチャンスをどうかお見逃しのないようにお願い申し上げます。

　尚、WRP-α50のデザイン画像をトピックス蘭に載せて置きますのでご参照下さい。WRP-α30も
これに準じます。サイズは400(W)x250(D)x200(H)です。標準ではVRは無しですが、必要な方には
サービス致します。又パワーTRはTO-3型も取り付け可能ですので強くお望みの方には対応させて
頂きます。これら新αシリーズのアンプ概要に付きましてはWR掲示板の項番1865をご覧になって
下さい。納期は３～４週間です。


お知らせ）WRP-α50の方は売約済みになりましたので告知させて頂きます。

1867川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Oct 10 15:00:00 JST 2018

ジュリーニの「THE LONDON YEARS 」を聴いて見ました。

　17枚のCD盤が入っていますが最後のCD17は「CARLO MARIA GIULINI :A PROFILE」と言うもので
一種のオマケであり、これは除外しました。またCD12の「ドボ７」はこれまでに触れていますし
何かの機会に追加的にお話しする事もあろうかと思いこれも除いています。

　CD1 の初っ端はハイドンの「驚愕」で1956年の録音です。録音場所はキングスウェイホールで
例外はあると思いますが、EMI 録音の殆どがこのホールかアビロードスタジオで録音されたよう
です。この全集に納められている全ての曲も例外はなくどちらかで録られています。

　私は1956年の録音は全く持っていません。56年と言うのは私の中学生の頃の録音で確かに当時
モノのLPがあった事は憶えていますが、日本の家庭でクラシックを聴く場合は５球スーパー程度
（42シングル）のものが入った電蓄で聴くのが普通で、オーディオ以前の時代だったのです。

　私も中学の時に学校で５球スーパーを使ってレコードコーンサート紛いの事をやった事があり
ます。プレーヤーはナショナルが発売した小さなタンテーブルにクリスタルピックアップが付い
たものを使いました。子供がお小遣いを貯めて買える程度のものでした。スピーカーは８インチ
でしたがエンクロージャーが無いのでオルガンのペダル辺りの空間を利用して何とか低音が出る
ように工夫しました。LPは凄い父親を持つ友達から10枚近くを持って来て貰いました。当時30cm
LPを大量に持っている人が居たのです。今でも印象的に憶えているのはグラモフォンの黄色いLP
でしたが、曲としてはサンサーンスの動物の謝肉祭の「像」が低音が出て感動的でした。演奏が
何処だったのか全く記憶にありません。当時理科の女の先生が協力的に動いてくれて実現したの
ですが、古き良き時代だったと思います。

　「驚愕」はその頃に録音されたはずですから私に期待させる方が無理です。覚悟して聴こうと
腹を括りました。最初の序奏の部分が始まりました。何と何と何時も聴く感じで聴こえて来ます。
一瞬耳を疑いました。ハイドンの序奏部分は弦の擦れるような魅力的な音がするのですが、正に
実演で聴くような感じに聴こえます。古い黴臭い匂いが殆どして来ないのが不思議なくらいです。
しかも演奏には名演を生んだ76年頃の面影があり当時からその片鱗を示していたのです。テンポ
が上がると少し若さが出て急ぎ過ぎの感もしなくはないのですが許容範囲です。ハイドンを単調
で詰まらない音楽だと思っている方が居られるとすれば、それは勿体無い話です。

　それに当時のフィルハーモニア管は小型ベルリンフィルと言っても良いような出来映えに聴こ
えます。カラヤンに55年位まで扱かれていたからかも知れません。まだそれが十分に保持されて
いたのでしょう。「驚愕」の名が付く切っ掛けとなった第２楽章は本当に素晴らしく、現役盤の
資格があると思いました。先にも述べましたがハイドンの交響曲は魅力的な弦の擦れる音が聴こ
え易いので私は好んで聴いています。ベートーベンも良い方ですがモーツァルトは聴こえ難い方
に属します。この種の音はハイレゾでより効果的に聴こえるようになります。

　このディスクには他にも色々な曲が入っています。「未完成」「エグモント」はもっと録音が
新しいので少し期待を持ってしまいましたが、全くダメでした。「驚愕」の５年後の録音ですが
過渡ひずみが目立ちホールで実演を聴く感じからほど遠くなっています。再生系に過渡ひずみが
殆ど残っていないのでソースの粗が直ぐに分かります。５年後なら録音技術も進歩するはずです
が、何故か改悪になっています。61年頃はまだまだ電磁環境は良かったはずですから不思議な話
です。この後CD2 から暫くの間似たような状況が続いてしまうのです。

　CD2 にはベートーベンの「田園」と交響曲第８番が入っています。録音は1972年ですから期待
してしまいましたが何故か過渡ひずみが目立って音楽が楽しめません。残念ながら私の許容範囲
には入りませんでした。CD3 には同じ年に録音された「第９」が入っていますが同様にダメです。
これらのプロデューサーとエンジニアは例のビショップコンビです。76年の４年前ですから少し
期待したのですが信じられません。

　CD4 はガラッと変ってお国もののロッシーニ序曲集です。59年～64年までの録音でエンジニア
はまちまちです。音にもバラツキがありますがどれもこれも感心できるものはありませんでした。
これらはマリナー／アカデミー管の全集(473 967-2）に良いものが多いです。但しウィリアム・
テル序曲だけは、ガンバ／ロンドン響（英デッカ録音）に勝るものはないと思います。

　CD5 は1958年の録音でシューマンの「ライン」やベルディの序曲等が入っていますが、どれも
現在に通用するものはありません。ジュリーニは「ライン」が好きらしくロスフィルとも新録音
を独グラモフォンに残しています。シューマンは再生が難しいので仕方がない一面はありますが
せめて新録音程度に録って欲しいと思います。ベルディの序曲集はシノーポリ（フィリップス盤）
が良いと思います。

　CD6 はフランスものです。先ずフランクの「交響曲ニ短調」等が入っていますが、これも感心
できません。57、58年の録音です。この曲も再生が難しく他にも余り良いものが見当たりません
がこれは小澤が増しだと思います。次の曲は聴いた事のないビゼーの小組曲「子供の遊び」です
が意外に音に伸びがあり久しぶりにいい音だと思いました。録音年を見ると何と1956年ではあり
ませんか。偶然でしょうか？　常識的には一番悪いはずの1956年録音が２つとも他の録音年のに
勝っているのです。その後に同時期に録音された「禿山の一夜」が入っていますがこれもグッド
です。録音は水物と言いますが分かりませんね。

　CD7 からCD9 まではブラームスの交響曲全集です。「ハイドンの主題による変奏曲」も入って
います。録音は61、62年に集中していますが４番だけ68年です。何れも冴えません。１番と２番
はロスフィルとの新録音の方がずっと良いです。結局は過渡ひずみがあって音場を乱してしまう
のが原因です。56年録音には殆ど無いのに何故他の年の録音に目立つ過渡ひずみがあるでしょう
か不思議でなりません。

　CD10はチャイコの「小ロシア」と「フランチェスカ・ダ・リミニ」が入っています。録音年は
前者が1956年、後者が1962年でどちらもキングスウェイで録音されています。普通なら後者の方
が音が良いはずですが、やはり「小ロシア」の方がずっといい音に聴こえます。曲の規模が少し
大きいので音にスピード感などが求められますから、隅々まで手放しで喜べない一面はあります
が、変な過渡ひずみが少ないのです。1956年はEMI に取って特異点だったのでしょうか。

　CD11は1959年録音の「悲愴」ですが例外的にこれは素晴らしいの一言です。ジュリーニはロス
フィルとも「悲愴」を録音していますが、性に合うのかどちらも秀演です。このCDは目っけ物と
言っても良いと思います。少しだけ音が地味かも知れませんが、今でも通用するCD盤だと言える
でしょう。当時は未だまだ若いはずですが決して急ぎ足になっていません。この盤には62年録音
の幻想序曲「ロミオとジュリエット」が入っていますが、こちらは冴えません。

　CD12は例の「ドボ７」で除外しますが一つ付け加えるならば同梱の「ドボ８」は過渡ひずみが
目立ちダメです。因みに録音は1962年です。CD13は61、62年録音の「新世界」と序曲で、後期の
交響曲が揃う事になりますがこれも冴えません。

　CD14はフランスものでドビッシーの「海」「ノクターン」ラベルの「鏡」「ダフニスとクロエ」
組曲が入っています。録音年はドビッシーが1962年、ラベルが1959年ですが余り感心できません。
これらフランスものは音が冴えないと全く楽しめない気がします。

　CD15は1956年録音のラベルの「マ・メール・ロワ」ですがやはり良いです。過渡ひずみは殆ど
気になりませんが、強いて言えば、ffでの伸びが多少頭打ちのように聴こえるような気がします。
1956年の録音機材を考えれば仕方がないとは思います。このCDには他に「亡き王女のための・・」
とか「スペイン狂詩曲」（1966年録音）、ファリャの「恋は魔術師」（61、64年録音）が入って
いますが、どれも「マ・メール・ロワ」に及びません。

　最後のCD16はファリャ「三角帽子」（1957年録音）ストラビンスキー「火の鳥」組曲（1956年
録音）ブリテン「ピーター・グライムズ」「青少年のための管弦楽入門」（1962年録音）が収録
されていますが、1956年録音の「火の鳥」以外は音が冴えません。何故こんなにも落差があるの
でしょうか？　私にも分かりません。「火の鳥」も過渡ひずみは殆ど気になりませんが、やはり
「マ・メール・ロワ」と同じようにffで多少音の古さを感じない訳ではありません。しかし56年
録音は例外無く音の素性が良く、少なくても、当時の電磁環境の良さが味方したのではないかと
思います。

　結局私がCD12以外で偶に聴いても良いと思ったのは、ハイドンの「驚愕」とチャイコの「悲愴」
です。「ドボ７」を含めて、この３曲で３千円ちょいは決して無謀な買い物ではないと思います。
1956年録音に全く失敗したものが無かったと言う事がジュリーニと言う指揮者に限定して言える
事なのか、他の例えばクレンペラー等に対しても言える事なのかちょっと興味が湧いて来ました。
皆さんも古いEMI 録音をお持ちであれば検証して見て頂ければと思います。もしこの録音の傾向
が他の指揮者にも言えるのであれば、当時英デッカ録音に対してEMI 録音は冴えないと思った事
はそう遠く無かった事になります。

　蛇足になるかも知れませんが、一応お知らせして置きます。私は新しいCDを買った時は、必ず
CDの中心の穴と外周にマッキーの青色を使って塗る事にしています。やるかやらないかで中高域
の荒れた感じが大分変ります。特に際どい音が入っているCDほど顕著に効いて聴き易くなります。
やらないと不自然な過渡ひずみが出てしまうので私は必ず実施していますが、CDを売りに出す事
をお考えの方にはお勧めしません。音質に特化するのであればやった方が良いと思います。勿論
今回のセットものも予め塗ってから試聴しました。

1866川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Oct 4 16:30:00 JST 2018

ヘッドアンプ付きフォノアンプ２号機が完成しました。

　何でもそうですが最低でも２台は作って見ないとその本当の実力は見えて来ません。本来なら
既成のヘッドアンプとイコライザーを組み合わせただけですからその音は同じでも良いはずです
が、そうは行かないのがオーディオの常であり難しいところです。

　例えば、プリのラインアンプをパワーアンプに載せて所謂プリメイン形式にしても、独立した
プリアンプ付きのセパレートシステムの音にはなりません。大きな理由は、私なりの解釈ですが
ラインアンプがより高周波ノイズの多いパワーアンプ内に置かれると、その本領が発揮できなく
なるからだろうと思います。一般にパワーアンプ内の方が大きなトランスを使い流れる電流値も
大きいですから、どうしても高周波ノイズのレベルは高くなります。あと接続ケーブルの問題や
配線材の影響もあるかも知れません。

　今回のケースを考えて見ますと、ヘッドアンプ基板自体の条件は余り変わっていませんが、EQ
基板には大きな環境の変化があります。プリ内はパワーアンプ程ではありませんが一応トランス
を積んでいて整流回路も存在します。しかしフォノアンプ内には電源部がありませんので比較の
問題ですが、より電磁環境の良い所に置かれている事になります。これはある意味プリにEQ基板
が存在するこれまでの構成より有利な条件です。

　昔からプリにEQ基板を載せると言うスタイルは半ば常識でしたので、ずっとそれに従って来て
いました。１号機のユーザーの方のリクエストが無ければ、疑いもせずにずっとこのスタイルを
続けていたかも知れません。しかし一方で最近音質向上が目覚しいWRP-α9 のユーザーの方から
もしLPを聴きたいと言うリクエストがあれば、外部にフォノアンプを設けるしかないとも考えて
いましたので、１号機のユーザーの方のリクエストは非常に良い機会となりました。

　初めて１号機を試聴した時に、何時も聴く音に比べて嫌な音が少ない素直な音がすると感じた
のです。EMI 録音のジュリーニ／シカゴ響のブル９の嫌な感じに聴こえていた部分の音が、殆ど
目立たなくなっているように思いました。それまではEMI 特有の多少の癖を感じていたのですが
かなり理想的な音に聴こえるようになり、嬉しくなった記憶があります。しかしその時は１号機
の個体の問題の可能性もあり得ましたので、まだ決定的な結論には至っていませんでした。

　今回２号機が完成し早速ブル９を聴いたのです。最初に１号機を聴いた時と殆ど同じような音
の印象を受け「これは本物かも！」と直感しました。音に品があり雑味を殆ど感じません。雑味
も音の一部だと思っている人には物足りない位の純粋な音です。これならば純粋MC型でなくても
いい音で聴けそうな気がします。

　ところで改めてヘッドアンプとイコライザーの簡単なスペックをご紹介して置きます。先ずは
ゲインですが、ヘッドアンプは当初30倍でしたがその後の高帰還化の煽りを受けて今現在は18倍
程度にしてあります。やはり少しでも帰還を深くした方が音が締まり良い意味でのCDの音に近く
なります。イコライザーの方の1KHzでのゲインは約60倍となっていますので、フォノアンプ全体
での総合ゲインは1000倍ちょいになります。

　これはCDプレーヤーの出力と比べて高出力MC型ならほぼ同程度に低出力型だと少し低めになる
算段です。ゲイン変更可能ですからお持ちのMC型の出力に応じて変更する事は出来ますが、音質
を優先するのであれば私はゲイン低目をお勧めします。必要な音圧レベルまで音を大きくする事
が出来るのであれば、ツマミの位置には余り拘らない方が宜しいと思います。

　あとフォノアンプで大事な事は残留ノイズですが、電源部が別ですから残留ハムは実用上ゼロ
と思って下さい。但し、電源部を近付けたり周りに他の機器を置かないように注意を払う必要が
あります。ホワイトノイズは当然ながらありますが、これまでサーフェースノイズに比べて無視
出来ない程多かったりする事はありません。ブル９にはバイオリンの微弱音が結構出て来ますが
何の邪魔を感じる事無く綺麗にクッキリ聴こえます。これこそCDでは味わえないアナログの極地
なのかも知れません。そう言う箇所が少なからず散見されます。

　最近ハイレゾとか叫ばれていますが、このレベルになって初めて分かる程度ですから普及型の
機器でありながらハイレゾだから如何にもいい音がすると言うような宣伝文句はどうも腑に落ち
ません。同様の事は高級なオーディオでもあって、超高域までスピーカーをフラットにしたから
ハイレゾの効果満点なんて言うのもどうかと思います。余りに短絡的です。ハイレゾだからこそ
聴こえる音と言うのは非常に微妙なレベルの音であってそもそもそう簡単には聴こえるようには
なりませんし、そのような音を認識するには鍛えられた聴感が必要になります。普通程度の聴感
の人が例えその音を聴いたとしても、脳が認識出来ないと思います。

　どうもオーディオの世界は旧態依然たる知識が未だに横行しています。それは物事を定常特性
だけで考えようとする事です。例を上げたら切りがありませんがＡ級だから音が良いとか、DFが
大きいから低域に切れがあるとか、全て定常特性だけで結論付けています。オーディオが対象に
する音楽は残念ながら定常信号ではなく時々刻々変化する過渡信号なのです。定常特性を基礎に
するのは良いとしても、過渡的な検討を一切しないで結論を出しても無意味な場合が多いのです。
ハイレゾも然りです。定常特性だけハイレゾの条件を満たしたからと言ってハイレゾならではの
音が聴こえるかどうかは保証の限りではないのです。過渡的な検討は大変で時間も費用も掛かり
ますが成功するとは限りません。ですから過渡的な裏づけの取れたハイレゾを実現する事は夢の
また夢になります。WRアンプは過渡的な考察と実験を重ねて、何年も掛けてそれをやっと可能に
しました。

　だから本当のハイレゾの音は一種の贅沢品とも呼べる訳ですから、皆が挙ってハイレゾである
必要はないはずです。そう言う事も勘案して今のCDスペックは決められたのでしょう。それでも
私は相当にいい線を行ってると思っています。装置のグレードが上がればそして聴感を鍛えさえ
すればハイレゾと錯覚するような音が聴こえて来るのです。CDはそれを可能にしてくれる媒体だ
と思います。行き成りハイレゾの音を聴いてもよく分からないと思うので未然にCDの音を聴いて
耳を訓練する方が良いと思います。そしてハイレゾならではの本当に美しい音を聴いて見たいと
思われた方は、是非今回のフォノアンプをお買い求めになって下さい。

　完全なアップグレードが済んだWRのプリアンプとパワーアンプ、そして今回のフォノアンプを
組み合わせれば、確実にハイレゾ故の微妙に美しい音に出会える事と思います。ヘッドアンプと
EQ基板の単純合計より少しだけお安い価格（\185,000）に決めさせて頂きました。商品番号９に
登録しましたので、本日からでもお申し込みが可能です。なるべく近い内にフォノアンプの写真
を掲載したいと考えていますが、肝心な部分はトピックス欄の写真をご覧下さい。ヘッドアンプ
部とイコライザー部が独立していて自由度があります。ジャンパー用のRCA ピン接続ケーブルを
使えば一体にして使う事が出来ます。

　尚、使用部品は補償コンデンサー及びイコライザー素子にSEコンを使用し、電解コンデンサー
には有ればBGコン、無ければVishayやRIFAを用い、パスコンにはERO コン、ASC コンを使う事に
しています。抵抗にはニッコーム（進）を原則的に使いますので高級部品だらけです。今現在は
SEコンは補償コンデンサーの値で\1,900／個くらいですから、第１安定化電源、第２安定化電源、
EQ基板、ヘッドアンプ基板のトータルで計26個となり約５万円、EQ素子を足せば６万円を越える
事になります。ですからその他の部品及びシャーシデザイン料を加えれば価格の半分程度を優に
超えますので決して法外な価格ではありません。この程度の部品を使わないとアナログの本当の
良さは味わえないと思っています。

1865川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Sep 27 15:30:00 JST 2018

久し振りにWRP-α120 を製作しました。

　100W型のWRP-α100 の方はこの１年くらいの間に何台か作らせて頂きましたが、流石に120W型
は滅多に作る事がありません。電源電圧が数Ｖ高くなるだけですが作る側も構えてしまうところ
があります。WRアンプはご承知のように安定化電源仕様ですから、通常の非安定化電源のパワー
アンプなら200Wに相当するような電源（トランス、ケミコン等）を用意する必要があります。

　簡単に言えば80W 分だけ犠牲にするので、それだけ電源部が普通のパワーアンプよりは安定に
動作するようになる訳です。最近のWRアンプが生の演奏会を髣髴とさせるパフォーマンスが得ら
れているのは、この事と決して無縁ではないと思っています。私には低域から直流域に向かって
電源インピーダンスが上昇してしまう通常の非安定化電源アンプは考えられません。安定化電源
なら直流域までフラットに出来ます。

　使用基板は旧型アンプで使って来たものを使用します。一番大きく違うのは安定化電源基板で
危険性を低減させる為に、スピーカー端子に直流電圧が生じないように監視するのは勿論ですが、
過電流の検出回路を設けて、電流の流れ過ぎにも注意を払っている事です。問題が起きた場合は
安定化電源の出力電圧をゼロに落とし、同時にスピーカーを切り離します。ハイパワーアンプは
この程度の危険防止回路が必要になります。

　基板の違いは安定化電源だけでなく、アンプ基板にも純コン基板を用いています。ハイパワー
アンプは電源電圧が高くなる為、帰還安定性の点で多少不利になりますから、準コン基板よりは
安定性の点で有利な純コン基板を採用している訳です。また、プロテクション基板と整流基板を
大き目の１枚の基板に纏めて整流回路を充実させています。大型ケミコンで整流した後に高周波
ノイズを低減する目的でバイポーラ接続のケミコンを正負端子それぞれと正負間端子に挿入して
います。これも音質向上に役立っています。

　これらの基板を作る上で用いる部品は原則的に高級部品を使うようにしています。ケミコンは
Vishayが多いですが日本のニチコンも使います。パスコンにはERO コン、ASC コン、EPCOS コン、
SEコンなどを適材適所に使うようにしています。抵抗は安定化電源にはニッコーム（進）を使い
ますが、アンプ基板の方は音質上の観点から日本製のカーボン抵抗も併用します。

　配線用線材には当然ながら選び抜いた4N銅線のビニル線材を適材適所に使います。線材も含め
部品の収集は結構大変です。パワーアンプの機構部品類は大した点数ではありませんが、抵抗や
コンデンサーを含めると部品の数は凄い量になります。一つ足りなくてもアンプを作り上げる事
はできませんので、組立配線までに全ての部品が完全に揃うように注意を払います。

　Ε-5H などの通常の新型アンプの場合は、RCA ピンジャック等の機構部品を除いて他の部品は
は常に在庫されていますが、偶にしか作らないハイパワーアンプの場合は集める部品の方が多く
なりますから、納期までの約３週間の間に徐々に集めて行きます。もう使う部品の選択には迷い
はないのですがあの部品だけ忘れていたなんて事も最近は偶にあります。部品さえ全て集まれば
組立・配線等は２日もあれば終える事ができます。当然ながらそれまでに全ての基板を作り上げ、
必要に応じて放熱器とセットになるように、ユニット加工して置きます。穴あけとタップ立には
特に神経を使います。

　昔は一気にやってスイッチオンで煙がモクモクなんて事もありましたが、最近は区切りを見て
此処までは動作に問題がない事を確認しながら進みますので、完成して大きな失敗に遭遇する事
はなくなりました。やはり年の功と言うものなのでしょう。今回も大きな問題もなく無事に計測
を済ませる事ができました。もう分かり切った回路および定数ですので、直流電圧チェック及び
消費電力測定以外に定常的な測定は殆ど行いませんが、残留ノイズ測定だけは必ず行います。

　音質に最も大切だと思われるアンプの安定性に問題があれば必ず残留ノイズに何らかの兆候が
現れるはずです。今回も左右共にプリ並みの16μV と低い値でした。アース線の引き回しの問題
から片チャンだけ多少悪化する場合がありますが、悪くても20μV 以下なら問題はないと考えて
います。使用してるボルトメーターは高感度と言う事もあってか、高周波ノイズには敏感に反応
しますので何かあれば直ぐに分かります。例えばノイズ量がレンジを変えても相応に変化しない
場合は要注意です。

　以上の測定で問題がなければ試聴に移ります。お定まりのテストCDを少し聴いた後に、最近は
カラヤンのワーグナーを必ず聴くようにしています。パルジファルの第３幕の方は特に厳しい音
が入っていますので、これがどの程度に鳴るかどうかで大体の事が分かります。何時も聴いてる
100W機に対してやはり余裕と言うか厚みと言うか多少の優位性を感じました。無修正でほぼ完成
した音が得られました。普遍性・再現性がある所以です。この通りに作れば何処の誰が作っても
同じ音質が得られるのです。

　LPも聴きました。ジュリーニのブル９です。聴く度にこの演奏・録音は秀逸だと改めて思って
しまいます。今回も全く問題がないばかりか、オケの厚みがより良く出て、高音とのバランスが
さらに良くなってブルックナーに必要な剛体感を強く感じる事ができました。ビオラやチェロの
パート等が太く聴こえる気がするのです。以前細かな音が聴こえ過ぎると書いた事がありました
が、それは我が100W機での事で本機では殆どノーマルなバランス感覚で音楽を楽しむ事ができた
のです。20W の差ですがやはり何か音に力を感じました。ハイパワーアンプは繊細感等で劣ると
よく言われますが、それは作り方の問題であって少なくてもWRアンプでは寧ろ微弱音は小出力の
アンプよりしっかり明確に聴こえると言う気がします。要するに蚊の鳴くような微弱音であって
も全く曖昧にならないのです。

　少し前にアップグレードしたWRP-Δ120/BAL のピアノの音がより本物に近いと感じたと書いた
と思いますが、120W型の優位性は確かにある気がしました。本気でより高電圧の電源トランスに
交換して我が100W機もハイパワー化したいと思った程です。偶々今現在は在庫切れで入手不可の
ようですのでもう少し先になりますが、今年中には何とか実験して見たいと考えています。

　試聴したテストソースに問題が無いとより難しいソースを聴いて見たくなるのが人情でしょう。
同じくジュリーニのドボ７のLP（仏EMI 製）を聴く気になりました。このソースには多少の問題
があって特に第１楽章のストバイが細くてキリキリと突出してしまう事です。購入当初はかなり
酷くて聴ける状況ではありませんでしたが、その後のアップグレードの甲斐もあって最近は改善
されて来ていました。しかし理想の音にはまだ間があります。本機で聴くと厚みが出る分少しは
改善されますが、LP固有の問題があるように思えて来ました。

　よく見るとLPのジャケットの裏にはSQ4 チャンネルと印刷されています。即ち、通常のLPとは
違って何らかのエンコーダを経ているのです。通常カッティングなら問題はもう少し軽減される
はずです。多分国内発売のLPは通常のものだったはずですが、今更入手できませんのでCDで無い
か探して見ました。偶にSACD盤には行き当たりますが普通のCD盤に巡り会えません。発売された
のかどうかも分かりませんでした。

　このソースは音に拘りがあるだけでなく、演奏もかなり良いのでもう少し音の良い状態で聴き
たいと思ったのです。元々このLPの存在を知ったのはブル９の解説でした。如何にジュリーニの
演奏が素晴らしいかを示す一つの事例として挙げられていました。それでネットで検索してこの
LPを購入する気になったのでした。オケがロンドンフィルなので普通なら買いたいとは思わない
のですが、ジュリーニならばと思ったのです。やはり録音は出音で左右されるようです。

　確かに演奏そのものはドボ７として最高の部類に入る名演だと思いますが、音が今一つなので
何とかもう少し良い状態でこの演奏を聴いて見たいと強く思うようになったのです。ストバイが
細いのは致し方ないにしてもキリキリする音は出来れば避けたいところです。諦め切れずに色々
物色してましたら、ジュリーニに「THE LONDON YEARS」と言うセットものがある事に気付いたの
です。何と17LPと言う今流行のセットものです。もしやと思って詳細を調べて見ますと、LP12に
それが有ったのです。

　ロンドンフィルとの1976年録音です。これに間違いないと思いました。価格は３千円ちょいで
購入できるようです。この１枚の為に３千円払っても惜しくないと思いました。CDの黎明期での
価格は大体３千円だったのです。後の16枚に何か聴けるものがあれば儲けものくらいに考えたの
でした。間もなくそのセットものが宅配便で届きました。早速その12枚目を確認して求めてる物
に相違ない事を確信しました。このCDは1995年にリマスターされたようです。

　早速聴いて見ますと、確かにキリキリ感はオリジナルに多少あるようですが、仏EMI 盤程では
ありません。許容範囲に入りそうです。LP独特の繊細な感じが減った分、CD特有の剛体感が出る
ようになっていますのでドボ７を聴くには好都合です。ドボルザークは繊細感よりシューマンや
ブラームスの延長線上の音楽ですから、中音域以下の厚みを重視すべきでしょう。時間を掛けて
今後聴き込んで機会がありましたら又報告させて頂きます。

　最後に蛇足ですが、改めてジュリーニの名演が1976～77年に掛けて集中している事に気付いた
のです。76年の４月初旬シカゴ響と「展覧会の絵」、同じく下旬にこの「ドボ７」、同じく12月
にシカゴ響と「ブル９」、77年の４月にシカゴ響と「ザ・グレート」と言う盛況ぶりです。私の
知っている限りですが、全てが名演と言える出来映えです。この期間はジュリーニに取ってもの
凄く充実した年月だったのでしょう。ジュリーニの偉大さに未だお気付きでない皆さんにも是非
お勧めしたいと思います。

　わき道に反れてしまいましたが、今頃WRP-α120 は遥か遠くの地で聴き込まれている事と思い
ます。私に取っても久し振りに手応えのあるアンプとなりました。

1864川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Sep 21 11:30:00 JST 2018

私がソース音源にクラシック音楽を使う理由について

　私がクラシック音楽を好きであると言う事が第一の理由である事に違いありませんが、決して
それだけではありません。音質の評価を聴感に依って行う場合、その物差しになリ得る各種条件
を具備していると考えるからでもあります。物差しの条件が整っている限り入力信号を損なう事
なく正しく増幅できるアンプを作る事が可能になり、他ジャンルの音楽に対しても十分通用する
ものになるはずです。

　科学の発展には実験は必須のものであり、その計測には３つの基本的な単位が必要になります。
それらは長さ、質量、時間です。それをＭＫＳ単位と呼んでいます。メートル、キログラム及び
秒です。長さと質量の原器は、確かフランスにあり厳密に管理されています。時間はある定義に
基づいて先進各国の原子時計等で管理されています。力学の物理量にはこのＭＫＳ単位が使われ
ます。力学以外の分野でも広義のＭＫＳ単位が使われます。これらが物差しとなって現代科学を
支えています。科学で大事な事は普遍性（再現性）です。

　このような一種の物差しを用意しているからこそ、万国共通の正確な測定が可能になり科学を
推進して行く事が可能になります。オーディオを科学的に推進して行く為にも何らかの物差しが
必要になります。物差し無くしての研究は普遍性が危ぶまれるので科学とは認められないのです。
電子回路学としてのアンプの計測に各種測定器を使ったとしても、最終的なアンプの音質評価に
物差しを使わなければ全く意味がありません。

　音質評価を測定器に任せられる程オーディオ学は進捗していません。今現在は訓練された聴感
を以って行うしかないのです。僭越ながらその先鞭を私がつけたと思っています。聴感の訓練に
最も相応しい音楽は何かと言う事になります。私の結論はそれがクラシック音楽であると言う事
です。理由は楽器の種類が多く可聴領域をほぼ網羅している事と、微妙に音色は違っても楽器の
音がほぼ一定である事です。

　例えばバイオリンの音、オーボエの音、トランペットの音、ティンパニーの音等々は電気仕掛
の必要もなく、何処の国の誰が聴いてもその楽器を特定する事ができます。つまり普遍性がある
と言う事になります。その意味でエレキの力を借りないと音が出ない楽器は物差しとして適当だ
とは言えない事になります。もう少し言えばＰＡを使わないと音楽会が成立しない楽器は物差し
には相応しくありません。理由はそこには電気仕掛の普遍性の問題が１枚噛むからです。

　生の楽器の音を直接耳で聴いてその音の特徴を頭に焼付けます。１回切りでは当然ながら不足
ですから、会場に何回と無く足を運んでその平均値のようなものをその楽器の音として憶え込み
ます。ホールに依って聴く席に依ってその音は変りますから優良ホールの１階上席で定点観測を
試みた訳です。また単一楽器の音ばかりではなく、それらが重合して音を出す場合の聴こえ方も
学習する必要があります。

　単一楽器の場合は起き難いのですが、合奏では微妙に違う音程などに起因するビートのような
ものが耳に不快感を与える事があります。それがホールの残響でさらに強め合う事もあり複雑な
様相を呈する場合もありますから、なるべく良いホールでの聴取が必要になる訳です。その意味
で東京文化会館は優良なホールだと思います。
　
　何れにしてもこのように耳に不快感を与えるものを私は過渡ひずみと呼んでいて、純粋に音響
的な条件だけでも起きる事があります。それが録音されアンプで再生されると、さらにその過渡
ひずみは増大します。良い録音とは音響的に起きる過渡ひずみを最小に抑えるように工夫された
ものを指すと私は考えています。それは取りも直さず再生アンプにも優しい信号になり得るもの
です。

　このように聴感を鍛えるには楽器の音色を知る事は勿論の事、過渡ひずみにも敏感になる必要
があります。その楽器らしい音色が表出されているかどうかもありますが、先ずは過渡ひずみが
含まれていないかどうかに注意を払う必要があります。過渡ひずみはその音色をも変えてしまう
からです。唯、生の演奏会では再生音に比べればずっと過渡ひずみは少ないのが普通です。私は
バイオリン合奏のffで生じ易い過渡ひずみに注目します。何に着目すれば良いかは個人の聴感に
依ると思います。

　ですから生の音楽会で鍛えた聴感を以ってすれば、再生音で起きている過渡ひずみに直ぐ気が
付くはずです。その差分を限りなくゼロに近付くようにアンプの音を整える事が出来れば、原音
再生に耐えるオーディオアンプを作り出す事が出来るようになります。即ち全ての用途に普遍的
に使えるオーディオアンプを誕生させる事が可能になります。物差しの概念を導入したからです。

　しかし仮に差分に気付いたとしても、アンプの音から過渡ひずみを取り除く方法論を確立して
いないとスムーズに事を運ぶ事はできません。特に帰還アンプの場合は、帰還に起因する不安定
要素である負性抵抗の悪影響を多かれ少なかれ、必ず受ける事になりますから、これを除去する
抜本的な対策を立てる必要があります。

　幸い私は早くからアンプを不安定にさせる負性抵抗の存在に気付き、電子回路の解析に依って
根本的な対応策を考案し特許取得後に実際のアンプの回路に採用しました。勿論それだけで全て
が解決する程オーディオアンプは甘くはありませんでしたが、その後に聴感を鍛えた成果が出て、
アンプから発生する過渡ひずみの存在に気付いたのでした。そして諸々の対策を試み見事に過渡
ひずみを無視できる範囲に追い込む事に成功しました。具体的には各種アップグレードの内容に
示されています。オーディオで肝心な事はいい音に注目するより過渡ひずみの有無に注意を払う
事だと思います。

　ここまでWRアンプを発展させる事が出来たのも、WRアンプの音質評価法に普遍性のある物差し
としてクラシックの音楽会に於ける各種楽器の音、取り分けバイオリン合奏の音を採用した事に
その勝因があると思っています。

　以下に示す感想文は、あるユーザーのお宅を訪問して、クラシック音楽をお聴きになったある
オーケストラメンバーの方のもので、ユーザーの方が私に送って下さったものです。上記の結論
が私の独善とばかりとは言えない証拠になると思い参照させて頂きました。

「お宅のオーディオですが、とても臨場感があってあの音を常に聞いていると自分の音の意識が
とっても高くなる気がしました！あと、音が(演奏が)とっても近く感じましたし変な表現ですが、
生演奏をきいているような生々しい印象を受けました。友人のお父さまが凝っているシステムで
何度かレコード等を聞かせてもらっていますが、ちょっと次元が違う感じがしました。友人宅で
は漠然と音楽を聞き流す感じで、オーディオとはそういうものだと思っていましたが、お宅の音
は、音楽はもちろん、奏者の気合いや熱まで感じられました。また聞かせて下さい。」

と言うものです。当然ながら、間近で生の楽器の音を何時も聴いていらっしゃる方の生の声です。
そう言う方にもWRアンプの音は認められた事になります。やはりWRアンプの音には普遍性がある
と言っても良いのではないでしょうか？

1863川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Sep 15 11:00:00 JST 2018

音楽（オーディオ）と食品（調理）の関係は？

　音の良し悪しを食べ物の美味い不味いに例える人が居ますが、それは余り適当な比喩ではない
と申し上げた事があります。その理由は食べ物には旨味成分があり、それをシェフが適当に塩梅
すれば良いのですが、オーディオにはいい音の素と言うのは存在しないからです。いい音の素を
適当に混ぜればいい音のアンプが出来るのであれば、誰も苦労はしません。もし、いい音の素が
あると信じて居られるなら、それは間違いだと私は進言したいのです。強いて言えば源ソースの
中にあるだけで、それは曲の良さ、演奏の良さ、録音の良さに依ってのみ達成されます。それを
微塵も損なう事無く再生するのが本来のオーディオなのです。所謂、原音再生です。

　いい音の素は無くても嫌な音の素は存在します。それは、私が何回となく申し上げている過渡
ひずみです。音楽信号に誘発されて起きて来るものですが、基本的には音楽とは無関係な有害な
もので、音楽に交じっていてはいけないものです。出来る限り少ない方が音のいいアンプになり
ます。つまりオーディオは積極的にいい音は作り出す事は出来ないのですが、嫌な音を極限まで
減らす事が出来れば、結果的にいい音のアンプが完成します。WRアンプはこのアプローチで今の
音質に辿り着きました。

　オーディオで大事なのはこの「過渡ひずみ」なのですが、今一つご理解頂けていない気がして
います。そもそもオーディオアンプの技術者ですら余り使わない言葉ですから、致し方が無いの
かも知れません。そこで今回は食品に準えてこの過渡ひずみをご説明しようと思います。

　最近は段々と煩くなって、食品に含まれる食品添加物を明示するように義務付けられている事
はご存知の通りです。要するに身体に害のある添加物が使われていないかチェックできるように
国が指導している訳です。唯、生野菜は調理前なのでこの法律の対象外なのか、農薬の使用量に
ついては表示義務がないようですが、これも本来は明示すべきではないかと思います。恐らくは
信じられない回数の農薬が使われているはずです。

　それは兎も角食品添加物や農薬の殆どは化学記号とカタカナで表わされる一種の薬品ですから、
身体に良いはずはなく、味を不味くする事はあっても食品等を引き立てるものにはなり得ません。
国の建前は味には関係せず身体にも害はないと言う事だと思いますが、果たしてそう言い切れる
ものでしょうか？　又一見発育を促し味をも良くするように見える化学肥料も無機物からの合成
が多いので感心できる物ではありません。

　私は添加物などには否定的な考えで、それらは音で言う過渡ひずみ的な存在だと思っています。
過渡ひずみの無い音がいい音であるのと同じように、食品本来の味は添加物を使わない（農薬を
使わない）事で守られるはずです。しかし人間の慣れと言うのは恐ろしいもので添加物の入った
食品を日常的に食する事でその味が標準になってしまう事です。

　これは過渡ひずみが常態化したオーディオアンプの音を聴いて何も不愉快さを感じないで音楽
を聴いているのに似ています。私なら５分と我慢できないような音でも、平気で聴いていられる
人が居ます。ご本人がそれで満足しているのであれば、傍でとやかく言う事でもないのかも知れ
ませんが、それって本当に幸せな事でしょうか？　場合に依っては難聴の原因にもなるはずです。

　私は出来れば早くその事にお気付きになって、もっといい音で音楽を楽しんで頂ければと思い
ます。しかしそれはご本人だけの責任ではないと言う事です。世の中には無添加食品や有機野菜
は歴として存在しますが、数の上からは無視される程の少数派です。積極的に探さない限り普通
はお目に掛かれません。知らないものは購入のしようがないのです。

　正規分布と言う言葉があります。一般の流通に乗るような食品は全て真ん中辺りに分布します
が、無添加食品の類は右の方の裾野に分布する程度でしょう。オーディオも然りでメーカー製の
アンプが真ん中辺りに存在し、WRアンプなんて遥か右端にあるだけです。要するに世の中に大量
に普及するものは必ずしも最高・最良のものとは限らないと言う事です。しかしそれが現実なの
です。マジョリティは民主主義の原理で何時しか正義になってしまうのです。

　結局、音も味も感覚を極限にまで研ぎ澄まし、どう言う音が本当にいい音なのか、どう言う味
が本物の味なのかを見極める事が大切になって来ます。音で言えば聴感を鍛える事ですし、味で
言えば味覚力を整える事でしょう。前者で必要な事は過渡ひずみに敏感になる事ですし、後者で
必要な事は添加物等の嫌な味に気付く事です。一番困るのは、過渡ひずみのある音がいい音だと
錯覚してしまう事です。食品添加物や農薬・化学肥料の味がする食品が刺激があって美味しいと
感じてしまう事です。添加物や農薬などに敏感になると言う事は自分の健康をも守る事に繋がる
のですから、もう少し慎重に考えて頂ければと思いますし、オーディオも然りと言う事です。

　最後に過渡ひずみのない音で、前回の「ブル９」絡みからもう１枚のLPを聴いて見ましたので
ご報告します。それはちょっと気になった同じジュリーニ／シカゴ響の演奏ながらグラモフォン
に録音されたLPがどんな音で再生されるのかと言う事でした。色々ある中から「ドボ８」を選択
して見ました。実はこの曲を１週間前だったかに弦楽９重奏ながら息子とWR録音をして来たから
です。暫くの間、このメロディーが頭の中を駆け巡っていました。

　ジュリーニはこの曲をシカゴ響と1978年にグラモフォンに録音しています(413 980-1）。この
録音もかなり良い出来だと思っていました。先ず、カッティングレベルが「ブル９」に比較して
かなり高く音に勢いがあります。同じL-Pad の位置で聴いたのですがffでは相当の音量差があり
ます。しかし、過渡ひずみ感は殆どありません。厚みのあるストバイも綺麗に抜けますし、金管
の咆哮も健在です。部分的にはジュリーニの畳み込むような切れ味にちょっとびっくりもします。
唯「ブル９」に比べると少しだけ、生の音には無い雑味を感じないでもありません。

　その点「ブル９」の方がカッティングレベルが低い事もありますが、あくまで自然で透明感が
あります。昔は文句無くグラモフォン録音に軍配を上げていましたが、今は微妙でもう少し来て
欲しいと思わせる「ブル９」の方に魅力を感じます。多分これが本来の「ブル９」の姿なのだと
思います。グラモフォンの方は昔から好録音と思えたのに、何故EMI 録音の方はそうは思えなか
ったのか検証する必要がありそうです。唯、アンプシステムから過渡ひずみを殆ど取り切った事
が大きく関与している事は確かでしょう。皆さんも耳に嫌な感じを与える過渡ひずみに早くお気
付きになって、それが殆ど無いWRアンプシステムでお好きな音楽をいい音で心置きなく楽しんで
頂きたと思います。やはりそれが一番幸せな事なのではないでしょうか。

1862川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Sep 9 17:00:00 JST 2018

ヘッドアンプ付きフォノアンプの製作

　全てのアップグレードを施したWRP-α9 は、非常にハイC/P な高性能プリアンプです。しかも
複数のユーザーの方から数十万円クラスのヘッドホンアンプにも勝ると言う評価も頂いています。
唯一不便な事は、LPを聴く方には別途フォノアンプが必要になる事です。コンパクトな WRP-α9
ですから致し方のない事なのですが、何とかしたいと言う気持ちはずっと持っていました。

　そんな時にあるユーザーの方からのリクエストを頂きましたので、実際にヘッドアンプ付きの
フォノアンプを製作する事になりました。従来のヘッドアンプと同様に電源部と第１安定化電源
は別筐体とし、本体には第２安定化電源とヘッドアンプ及びEQ基板を納める事にしました。その
為、本体シャーシは少し大型化します。

　今回はユーザーの方のご希望でヘッドアンプとEQを独立させて、別箇に使う事も出来るように
個々に入出力端子を設けてあります。ヘッドアンプとEQを繋げるには外部に用意したジャンパー
RCA ケーブルを差して使います。勿論２重シールドのものを用意しました。こうする事で幅広い
使い方が可能になりますし、SW切替式に比べて入出力線の交差などによる性能劣化やトラブルを
防ぐ事ができます。

　使用部品はSEコンを使用する従来の仕様と同等にします。ERO コンはまだ使用できますが既に
BGコンはディスコンですから、Vishay等の代替品を使います。抵抗はニッコーム（進）を基本と
します。回路は特に変更しませんが配線材は最近のWRアンプに使う線材を適材適所に用います。

　これまでプリアンプにはEQを載せ、MCを使う場合はヘッドアンプを使って頂くと言う事を基本
にして来ましたので、今回は初めてのケースになります。今後ヘッドアンプ付きのフォノアンプ
はWRP-α9 のユーザーの方やEQのないΕC-1Hをお持ちの方には朗報と思われますので、今後WRの
製品に加える事にしたいと思います。

　さて基板は従来と同じように作れば良いので何も問題はないのですが、本体の配置及び配線は
初めての経験になりますから、特にアース線の張り方等が多少問題になります。ヘッドアンプは
超高感度ですからハムを誘導し易いのです。案の上１回目は明らかにヘッドアンプ方式で聴いて
いた時に比べて誘導ハムが多く、音もスッキリしませんでした。

　改めてアース線の引き回し等をチェックして見ると然もありなんと言う箇所がありましたので
修正したところ、２回目で誘導ハムをほぼゼロにする事ができました。別電源との接続ケーブル
を一杯に伸ばして電源部を遠ざける必要がある事は言うに及びません。また他の機器の電源部に
近付かないように注意する必要もあります。

　WRのEQは大変評判が良く多くの方から信頼を得ています。WRのEQなら安心、WRのEQを使っても
ダメなら仕方がないと言うようなお言葉を頂いています。多分、これも何十万の製品に勝るとも
劣らないのではないかと思います。アンプは、パワーアンプ、ヘッドホンアンプ、ヘッドアンプ、
EQアンプ等、機能こそ違いますが帰還アンプと言う意味では共通性があります。最終的な音質は
帰還技術で決まります。

　WRアンプの帰還は、帰還に不可避的に生じる負性抵抗に対して抜本的な対策を取ってるところ
が他社と大きく違うところです。もう少し言えば、これまで軽視されて来た過渡特性を重視して
いる事です。帰還が不安定ですとアンプの動作点が過渡入力信号で揺すられると言う事が起きて
来ます。音楽は過渡信号ですから、アンプの過渡特性を少しでも良くする事が求められるのです。

　何故これまで過渡特性が余り論じられて来なかったかと言えば測定が難しく掴みどころがない
からです。私はそれなら自分の耳で行おうと考えたのです。オーディオは聴いてナンボですから、
もし正確に判断できる耳（聴感）があれば、それで判定するのが最善であるはずです。これまで
日フィルの定期に10年以上通い続けて、生の楽器やホールの音で聴感を鍛えた事が大変役だって
います。単なる個人的な趣味を超越して、実音に基いた客観的な判断ができるからです。

　幾ら優れた回路を用いても出来上がったアンプの音を正確にモニターする聴感を持ち合わせて
いなければ、いい音のするアンプを世に送り出す事は不可能です。アンプが偶然にいい音になる
確立はほぼゼロだからです。WRの今の音があるのは、訓練した耳で判断して過渡ひずみを徹底的
に排除して来たからです。過渡ひずみはそのレベルに依って多重構造になっています。

　１、２回の試聴で取り切れるものではありません。WRアンプが多くのアップグレードを重ねて
来たのはこの為でした。暫くの間、アップグレードで過渡ひずみを取るとその下のレベルの過渡
ひずみが現れると言う事を繰り返したのです。そして一番程度の軽い過渡ひずみが、最終アップ
グレード、即ちパワーアンプの安定化電源の高帰還化に依って取り除かれたのです。

　今回の試聴で改めてその事を深く認識しました。お客様のアンプで長い間試聴できませんので
ジュリーニ／シカゴ響のブル９(EAC-80385）に注目して見ました。これまで聴いて見て、テスト
ソースには適当なのではないかと思ったからです。購入当初は、中高域が硬く聴こえて余り良い
録音ではないと思ったのですが、演奏が良いので部分的に聴いたりしていました。しかしアップ
グレードを経る度に印象が変わって来ていましたので、今回も多少の期待感があったのです。

　使用カートリッジはFRのPMC-1 です。自然な音がして中々良いカートリッジです。EMI 録音は
低音が余り入ってなくて中高域が硬く痩せた音なんて言う固定観念がありましたので、これまで
余り購入していませんでしたが、このLPはジュリーニ／シカゴ響と言う事で例外でした。しかし
正直に言って、同じ組合わせで演奏された独グラモフォン録音のレベルではないとずっと思って
いたのです。

　それがどうでしょう。このLPの真価が発揮されたのか、中高域の硬さは微塵もなくなんと自然
な事か。過渡的ひずみ感もゼロです。ジュリーニの細かな気遣いが隅々まで行き亘っている演奏
が目の当たりに正確に展開されます。一音一音どの音を取って見ても意味を持って鳴らしている
と言う事が手に取るように分かります。もうLPの音がどうのこうのなんて言うレベルを超越して
いる音ではないかと思いました。強いて言えば、実演より細かな音が聴こえ過ぎると言う贅沢な
瑕疵があると言えるかも知れません。結局、LPのスクラッチノイズ、ひずみ感、中高域の暴れ等
は全てアンプが過渡的に安定すれば殆ど解決する問題である事が分かりました。勿論録音に失敗
したソースは論外です。

　EMI 録音、決して捨てたものではありません。この録音(バランス技師：Christopher Parker)
なら、誰が独グラモフォンより、或いは英デッカ、フィリップス録音より劣っていると断言する
事が出来るでしょうか。いい音で録れていると言う事はジュリーニ／シカゴ響が如何にいい音を
出していたかと言う事も証明しています。録音は出音が鍵を握ります。力で押し捲るシカゴ響の
姿は影を潜め、其処にはジュリーニの意図する音楽を忠実に再現する表現者としてのオケの姿が
ありました。カラヤンのワーグナーも良かった事ですし、これからは買い損ねているEMI 録音に
的を絞ってソースを発掘しようかと考えているところです。

　近い将来このヘッドアンプ付きフォノアンプを商品化する予定でいます。故あって下取りした
ヘッドアンプがありますので、新しく作り直して初回限定特価でご提供する事も可能です。単純
に考えれば、ヘッドアンプ：\155,400とSEコン仕様EQ基板：\39,960 を合計して\195,360になり
ますが、３割引き程度でと思っております。もしご希望の方がいらっしゃれば話を具体化しよう
と思いますので、興味のある方が居られましたらメールにてご連絡をお願い致します。ご希望を
ある程度お聞きできると思います。勿論、新品と何ら性能的なハンデはありません。

　何れ正式な写真を掲載しますが、取り敢えず後面の写真のみをトピックス欄に載せて置きます
のでご参照頂ければと思います。 


お知らせ）上記初回限定特価ヘッドアンプ付きフォノアンプは予約済みになりました。

1861川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Sep 3 14:00:00 JST 2018

日フィル特別演奏会を聴く

　北海道地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

　日フィルのサポーター会員になっていると年２回日フィル主催の演奏会であれば好きな公演の
招待券が貰えます。前回は４月の東京定期のワーグナープロに参加しその感想も書いてあります。
今回は日フィルにしては珍しく東京文化会館での公演がありましたので飛び付きました。ただし
申し込んだのが公演前１ヶ月を切っていましたので、余り良い席ではなく１階ながらかなり後の
26列４番と言う座席でした。文化会館は勾配がきついので舞台は良く見えて、そう偏った感じは
ありませんでした。唯、遠くて団員の顔が今一つはっきり確認できませんでした。

　私は東京定期をずっと見てきましたが、トップの参加率や弦のプルト数などで多少のハンデが
あるように感じました。横浜定期にも何回か行きましたがそのような感じを受けた事があります。
そう言う意味では東京定期を聴くのがやはりベストだと思います。少しのところですが、一事が
万事でそれが音楽会全体のレベルを決めてしまうのではないかと多少の危惧を感じます。唯本日
の指揮者西本智美の人気なのか、少なくても１階の客席は隅々まで殆ど埋まっていました。

　日フィルの公演の多くはサントリーホール、芸劇ホール、オーチャードホールで行われるので
二の足を踏んでいます。何れも様相は異なるものの音響的な過渡ひずみが邪魔をするのでオケの
本当の音が聴こえ難いと言う問題があります。常に頭の中で過渡ひずみのない音を類推する必要
があり、真から音楽を楽しむ事が出来ません。

　東京文化会館は少しデッドながらもそのような心配がない優良なホールです。前回は変則的に
行われた「ラインの黄金」を聴きました。聴いた席は良かったのですが楽劇の演奏会形式の公演
であったので、その時はもう一つ音に集中する事ができませんでした。今回改めてホールの音を
確認する事ができました。

　出しものは、プーランクの「ピアノ協奏曲」、ストラビンスキーの「火の鳥」組曲、ラベルの
「ボレロ」でした。ピアノ協奏曲は数々の国際コンクールで入賞を果たし今は芸大の教授である
伊藤　恵でした。火の鳥はオーソドックスな1919年版ですが、部分的には４管編成の全曲版より
迫力があります。ボレロは言うに及ばないポピュラーな名曲ですが、これまで東京定期の演目に
は殆ど登場してない気がします。

　何故プーランクの「ピアノ協奏曲」が選曲されたのかその意図が見えて来ませんでした。演奏
時間も20分と短くこれと言って魅力のある曲だとは思えませんでした。近代・現代に入る作曲家
の割には分り易い作曲をしますので珍紛漢紛と言う程酷くはないのですが、美しいメロディーを
多用した「オルガン、弦楽とティンパニーのための協奏曲」のようには魅力を感じませんでした。
そもそもコンチェルトはオケが多少遠慮をして音をセーブし勝ちですから音がもう一つ弾けない
のです。音が中途半端になりデッドなホールがそれに輪を掛けます。

　その時フッと思ったのですが、線材交換を重ねて行くと一見中高域のレベルが下がったように
聴こえるのですが、その時感じた音に何か似ている気がしました。しかし、それでもストバイの
微弱音は健在でちゃんと聴こえて来ました。遠くの席でも高域は霞む事無く聴こえて来たのです。
やはりこれが聴こえないアンプは落第です。協奏曲の後にアンコールで弾いてくれたショパンの
「マズルカ45番」は、私にはノクターン風に聴こえて素敵でした。大ホールのピアノはこう聴こ
えれば良いのかと思いました。そして今の我が家の音ならそう遠くはないと思ったのです。

　演奏会開始後30分以内に15分の休憩です。急いで舞台上では編成を拡大していましたが、期待
した程には大きくなっていないと思いました。例えばコントラバスが７人とかですが、東京定期
でそう言う光景は殆ど見た記憶がありません。予算の都合もあるとは思いますが、何処のホール
に来るお客さんにも日フィルの最高の力量を見せて欲しいと思います。

　さて「火の鳥」ですが本来は全曲版を演奏すべきなのでしょう。しかし４管編成の割には少し
退屈なところがあったり、迫力ある盛り上がりが今一つだったりで、一般の公演では組曲の方が
無難なのでしょう。確かに組曲はメロディーが親しみ易く退屈する暇もありませんし、２管編成
ながらカスチェイの魔の踊りや、終曲の迫力は相当なものがありました。文化会館のデッドさが
本領を発揮しどんなffになっても過渡ひずみ感ゼロの全く素のオケの音が楽しめました。西本の
指揮はオーソドックスでサッパリしています。ラザレフのような強烈なリーダーシップは感じま
せんでした。

　特に文化会館の低音は下に気持ち良く伸びるので、ティンパニーや大太鼓が思いっ切り叩いて
もダブつく事は全くありません。オケは思い存分暴れ捲くれるのですが、細部まで見通せるので
オケの実力も素通しで分かってしまいます。実力の伴わないオケにはやり難いホールの一つかも
知れません。このホールの低音とB&W805MATRIXに依る低音を比べる方が非常識ですが、ちょっと
だけ、ＷＢＣで得られる最新のWRアンプの低音もまんざらではないと思いました。それにしても
ブラームスやワーグナーの音楽ではないので求める方が無理なのですが、ストリングが何時もの
日フィルにしてはちょっと物足りなく聴こえました。

　舞台上ではボレロの為に小太鼓の席を指揮者の前方に用意したり、各種木管・金管の席を増や
したり大忙しでした。ボレロと言えば戦前から我が家にSP盤がありました。母がボレロを題材に
した映画を見て購入したようです。折りしも空襲警報が発令されて庭に掘った防空壕に非難した
晩に、何故か兄の作った鉱石ラジオからボレロが聴こえて来たのでした。ボレロはフランス音楽
なので放送の許可が下りたのでしょうか。母とレシーバーを片耳ずつ聴いた記憶があります。

　小太鼓とフルートがスタートを切りました。２つのパターンだけを手を替え品を替え繰り返し
て行きます。そして１曲丸ごとクレッシェンドして行く作曲技法が斬新だったのでしょう。瞬く
間に人気のあるメジャーな曲にのし上ったのです。確かにソロが独自の音色を奏でて華を添えて
行きます。オケに通常は用意されている木管、金管の他に、オーボエダモーレ、テナーサックス、
ソプラノサックス、コールアングレ、小クラリネット等が姿を現します。オーディオ的に言えば
ソロ楽器が活躍するところまでは良いのですが、その先バイオリン群が弓を使って弾き出す辺り
から再生が難しくなって来ます。

　今回も正に其処に注目して聴いていました。ソロ楽器が活躍する間弦パートは弦を軽く弾いて
います。大した音は出ていないのでしょうけど、それがソロ楽器を絶妙に支えているのかも知れ
ません。最初に弓を持ったのはセコバイでした。それが切っ掛けになって弦も演奏に真っ向から
参加し始めました。木管、金管も同時に演奏する数が増えて行きます。演奏の強弱もありますが
楽器の数を増やして行く事でクレッシェンドを達成して行きます。この辺りはラベルの独壇場で
しょう。感心するしかありませんが、これらの音の数々を綺麗に分離して再生する事は至難の技
です。特にバイオリンパートの音が複数の木管、金管と絡む時に過渡ひずみが起き易いのです。

　とうとう最後の断末魔？に来ました。流石文化会館です。勿論演奏のレベルも高かったのだと
思いますが、実演で聴く限り音のぶつかり合いは有っても殆ど嫌な過渡ひずみにはなっていない
と思いました。このレベルまで再生音を高めるのは容易ではないでしょう。私が実演を聴くのは
４、５ヶ月振りですが、聴感上違和感はありませんでした。長年定点観測をして鍛えたのと日頃
似ている再生音を聴いている為か私の聴感は安定したようです。東京文化会館の音は申し分あり
ませんが、強いて言えばもう少しだけライブであっても良いのかなと言う気はしました。

　私はボレロはハイティンク／コンセルトヘボウ管（438 746-2)で聴く事にしていますが、線材
交換等の進歩があった後に聴いた事がありませんでした。ストリングスが加わり楽器数が増えて
混濁感が出て来たところがどうなっているのか興味津々でした。今はカラヤンのワーグナーでも
問題なく通っていますので、案外行けるのではないかと予測しました。

　案の定、中高域に感じていたひずみ感は影を潜めており音数が多くても各楽器の音はクリアに
聴こえて来ます。やはり正しいアプローチをしていれば、どんなソースにでも適用されるのです。
このソースは良くなったがあのソースは思わしくないと言うのは、本質的に的を得ていない証拠
だと思います。クライマックスになると大太鼓、ティンパニーなどの打楽器が加わりますが全く
と言って良いほど視界がクリアです。混濁感はありません。文化会館の３次元の素晴らしい音に
は到底敵いませんが、そこそこ行けると自信を深めました。結局、良い録音と思われるソースは
殆ど問題なく録れているのです。確かに失敗している録音も多いのですが、音が悪いと思ったら
先ず自分を疑うべきなのです。

　ボレロが終わり指揮者の手が下り切る前にフライングの拍手が出ました。火の鳥の時もそうで
したが、もう少し終わった後の余韻を楽しむべきではないかと思いました。拍手をしたい気持ち
も分かりますが、自分の拍手が他人様の余韻を殺いでいると言う事を自覚すべきでしょう。そう
言う私も若い頃はそんな傾向があったなと、今更ですが反省しきりです。

1860川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Aug 28 16:00:00 JST 2018

Ε-10H、WRP-Δ120/BAL の安定化電源の高帰還化を行いました。

　私の100Wアンプから始まった安定化電源の高帰還化は、WRP-ΔZERO/BAL、Ε-5H と来て今回で
５種類のパワーアンプでその結果が明らかになります。残すは30W 型のアンプのみになりますが、
もう類推でご判断できるのではないかと思います。

　今回お申し出があったアンプは全て高級部品化まで済んでいる状況でした。アップグレードは
飛び越えてやってもその効果の判定が正確に出来ませんので、是非、順を踏んで頂きたくお願い
致します。

　先ずΕ-10Hですが、結論的に言えばΕ-5H よりパワーがある分、100Wアンプに近い方向に改善
されたと思いました。Ε-5H の場合は全体的に良くはなっているものの部分的に少し甘い、鈍い
と感じるところがありましたが、それが減って法外な要求を出さなければ十分に音楽を楽しめる
のではなかと思いました。もしかしたら、10W 近辺にある種の閾値があるのかも知れません。

　カラヤン／ベルリンフィル／ワーグナーのCDがどれ程満足して聴けるかが一つのバロメーター
になります。最近よく聴くのは「パルジファル」の第３幕への前奏曲です。勿論その前の第１幕
への前奏曲から続けて聴く事にしています。第１幕の方は静寂部分が多いので、それが霞むこと
なくppながら明確に聴こえるかどうかと金管合奏のバランス感とそのひずみ感の有無で判定して
います。

　Ε-5H は一応高い微弱音は聴こえていますが、今一つ明確に聴こえて来ません。高域の微弱音
が聴こえて来るかどうかは周波数特性の問題ではありません。今時20KHz が再生できないアンプ
なんてあり得ませんが、アンプに依っては全くと言ってもよい程聴こえないのではないかと思い
ます。これは高域の過渡特性の良し悪しで決まります。多分一般の帰還アンプでは過渡ひずみに
掻き消されて全くと言ってもよいくらい聴こえないと思います。Ε-5H はまだ良い方でΕ-10Hは
さらに有利だと思いました。

　３幕の方はフルオケの圧倒的な響きが生演奏会と同レベルで満喫できるかどうかです。ググッ
と伸びてくる全体のエネルギー感とか、ストバイのffが厚みをもって気持ちよく抜けるかどうか
とか、それと拮抗する金管群の迫力、特にトロンボーンの厚みに注目します。この辺りのオケの
スペクトラムはオーディオの醍醐味だと思います。素晴らしい音の洪水に身を任す時、生きてて
良かったと思うのです。この２曲を通して聴く限りΕ-10Hの方に一分の理があると思いました。

　ではΔ120 はどうであったかですが、結論を申し上げる必要もない程に全ての点で秀でてると
思いました。ご本人様からも電話を頂戴し全く違うシステムになったかのようだと言うお褒めの
言葉を頂戴しました。この方はジャズをお聴きになるのですが、ボーカルが実演並みに聴こえる
ようになったと喜ばれていました。私も100Wアンプより凄みがありピアノの音に実在感があって
オケの厚みもしっかりと描かれていると思います。O.M.さんが２台の100Wアンプの安定化電源を
高帰還化された直後に

★鬼門だったピアノがやっとまともに出ました。音楽に負けない強いオーディオシステムに
★なって気持ちが良いですね。

と述べられていますが今回Δ120 は私の100W機よりピアノが特にしっかり鳴ってると感じました。
ある意味まともな音になったと言う事かも知れません。これは私の推測ですが、100W型アンプは
１台ではまだ不十分ながら、120W型アンプならば何とかピアノも行けるのかも知れません。

　O.M.さんは現在100W型をモノステレオにされてお聴きになっていらっしゃるので、100W型でも
行けてるのではないかと思います。２台にされた時に１台で聴くよりも音の安定性が向上したと
証言されていますので、ピアノの音の再生にも有利に働いていると判断されます。

　それはそうだと思います。僅かな帰還率の変化で低音を含む大きな音の安定性が得られている
のですから、その安定化電源を片チャンのみで使用すると言う贅沢な条件は必ずや音の安定性に
寄与するはずです。ピアノの再生が一番難しいと思いますが、ピアノの音を実在感のあるまとも
な音で聴きたいのであれば120W型にするか、100W型をモノステにするかと言う事になるのではと
思います。

　新規なら120W型を選ぶのがC/P の点で有利ですし既に100W型をお持ちならモノステも捨て難い
ものがあるのではないでしょうか？　確かにΔ120 のピアノの音は魅力的に思えましたが、私は
負け惜しみで無くストリングスの再生により興味と醍醐味を感じますので、今のところは100W機
で我慢しようかと思っております。ストリングスなら100W機でも遜色はないと思います。

　その100W機で最近行った生録を試聴しましたので蛇足になりますが追加させて頂きます。この
BBS でもお馴染みの千葉のK さんが指揮者を務めるある少年少女合唱団の定期演奏会があり今回
初めてその第２部の合唱を録音させて頂く事になりました。千葉のK さんは30年にも亘ってこの
合唱団を育てて来られたそうでレベルの高い合唱団です。

　前回の生録の前にマイクプリの線材交換を行ってありましたが今回はその出力からオーディオ
インターフェース間もカナレではなくO-FLEXマイクケーブルを使用しました。初めてと言う事も
あって舞台上の制約があり、残念ながらマイクはワンポイントになってしまいましたが、音の質
は保てたと思っています。録音は何と言ってもマイクプリの品位がモノを言います。まだ安定化
電源の帰還率は変えていませんし、マイクケーブルも全てO-FLEXにする可能性も残されています
し、WR録音はまだまだ向上する可能性を秘めています。IC化された多チャンネルマイクプリでは
高音質での録音は無理だと思います。

　今回ワンポイントで録りましたのでミックスの問題はありませんでしたが、極僅かに残る左右
のレベル差から来る過渡ひずみを最小にするようにバランスエンジニアである息子は微妙な調整
を試みたと思います。その際、マイクプリに過渡ひずみが残っていますと正しい判断が下せない
為最適ポイントに調整できない事になりますが、前回の生録に引き続き正確な判断が可能だった
と思っています。

　それは出来上がったCD-Rからも分かります。合唱曲の再生で特に難しいのは女声合唱の高音部
です。張り上げた時にハレーションのような現象が一瞬起こり、その時に急に定位が怪しくなり
ます。大体は再生側に責任がありますが、録音側に無いとは断言できません。

　今回の録音にはそれは無くスムーズな定位が得られていました。ホールが音楽ホールではなく
残響が少なかった事が幸いしたのかも知れません。私は音楽的にもオーディオ的にも中島みゆき
の「命の別名」が素晴らしい出来だったと思いました。これは掛け値なしに楽しめる出来映えに
なっていると思います。

1859川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Aug 22 13:00:00 JST 2018

Ε-5H に高級部品化と安定化電源の高帰還化を施して見ました。

　元々安定化電源の高帰還化は100Wアンプで実施してその効果を確かめたものです。原理的には
どんな出力のアンプにも適用できる技術だと思いますが、結果としてのパフォーマンス次第では
余り意味の無いアップグレードになり兼ねません。

　そこで、手始めに50W アンプでその効果を確かめ既にご報告しています。100Wアンプにかなり
近い効果を確認できましたが、厳密に言えば埋められないギャップがあった事も事実です。最大
出力の問題が立ち府がっているのかも知れません。

　今回はWRアンプの中で最小の出力であるΕ-5H にスポットライトを当てて見ました。最大出力
がネックになっているのであれば、その影響を一番強く受けるはずです。手持ちのΕ-5H の原型
アンプに手を入れようかと思ったのですが、実は高級部品化まで希望されているΕ-5H のご注文
を少し前に頂いていた事に気付いたのです。

　そのご注文を頂いた時点ではパワーアンプの安定化電源の高帰還化は未だリリースされており
ませんでしたのでちょっとウッカリしていたのですが、製作する時点ではリリースされていた訳
ですから、これが最初のテストケースになると思い、安定化電源の高帰還化も併せて実施させて
頂きました。

　唯、新規アンプの試聴にはそんなに時間を掛けられません。色々なソースに対する効果を確認
するには時間が足りません。結局、手持ちのΕ-5H 相当アンプに高級部品化と電源の高帰還化を
施してじっくりとその効果を探る事にしました。

　全ての準備が整っていよいよ試聴です。パッと聴いた感じでは、新規アンプの試聴時の印象と
殆ど変りません。当たり前ですが再現性がある事が分かりました。100Wアンプで聴いたテストCD
を色々と再生して見ました。カラヤンのワーグナーも聴きましたし、モーツァルトの「不協和音」
も聴きました。

　特にカラヤンのワーグナーは曲自体もそうですが演奏・録音も未曾有のスケールです。本来は
5W＋5Wアンプで鳴らせるソースではないはずです。しかしそれにしては立派にワーグナーを奏で
ます。とても弁当箱に毛が生えた程度のミニアンプが鳴っているとは思えない音です。部分的に
100Wアンプが鳴ってると錯覚するような音も出ています。

　しかし厳しく見ると音のスピード感、動的透明感など生の演奏会で聴く音とはやはり隔たりが
ある事が分かります。生の演奏会の音を満喫するには、最低でも100Wは必要なのかも知れないと
思いました。その意味で50W アンプも共通する問題を抱えてはいますが、もう少し100Wアンプに
近い音がすると言えます。

　この問題は生の音の体験を多くしているかどうかで、その価値判断は変わって来ると思います。
極端な話、殆ど経験のない方であれば両者の音の違いには気付いても100Wアンプでなければなら
ない、と言う事にはならないのではないかと思います。その違いに高額を投資する意味を見出せ
ないのではないでしょうか。

　逆に言えば、あの生独特の自然であるけど凄い音がする３次元空間の再現を期待する者ならば
多少の投資も厭わないと言う事になります。昔このBBS で「神様がΕ-5H しか聴いてはならない」
と言ったとしても、別に構わないと申し上げた事がありますが、今は100Wアンプの本当の魅力を
知ってしまいましたから、多分ずっと後ろ髪を引かれる思いがするだろうと思います。

　正直に言えば、あの当時はハイパワーアンプの本当の実力を引き出せていなかったのだと思い
ます。最近メジャーレーベルが録音した弦楽四重奏曲はどうだろうかと思い、イタリア弦楽四重
奏団の「ラズモフスキー１番」をちょっと聴いて見たのですが、音の切れ味、音の自然な伸びは
一流かもと自分で思ってしまいました。過渡的ひずみ感はほぼゼロと言っても良い出来映えです。
長い年月が掛かりましたが、ここまで到達できた事に幸福感を味わったのです。勿論Ε-5H でも
相当のところまでは行きますが、最後の詰めがちょっと甘いと言う感じに聴こえてしまいます。

　WR録音の弦楽四重奏曲の方はDVD 盤ですから、もう少し激しい音も録れているように感じます
が、多分これもCD化すればもう少し甘くなる可能性はあるでしょう。だとしても十分に楽しめる
範疇の音になると思います。これは、所謂ハイレゾの問題になりますが、この真の違いを見抜く
には今のWRアンプのレベルにならないと他の要因で掻き消されるので、本当は無理だろうと思い
ます。そして見抜けたとしても、100WアンプとΕ-5H の違い程にはならないだろう思います。

　Ε-5H などのアンプを購入された方で生の音の再現を特に望まないのであれば、この最終的な
アップグレードはそれなりの効果があると思いますのでやるに越した事はないですが、もし実は
自分は生の音の再現を求めているのかも知れないと言う事であれば、アップグレードは回避して
近い将来にハイパワーアンプに乗り換える事をお考えになった方が宜しいかと思います。生演奏
の再現と言う事であれば、Ε-5H とハイパワーアンプの間には埋め難いものがあると思いました。

1858川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu Aug 16 16:00:00 JST 2018

K.G.さん、ご投稿ありがとうございます。

　K.G.さんには、これまで殆どのアップグレードにお付き合い頂いており、今回はプリの安定化
電源をより高帰還化すると言うアップグレードを行って頂きました。基本的には安定化電源基板
を変更する訳ですが、同時に総合的な音質に影響のあるＷＢＣ付きのラインアンプ基板にも手を
入れています。

　当初のラインアンプのゲインが6dB に設定されていた関係で、ＷＢＣの為に増加した2.5dB 分
を入力部に設けた抵抗分割で落としています。即ち、ＷＢＣを搭載しても1KHzのゲインには変化
がないようにしています。これを利用して、総合ゲインが余っていて音を絞るのに苦労されてる
方には2.5dB 以上の減衰値を設定しています。この事が音質に影響する可能性が無いとは思って
いませんでしたが、これまではユーザーの方の使い勝手を優先して来ました。

　しかし、今回のアップグレードではこの減衰量が音質に微妙な影響を与える事が分かりました
ので、規定値に戻させて頂いています。K.G.さんのプリも例外なく標準ゲインの6dB に戻させて
頂きましたので、最初にこの件について触れられたのだと思います。減衰量を多めに設定されて
いる方はこの事をご了承頂きたくお願い致します。

　さて、K.G.さんは

★一聴して分かるのはまず分解能が飛躍的に上がったことです。

と仰っていますが、分解能は、どんなアップグレードでも上がる事はあっても下がる事があって
はならないと言う事です。生で聴く楽音の分解能を100 とすれば、再生音は必ず100 を割る事に
なりますから、可能な限り分解能が向上するようにしなければなりません。アンプが抱える欠陥
は全て分解能を落とす事に繋がりますから、アップグレードを重ねれば重ねる程分解能が上がる
ように努めて行く必要があります。私は分解能が上がらないアップグレードはやってはいけない
と思っています。

　この事に関係する事ですが、K.G.さんは直後に

★そしてそれが分かるくらい無駄な響きが無くなり、さらに自然になりました。

と述べられています。無駄な響きとは私がよく言う過渡ひずみの事でしょう。余計な過渡ひずみ
が無くなれば自ずと音は自然な響きになって来ます。つまり生の音に近付く事になります。その
結果、

★楽器それぞれの質感が、はっきりこちらに伝わってきます。

と言う風に音の聴こえ方が改善されるのです。

　最後にK.G.さんは、他の方が殆ど触れる事のないヘッドホンアンプとしてのWRP-α9 について
言及されています。WRP-α9 の表面の印刷は一応「with Head Phone Output」となっていますが、
WRP-α9 をヘッドホンアンプだと思っている方は少ないのかも知れません。そしてWR製のヘッド
ホンアンプなんて門外漢が作っているので問題にならないとお考えなのかも知れません。

　しかし、K.G.さんは

★実際にヘッドホンアンプは持っていますし、オーディオ店で試聴したこともありますが、
★私見では数十万円クラスを持ってきてもかなわないと思います。

と仰っています。この事は偶々K.G.さんが触れられただけではなく実は私のところにはΕC-1Hに
オプションでHP端子を付けられた方からも、同様なお褒めの言葉を頂いておりますので、この件
は確かな事だと私は確信しています。この方はヘッドホンより厳しいイヤホンでの聴取をされて
居られ、安定化電源の高帰還化の直前までのアップグレードを済ませていらっしゃいます。

　K.G.さんは数十万のヘッドホンアンプでも敵わないと仰っていますが、イヤホンをお使いの方
もこれ以上の音質のヘッドホンアンプは他に例を見ないと仰っていました。要するにヘッドホン
アンプも、帰還アンプとしての正当なアプローチを必要とすると言う事だと思います。

　私はヘッドホンアンプの事に付いては詳しくありませんが、リード線を５線式にしてバランス
接続にすると良いとか、そのような情報は承知しています。如何にも伝統的なオーディオ業界の
やりそうなアプローチだと思います。これまでのオーディオはアンプを100%性善説として考えて
おり、其処に全てのオーディオ上の問題の根源があると私は睨んでいます。

　例えば、市販アンプの大半は中高域に過渡ひずみが残っていて、その結果中高域が張り出して
聴こえる為に中高域の音が煩く聴こえますから、中高域を抑える傾向にある高純度OFC 線を使う
事で辻褄合わせをする事になります。しかしそれはあくまで便法ですから、結局ストバイの引き
攣れは残る事になります。O.M.さんや千葉のK さんのご証言から明らかです。WRアンプは中高域
の過渡ひずみを完全に抑えていますので、WRアンプに高純度OFC 線を使いますと、逆に中高域が
もやついて冴えない音になってしまうのです。WRアンプには\180/m程度のケーブルが良いのです。
どちらのアプローチが正しいかは論を待たないでしょう。

　ヘッドホンアンプもアンプの端くれです。スピーカーを駆動するよりは楽だとしてもそう簡単
に問屋が卸してくれるでしょうか？　HPアンプにも不可避的に生じる負性抵抗やそれに起因する
過渡ひずみが必ず発生しますから、これに対しての抜本的な対策を施さないアンプではバランス
接続のような事だけで、本質的な問題解決を図る事は無理だと私は思います。

　その証拠はK.G.さん達の証言です。百聞は一見にしかずです。お疑いのある方はフルスペック
のWRP-α9 のHP端子で試聴なさればご納得頂けるものと思います。バランス式の面倒な接続法は
無用で、どんなヘッドホンでも最高の音質で音楽をお聴きになれます。因みに、フルスペックの
WRP-α9 のお値段は\159,120となっています。

1857川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Aug 11 23:00:00 JST 2018

カラヤン／ワーグナー管弦楽曲集　第２集を聴いて見ました。

　来て中を見ると、カッティングはEMI でしたがプレスはどうもユニバーサルのようで、その点
だけ第１集と違っていましたが、その他は同じデザインでした。唯、２集のCD番号はWPCS-50074
で何故か１集のWPCS-50308より若い番号が振られていました。

　例に依って我がプリΕC-1H（フルスペック）に100W機を繋いで聴いて見ました。一聴して音の
素性が違うのが分かりました。こちらの方がスッキリしています。「Ⅱ」の方はちょっと曇って
いるような感じに聴こえ過渡ひずみも目立ちます。どう見ても、生の演奏会の上質な音とはほど
遠い感じです。

　確かに第２集に納められている曲の方が再生が難しい気はします。「マイスタージンガー」は
渾然一体になっていてスッキリし難い曲想ですし、「オランダ人」は金管が強烈に鳴りストバイ
も激しく弾き捲くりますので粗が出易いですし、「パルジファル」(第１幕)は偶に金管合奏がff
になるものの静寂が長く続きますの単調に陥り易いですし、第１集の方が比較の問題で再生が楽
なように感じました。

　しかし第２集も録音の品質は第１集に劣る事はなく、第１集と同等の満足感を享受できる出来
映えであると思いました。「マイスタージンガー」は昔からこれと言うものがなく、今となって
見ればこのカラヤン盤が一番良いかも知れないと感じています。胸の空くような金管とか切れ味
鋭いストバイとか、分り易いセールスポイントが見つけ難いからかも知れません。「オランダ人」
は派手な金管とストバイが上手くバランスします。ティンパニーの強打が特長と書いてあるもの
がありますが、それは音が偏って再生されている証拠であり、バランス良く鳴らせばそう極端に
強打してるとは思えません。ベルリンフィルのティンパニーはこんなものではないでしょうか。

　「パルジファル」の第１幕への前奏曲を評してある評論家が「カラヤンの長所がもう一つ発揮
されていない」「些かもたれ過ぎ」「内容美が弱い」と書かれたとそうですが、再生音に問題が
あれば当然の事ながらこのような評価に成らざるを得ないと私は思います。この曲こそ微弱音が
美しく響かなければワーグナーの意図は表現されないでしょう。６分くらいの所と８分くらいの
所で荘重に金管合奏が盛り上がりますが、この金管バランスこそ正に生の演奏会で聴くそれだと
私は感じました。並みの装置では再生不可と言える難易度です。また常にppで支えるストバイの
存在感は健在ですし、曲の最後の切れ目は尻切れのように終りますが、複数のバイオリンが重畳
されている感じがよく表出されています。「パルジファル」が入ってるソースは少ないので貴重
な存在と言うべきかと思います。

　よい機会だと思ってショルティ／ウィーンフィルのワーグナー管弦楽集(POCL-9966）と同じく
シカゴ響のワーグナー名演集(POCL-5016）から録音の良いものを選りすぐって聴いて見ましたが、
金管も然る事ながら、ワーグナーの厚みのあるストリングスが大いなる魅力になっていると感じ
ました。録音さえ良ければどんなオケのストバイのffでも無ひずみで堪能できる事を改めて認識
した次第です。線材交換前では考えられないパフォーマンスです。そして世界最高のストバイの
魅力はやはりベルリンフィルとウィーンフィルに尽きると感じ入った次第です。

　それにしても第２集があるにも拘わらず「Ⅱ」を発売する意味が分かりません。SACD盤を出す
のなら単独で出せばよい訳で、わざわざ音質のグレードを落としたCDを同時発売する意味がある
のでしょうか。私は「Ⅱ」を買って疑問に思わなかったら第２集に買い変える事はなかったはず
で、このカラヤン盤の評価を間違えたままで終わっていたと思います。それ程「Ⅱ」と第２集の
音は違うのです。

　この辺りの事を邪推すれば、世の中ではハイビット方式は音がきつくて聴き辛いと言う迷信？
があり、一方でDSD は音が柔らかで聴き易い、と言う評価がある事と無関係ではないと思います。
これは使用しているオーディオアンプがハイビットのソースを上手く鳴らせない場合が多いので
このような結果を招いているだけで、ハイビットに本質的な欠陥や責任がある訳ではないのです。
現に現今のWRアンプで鳴らせば、上述したような結果になるのです。皆さんも迷信に惑わされず
何が本当なのか自分の耳で見極めて欲しいと思います。

　そして録音された真の音をソースから聴き取って演奏者の本当の姿を知って見ては如何なもの
でしょうか。実はもうそれを可能にするアンプは誕生しています。それでも未だ高周波ノイズと
オーディオで一番大切な過渡ひずみに対して抜本的な対策を採っていない為6N等の高額ケーブル
を必要とし、それでも直不完全な再生しか出来ない因習的なオーディオアンプを、貴方は支持し
続けますか？

1856K.G.さん(自営業) Sat Aug 11 22:54:35 JST 2018

大変遅くなりました。プリアンプWRP-α9の最終バージョンアップの感想です。

バージョンアップ終了後、約１カ月毎日聞いています。
今回はもともと下げてもらっていたゲインも通常仕様に戻していただいているため、
その辺りの感想も含まれていることをご承知ください。

さて、一聴して分かるのはまず分解能が飛躍的に上がったことです。
今までも、特に甘さを感じていた訳ではないのですが、
バージョンアップ後を聞いてしまうと甘いと言わざるを得ません。

そしてそれが分かるくらい無駄な響きが無くなり、さらに自然になりました。
楽器それぞれの質感が、はっきりこちらに伝わってきます。
価格的には非常に安価なバージョンアップでしたが、
アンプの完成度としては別物になったと感じます。

また、これは廉価版だけのメリットなのかも知れませんが、これらのバージョンアップの
音質向上がヘッドホン端子でも有効なことは嬉しいです。
実際にヘッドホンアンプは持っていますし、オーディオ店で試聴したこともありますが、
私見では数十万円クラスを持ってきてもかなわないと思います。
いつも本当に素晴らしい提案をありがとうございます。

1855川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Aug 6 12:30:00 JST 2018

パワーアンプWRP-ΔZERO/BALの安定化電源を高帰還化して見ました。

　あるユーザーの方から「Ε-5H やΕ-10H等にも同じような効果はありますか？」と言うお問い
合わせを頂きましたので何とか検証したいと思っていたのですが、これらのプロトタイプは未だ
線材交換はしてあるものの、最終アップグレードまでは行っていませんので、どうしたものかと
考えておりました。中途半端な状況での新アップグレードは上手く行かないと思ったからです。

　最終アップグレードまでしていない理由はお貸し出しするのに標準型より音が良くてはマズイ
のではないかと思ったからです。そこで取り敢えず高級部品化まで行ってある表題の50W 型機で
実験して見る事にしました。これまでは全て100W機だけでしたので、少しは参考になると考えた
のです。

　さて100W機と同じように安定化電源の帰還率を1/5.0 から1/4.3 に変更しました。効果がある
かどうかの判定は、100W機の際に使用した２つのソースがどの程度映えて聴こえるかです。結論
から先に申せば８～９割は同じよな音が再現されたと言って良いと思います。問題は残りの１～
２割の差分です。幅を持たせたのは厳しく見れば２割だし少し甘く見れば１割と言うところだと
思います。

　そもそも相当大きな音で鳴らしても平均の出力は２～３Ｗだと言われています。だから多くの
ユーザーの方がΕ-5H やΕ-10Hで音楽を聴いて楽しまれているのだと思います。しかし、一方で
私もそうですが、O.M.さんや千葉のK さんは100W、120Wのアンプが手放せなくなっています。

　多分上述した１～２割の壁を重要視しているからでしょう。その僅かな差分に価値観を見出す
か否かだと思います。私も含めて３人に共通するのは生の演奏会の音をよく知っていると言う事
です。生の音と同質の音の再生を求める時、当然ながら厳しい判断が下されます。私の聴感では
新アップグレードを行った100W機ならそれに耐え得る音が出ると思っています。O.M.さんも短い
コメントながらそれを暗に認めていらっしゃるのではないでしょうか。

　結局、アンプに求める質は使用する側の聴感次第で変ると言う事です。聴感は訓練次第で向上
しますが、十年一日変らない人も居ます。訓練とは生の音楽会に積極的に参加する事です。常に
自分の耳が知らない新しい音の発見に努める事です。世の中にはこんな魅力的な音が実存するの
だと言う経験を積む必要があります。趣味の世界ですから自由ではありますが、そう言う経験を
する事なしに装置の音を云々するのは私はナンセンスだと思っています。

　ところで上述した１～２割の内容ですが、結局私がよく言う過渡ひずみが大事なところで顔を
出すと言う事だと思います。スムーズに抜けない何処か引っ掛かりのある音とでも言えば良いの
でしょうか、そう言う音が僅かながら認められるのです。それは生の音には無いのでそのひずみ
感で現実に引き戻されてしまうのです。生の音を普段聴いていない人にはその判別は出来ないの
ではないかと思います。

　これはアンプのパワーの差から来るのではないかと私は最近考えるようになりました。パワー
のピークが100Wに達すると言う可能性も無いではないと思いますが、もう一つハイパワーアンプ
独特の優位性があるのではないかと思います。例えば出力インピーダンスが低くなり定電圧駆動
が理想的に行くとか、これはスルーレートに関係する事かも知れませんが音の立ち上がりが鋭い
とか、定常的な測定では分からない過渡的特性に特に優れているのではないかと思うのです。

　そう言う訳でパワーアンプの新アップグレード自体はパワーに関係なく効果はあると思います
が、アンプのパワーの差から来る問題は残るはずです。その辺りを勘案してお申し込み頂ければ
と思います。アップグレードした結果を聴き分けられる聴感を有している必要もあろうかと思い
ます。

　最後に２つのソースの一つカラヤンのワーグナー管弦楽曲集ですが、私が購入した盤は第１集
で、しかも銀座の山野だから買えた気がしています。ご承知のようにEMI は一時ユニバーサルに
吸収され、その後ワーナーに移管されています。第１集は2008年にEMI から発売されていますが、
そして、未だにEMI 盤がタワーレコード等で購入できるようですが、私の第１集はワーナーから
不思議な事に2008年に発売された事になっています。

　2008年には未だワーナーに移管されていませんので、これは実際には2013年頃にEMI から譲り
受けた原盤をロゴだけワーナーに変えてワーナーがそのまま発売したもののようです。中の盤を
見ますとカッティングもプレスもEMI 製ですから、暫定的なものだったようです。

　ところで第１集が良ければ第２集も買いたくなるのが人情と言うものです。上述したような事
を知らないままアマゾンから購入したのですが、届いた盤はワーナーが2014年に発売した「Ⅱ」
だったのです。つまり第２集ではなく別物だったのです。勿論、演奏や録音は同じですがSACD盤
を発売する時にEMI が2011年頃にマスタリングをやり直したものです。多分、DSD が絡んでいる
はずです。

　同じ時に録音されていても曲に依って出来映えは変りますから一概には言えませんが、第１集
のように鳴ってくれません。似ていて非なる音です。マスタリングのせいかも知れません。少し
ガッカリして実情を調べて納得できたのです。こうなりますとオリジナルの第２集が欲しくなり
ます。山野まで行けば買えない事はないかも知れませんが、ネットで検索するとタワーレコード
に第２集が残っていました。

　第１集と同じ2008年発売のワーナー盤です。来て見ないと分かりませんが、多分中味はEMI 盤
と同じではないかと想像しています。原盤は同じでもレーベルの紙質や色、もっと言えばCD材質
(SHM-系は感心しません)でも音が変りますので出来れば第１集と同じワーナー盤が入手できれば
それに越した事はないと思っています。到着したらまたその音について報告させて頂こうと思い
ます。

1854川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue Jul 31 16:00:00 JST 2018

音楽ソースには難易度があるのではないでしょうか？

　私の場合のソースとは大部分はCDを指しています。昔はLPでしたが今はLPでなければ聴けない
ものを除いてCDで聴くようになりました。一般的に、CDの方が総合的に音が良くなったからだと
思います。

　しかし昔からそうだったと思いますが、新しいソースを購入すると又問題点が浮上すると言う
事を繰り返している気がします。今回もそうでした。カラヤンのワーグナー管弦楽曲集(EMI録音）
を買うまではもう無敵かな？なんて思った事もありました。しかし世の中そう甘くはありません。

　どうやらソースの難易度がこれまでの我が家の装置の完成度を上回ったと言う事だと思います。
一番良いのは難易度が最も高いCDをテストCDに指定して、日頃の試聴テストを行えば能率的だと
思うのですが、ソースの難易度は再生して見て初めて分かる事なので、それは絵に描いた餅だと
思います。

　ですからこの繰り返しをして行く中で、統計的にどんなソースが来ても常に正常に再生出来る
と言う事を見極めるしかないのではないでしょう。それには私一人では心許ありませんので是非
ご協力を頂いて、違った環境でも同様のテストをして頂ければと願う次第です。

　今回のパワーアンプに於ける安定化電源の新アップグレードは、私なりに手応えを感じた技術
だと感じております。勿論プリの安定化電源の新アップグレードやそれまでの諸々の技術有って
の事ですから、順を踏む必要がある事は言うに及びません。そうした中で既にO.M.さんには２台
の100W機の新アップグレードを行って頂いております。

　納入直後の短い試聴後に

★想像よりも実際に聞いた音は素晴らしい。音が複雑に絡んでいるのが良く見えて生々しさが
★溢れています。

★鬼門だったピアノがやっとまともに出ました。音楽に負けない強いオーディオシステムに
★なって気持ちが良いですね。

★今しばらく検証してみます。

と言うレポートを頂きました。O.M.さんも想像以上と仰っていますし、複雑に絡んでいる音楽が
よく見えるとも漏らされています。さらに楽器の中でも最難関のピアノの音がまともになったと
言って頂けるようになったのです。これは凄いことではないでしょうか。

　私が最も頷きたいのは、「音楽に負けない強いオーディオシステムになって気持ちが良い」と
言う行です。私もカラヤンのワーグナーを聴いて正にそう感じたのです。あれからもう一度あの
CDソース、タンホイザー序曲（パリ版）と続いて演奏されるベーヌスベルクの音楽（パリ版）を
聴き直したのですが、パワーアンプに手を入れる前とは雲泥の差に感じました。

　最初は中高域が勝って聴こえて音の塊が飛んで来るような印象でしたが、今や音は落ち着いて
ベルリンフィルの凄さが満喫できるようになっています。前は「もういいや！」と言う気持ちが
先に立って音楽を楽しむ心境になれませんでしたが、今は「もっと来い、もっと鳴らして！」と
思うように変っています。私に取って最大の魅力は厚みのあるバイオリン群の音、国内オケでは
絶対味わえない弦楽器群の凄さです。このCDの難易度を完全にクリアした証拠だと思います。

　O.M.さんも指摘されていますが「音楽に負けない」とは「ソースに負けない」とほぼ同義語だ
と思います。どんなソースが来ても装置が負けないで頑張れるかどうか、其処にオーディオの肝
があるように思います。装置が負けるとは結局はアンプが負けると言う事です。ソースの有する
複雑で激しい波形に依って、帰還アンプが右往左往してしまうのです。具体的に言えばアンプの
動作点がソースの突っ込みに依ってフラフラ動かされてしまうのです。この時に高周波ノイズが
システムに混入していますと、このフラフラがより顕著になります。だからノイズを極力抑えて
聴く必要があるのです。

　ソースの突っ込みが激しいほどその難易度は高いはずです。O.M.さんは暫く検証して見ますと
仰っています。今後もっと難易度の高いソースが現れるのか、そろそろ頭打ちになるのかが問題
になります。勿論、私自身もカラヤンのCDに甘んじること無く難易度の高いソースを探す努力を
したいと思っております。ソースの音が悪いと感じた時に大切な事は、元々録音が余り良くない
のか、それとも自分のせいなのかをよく見極める必要があると思います。

　最後に一言申し添えれば、装置のレベルを高めて高難度のCDソースが再生出来るようになる事
は当然の話ですが、同時にこれまで所有していた難易度の低いCDの音が最低でも殆ど変らないか
少しでも良くなる必要があります。もし低難度のCDソースの音が改悪になるのであれば、それは
真のアップグレードにはなり得ないと思っています。

1853川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed Jul 25 15:00:00 JST 2018

安定化電源の高帰還化を試みた我が100W機のその後

　前回、パワーアンプの安定化電源に於ける高帰還化が期待以上の結果に結び付いた事をご報告
致しましたが、限られた時間での試聴であった為に一時的な舞い上がりと言う事もないではあり
ませんので、その後機会を見てはチェックを重ねておりました。

　エアコンが故障中でこの異常な暑さですから長い間の試聴は出来ません。その為、切っ掛けを
作った２つのソースに限定して聴く事に致しました。１つはカラヤンのワーグナー管弦楽集のCD、
もう１つは生録された弦楽四重奏曲のDVD 盤です。ワーグナーの方はタンホイザー序曲ではなく
トリスタンとイゾルデ第１幕への前奏曲に、弦楽四重奏曲はモーツァルトの不協和音の第１楽章
を試聴する事にしました。

　両方合わせて聴いても約20分ですから何とか熱中症にならずに聴き終える事ができます。結論
として申し上げますと、今回の改変は勇み足ではなくプリの場合とはまた一味違った効能がある
と確信出来ました。今回特に感じた事は相当に厳しい部分に差し掛かっても全くと言っても良い
くらい過渡ひずみ感がない事です。システムがソースに負けないのです。

　トリスタンの方は６分を過ぎる頃から盛り上がりを見せ８分を回った辺りで最高潮に達します
が、下手な日本のオケの生に行くより感激できたと言っても過言ではありません。EMI 録音には
多かれ少なかれ偏見を持っていました。高音、低音とも余り出ないし、全体的に音が冴えないと
言う印象があったのです。しかしこのディスクを聴く限り音はナチュラルでバイオリンパートの
ffは凄く充実していて大いに堪能できたのです。改変前では考えられない音です。

　一方「不協和音」の方も眼前に４人がバランスよく並んで４つの楽器がリアルに浮かび上がり
モーツァルトの充実した音楽に否応無しに引き込まれてしまいます。弦楽四重奏曲に有り勝ちな
神経質で偏ったバランスの音とは全く違って、これぞ音楽の基本だと思えて来ます。音が良いと
演奏のレベルが数段上がったように聴こえるから不思議です。音量を上げても煩くなくなります。
偶々息子がやって来たので一緒に聴いて貰いましたが、前回より明らかに音が良くなったと納得
していました。

　この２つのソースはパワーアンプを弄る前は色々と問題が目に付いたのですが、安定化電源の
高帰還化に依ってほぼ完全に解決できたと言う気がします。従って自信をもってパワーアンプの
新アップグレードを正式に提案させて頂こうと思います。アップグレード代はプリと同じ料金と
させて頂きます。最高のレベルを求める方には非常に有効と思いますが、プリのアップグレード
を先に済ませる事をお勧め致します。

　蛇足ですがエアコンが直りました。もう15年も前のもので本来は買い替えるべき時期に来てる
のですが、室外機を揺するとファンが回り始めて冷えだすものですから駄目元で一応サービスに
来て貰いました。予め症状を伝えてありましたので、来るや否やに室外機を開けて基板を覆って
いるカバーを外し半田面が見えるようにして、ある部分をスマホで撮影したのです。

　スマホ上で拡大して見ながら半田にクラックが入っていますから、半田付けをやり直せば直る
可能性があると言って、ガス方式の半田ゴテを出して10箇所程度に半田を盛り直し、再度電源を
入れると見事にファンが回るようになり、エアコンの修理は完了したのです。半田にクラックが
入ったところはコンプレッサーに電流を供給するパワートランジスタの部分で、大電流が流れる
ので此処だけクラックが入ったのでしょう、と言っていました。

　これで暑さを凌いで試聴できるようにはなりましったが、なるべく正確を期す為に予め部屋を
冷やしておいて試聴直前にエアコンの電源SWを切るようにしています。夏期のエアコンの使用は
止むを得ませんが、アンプの音には百害有って一利なしですから正確な判断が必要な時は消して
試聴される事をお勧め致します。

1852川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Jul 20 12:00:00 JST 2018

いよいよパワーアンプ（100W機）の安定化電源に手を付けてみました。

　プリの安定化電源の帰還率を変えて帰還量を増やし、プリに関する新アップグレードを
提案させて頂きました。その時、プリの安定化電源を弄ったのであれば当然ながらパワー
アンプの安定化電源にも手を付ける可能性がある事を示唆させて頂きました。O.M.さんに
絶賛された事から、なるべく早くやりたいとは思っておりましたが、プリの事に100%納得
してからでないと、パワーアンプに進めない事情もありました。

　その間色々なテストCDを聴いて見て、プリの新アップグレードは相当な効力があったと
認識できました。それでも未だ問題が残っているとすれば、それはパワーアンプを弄る事
で解決するはずであると考えました。ところが身の回りのテストCDは聴き慣れたせいなの
かその問題点を探すのが難しかったのです。もうこれでも良いのでは？と思うような時も
ある始末でした。

　そんなある日家族と外食する機会があり一人で時間潰しをさせられる羽目になりました。
仕方が無いので八王子セレオの８階にある山野に行って見る気になったのです。そごうの
頃からずっとあるCDショップで銀座本店の姉妹店です。最近CDが売れなくなり店仕舞やら、
店はあってもCDは殆ど置いていないお店もあるくらいです。調布のパルコ店はその典型例
です。CDの陳列が激減しました。お店からLPが消えCDも消えて行くのでしょうか。

　八王子店はまだそこそこのCDが置いてあるので多少の時間潰しが出来ます。何とは無し
に見ているとカラヤンのワーグナー管弦楽集　第１集が目に留まりました。昔のEMI 録音
で、今はワーナー（WPCS-50308）から出ていて「タンホイザー序曲」などが入っています。
その昔にまだEMI がコロムビアから発売されている頃に、同じベルリンフィルの演奏する
ワーグナー等の序曲集が出ていた事があり一瞬それかと思ったのですが、1974年の新録音
でした。

　今までなら敬遠して絶対に買わなかったと思いますが、挑戦者のような気持ちになった
のか買って見る気になりました。カラヤン／ベルリンフィルの音は独グラモフォンの音で
大体分かっています。それがEMI 録音でどうなるのか多少興味もありました。一応レコ芸
の推薦盤です。心配半分、期待半分の気持だったと思います。

　帰宅後早速聴いて見ました。案の定凄い音の塊がスピーカーから迫って来ました。序曲
はショルティ盤（ウィーンフィル盤とシカゴ響盤）で聴きなれているせいか演奏も今一つ
ピンと来ません。中高域のエネルギー感が突出していて圧倒されっ放しです。もしかする
とこれがパワーアンプの改変で良くなるのかも知れないと僅かな期待を持ったのです。

　話は全然変ってその直後に息子のお供でWRレコーディングに付き合いました。録音場所
は新大久保の教会です。何時も録音をさせて頂いている小池弘之氏が率いる弦楽四重奏団
の演奏会のライブレコーディングです。私はマイクプリの担当でマイクケーブルの施設も
行います。モニターSPを使う場合はモニターアンプも用意します。今回は簡略化してHPで
行いました。

　これまで再生系のアンプはプリもパワーアンプも、そしてヘッドアンプ等も線材交換を
行って来ましたがマイクプリは未だ手を付けていませんでした。そろそろやらねばと思い
録音の２、３日前に２台のマイクプリの線材交換を行いました。これがこれまで行った中
で一番大変でした。電源部には前段の２段差動用後段の２段差動用、ファンタム用の３つ
の安定化電源があり、バランスですから構成が大掛かりなのです。暑いせいもありました
が１台／日がやっとでした。もう暫くやりたくないと思う程線材を交換しました。

　その甲斐があってゲネプロの録音が始まった時にHPでモニターしながら、息子に意見を
聞いて見ると「グチャって潰れそうな音が粘らずに抜けている」と言う事で進歩があった
事が分かりました。これならミックス後の音に期待が持てます。家を出たのがお昼の12時
少し前、家に戻ったのが23時を回っていました。暑い長い一日でした。

　３、４日前に息子がやって来てその時のDVD 盤を持って来ました。もうミックスが出来
たのです。例え２チャンでも絶対にマルチが良いと思います。メインマイクのみで録る音
には限界があり、音に力がありません。力感が出ないのです。これは私も息子も一致して
います。大体メジャーの録音は全てマルチ録音だと言っても過言ではありません。確かに、
ミックスに正解がある訳ではありませんので素人には無理がありますが、耳を鍛えた優秀
なバランスエンジニアなら正解に近い解を見つける事が出来るのです。そして息子はほぼ
その方法を確立してるようです。

　早速、一緒にその音を聴いたのですが息子は何時もより良いと思ったのでしょう。特に
大きな不満はないようでしたが、私は中高域に過渡ひずみが残っていると思いました。唯、
それがマイクプリのみ線材交換を行っても、マイクケーブルは従来から使っているカナレ
ですし、マイクプリとオーディオ・インターフェースとの間も普通のものですから、その
問題かも知れませんし、ミックスに多少の問題があった可能性もあります。これがパワー
アンプの安定化電源の高帰還化で直ると言う保証はありませんでした。

　仮にそうであっても、カラヤン盤とこの録音ミックスで問題点が見つかったのですから
パワーアンプを弄る切っ掛けにはなります。意を決してパワーアンプの安定化電源に手を
付ける事にしました。100W機は私が最初に作ったハイパワーアンプで、安定化電源基板は
何回もやり直してをしていて、これ以上手を加えればパターンが剥がれて修復不能になる
と思いましたので別途新調する事にしました。

　１日目は基板作りです。用意してあったツェナーや定電流ダイオードを用い、なるべく
同じグレードの部品を使って造り直す事にしました。抵抗は基本的に進抵抗とニッコーム
が使われていましたのでそれらを用意したり、何時も使う1/6W型の小型抵抗とは取り付け
寸法が違いますのでΕ-5H 等の基板を作るようには簡単には行きませんでした。完成して
±45V が出ている事、負荷電流を流しても定電圧に変化が無い事を確認して無事に作業を
終える事が出来ました。

　２日目に安定化電源基板の交換をしました。同じスペックの謂わばブラックボックスを
交換するだけですから問題が起きるはずはありません。順調に計測が終り100W機の安定化
電源の高帰還化は終了しました。いよいよ試聴です。高帰還化と言っても1.3dB の差です。
これで本当に音が変るのか期待と不安が入り混じる瞬間でした。生憎リスニングルームの
エアコンが故障中でこの暑さの中でのテスト試聴となりました。

　先ずはオルガン交響曲です。第１楽章後半が始まりました。心なしかオルガンの重低音
が控えめで安定して聴こえます。サントリーホールで聴いたオルガンの重低音を思い出し
ながら慎重に比較して見ましたがちょっと似ている音が出てるような気がしました。次は
モーツァルトです。これもバイオリンパートの音が遥かに安定して聴こえるようになって
いました。煩い音が殆ど無い分大人しく聴こえますが楽器の実在感はしっかりしています。
嫌な煩い音が明らかに減ったと言う意味で、プリの新アップグレードと共通性があります。
なかなかいい感じです。カントロフの音は既にいい音で鳴っていましたので期待より寧ろ
後退していないか心配でしたが、美しい微弱音は健在で、そう言う懸念は必要ありません
でした。

　いよいよカラヤンの「タンホイザー序曲」です。録音の癖はもう変らないのかそれとも
聴きやすくなるのかドキドキものでしたが、予備的に聴いたテストCDの印象からは期待が
持てました。案の上カラヤンの「タンホイザー序曲」は気になっていた中高域の音も落ち
着きベルリンフィルの上手さを目の当たりにする事が出来ました。引き続いて演奏される
ベーヌスベルクの音楽も聴き続けられるようになっていました。中高域の変な癖はパワー
アンプの改変で救われたようです。ちょっとウソのような綺麗さでした。確かに、箸にも
棒にも掛からない録音もありますが、自分の装置が再生不能に陥っている場合も結構ある
のだと思います。

　気を良くして生録のDVD 盤（24bits/96KHz）を聴いてみました。曲目はモーツァルトの
「不協和音」などですが、この曲の序奏が何とも重厚で、セレナードや喜遊曲から受ける
印象と180 度違って正に純音楽と言う感じがします。これが見事に再現され目の前にこれ
以上ないと言うバランスで弦楽四重奏独特の音楽が現れたのです。「オーディオ芸術」と
呼んでも好いような音だと思いました。こんな音はメジャー録音でも滅多にお目に掛かれ
ません。私の知る限りでいい音だと思ったのは、イタリア四重奏団のベートーベンの中期
かラサールの後期くらいです。これでマイクケーブルを変えたらどうなるのかと益々期待
が膨らむのでした。

　30数度の部屋を閉め切って聴けたのは30、40分だったと思いますが、幸福感に包まれて
暑さを忘れる程でした。狼少年になりつつある私ですが心の中で「やっとこれで完成か？」
と呟いていました。今直ぐにでもパワーアンプの新アップグレードをお受けしたいのです
が、何せ未だ僅かなソースを僅かな時間しか聴けていませんのでもう暫くお時間を頂戴し、
検討を重ねて自信が持てた時点で改めて告知させて頂きます。この拙文が嬉しさの余りの
勇み足にならない事を願っています。

1851川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Jul 14 00:30:00 JST 2018

WRプリの音質はＷＢＣ搭載のラインアップが握っているようです。

　初めに、西日本豪雨大災害により尊い命を落とされた方々に心より哀悼の意を表します。

　いよいよWRプリの音質も佳境に入って来たと感じる今日この頃です。O.M.さんからも「新しい
段階のサウンドにシフトしたと感じます。」と仰って頂きましたし、またあるユーザーの方から
「音を出して唸りました。」と言うお言葉を頂戴しています。それぞれそう感じたソースはまち
まちだと思いますが、私は名手カントロフのバイオリンの音色にウットリしています。

　カントロフはテクニックも然る事乍ら、その音は天にも昇るような美音なのです。テストCDの
２曲目「カルメン幻想曲」の最初の部分を聴くだけで分かります。しかし、この音は並みの装置
では平凡な音に聴こえてしまうと思います。事実、これまで我が家でもこのCDは半ばお蔵入りに
なっていたも同然でした。ところが今回の新アップグレードを契機にこの本当の魅力に気付いた
のです。

　多分高域の倍音が正確に再現されて初めてこの魅力ある音は姿を表わすのでしょう。ちょっと
した問題が再生装置側にあると、途端にこの音はバランスを欠いて並みの音になってしまいます。
このちょっとした問題は、実はＷＢＣ搭載のラインアンプが握っている事が分かって来ました。

　これまでプリでは送り出しアンプの事が先にあり、ラインアンプの事は据え置かれていました。
理由はラインアンプの方が単純な回路だからです。ところがＷＢＣを搭載してからは、必ずしも
そうとばかりは言えない事情が生じたのです。ＷＢＣ回路は帰還を選択的に掛けて周波数特性を
弄ります。その意味では、アナログレコード用のEQ回路と似たような問題を抱えてしまうのです。
いい音のフォノアンプが少ない所以です。

　新アップグレード以前は他に過渡ひずみを発生するところが幾らでもありましたので、先ずは
それらの対策が優先された訳ですが、一通りの問題が片付いた今になってラインアンプの問題が
見え隠れして来たのでしょう。唯、抜本的な対策を迫られた訳ではありません。ほんのちょっと
した事なのですが、それがこの段階になると音に大きく影響して来るようです。　　

　一つはある高域補償コンデンサーの質の問題です。昔はSEコンに頼っていましたが、今現在の
WRアンプは、原則的に全ての補償コンデンサーにセラミックコンデンサーを選んで使っています。
これは長い間の勘としか言いようがないのですが、そのある補償コンデンサーをスチコンに変更
したところ、何か言い感じになったのです。部品に依って音が変るのは今に始まった事ではあり
ません。

　実はもう１箇所あります。これは補償コンデンサーではなく一種のパスコンです。WRアンプの
入力回路には可聴領域外にカットオフを有するローパスフィルターが入っていますが、此処にも
セラミックを使っています。高級部品化の場合は此処をSEコンに変更していますが高価でもあり
ますので今回はスチコンで代用したところ、これもセラミックより心持ち良くなったように感じ
ました。

　それで結果的にどのような効果があったかと言えば、カントロフのフラジオレット奏法の音が
よりスムーズに聴こえるようになったのです。倍音がより綺麗に再生されるようになった証だと
思います。勿論、通常奏法の高域の音もより洗練されて聴こえるようになって全体的に質の高い
バイオリンの音が再現可能になっています。以前ＷＢＣ回路素子には選ばれたセラミックコンや
フィルムコンを使う必要があると書いた憶えがありますが、さらに補償コンデンサーやパスコン
にも一工夫する事で、プリの音を最高レベルの音に押し上げる事に成功したのです。このレベル
の音になりますと、実演の音を基準に聴感を正しく補正していないと本当の良さが理解できない
かも知れません。

　ついでにもう一つ言及して置きたい事があります。それはラインアンプのゲイン設定の話です。
ＷＢＣ搭載アンプの1KHzに於けるゲインは約8.2dB ですが、元々ラインアンプのゲインを6dB に
設定して来ましたので、ラインアンプの入力回路に設けた抵抗分割に依って2.2dB 程減衰させて
結果的に1KHzのゲインを約6dB にして辻褄を合わせています。

　しかしユーザーの中にはゲインが余っている方が居られ、減衰値をもう少し増やして欲しいと
希望される場合があります。今回、偶々アップグレードされた方の減衰値が6dB だったのですが
どうもこれが裏目に出ているらしく想定しているカントロフの音になってくれません。S/N 比が
その分だけ悪化するからかも知れません。L-Pad でその差分を補って、ほぼ同じ音量で聴いても
思ったような質の高い音にならないのです。これでは新アップグレードの意味がありませんので、
取り敢えず6dB の減衰を諦めて頂いてお返ししました。このように最高レベルの音ともなります
と微妙な問題を孕んでいるらしく、ちょっとした事で音のバランスが崩れてしまうようです。

　今回の減衰量の違いは6-2.2＝3.8dB程度ですが音に影響がありました。この値は強く音に影響
する帰還量の違いではなく、抵抗分割による減衰量の違いです。そもそも、新アップグレードの
始まりは安定化電源の帰還量の違いでした。約1/5.0 の帰還率を1/4.3 にしたのですが帰還量の
差で言えはたったの1.3dB です。それでも音には明らかな違いを感じたのです。減衰量と帰還量
は同列には論じられないとしても、両者に共通して言える事は、これまでの常識では音に大きな
影響が出る程の数値ではないと思います。しかし今回は致命的な違いを感じました。システムの
音が微妙な段階に入ったと言う事だと思います。

　つまり音質のレベルが向上し、ちょっとした事で音への影響が出るようになったのではないか
と思われます。でも安心して下さい。一度得られた音は基板を弄らない限りは保存されて永久に
変らないと思います。未だ４、５例ですが、手順を踏んで基板の改変を着実に行えば、必ず高い
レベルのプリに昇華させる事ができます。ただしプリ自体が最終段階までアップグレードされて
いる必要がありますので、ご自分の聴感レベルとも相談されながら高みを目指して頂ければ幸い
です。

1850川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sat Jul 7 11:30:00 JST 2018

オーディオアンプに於ける音質評価の一方法

　オーディオアンプの音が良い、悪いと言う評価はこれまでにも色々と行われて来ています。その
殆どはオーディオ評論家と称する人達に依って行われものですが、それが本当に正しい評価なのか
疑わしいのではないかと私は最近思うようになりました。

　問題はオーディオ評論家の聴感がアンプの音質を評価するのに本当に相応しいかどうかです。私
自身も昔ラ技誌上でカートリッジの音比べを、当時のラ技編集長ともう一方の計３名で行った事が
ありますが、今考えて見ると冷や汗ものであったと反省しています。

　私事で言えば、今やっとアンプの音が見えるようになっただけで、振り返って見れば当時は全く
音の良し悪しを判断できる耳の持ち主ではなかったと思います。単にオーディオの音に興味がある
程度のレベルでした。好き嫌いは言えたとは思いますが、他人様の汗の結晶を判断するような聴感
を具備していなかったと断言できます。音の事が本当に分かったのは日フィルの定期演奏会に10年
以上も通って定点観測をした結果だと思っています。私なりに殆ど休まずに月一ペースで耳の訓練
をしたと自負出来てからです。

　又生の演奏会の音を聴くだけでは不足で、実際にオーディオアンプからどのような音が出るのか
実演の音と対比しながら学習する事が必要になります。この音は生でも聴こえるとか、こう言う音
は生の音には存在しないとか、多くの音楽多くの楽器で具体的に経験を積み重ねる必要があります。
その為には再生音も生音と比較可能な程度のレベルに達している事が必要になります。落差が大き
過ぎれば対照して知見を得る事が出来ないからです。

　生の音も理想的なホールの音であるべきです。ホールの異常反射で楽音が歪められるような事が
あってはなりません。生の音と言えどもホールの状況次第でその楽器らしい音が聴こえるかどうか
が決まってくるからです。ですから生の音を聴きさえすれば良いと言う事ではなく理想的なホール
の理想的な席（聴取位置）で聴く必要があります。クラシック音楽に限定するつもりはありません
が、色々な生の楽器の音が聴けると言う意味で耳の正しい訓練には向いていると思っています。

　これらの条件を満足して初めてオーディオアンプの音質評価を行えるのだと思いますが、これは
相当に厳しい条件であり、滅多にクリアする人は居ないと考えるべきでしょう。そう考えればそう
簡単にはオーディオアンプの音質評価はできないはずです。

　以上は私が経験した事ですが、本質的には似たようなプロセスを経験して同等の聴感を得ている
人は居ると思います。例えばO.M.さんや千葉のK さんはそれに該当する方々だと思います。３人の
聴感は多分得意不得意のようなところがあって、数直線上に並べてどちらが上とか下とか決める事
は出来ないのだと思います。しかし仮にアンプの音質評価を３人で行えば、これまでの経緯からも
余程微妙な場合を除いて、結論はほぼ一致し本当のアンプの実力を見抜けると私は信じています。

　共通点は生の音楽を比較的良質な状況で数多く聴いている事ですが、もう一点は常にオーディオ
アンプの音と対比して聴いている事を挙げねばなりません。私は演奏会の音を我が家のスピーカー
から出ている音だと一瞬錯覚した事がありますし、O.M.さんもご自分のコントラバスが発する音と
スピーカーから出る音を混同したような事があると仰っていましたし、多分千葉のK さんも類似の
思い、例えばスピーカーから出ている音なのに、自分が振っている時の音だと錯覚したような事が
あるのではないでしょうか。

　このような聴感を有して初めてオーディオアンプの音質評価を正しく行えるのだと私は思います。
そうでなければ、単なるその人の好みを、好き勝手に言ってるだけになるのではないでしょうか？
それでは正しい評価は出来ないと思いますし、評価されなかった製作者は浮かばれないのではない
でしょうか。逆に、それが正しく動作しているかどうかは別にして、多くの評論家の好みに合った
アンプを作れば評価される事になります。一面的な好みのマジョリティを取れば勝ちだと言うので
あれば、オーディオアンプの真の発展はないと思います。世の中のマジョリティが正しいとは限ら
ないのです。

　以下は日頃、自分の設計したWRアンプの音を評価する具体的な行動基準になります。先ずは自分
の耳が一番敏感に判断できるソースの再生音に注目します。私の場合はバイオリンの引き攣れ感と
抜けの良さです。これが不合格なら他のソースを聴く必要性はありません。アンプが何らかの原因
で無視できない過渡ひずみを発生している証拠だからです。

　バイオリン合奏でダメでもピアノは良いと言う事は本来あり得ないのです。ある楽器でダメなら
全ての楽器で似たような事が起きていると考えるべきです。唯、目立ち易いかどうかだけの事だと
思います。何回も申し上げますが、過渡ひずみが目立っている内は一人前のオーディオアンプとは
言えません。必ず再生音が何らかの形で歪められるからです。歪められた音がいい音だと思うので
あれば、それは何をか況やです。

　バイオリン合奏の過渡ひずみがある程度取れれば他の楽器に注目してさらに聴き込みを行います
が、これまでの経験では他の楽器の音も大体問題なく聴けるようになります。最近新たに注目する
ようになったのはバイオリン独奏の高音部の聴こえ方です。高域の美しい微弱音は合奏のみならず
ソロでも聴こえるようになりました。具体的に言えば、前回テストCDとして明示したカントロフの
音が見違えるようになりました。少し前までは耳当たりは良いもののもう一つ面白くない飽きる音
でした。DENON の録音の限界かと思った事がありましたが、結局自分のアンプのせいだと悟ったの
でした。今はカントロフの美しい微弱音が滑らかながらも冴えて聴こえます。ハイレゾもアナログ
も糞食らえです。やっと飽きる事無く曲を聴き通す事ができるようになりました。プリの新アップ
グレード時のチェックに欠かせないCDになっています。それにしてもプリは相当に音を握っている
と言う気がします。

　いい音の素なんて無いのですからせめて過渡ひずみを極小にする努力が必要になります。それが
正しく動作するオーディオアンプの最低の条件ですが、これを突き詰めれば本当にいい音のアンプ
が作り出せるのか私も100%自信がある訳ではありません。しかし事WRアンプに関して言えば上手く
行っていると思っています。

　以上の考察からオーディオアンプの音質を評価するには、過渡ひずみがどう言うものかが分かる
上述したような聴感を有した人達の合議で決めれば間違いなく判断出来ると思います。将来的には
その事を何らかの形で憶えこませたＡＩを活用すれば、もう少し客観的でスマートに判断する事が
可能になるかも知れません。

1849川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Jul 1 14:30:00 JST 2018

O.M.さん、プリの新アップグレードとそのご感想ありがとうございます。

　確かに安定化電源の帰還率を大きくして若干高帰還化した時に、大した量ではないしそんなに
音には影響は無いだろうと考えていたのですが、明らかにこれまでよりひずみ感が減り大人しく
なったと直感しました。O.M.さんも、

★音入れした瞬間にわかりました。

と電源投入直後に気付かれています。計算に依れば高々1dB 程度の高帰還化ですから音に大きな
影響が出るとは普通は考えられません。多分１年以上も前であったら分からなかったと思います。
他にもっとレベルの高い過渡ひずみがあったからです。それだけ高音質化が進んで、目に見える
過渡ひずみがなくなり、それに応じて聴感も研ぎ澄まされて来たからではないかと思います。

　聴いた瞬間に感じるものは、その場の空気感の変化なのかも知れません。これまでずっと支配
されてきたリスニングルームの空気感は、いい意味でも悪い実でも変らないのですが、アンプ系
の本質的な変化がその空気感をパッと変えてしまう事が稀に起こります。今回は正にそんな感じ
に思えます。O.M.さんは

★今までとは次元が違うレベルの空気感です。

と仰っています。

　O.M.さんのお言葉をお借りしてその変化を具体的に申し上げれば

★低音がより細やかに深く深く沈み込んでいると同時に、
★高音もずっと柔らかくなり透明感ある綺麗な音になっています。

と言う事になります。私もオルガン交響曲の極低音にその変化を感じましたし、バイオリンには
しなやかさを感じるようになり、耳に優しく響くようになったと思います。それでいて音に力が
あり、十分聴き応えのする音なのですから言う事はありません。

　私は試聴の時に真っ先にバイオリン特に合奏に注目します。合奏には過渡ひずみが現れやすい
からです。殆どのシステムの音は落第です。これは若い頃から気になっていたのですが、途中で
諦めの境地になっていた事がありました。録音が上手くされていないのではないかと疑っていた
のです。実はそんな事は無かったのです。

　真剣にこれに向き合ったのは１年半程前の事です。線材交換と言うテクニックに気付いたのが
切っ掛けでした。それから見る見るうちにWRアンプシステムから過渡ひずみは姿を消して行った
のですが、この安定化電源の高帰還化が止めを刺すのではないかと思っています。

　私はバイオリンの過渡ひずみを直接のターゲットにしていますが、バイオリンの音にだけ有効
な手を打っている訳ではありません。アンプシステムから本質的に過渡ひずみが無くなるような
技術を投入していますから、全ての楽器に適用されるはずです。

　今回、O.M.さんはピアノの音に着目されて

★当方はピアノのサウンドに嘘臭さを感じています。
★そのピアノはガラリと雰囲気が変わりました。
★ピアノには今までにないリアルさを感じております。

と指摘されています。

　私もピアノの音には難しさを感じていて、最終的に残るのはピアノの音になるのではないかと
さえ思っています。ですから、今回の新アップグレードで全てが片付くとは思っていませんので
少しでも良くなったと思って頂ければ言う事はありません。難しい理由は

◎ピアノは点音源から程遠く、広い面積をもっているので音程に依って位相が変ってくる。

◎調律が完璧に行われる事は滅多にない。

◎奏者の数多くの打鍵の中には不完全なものが必ず存在する。

の３点を取り敢えず指摘して置きたいと思います。これらが録音の時に何らかの影を落とす事に
なり、それが再生システムの弱点を突いて来るのではないかと思っています。

　次にO.M.さんは、非常に細かな音まで聴こえるようになったと言う事で

★音の見え方が格段に違います。
★簡単に言えば、弓使いがよりわかるようになったということですが、
★え？ここまで聞こえるのか？と驚きました。

と仰っています。

　これは、私が最近よく使う「高音の美しい微弱音」とほぼ同義語ではないかと思います。高音
が聴こえるかどうかは所謂周波数特性の問題ではなく高域の過渡特性がモノを言うのだ思います。
高域の過渡特性は過渡ひずみと無縁ではなく、過渡ひずみの多い状態ではこの微妙な弱音は掻き
消されて聴こえてきません。周波数特性を測れば多分20KHz 程度までフラットなはずですが聴こ
えないものは聴こえないのです。

　私が一番顕著に感じるのはバイオリンソロの倍音で、特に高音部の倍音が刺激感無しに聴こえ
るとウットリとしてしまいます。最近聴いたテストCDでは、ジェセフォウィッツ(UCCP-7026）と
カントロフ（COCO-70819）が凄いです。それこそ指使いが目に見えるようです。この二人の倍音
が刺激感無しに綺麗に抜けて聴こえないとすれば、貴方の再生装置のせいだと言っても過言では
ないと思います。

　O.M.さんは弓使いがよく分かるようになった結果、

★今回のアップグレードではコントラバスそのものが
★よりぐっとリアルに見えるようになった感覚です。

とも述べられており、この効果は計り知れないものがあり

★新しい段階のサウンドにシフトしたと感じます。

とまで仰って頂いております。その結果、

★５桁の入門機が７桁のフラグシップモデルになって帰ってきたような感覚です。

と過分なお言葉を頂戴しました。

　確かに、WRP-α9 にしろΕC-1Hにしろ標準機の音質レベルは入門機並だと思いますが、これが
アップグレードを重ねて最終的に安定化電源の高帰還化まで行き着けば、最早比肩すべきものが
他に無いようなレベルにまで昇華するのだと思います。もしかしたら、何百万出しても買えない
かも知れません。最後に一言付け加えますとプリを拝見する最後の機会になると思われますので
全体の音のバランスが悪い場合は、その原因らしき部品を交換したりして音調を整えてから返送
させて頂いております。この効果も無視できないのではないかと思っています。

　人間には分相応と言う言葉がありますが、この最高レベルの音を本当に理解して楽しむことが
出来るようになるには、それ相応の聴感訓練が必要になると思います。訓練と言うと少し大袈裟
ですが、要するに井の中の蛙ではなく、生の音楽会やいい音のする再生システムの音を聴く習慣
を身に付ける事が先決だと思います。そうすれば「美しい微弱音」がどんなものかが分かるよう
になると思います。

1848O.M.さん(アマチュアコントラバス奏者) Sun Jun 24 19:52:35 JST 2018

新アップグレードの感想

掲示板に新しいアップグレードの告知があり早速申し込みました。
アップグレードするたびに驚くのですが、今回も例に漏れず、余りの激変に嬉しくなりました。

音入れした瞬間にわかりました。
オーディオの言葉に空気感という表現がありますが、今回はまさにそれです。
今までとは次元が違うレベルの空気感です。音がこちらに迫ってきます。
とても不思議な感覚です。

空気感がありサウンドスペースが広くなったことを言い換えると、
低音がより細やかに深く深く沈み込んでいると同時に、
高音もずっと柔らかくなり透明感ある綺麗な音になっています。

全体的な印象が良くなったことを感じるとすぐに、今度は個別の楽器の音の向上に耳が向かいます。
川西先生はバイオリンの音の引き攣れに耳が向かうようですが、当方はピアノのサウンドに
嘘臭さを感じています。そのピアノはガラリと雰囲気が変わりました。
先生が掲示板でモーツァルトのバイオリンが自然になり理想的に聴けるようになったというように、
当方もピアノには今までにないリアルさを感じております。

音の見え方が格段に違います。
今までは弦楽器は弓の毛のを弦に当てているのがわかるという感覚でしたが、
今回の改善では弦に当てている弓毛の量まで想像できるような音がします。
簡単に言えば、弓使いがよりわかるようになったということですが、
え？ここまで聞こえるのか？と驚きました。
ウエストリバーとは４年ほどのお付き合いになりますが、この感覚は実に新しいです。

今まではバイオリンと同等のレベルでコントラバスが聞こえてくることを目指しており
それが十分達成された感じを持ちましたが、今回のアップグレードではコントラバスそのものが
よりぐっとリアルに見えるようになった感覚です。

今回のアップグレードによって、ウエストリバーはサウンドポリシーはそのままに
新しい段階のサウンドにシフトしたと感じます。

川西先生は常にアップグレードという形で対応して下さりその都度音の進化に驚くのですが、
今回はまさに新製品になって帰ってきたような感があります。
それも５桁の入門機が７桁のフラグシップモデルになって帰ってきたような感覚です。
あるいは、スピーカーを別のものにしたようなサウンドです。

とにかく今回のアップグレードで、全く新しい鮮烈なサウンドが体験できます。
皆でこの素晴らしいサウンドを共有致しましょう！

1847川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri Jun 22 10:30:00 JST 2018

いい音、悪い音の実体は何？

　オーディオでは「いい音」と言う言葉は日常的によく使われますし、殆どの人はこの「いい音」
を求めて右往左往する事になります。しかし、一筋縄で行かないところにオーディオの難しさが
あります。

　その一つの原因になっていると私が考えているのは「いい音」の実体です。皆さんそれは何？
だと思われますか。即座に答えられないでしょうね。当たり前です。そんなものは多分、明確に
存在していないのではと思います。「いい音」の定義なら何とか出来て項番1835でも触れてあり
ます。

　逆に「悪い音」の実体はハッキリしていてそれは過渡ひずみだと言えると思います。これさえ
無ければオーディオはいい音が実現できるのです。昔、巷に高周波ノイズが殆ど無かった頃には
アンプの過渡ひずみは問題にならないレベルだったので、アマチュアが作ったアンプでもいい音
で鳴ってくれたのです。私の学生の頃は、ラジオ雑誌の知識程度で作ったアンプでも本当に心地
良く鳴ってくれました。アウト付きの真空管アンプでNFB を14dB掛けた気がしますが、今現在で
あれば問題になる帰還量です。

　話を戻しますが、「いい音」によく例えられる「いい味」＝美味しい味はその実体が明らかに
なっています。アミノ酸系の物質です。これを多く含む食材を使えば「いい味」は原理的に作れ
ます。此処が「いい音」と「いい味」が本質的に違うところです。音に於けるアミノ酸はあると
考える人も居ますが、それは所謂音質改善部品の類であって対症療法的であり生の演奏会を髣髴
とさせるような正統的な「いい音」を実現する事は出来ません。

　ある特定の楽器の特定のパッセージだけならそう言う事も可能かも知れませんが、再生の困難
なストバイのffを実演と瓜二つのような魅力ある音で再現する事は出来ないのです。それはO.M.
さん、千葉のK さんのオーディオ試聴室等でのご感想からも明らかです。ストバイは引き攣れて
聴き苦しく耳が疲れる音になる場合が殆どです。要するに過渡ひずみが取り切れていないのです。

　やはりオーディオに限って言えば「いい音」の素を付け加えて行くと言う加算法は存在しない
と考えるべきです。原信号がなるべく損なわれないように、出来る限り過渡ひずみを取り除くと
言う減算法しかオーディオには道はないのです。WRアンプは研究段階からこの考え方で一貫して
やって来ました。

　過渡ひずみが起きる原因は多岐に渡りますが、能動的な動作をするアンプに集中している事は
確かです。原理的に起き難い帰還回路と補償法を選ぶべきですが、それでも隙を突いて出て来る
のが過渡ひずみです。特に高周波ノイズが氾濫する現代社会では絶望的ですらあります。しかし
それを丹念に訓練された聴感に依ってチェックし、その対策を一つ一つ立てて減算して行くしか
他に方法がありません。その積み重ねをして来たのが現在のWRアンプです。聴感を鍛える訓練を
しないと、何処が過渡ひずみで何が楽音なのかの区別もつかないと思います。オーディオアンプ
の評価はどれだけ過渡ひずみが取り切れているかで判断されるべきだと思います。

　今回提案させて頂いたプリの安定化電源基板の高帰還化は、最後の減算になるやも知れません
が、未だ少しだけ引き算をする余地があったと言う事だと思います。独り善がりだといけません
ので、第一印象ながらベテランユーザーの方から頂いたご感想を下記に示させて頂きます。

★これは素晴らしい変化ですね。
★驚きました。
★これまた今までと次元が違いますね。

★以前の音だって十分なものだと思っておりましたが、これを聴くと雲泥の差です。

と仰って頂いています。何処にも「いい音」と言う表現はありませんが、内容的に「いい音」に
なったと言う事は明らかです。この結果は徹底した減算法でやり切ったもので、決して「いい音」
の素を付け加えたのではありません。

　オーディオはこれで良いと思ってもまだ上には上があるのだと思います。今回は安定化電源の
高帰還化だけではなく、多分プリはこれが最終になると思われますので、全体の音のバランスも
整えさせて頂きました。過渡ひずみが殆ど無くなっても、音のバランスを取ると言う事は大切な
要素です。何でもそうですがバランス感覚は大事です。

　残念ながら部品特にフィルムコンや補償コンデンサーには音の癖が多かれ少なかれ存在します。
ですから癖の強いものを使ったり、癖のあるものを重用すると音のバランスを崩してしまいます。
今回はラインアンプに使われていた補償コンデンサーが、少し前に作った基板であった為に今は
使っていないものが２、３あり、長年の経験でそれが気になったものですからこれぞと言うもの
に交換させて頂きました。結果的に見事に音のバランスを整える事が出来ました。ちょっとした
事で崩れたバランスが整ったりします。

　音のバランスまで気を配れたのは、システム自体の過渡ひずみが極小になり音の本質が見えて
来て、その塩梅がやり易くなったからでしょう。過渡ひずみが多い状態ではバランスどころでは
ありませんので、今までは余り表に出て来ない話題でした。過渡ひずみがさらに減った事と音の
バランスが整った事が相乗効果となって、「次元が違いますね。」と言うお言葉を頂けたのだと
思います。

　プリの最終アップグレードまで済ませた方、又は最初からフルスペックでプリを購入なさった
方で、最近になってまだ音が良くなる余地があるのではないかとお感じになっていらっしゃるの
であれば、お迷いになる必要はないと思います。是非、安定化電源の高帰還化を実施なさる事を
お勧め致します。「いい音」を聴き続けていれば聴感は必ず磨かれて来ます。

1846川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Jun 17 11:00:00 JST 2018

プリ用安定化電源に於ける高帰還化の追試－－－新しいアップグレード

　前稿で２台のコンパクトプリアンプWRP-α9 を製作した際に、送り出しアンプの残留ノイズの
問題から安定化電源電圧を±17V に下げる事になり、結局安定化電源の高帰還化をする事で決着
した事を報告しました。

　その際フルスペックのWRP-α9 の場合は帰還率を1/4.5 に、我が家のΕC-1Hの場合は1/4.65に
してほぼ同様の音質になる事を確認しました。WRの安定化電源の帰還率はこれまで1/5.1 でした
ので高帰還化と言っても１dBちょっとで数値的には大した量ではありませんが、音質的にはそれ
以上の変化があったと感じました。

　その変化を落ち着いた大人の音になったと表現しましたが、要するに過渡ひずみが減少したと
考えられます。安定化電源の回路は１段差動であり終段もシングル動作でアンプ基板とは微妙に
違いますが、増幅段数が４段である事に変りありませんので、同様の高域対策が必要になります。
これまで帰還率をアンプ基板より若干下げたのは、超高域の負荷曲線がアンプ基板より立つ事を
考慮したからだと思います。

　しかし実際には高帰還化の余白が残っていたのでしょう。過渡ひずみが減り聴き易くなった事
が追試に依っても確認されています。それだけ安定化電源がより正しく動作するようになったと
考えられます。前回は試聴したソースに限りがありましたので、今回改めていろいろなテストCD
を聴いて見ましたが、正しい方向に向かった事が確認できたように思います。どのCDもより良い
音質で楽しめるようになっています。

　実は前回、帰還率が1/4.5 の新規プリの音に対して1/4.65の我がΕC-1Hの音の方にほんの少し
だけ未だキツサ(過渡ひずみ)が残っているような気がしましたので、追試では1/4.3 に挑戦して
見ました。その為には簡単な手直しでは無理だと思いましたので、ツェナー電圧の電流依存性を
改めて調べ、必要な定電流ダイオードを手配して腰を据えて安定化電源の±17V 化を試みました。

　これまで使って来た3.6Vのツェナーは大体5～6mA流した時の電圧でしたが、電流を増加させて
行くと10mAで約3.95V に達する事が分かりました。定電圧ダイオードと言ってもこんなものです。
つまり10mA流せば、帰還率1/4.3 で安定化電源の２次電圧を17V にする事ができます。これなら
今まで使って来たツェナーがそのまま使えますがその為には定電流素子を買い換える必要があり
ます。

　定電流素子にはFET のIDSSを利用する手と定電流ダイオードを使う方法がありますが、どちら
にしても数多く仕入れて実測で選別する必要があります。今回は定電流ダイオードを取り敢えず
100 本購入して電流値を測定して見ましたが、9～10mA内に入るものは30数本でした。まずまず
でしょう。これを使って早速我がΕC-1Hの安定化電源基板をやり直しました。

　正確に±17V に合わせたいのでツェナーも予め測定したものに交換しました。帰還率を決める
抵抗、定電流ダイオードに直列に入れる抵抗等も適当なものに交換して２次電圧を測定した結果
±16.9V を得る事ができました。多少のアンダーは許す事にして、0.1V以上のオーバーには気を
付ける事にしたいと思います。勿論、残留ノイズも安定的に最低レベルに下がっています。

　さて試聴です。帰還率が1/4.65から1/4.3 に変り僅かですが高帰還化されています。果たして
音質に変化が出るでしょうか。こう言う未知の世界に遭遇する時は本当にゾクゾクします。半ば
良くなる事を想定していますが、変化無しとか悪化する場合もあり得るからです。

　何時もサン・サーンスのオルガン交響曲を最初に聴く事にしていますが、心なしかオルガンの
低域が食み出さずに下に伸びるように聴こえます。低域の過渡ひずみも減ったのかも知れません。
木管パートが出て来るとか、音楽のフェーズが変った場合でも雰囲気が持続したままスムーズに
変化してくれます。それに、以前よりも高域の微弱音が認識出来る部分が増えているような気が
します。少なくても私の聴感ではワンランク上の音になったように聴こえました。

　モーツァルトの交響曲(パリ、リンツ)では僅かに残っていたストバイのキツサが解消し自然な
感じでオケの音に溶け込んでいます。これなら誰が聴いても文句はないでしょう。１年半程前は
殆ど諦めの状態だったモーツァルトのオケものが理想的に聴けるようになったのです。画期的な
事ではないでしょうか。

　このあとショルティのロシアものも勿論聴きましたが、良くはなっていても改悪されたところ
はありません。過渡ひずみと言う音質に取っての最大の敵が駆逐されれば、結果としていい音が
残ってくるのです。過渡ひずみにマスクされ聴こえて来なかった魅力的な楽器の音が認識できる
ようになり、結果的に情報量が増える事になります。オーディオ技術で悪い音、嫌な音を徹底的
に取り除く事は出来ても、いい音を積極的に作り出す事は出来ないと私は思います。その意味で
音質改善部品に属するものはナンセンスだと思っています。

　結果に気を良くして普段聴かないテストCDを聴いて見る気になりました。それは

　ベルディ序曲、前奏曲集：シノーポリ／ウィーンフィル（UCCP-7085）

で全11曲が納められています。以前２つの「椿姫」前奏曲をテストCDとして使ったり「マクベス」
前奏曲を試聴会でお聴かせしたりした事があると思いますが、この中で再生が少し難しいと感じ
ていたのは

　２）歌劇「アイーダ」前奏曲

　３）歌劇「アッティラ」前奏曲

　４）歌劇「ルイザ・ミラー」序曲

　８）歌劇「ナブッコ」序曲

　９）歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

でした。それが今回どうなっているか興味津々でした。２）の美しさはカラヤン盤で知っていま
したが、今回ウィーンフィルの弦の美しさを改めて思い知った気がします。それにシノーポリの
指揮はイタリア人らしく歌に溢れています。概して静かな曲ですが、ffで一度盛り上がるところ
がこれまでスッキリ綺麗に聴こえませんでした。それが殆ど解消しています。録音は1983年頃の
もので、デジタル録音が軌道に乗った時期の充実した音が聴き取れます。

　３）は何ともノスタルジックな曲想で一度聴いたら病み付きになるメロディーが出てきますが
意外に再生が難しくこれまでスムーズに行きませんでした。しかし今回はほぼ満足できる音質で
楽しむ事が出来ました。４）も同様でいい曲ながらこれも意外に再生が難しいところがあります
が、中高域の荒れが納まっていました。

　８）も勿論そうですがベルティの曲は本当に上手く作曲されていて、どの序曲、前奏曲も魅力
満載です。ワーグナーも凄いですがベルディも本当に凄いと思います。この曲も微妙なひずみ感
がありこれまでスッキリと聴けませんでしたが、これもそれがほぼ解消しています。

　９）は私が最初に知ったベルティの序曲です。昔々デパートの催し会場でよくLPのバーゲンが
行われていましたが、このLPは何度と無く出て来て弥が上にも目に付き、最後はもう根負けして
買ってしまったと言う曰く付きのものです。当時のバーゲン価格は千円／枚でした。それは

　「モンテカルロ歌劇場の夜会」：フレモー／モンテカルロ歌劇場管（SLGM-1132）

と言うグラモフォン盤でステレオ初期の頃の録音です。オペラのアリアの他に９）の序曲が納め
られていました。「シャモニーのリンダ」とか「清教徒」とか知らない曲ばかりだし、音も良く
ないかも知れないと思ったのですが、この少し前にボワドール盤からフレモー／モンテカルロ管
の「幻想」が出ていて評判になっていたのが、唯一の取り得と考えたのです。

　しかしこれは多分ドイツ録音ではなくフランス系の録音だったのではないでしょうか。意外に
切れ味が良く低音も豊かに入っています。当時歌には興味が湧きませんでしたので先ずこの序曲
を繰り返し聴く事になりました。「シチリア」の頭は結構Hi-Fi 的で、当時の癖の無い自作再生
装置で大いに映えて聴こえたのでした。その頃オーディオは本当にいい音がしたのです。それで
この演奏と音が私の中に浸み込んでいて、そのイメージからすると９）はちょっと期待外れかな
と感じていましたが今回やっとそれが吹っ切れるような音で鳴ってくれたのです。それにしても
シノーポリの指揮は統率感がありウィーンフィルが珍しく本気で合わせているように感じます。

　こうして次から次へとCDを聴きましたがどれを取っても悪くなったと感じるものはなく、この
高帰還化は有効であると結論づけました。プリのアップグレードを最後までやってもまだ問題の
ある音が残っているとお感じになっている方は救われるかも知れません。私は今回の高帰還化で
ほぼ100%まで来たかなと思っています。やって見る価値は十分あると思いますので、気になる方
はお申し出になって下さい。

　最低でも選別されたツェナーダイオード２本、同じく選別された定電流ダイオード２本、抵抗
４本の交換が必要になり、ピッタリ±17V に微調する手間もあり得ると思います。また送り出し
アンプに使われているパワーTRのftを確認して10MHz でなければ交換し、最終的に残留ノイズの
測定を行って問題が起きていなかまで責任を持つ事になりますので、アップグレード代としては
\10,000 を申し受けたいと思います。ご希望の方はメールにてお知らせ下さいますようにお願い
致します。今後の新規プリの安定化電源はこの方法で製作する予定です。

　尚、旧型プリではまだ追試を行っていませんが、安定化電源の回路は本質的には同じですから、
高帰還化は可能ですし、それなりの効果はあるはずだと思っています。また今現在得られた音質
水準から必要はないと考えていますが、パワーアンプ用安定化電源でも高帰還化はあり得る事だ
とは思っています。

1845川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Sun Jun 10 23:00:00 JST 2018

「音が良い」と言うオーディオの慣用句にも色々なレベルがある。

　以前に人の聴感は千差万別で、訓練された耳とそうでない耳とでは同じ音を聴いてもその印象
はかなり異なるものであると説いた事があります。その裏返しではありますが、「音が良い」と
言う言葉にも同様にレベルの問題が存在するように思います。

　例え話ですが、スーパーヘテロダインで聴くラジオの音より高１で聴く音の方が良いと言う説
は大方が認める事です。スーパーは選択度を高める為に帯域を狭くしていますので高域がカット
されて音にも伸びがありません。高１は広帯域の為に混信はしますが音はずっと素直です。

　AM放送の質に於いても「音が良い」と言うレベルはあり得るのです。そしてこの音の差は特に
耳を訓練しなくても殆どの人が弁別できると思います。一方で私がよく言う消え入るような弦の
微弱音は上質な生オケの音を何回となく聴かないと認識出来ない音ですし、その音が再生される
アンプも滅多に無いので、オーディオを趣味にする人でさえ知らない人の方が多い音と言う事に
なります。「音が良い」もその実体はピンキリなのです。

　オーディオを趣味とする人同志で同じ言葉を使っていても、実は違ったレベルの話をしている
場合があり得る事になります。だから余計にオーディオは混乱するのです。そうならない為には
お互いに「音が良い」とはどのレベルであるかを明確にして話をする必要があると思います。

　何故このようなお話をするかと言いますとこの１週間で２台のコンパクトプリアンプ WRP-α9
を製作したのですが、中程度レベルではどちらのプリも「音が良い」と言う点で合致していたの
ですが、最高の微弱音のレベルでは残念ながら片方のプリは殆ど聴こえて来ず、このレベルでは
明らかな差がついてしまいました。

　勿論２台のプリは同一の内容ではなく、片方がフルスペックであるのに対して片や安定化電源
なし、L-Pad なし、高級部品化なしと言うものでした。どちらもWBC 付きのラインアンプを搭載
していますので、アンプ部分の回路は全く同じです。即ち、信号経路は単純に考えれば同じなの
です。しかし出て来る音は違います。プリは奥が深いのです。

　中程度レベルの聴感を有している人にはフルスペックの有り難さは理解されない可能性があり
ますが、微弱音を認識出来る程のレベルの人にはフルスペックの重要性を認識して貰えると思い
ます。あるユーザーの方がΕC-1Hの標準タイプをお買いになり、最近、一歩一歩アップグレード
をされて、高級部品化を以って完遂されてついにフルスペックに到達されましたが、振り返って
見れば30% くらいの音が100%になったように感じています、と言う主旨のご感想を頂いています。
私も全く同感ですが、同じプリでもアップグレードでこれだけ音の良さのレベルが変ってしまう
のです。多分、それだけ異なったレベルの「音が良い」が存在するのだろうと思います。

　この方はアップグレード毎にその改善点を正しく評価されましたが、主な着眼点はやはり過渡
ひずみでした。過渡ひずみが徐々に減少して行く過程を具に理解して頂けた事は、私に取っても
有り難い事でした。私の聴感で決めたアップグレードが他の方にも理解された事になりますから、
私のアプローチも強ち間違っていなかったと言う事になります。

　さて、これも以前にお話した事ですがプリアンプの送り出しアンプは基本的にはΕ-10Hと同じ
基板、同じ回路です。パワーアンプとして使う訳ではありませんからパワー段には若干の違いが
ありますが、帰還アンプとしての問題点は殆ど変りません。プリもパワーアンプも完成した時に
必ず残留ノイズを測りますが、この準コン基板だけ少々問題が生じます。今回も実はそうだった
のです。

　それは多分高周波に於ける不安定性が影響するのだと思いますが、残留ノイズが所定のレベル
に下がらない事があります。其処でドライバー段に高ftのトランジスタを使う事、パワー段のft
はアイドリング電流に依存するので、多めに流した方が有利である事などを取り纏めて皆さんに
お知らせし、それが高ftTRへの交換（高級部品化に含まれる）と言うアップグレードに発展した
事は記憶に新しいところです。

　この話は実は根が深く一筋縄では行かないところがあり、Ε-10Hやプリを作る度に問題が浮か
び上がると言う事を繰り返しています。勿論製品として出荷するには問題を解決しなくてはなり
ませんのでその点は心配ないのですが、作る時にもう少しスマートに出来ないものかと常に考え
させられて来ました。この度２台を連続して作る機会に接しもう少し確実性を高めようと改めて
検討を重ねて見ました。

　前回この件に触れた時に、パワーTRには殆ど選択の余地がない事を理由に数値目標を明らかに
しませんでしたが、今回もう一度見直しftが10MHz 以上の石を使用する事にしました。WRアンプ
の終段はハイブリッド方式で、EMe 型と非EMe 型パワーTRで構成されています。非EMe 型の方は
10Mhz は楽チンですが、EMe 型の方は10Mhz がいいところです。中々これ以上は望めません。

　もう一点はちょっと盲点だったのですが、電源電圧が大きく影響する事が分かりました。標準
は±18V ですが、安定化電源でも正確に18V にする事は簡単ではなく多少の誤差には目を瞑って
来たのです。一説にはこの回路の裸のゲインは電源電圧依存性が低いと言うのがあって、その事
もラフに考えた理由かも知れません。

　しかし実際には±19Vと±17Vでは大きな差が出るのです。17V の時には正常でも19V になると
途端に残留ノイズが跳ね上がります。より多くのアイドリング電流を流す必要性が出て来ますが、
電圧も電流も大きくなればパワーTRの発熱が無視できなくなり大きな放熱器が必要になって来て
しまいます。電源電圧が上がると裸のゲインが増えて、帰還安定性が悪化するのかも知れません。
そう言えば電源電圧が約5V低いΕ-5H では、同じ回路であるにも拘わらずこれまでに残留ノイズ
の異常を経験した事がありません。全く安定に動作します。

　其処でプリに限っては正確に±17V に調整するようにしました。非安定化電源の場合は17V を
越えないように低めに設定する事にしました。電源電圧が下がれば無ひずみの出力電圧も下がり
ますが、十分余裕がありますのでその点は心配要りません。パワーアンプの方は大きな放熱器を
擁していますのでアイドリング電流は多少多めになっても大丈夫なので、±18V を余り越えない
ように注意すれば上手く行くと思います。

　安定化電源の電圧を下げる為に今回は手っ取り早くできる帰還率を変更しました。安定化電源
の帰還率は約1/5 としていて、仕上がりゲインは約５倍になっています。即ち基準電圧の５倍が
安定化電源の２次側の電圧になります。±18V の電源の場合の基準電圧は3.6Vになります。WRの
アンプ基板の場合の帰還率は約1/4 ですからアンプより安定性の点では有利になり、まだ余裕が
あります。其処で電源電圧が±19V に近かったので、帰還率を1/4.5 にして約±17V になるよう
に変更しました。少し帰還量が増えた事になります。

　終段のEMe 型パワーTRのftを10MHz のものに変え、電源電圧を約±17V に下げて残留ノイズを
測定したところ、それまで落ち着かなかった残留ノイズ値がピタッと15μV（DIN-AUDIO）に安定
したのです。勿論アイドリング電流を調整する必要はありますが、そのアイドリング電流もソコ
ソコで済み放熱器も要りません。全てが上手く運びました。ftが10MHz を割る石はΕ-5H に限定
して使えば良い事になります。これで次回以降右往左往する事がなくなります。

　完成したフルスペックのWRP-α9 の試聴をして見ました。基本的には同じ様に過渡ひずみ感は
全くなく問題ありません。しかし何時も我がΕ-10Hで聴く音と微妙に違います。少し落ち着きの
ある音に聴こえます。微弱音はほぼ同じ様に聴こえますが、ffでの中高域が多少抑えられて聴こ
えるのです。その分落ち着いた音になるのでしょう。完成された大人の音とでも言えば良いので
しょうか。何時もと少し毛色の違った音に新鮮さを覚え久し振りにテストCDに聴き入ってしまい
ました。音に対する抵抗感が減ったのか次から次に聴きたくなるような気になりました。もしか
したら、更に過渡ひずみが減ったのかも知れません。

　「禿山の一夜」なんて言う曲はとっくに卒業したと思い込んでいましたが、ショルティの演奏
と英デッカの優秀さも手伝って、本当に新鮮に感じる部分がありましたし、最後の静まり返った
情景は微弱音に富みこんなにも美しく聴こえるのかと感動してしまいました。やはり音楽の良さ
はその音の質と無縁ではなく、出来る限り良い音で聴かないとその音楽と演奏を正しく評価でき
ないのだと思い知りました。生半可の音で聴いてその曲や演奏の良し悪しを云々するのは危険だ
と思います。最高レベルの「音が良い」と言う状況の下で評価すべきでしょう。勿論それに見合
った聴感を有している事は言うに及びません。

　やはり安定化電源が高帰還化した為により正しい電源になったと言う事でしょうか。そう思う
とじっとしていられなくなり、我が家のΕC-1Hの電源を早速見直しました。やはり安定化電源の
電圧が若干高めでしたので、帰還率を1/4.5 までは行きませんでしたが1/4.65に変更して約 17V
に落とし、さらに使用していたEMe 型もftが10MHz のものに交換して試聴して見ました。案の定
落ち着きのある音が再現しました。モーツァルトのような中高域にエネルギー感のある曲種には
打って付です。モーツァルトの交響曲が殆ど過渡ひずみ無しで聴けるのは画期的な事ではないで
しょうか。「音が良い」のレベルが上がった可能性があります。

　これまで10MHz の石を使った事は幾らでもありますが、本質的に音が変ったと感じた事はあり
ませんでしたので、この要因はやはり安定化電源の高帰還化の影響ではないかと思います。然し
ながらまだ決定的な事は言えませんので、もう少し検討して見るつもりですが、WRアンプの音質
改善策として安定化電源の高帰還化が可能性として浮かんで来た事になります。これは瓢箪から
駒かも知れません。迂闊な事に、安定化電源の仕上がりゲインを約５倍にしていた事を失念して
いたのですが、実は安定化電源には高帰還化の余地がまだ残されていた事になります。

　先ずはプリの場合ですが、安定化電源の帰還率を1/4.5 程度に設定し２次側電圧を約±17V に
設定し直すと言う方法論になると思いますが、もう少し色々な曲種を聴いて本質的な音質改善に
なるのか検討して見ようと思います。元気な音よりも落ち着いた音を求める方には福音になると
思います。今後の研究にご期待頂きたいと思います。

1844川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Mon Jun 4 00:30:00 JST 2018

Ε-5H に続き、Ε-10H、Ε-30H、Ε-50Hの高級部品化を実施しました。

　ちょっと前にΕ-5H の高級部品化のお話をしましたが、それに呼応して頂けたのか立て続けに
表題の３台の高級部品化を実施させて頂き、Εシリーズの全ての高級部品化を短期間に体験する
事が出来ました。勿論Ε-5H を除いてはこれまでに既に実施しておりますが、WRアンプの完成度
が100%に近付いてから実施できた事は意義深いのではないかと思います。

　前回高級部品化のお話をした時にウッカリ言及するのを忘れてしまいましたが、これには一部
のトランジスタの交換も含まれています。それは準コン基板のドライバー段と安定化電源基板の
ドライバー段の石を高ft化する事です。並みの石に比べれば高ftの石は高級部品と言えない事も
ないので、この枠に納めて代金据え置きで交換させて頂いています。高ftの効果については当時
の原稿をお読み頂ければと思います。

　ところでΕシリーズのアンプもその製作時期に依って微妙に内容が違っています。Ε-5H 及び
Ε-10Hは準コン基板ですがΕ-30Hも初期のモノは準コン基板で作られています。少し経ってから
純コン基板に統一されています。多分、Ε-50Hは最初から純コン基板であっただろうと思います。
今回の中ではΕ-50Hが一番新しい製品のようです。何故こんな話をするかと言えば、純コン基板
の場合は敢えて高ftの石に変更する必要がないからです。それだけ純コン基板の方が増幅段数が
少ない為か帰還の安定性が良いのだと思います。

　もう一点初期のアンプと最近のアンプの違いがあります。Εシリーズを始めた頃は線材交換の
前ですしまだまだ過渡ひずみ感があり、また普及型と言う事もあってフィルムコンにERO 以外の
ものを多く使っていました。既にERO コンはディスコンになっていて貴重品でもありましたので、
代替のフィルムコンを結構使っていたのです。この中には今でも通用するRIFAも含まれています
が、先日のフィルムコンの話には出て来ていないメーカーのものも実は有ったのです。この部品
は最近製作しているものには既に使っておりませんが、若干中高域に癖が出る事があります。

　今回高級部品化を行ったΕ-10H、Ε-30Hにこのフィルムコンが使われていました。先ず此れら
のアンプの高級部品化を単純に実施し試聴して見たのですが、最新の音質のレベルには届かない
事が分ったのです。やはり中高域の過渡ひずみ感が取り切れていないのです。このフィルムコン
は高級部品化の対象ではありませんが、それを承知で返送する事は出来ません。どちらのアンプ
も準コン基板４個、安定化電源基板４個の計８個を最近使うフィルムコンに交換しました。勿論、
これで問題が解決した事は言うまでもありません。

　このように高級部品化と一口に言っても実際にアンプを見てみない事には分らない部分があり
ます。要するに高級部品化は一律に同じ事をするのではなく、結果的に高級部品化に依って最新
の音質レベルになるかどうかに判断基準を置いていると言う事です。高級部品化は線材交換まで
が無事に終わっている事が前提条件ですから、ある事が未実施であるにも拘わらず高級部品化を
実施しても余り意味がありませんし、第一試聴時の判定が正確に出来ませんので無駄になる確率
が高いと思います。

　改めてパワーアンプの成長過程を整理して置きたいと思います。高帰還化、コレクタホロワ化、
ハイブリッド化、高スルーレート化と回路の変更が続き一段落となりますが、それに応じて聴感
も進歩した為なのかどうしても取り切れない過渡ひずみ感が依然残っていたのです。顕著な例は、
バイオリンパートの音が引き攣れて聴き苦しいと言う欠陥でした。これは、私の耳が偶々敏感に
反応するような楽器の音だっただけで、当然他の楽器などに於いても何らかの聴き苦しはあった
ものと思われます。
　
　その一大転機は内部配線材の交換でした。線材の話と言うとオーディオの世界では6N、7Nとか
の高純度銅線の話になってしまいますが、WRの場合は、普通の4N線材のチョイスの問題ですから
本質的に話が違います。唯、何故同じ4N銅線なのに斯くも音が違うのかと言う正確な答えは未だ
分っておりません。言える事は過渡ひずみ感が明らかに減る線材があると言う事です。この件は
理詰めではなく偶然に気付いたのですが、元々WRアンプでは電源ケーブルやスピーカーケーブル
に於いて同じ4N銅線でも音に違いが出る事を経験していましたので、遅かれ早かれこの方法論に
遭遇出来たものと思います。唯、線材に依って起きる過渡ひずみはアンプの不安定性に起因して
起きる過渡ひずみよりもレベルが低いので、アンプの帰還の問題が抜本的に解決されていないと
線材の問題には気が付かないと思います。

　線材交換前は殆ど感じなかったのですが、線材交換で一挙に過渡ひずみが減りますと実はまだ
過渡ひずみのような音が残っている事に気が付いたのです。それが旧型アンプには少ない事から
高級部品化を思い付いたのです。此れに依って線材交換の後も僅かに残っていた過渡ひずみ感が、
ゼロレベルに減少します。新三種の神器（WR製RCA ピン接続ケーブル、推奨スピーカーケーブル、
WR製電源フィルター）の使用の有無の問題がありますが、高級部品化を行っても未だ過渡ひずみ
感がある場合は、他の問題、例えばCDプレーヤー等のソース源、電源環境、そしてプリアンプが
WR製でなければプリをも見直して頂ければと思います。

　今回、高級部品化を為さった方の簡単なコメントをご紹介します。

★一聴しただけでも過渡ひずみの減少が実感できますね。

このコメントは過渡ひずみがどう言うものかを把握されていると言う事を意味しています。幾ら
現実に過渡ひずみが減っていても、それに気付かない聴感では「猫に小判」と言う事になり兼ね
ませんので、WRアンプをご愛用頂いているユーザー各位に於かれましては、どうか過渡ひずみ感
に常に留意されて音楽をお楽しみ頂きたくお願い致します。結局、オーディオは過渡ひずみとの
戦いなのです。至難の技ですが、過渡ひずみさえ無くせばオーディオの音は良くなるのです。

■早速繋いで聞いたところ弦楽器の音色がワインで言えばブルゴニューの赤ワインを
■表現するようで、ふくよかで繊細でそれでいて力強さを持った音色です。

と書いて来て下さった方も居られます。私はワインを嗜みませんのでもう一つピンと来ませんが
言わんとするところは分かるような気がします。弦楽器の音は私自身も人一倍気にする方ですが、
繊細さは絶対必要で、それが微妙な微弱音なのだと思います。しかしffでは力強く伸び切る事が
これ又絶対に必要ですが、この高級部品化でこの辺りの美点がより明確になったのではないかと
思います。

　プリの諸々のアップグレードも終わった、パワーアンプの線材交換も終わった等々、全て手を
尽くした方、もし高級部品化が残っているのであれば、是非アンプのチェックも含めておやりに
なる事をお勧め致します。特に少し古いタイプのパワーアンプの場合は未だ可能性が残っている
かも知れません。

　皆さんも、WRアンプの最高の音を目指して下さい。折角WRアンプをお持ちなら徹底して最高の
音を追求して下さい。そしてオーディオの未体験ゾーンの音に足を踏み入れて下さい。多少出費
は必要ですが法外なものではなく、WRアンプを購入された方全員にその可能性があります。

1843川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Tue May 29 00:15:00 JST 2018

フィルムコンのWRアンプの音質に与える影響について

　旧型WRアンプ当時から三種の神器と言う事でSEコン、BGコン、ERO コンを大切にしてきました。
勿論、回路技術も重要ですが同様に使用部品も無視できません。当時のWRアンプの音質は何とか
これらの部品を使う事で最低ラインの音質をクリアしていたのだと思います。

　これら３つの部品は象徴的で、SEコンは高域補償コンデンサー、BGコンはケミコンそして ERO
コンはフィルムコンデンサーを代表しています。最近のWRアンプには原則的には前者２つは使用
せずに立派な音が出ています。この事は補償コンデンサーとケミコンは他の部品で何とかなって
いると言う事になります。

　しかし未だにERO コンとは実は縁が切れていないのです。昔はERO コンオンリーでしたが今は
ここぞと言う所に重点的に使う程度ですが、無くてはならない存在である事に変りはありません。
それが正直少し悔しいのですが、これが現実なので仕方ありません。前回ケミコンのお話をして、
結局耳で識別できる程には変らないと言う結論でしたが、それだったらフィルムコンのお話しも
して置くべきだと思ったのです。

　実は当時から使えるフィルムコンは殆ど存在していなかったのですが、ERO コンは正に例外的
に癖の出ない素晴らしいコンデンサーとして、パスコン、カップリングコンとして使えたのです。
色々な箇所に重ねて使っても音に癖が出ない奇跡的なフィルムコンでした。しかし、残念な事に
ディスコンになってしまいました。今でもまだ多少使える理由はVISHAYが管理していて部分的に
新製品（グレー又は黒色）を出している事と世界的に多くの在庫が残っていますので細々ですが
購入できる状況にあると言う事です。

　しかし在庫のみに頼っている事に多少の不安を感じているのは事実です。出来れば良い代替品
を見つけたいと常々思っていました。昔はオールERO コンでしたが、現在は部分的にRIFA（EVOX
：白）を使って凌いでいます。しかしRIFAも全ての箇所に使える訳ではなく、限定的に使うのが
いいところです。

　RIFAが部分的にでも使えるだけ救われますが、少なくてもWRアンプには国産のフィルムコンは
全てダメ、国産だけではなくフィルムコン先進国の欧州品でも赤いWIMAは使えた試しがなく、又
ジーメンスも殆どがダメでした。ダメと言う意味は中高域に変な癖が出て過渡ひずみが増加して
しまうのです。アンプの音を引き立てるどころか逆にぶち壊してしまいます。

　最近受動部品が枯渇して来ているようですがフィルムコンも例外ではなく、ERO コンに続いて
在庫は多少残っているもののRIFAもディスコンになっていて、今はKEMET と言うアメリカの電子
部品会社の名称で細々と販売されています。ジーメンスは、最近はEPCOS と言うTDK が運営する
ブランドに引き継がれています。全く無傷なのは皮肉な事にWIMAだけではないでしょうか。

　そう言う状況下で、これまで無かったKEMET ブランドのフィルムコンが存在しています。試し
買いをして見ましたが、使う容量、使う場所を選べば使えない事はなく今後補助的に取り入れて
行こうかと考えています。その意味ではRIFAのような存在になるかも知れません。

　ご時勢なのか企業の買収が盛んになっています。フィリップスがデッカブランドで発売される
世の中なんて一体だれが想像できたでしょうか。フィルムコンのメーカーも例外ではありません。
信念で優良部品を作り続けると言う企業よりも、ビジネスとして儲かる企業を目指す事に重点が
置かれるようになったのでしょう。

　話を戻しますが、ジーメンスの製品がTDK から売り出されると言う事も想像できませんでした。
しかし受動部品が正規に買える事は製造者としては歓迎すべき事です。ですから100Wアンプ製作
時に補助的なケミコンとしてEPCOS を使ったりしていますが、まだフィルムコンは試していせん
でした。

　昔ジーメンスを使って意外に良いと思った事もありましたが逆に懲りた事もあり、迷っていた
のは事実です。しかし、ひょっとする事もないとは言えないでしょう。試さない手はないと思う
ようになりました。普通のアンプの場合は63V 耐圧で十分ですが100W以上のアンプの場合は 63V
耐圧では微妙な所があり、出来れば100V耐圧を使いたいところが出て来ます。

　フィルムコンを試した場所は安定化電源の二次側のパスコンです。今回はΕC-1Hで行いました。
これまではERO の1μF/63V(1826：グリーン)を原則的に使っていますが、実験的にEPCOS の1μF
/100V (紺)を10個試し買いして見ました。あわよくば100Wアンプに流用できる可能性を考慮した
のです。意識したのか偶然かは分りませんが、欧州のフィルムコンは色が違い白、赤、グリーン、
紺と千差万別です。

　早速ERO コンと置き換えて試聴して見ました。これまでERO コンと肩を並べたものは殆どない
のですからダメである確立の方が高いのです。ソースは例のサンサーンスです。初っ端がいい感
じに聴こえても要注意で、直ぐ後でボロを出す事がよくあります。今回は一聴した時点では少し
地味かな？と感じました。派手に聴こえるより有望です。

　始まって暫くは右チャンが要注意でストリングスの荒れが現れる事がありますが、取り敢えず
パスです。その後に出て来る木管の合奏のところでストバイがどの位滲むかが問題ですが、まず
まずでした。直後にフルートソロが出て来ますが中央やや左側に定位して聴こえるかがポイント
になります。これもクリアです。４分30秒くらいで微弱音が出て来ます。これが実演らしく綺麗
に聴こえるかがチェックポイントですが、微妙な微弱音が綺麗に確認できました。７分30秒辺り
からのストバイのffの音も許容範囲に入っていて、オルガンの最低音もそれらしく聴こえていま
した。

　結局初めてと言っても良いと思いますが、ERO コンに比肩できるフィルムコンデンサーに遭遇
できたのです。これは正に奇跡ですが、EPCOS に移管されて技術が向上したのか、偶々なのかは
分りません。それで思い出したのがジーメンス時代に買った1μF/63Vです。ダメだと言う烙印を
押して殆どは捨ててしまったのですがジャンク箱に僅かに残っていました。面倒ではありました
が、直ぐに交換して聴いて見ました。もしも同じように良かったら回路技術の進歩のお陰？ダメ
だったら「やはりダメなものはダメ！」と言う事になります。ちょっと緊張の一瞬でした。

　結果的に酷いもので、上記の殆どのチェックポイントはお話にならないレベルでした。やはり
ダメなものはダメなのです。中高域にひずみ感のような曖昧な音が漂い音場感が成り立ちません。
そうなると微弱音は聴こえて来ません。何処でどのような楽器が鳴ってるのかさえよく分らない
のです。ちょっと信じられない光景でした。フィルムコン１個のせいで理想的な装置の音が全く
再現されなくなってしまったのです。恐ろしい事ですがこの時に思い出したのは「何かが違う！」
と開口一番書かれたjunkoruiさんのご投稿文でした。

★一番違いが分かりやすいのはオーケストラが「まとも」に聴けた事でしょうか。

　そうなんです！。オケを楽しむには音場感が正しく再現されている事が大切なんです。楽器の
定位がはっきりしない音ではオーケストラの醍醐味は味わえないのです。junkoruiさんがお持ち
の他社製パワーアンプでは実現できない音だったのでしょう。このように定位が明確に定まらず
美しい微弱音が聴こえないアンプの方が実は圧倒的に多いのです。

　それはある意味当然だと私は思いました。99% 以上出来上がっているシステムでもたった１個
のダメなフィルムコンデンサーでそれがぶち壊されてしまうのですから、定位が正しく再現可能
なアンプが偶然に出来上がる確立はほぼゼロに等しいのです。高帰還回路から負性抵抗を抜本的
に排除する技術がない、ひずみ感のない線材を選び出す術を有していない、良質なフィルムコン
を見抜く聴感を持ち合わせていない等のハードルを考えればこの結論は強ち不当だとは言えない
と思います。

　この事はO.M.さんや千葉のK さんが何百万もする高価なシステムでお聴きになっても、常日頃
ご自宅で再生されている音と、相当の違和感があると仰っている事からも結論付けられるのでは
ないかと思います。結局オーディオは技術も然る事ながら聴く耳を有しているかどうかどうかだ
と思います。これは作る側に大きな責任があるのです。ちゃんとしたアンプを提供できれば聴く
側の聴感も何時かは追いついて来ますが、アンプが悪ければ何時まで経っても、そのリスナーの
耳はダメ耳のままに終わるのです。アンプ設計者は先ずは聴感を鍛える事を第一歩にしなければ
なりません。幾ら回路技術に凝ったものを採用しても、真の意味で音の良し悪しの判断が出来な
ければ良質なアンプを世の中に送り出せるはずがないのです。残念ながら実情は惨憺たるものだ
と言わざるを得ないでしょう。この事は色々なユーザーの方々の証言を総合すれば明らかです。

　以上は過渡ひずみ感を最小にする事に価値観を置いた考え方ですが、実は過渡ひずみだらけの
音を何ら問題視しないオーディオ観を容認するのであれば、何をか況やです。オーケストラの音
を絶対に聴かない、或いは生オケの音と比較しようとしないオーディオにはその危険性が大いに
潜んでいると思います。逆に言えば、オケの再生で理想的な音が出れば、自ずとどんなソースに
でも対応できるアンプになるものなのです。

1842川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Wed May 23 00:45:00 JST 2018

ＷＢＣ搭載ラインアンプの音質確認をする。

　偶々、ＷＢＣ搭載のラインアンプ付きプリを２台製作する事になりました。片方のプリは完全
なアップグレード仕様ではありませんので、完成してからでは正確な試聴ができません。其処で
我がΕC-1Hのラインアンプと載せ変えて予めテスト試聴を行いました。大体は同等の部品を使う
ので大きな問題はないのですが、それでもオーディオは最後の試聴が大切です。

　勿論、何時ものテストCDでも一応確認はしましたが、それだけでは詰まりませんので、下記の
CDセットでも試聴を繰り返して見ました。

　ベートーベン　交響曲全集　クーベリック／９つのオケ：POCG-90498/503 (437 329-2)

　　１）１番：ロンドン響

　　２）２番：コンセルトヘボウ管

　　３）３番「英雄」：ベルリンフィル

　　４）４番：イスラエルフィル

　　５）５番「運命」：ボストン響

　　６）６番「田園」：パリ管

　　７）７番：ウィーンフィル

　　８）８番：クリーブランド管

　　９）９番「合唱」：バイエルン放送響

　前置きが長くなりますが、晩年の円熟したクーベリックを再認識したLP（MG-2488)を購入した
のがそもそもの始まりでした。それまで余り冴えない指揮者だと思っていたのですが、このLPで
一気に認識が変ったのでした。「英雄」の名演に遭遇したのです。当時、クーベリックと言えば
バイエルン放送響とのお定まりの組み合わせが殆どで、正直余り興味が湧かなかったのです。

　当時の独グラモフォンの録音は真空管式からTR式への端境期に当たり、優秀録音も少なくこの
LPもエンジニアがビルトハーゲンであった事もあって、本当は余り期待していなかったのですが、
唯一オケがベルリンフィルである事で買う気になったのです。私の予感は的中し当時の録音の中
では出色の出来映えで低音不足もなく私に取って凄いスケールの大きな「英雄」となったのです。
多分これが切っ掛けで上記全集の企画が決まったのだと思います。

　ビルトハーゲンの一種の癖なのですが、中低域から低域は抑え気味で中高域のエネルギー感が
突出した感じの音になります。上記の９曲は全て違ったオケ、異なったホールで録音されてます
が、中高域のエネルギー感はどれも似たり寄ったりです。「英雄」は1971年ベルリンのイエス・
キリスト教会で録音されています。独グラモフォンがベルリンフィルハーモニーの前によく使用
していたところです。

　何処の楽章も文句の付けようがありませんが、特に第２楽章の「葬送行進曲」はオケの実力も
手伝って未曾有のスケール感になっています。この音を聴くと生きてて良かったなんて大袈裟な
気持ちになります。どのオケの場合でもそうですが、中高域が張っている分バイオリンパートの
ffでの盛り上がりは凄まじい音になります。「運命」「田園」を除いた全てのソースでひずみ感
なく何処までもリニアに伸び切ります。何故だか「運命」「田園」の２曲だけffでのひずみ感が
感じられ、録音の質が落ちると思います。微弱音は本当に綺麗なのに不思議な事です。

　またまた話が反れますが、千葉のK さんが我が家にお越しになった時に「英雄」は何をお聴き
になりますか？と言う質問をされた事があり、私は迷わず「クーベリックです」とお答えしたの
ですが、K さんはちょっと怪訝そうなお顔をされたのでした。そんな事が２回くらいはあったと
思うのですが、ある日「クーベリックの全集を買いました「英雄」はやっぱり良いですね。感激
しました！」と言うメールを頂いたのです。K さんもそれまではクーベリックを余り評価されて
いなかったようですが、この全集をお買いになって印象を180 度変えられたと仰っていました。

　「英雄」の演奏はその典型的な例になりますが、円熟した指揮者にのみ可能な独特のテンポ感
とかリズム感があります。悪く言えば縦の線が微妙にずれるのですが、この何とも言えない間に
並みの指揮者からは感じ取れないスケール感や面白さを感じるような気がします。普通の指揮者
では絶対聴こえて来ないような楽器の裏旋律が聴こえて来て、凄く新鮮な気持ちで音楽を楽しむ
事が出来ます。この指揮者を唯一のフルベンの後継者だと言ってる評論家もいるくらいです。

　私は「英雄」が最高だと思いますが、「７番」は隠れた名演、「９番」は味のある「佳演」だ
と思います。「２番」は余り好きな曲ではありませんがこの演奏なら楽しんで聴いていられます。
「４番」は録音が一番柔らかくイスラエルフィルの上手さがよく出ています。「１番」「８番」
も水準以上の出来でしょう。どれもこれもバイオリンパートが厳しい音である事には変りはなく、
そのffが何処までひずみ感なく再生出来るかが聴きどころになります。

　２枚のラインアンプ基板は補償コンデンサーも含めて同一の部品で作っていますので、本来は
同じ音になるはずです。しかし、実際には微妙な違いがありました。そこにはケミコンの問題が
関係してるように思います。エージングで音が変ると言うのは半ば常識ですし、SWON直後よりも
数分程経った後の方が音が滑らかになる事もほぼ事実でしょう。其処に関与する部品類の最たる
ものがケミコンではないでしょうか。普通は、同様にエージングすれば音への影響もほぼ等しく
なるはずですが、稀に多少の違いが出る事があります。しかし今回は結局耳での区別がつかなく
なり、２枚の基板は同様に仕上がっていると判断しました。

　それではΕC-1Hのオリジナル基板との音の相違はどうだったのでしょうか。補償コンデンサー
は全て違うものを使っていますしケミコンも違います。これは特別なものを使っていると言う事
ではなくて製作時期の問題です。時期が変れば用意出来る補償コンデンサーも異なります。当然
ながらパッと聴きでは明らかな違いを感じたのですが、上述した２枚の基板のエージングが進み
音が練れてきた頃には、これ又結局本質的な音の違いは無くなっていたのです。もしも本質的な
問題が潜んでいれば、幾らエージングをしてもその影を消す事はできません。結局、３枚のどの
基板を使っても大きな問題はないと言う結論に達したのです。

　この判定に上記の交響曲全集が大いに役立ったと思います。再生は難しいけど上手く再生出来
れば、生オケで聴くようなバイオリンパートの張りのあるffが楽しめます。それにしても、昔は
こうした音は再生装置では無理なんだと思い込んでいて、仮に引き攣れるようなところがあった
としても「しょうがない」と目を瞑っていたのですが、内部線材の問題に気付いてからは一挙に
過渡的なひずみ感を減らす事に成功し、今や殆ど無くなったと言っても良いレベルに到達出来た
のではないかと思っています。感無量ですが「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も」です。

1841川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Thu May 17 00:45:00 JST 2018

Ε-5H の本当の実力は？

　最近Ε-5H を続けて何台か納入させて頂いています。そこで直近の１台を通り一遍の試聴では
なく、最新のハイパワーアンプWRP-α50の時と同じような目で試聴して見ました。今現在のWRの
最高音質を基準にして聴く事です。正直に申してこれまでの試聴では何処かに「Ε-5H だから」
と言う甘さが有ったのではないか言う気がするからです。

　試聴に使ったテストCDは何時ものものですが、もう一度此処に明示させて頂きます。

１）サンサーンス　交響曲第３番第一楽章後半　アンセルメ／スイスロマンド管 (KICC-9274)

２）モーツァルト　交響曲第31番「パリ」第一楽章冒頭　クリップス／コンセウトヘボウ管
　　　　　　　　　(426 063-2)

３）グリンカ　ルスランとリュドミラ序曲　ショルティ／ロンドン響 (450 017-2)

４）ハロルド・アーレン、ジョニー・マーサー　「降っても晴れても」モニカ他 (PHCE-4182)

以上の４枚に限定してじっくり聴いてみました。４）は門外漢なので参考程度です。又プリには
完璧なまでにチューニングされた我がΕC-1Hを使いました。

　これらがどうのように鳴れば正解かは最近の真剣な試聴で分っていますし、判別が直ぐ付く程
に耳も訓練されています。特に注目するのは余計な過渡ひずみが無いか、ストリングスの微妙な
微弱音がそれらしく聴こえるかどうかです。この音はプアーな装置で聴いている時に演奏会場に
行って一番ショックを受ける音の一つで、並みの再生装置からは絶対に聴こえて来ません。

　先ずは出来上がってから少しエージングした状態でこれらのソースを聴いてみました。懸案の
過渡ひずみは無い訳ではありませんが次元の低いもの、例えばストバイが引き攣れるようなもの
は流石にありませんでした。やはり徹底した線材の選別が功を奏しているのでしょう。これはWR
製のアンプでは等しく行われている一種の技術で、種々の回路技術との相乗効果でその存在意義
を歴然と有しています。その意味では90点は付けられる感じですがあとの10点が結構鍵を握って
いたりするのです。

　各ソースの注目点を簡単に述べたいと思います。１）ですがアンセルメと言うと木管・金管の
使い方が上手いと言う気がしていましたが、意外にも弦パートがしっかり聴こえます。この楽章
はオルガンの重低音が重畳された形で聴こえて来ますので、特にバイオリンパートが綺麗に分離
して力強く聴こえて来ない場合が多いのです。装置の調子が良ければ開始７分30秒辺りから８分
過ぎに掛けてのffでもオルガンに負けずバイオリンパートが張りを持って明快に聴こえて来ます
が、これが今ひとつの出来でした。現実のバイオリンのffとはちょっと質が違ったのです。

　２）は初っ端からffで始まるので調子が悪いと行き成り左側に音が引っ張られます。その傾向
が若干残っているのが見て取れました。また、モーツァルトでは比較的少ない気がするのですが、
魅力的な弦の微弱音がこの後に出て来ます。これがうっとりするような魅力的な音に聴こえるか
どうかですが、残念ながら標準のΕ-5H では少し無理のようでした。

　実はこの魅力的な音はこの後に入っている「リンツ」(Track9)の方がより多く出て来ますので、
この音のチェックであればこちらを聴く事をお勧めします。それにしてもモーツァルトの場合は
ハイドンやベートーベンより明らかにこの音が少ないと思います。極言するならば、ハイドンや
ベートーベンなら普通に出て来るところ、モーツァルトだと探さないと見つからないと言う気が
する程です。多分、その分モーツァルトはハイポジションのffが多いのだと思います。

　３）は凄く情報量の多いソースですので調子が良くないとボロが直ぐに出ます。中高域の音が
強調されバランスを欠いた音になります。トロンボーンが割れたような音に聴こえたりしますし、
トランペットが煩く聴こえます。これらが余り目立たないように、実演に近いようなバランスで
聴こえる事が大切です。このΕ-5H では必ずしも合格とは言えない音でした。

　４）は歌手の息遣いと子音が自然に聴こえるかどうか、ボーカルとトリオの３つの楽器が空間
で溶け合うように聴こえて来るかどうかですが、少し子音が強調されているように聴こえますし、
ボーカルとトリオがバラバラに演奏してるように聴こえました。要するに、自然な雰囲気が醸し
出されていなかったのです。

　以上の問題は最新のハイパワーアンプでは殆ど解決されています。この違いは何処から来るの
か、解決する方法はあるのかと言う事になります。実はこの差は「高級部品化」に依って埋める
事が出来るのです。このような問題に気付いたから「高級部品化」を提案させて貰ったのでした。
やはりこのレベルの音質になりますと幾ら回路技術を磨いても、普及部品だけでは無理があると
言う事だと思います。

　プリには各種のアップグレードが存在しますが、パワーアンプにはこの「高級部品化」と言う
アップグレードしかありません。パワーアンプの「高級部品化」をおやりになる方は少ないかも
知れません。しかしこれをやるかやらないかではある意味大きな違いがあるのです。但しプリの
アップグレードが済んでなければ余り意味がありませんので、それからでも良いかも知れません。
特にΕ-5H は安価なアンプだと思われているせいか「高級部品化」の例はこれまで皆無です。

　では、実験的にやって見ようと言う気になりました。私も初体験です。もう一度「高級部品化」
の内訳を示して置きます。

　１）SEコン２個・・・秋葉原価格３千７百円

　２）ASC コン８個・・・秋葉原価格３千６百円

となり合計で７千円を少し上回り、交換、取り付け、技術料を含めて１万７千円とさせて頂いて
おります。

　高価なので常時ストックは余りしておりませんので、予めお申し込みをなさって作業の日程を
決めるようにお願いします。今回は偶々１セット在庫がありましたので、早速取り付けて聴いて
見ました。

　予想通りに点数で言えば98点まで高音質化が実現しました。あとの２点はほんのちょっとした
ところなのですが、ハイパワーアンプは旧型基板セットを使うので特に整流回路がΕシリーズに
比べて凝っている点若干有利な事とやはりパワーの違いもあるのでしょう。それでも５ワットの
アンプにしては本当によく頑張ってると感じ入りました。「高級部品化」代を入れてもΕ-5H は
７万程です。これにWRP-α9 の完全アップグレード版を購入したとしても22万弱で最高クラスの
音が楽しめるのです。

　具体的に言えば、良いホールで上手いオケが演奏した時にのみ聴こえるストリングスの微妙な
微弱音が聴こえるようになりました。正直に申してこの音が聴こえない状況では私は最早音楽を
楽しめないようになっています。これは実音でも再生音でも同じ事です。それ程この音は再生音
の全てに繋がる重要な音なのです。訓練された聴感を有していないと実演でも認識が出来ない音
です。
　
　１）のバイオリンパートのffもかなり充実して聴こえるようになっていましたし、２）の冒頭
左に引っ張られる感じが殆ど無くなりました。又３）のトロンボーンの割れるような感じが減り
トランペットも適当に抑えられて聴こえるようになり全体が聴き易くなりました。４）の楽器の
バラバラ感や子音の問題も減り自然な雰囲気が感じされるようになりました。全てのテストCDで
改善が認められたのです。

　気を良くして「高級部品化」前はとても聴く気にならなかったワーグナーの「神々の黄昏」の
最終幕切れの部分（455 573-2のTrack18）を聴いて見たくなりました。これが意外に良かったの
です。５ワットのアンプでワーグナーの楽劇が楽しめるとは思っても見ませんでした。ニルソン
の張り上げる声が飽和感なく聴こえたのにはちょっと嬉しくなりました。オケだけになってから
「愛の救済の動機」がバイオリンパートのffで２回出て来ますが、ウィーンフィルのバイオリン
奏者達が多分立って演奏したであろうそのffが綺麗に抜けて聴こえたのです。

　これで自信を持ってΕ-5H をお世話できると思いました。特殊な４Ωのスピーカーを使わない
限り、殆どの聴取環境で使えると思いました。プリの最終的アップグレードまで済んでいるのに
「まあいいか！」と思っている方、是非パワーアンプの「高級部品化」をお勧めする次第です。

　尚、Ε-5H の納期だけ、約２週間に短縮できる事になりましたのでお知らせ致します。

1840川西　哲夫さん(WRアンプ開発・設計者) Fri May 11 00:15:00 JST 2018

旧型アンプ基板を使った50W 型パワーアンプWRP-α50を製作して見て

　この型番はこれまでにありませんでした。旧型パワーアンプの50W 型はWRP-αZEROだったから
です。何故この型番を使ったかと言いますと、最近よく登場するハイパワーアンプWRP-α100 の
50W 版だからです。Ε-50Hとは一味も二味も違います。

　ある音楽好きの方がタンノイのアーデンに合うアンプをお探しになっていて、そのお知り合い
のWRアンプユーザーの方のご紹介で貸し出し用アンプのご依頼を受けましたので、現在貸出可能
な最高パワーのアンプはWRP-ΔZERO/BALしかありませんが、それで良ければと言う事で貸し出し
の話が纏まりました。プリは、最終アップグレードまで済んでいるそのユーザーの方が所有する
WRP-α9 を持ち込んで試聴して頂ける事になりました。パワーアンプだけではWRアンプの本領を
発揮させる事は出来ませんので、好条件で試聴して頂ける事になりました。

　２、３日後にそのユーザーの方からお電話があり、今音楽好きが沢山集まって聴いていますが
大変盛り上っていますとの事、どうやらWRアンプの音が其処に集まった方々に大変気に入られた
様子でした。設計・製作者としては大変嬉しくも有り難いお話でした。

　一時はそのWRP-ΔZERO/BALをそのまま譲り受けたいと言うお話しを頂いた程、アーデンに良く
マッチしたのだと思います。結局これと同等のアンプを新規に作って欲しいと言うリクエストを
頂いたのです。これは結構難題です。WRP-ΔZERO/BAL以上のパフォーマンスを示す必要性がある
からです。

　WRP-ΔZERO/BALは旧型アンプの最後のモデルです。しかし、私がアップグレードを重ねました
ので中味はかなり変っています。例えばBG、SEコンはほんの一部しか残っていませんし、抵抗も
一部カーボンに置き換わっています。これと似たように作るのが一番良いと思いました。しかし
αZEROと大きく違って電源トランスを少し高電圧にして安定化電源の実効動作電圧を25V 以上も
確保していますので、電源部を充実させなければなりません。パワーTRはTO-3型なのでTO-3型が
取り付けられる放熱器を探さなければなりません。今時、TO-3用の放熱器を探すのは結構難しく
なっています。

　旧型アンプの基板セットを使う事は勿論ですが、100Wアンプ並みの電源トランスを積む必要も
あります。こうなりますと新型のΕ-50Hでは賄えません。ハイパワーアンプのWRP-α100 並みに
作るのがベストです。アンプ基板部分だけを50W にするだけですから、アンプ名称はWRP-α50と
なります。因みに価格を\250,000に設定させて頂きました。またプリもWRP-α9 のフルスペック
モデルにする事と、必要なケーブル類も付属させると言う事でお話が纏まりました。

　ご注文を頂くのは大変有り難いお話ですが、これらの製作には結構労力を要しますので一筋縄
では行きません。全神経を集中させ持てる力を100%発揮しないと良いものを作る事が出来ないの
です。３月初めにもフルスペックのΕC-1HとWRP-α100 の組合わせに依るシステム（ケーブル類
も全て含む）を完成・納入していますので、少しは要領が分って来ていました。最近一気に最高
レベルのWRアンプシステムを狙う方が増えて来つつあります。所謂オーディオマニアと言うより
音楽がお好きで生の音をよくご存知の方が殆どです。

　このクラスになりますと部品点数がもの凄くありますので「ああこの部品が足りない！」とか
老化現象もあって能率を上げる事ができなくなって来ています。それでも努力すれば自ずと問題
を解決して行く事が出来ます。当初の凡その納期である連休中に無事完成できたのでした。既に
お手元に渡っていて、間に入って頂いたWRユーザーの方にはセッティングもお願いして「上手く
行きました。ご夫妻共々お喜びです」と言うお電話を頂戴して、やっと肩の荷を下ろせたと思い
ました。貸し出しアンプに勝るとも劣らないアンプを提供できたと言う事は、現在のWRアンプの
技術レベルがかなり安定している証拠になると思います。

　やはり神経を使うのはパワーアンプです。最悪は熱暴走を起こす事です。今回も先に完成させ、
エージングを兼ねてアイドリング電力を監視しながら必要であればアイドリング電流を調整しま
した。生憎余り暑い日が無かったのですが周囲温度28℃までは問題なく安定に動作する事を確認
出来ています。皆様に於かれましては、これから暑い日が続いて行くと思いますが、WRアンプは
堅牢を第一義的には作っておりませんし、安定化電源部を積んでいる為に非安定化電源アンプに
比べて単純に1.5 倍熱量を多く発生しますので、熱の篭らない風通しの良い所に設置して頂いて
出来る限りアンプの周辺温度を下げてお聴き頂きたくお願いする次第です。

　そんな訳で結構長きに亘ってこのWRP-α50の音をモニターし続けたのです。納入後にちょっと
我が100Wアンプの音が気になりましたので直ぐ繋いで聴いて見ました。聴いた瞬間にエネルギー
感の違いを少し感じました。押し出してくる力があります。やはり100Wアンプの方が電源電圧が
高い分、出力インピーダンスが低いのかも知れません。駆動力は出力インピーダンスに依存する
はずです。生オケの迫力をリアルに味わいたい場合には必要な条件だと思いますが、人に依って
もう少し優しい音を好む方も居られる事でしょう。この辺りがパワーアンプのワット数を決める
ポイントになるのではと思います。

　もう一つ感じた事は、これまで平気で聴いていたはずなのにアンプ製作による疲れも関係した
のか、少し耳につく過渡ひずみを感じたのです。それでピンと来たのですが最近お作りして来た
ハイパワーアンプ類にはVRを付けておりません。勿論今回のWRP-α50にも有りません。例えVRを
全開にしてもその摺動子が関与する事に変りはなく、もしやと思ったのです。我が100Wアンプは
相当昔に作ったので、普段絞る事はないもののVRが付いています。

　急遽VRをパスする手当てをし聴き直して見ました。ちょっと前に感じた嫌な音は消失していま
した。最近投稿された斉藤さんも左右バランス用VRをパスする工事をなさっています。斉藤さん
はその効果があるかどうか分からないと仰っていますが、確かに微妙な問題なのです。世間では
半ば常識？になっているようですが、私は本当にそれを実感したのかどうかは疑わしいと思って
います。

　因みに直接的に気になったソースは「神々の黄昏」の最終幕切れの部分です。先日の日フィル
のコンサートで聴いて以来未だに頭の中で「指輪」の色々な動機が現れては消え消えては現れて
きます。特に「愛の救済の動機」が気になります。試聴を兼ねてCD(455 573-2）のトラック18を
今回も聴いていました。この録音は前にも言いましたが「ラインの黄金」等に比べて中高域の音
が強調されるように聴こえ余り良い録音ではありません。パワーアンプに依ってはそれが余計に
酷く聴こえたりします。

　VRをパスしてからこれが許容範囲に入るように感じました、勿論、他のソースも少し滑らかな
感じに聴こえるようになりました。このソースを初めて聴いたのはLP(SLX6-1)ですが、それ以降
も多かれ少なかれそう言う感じで聴いて来ました。なのでこの癖の素はオリジナル録音に入って
いるのですが、CDはその傾向がより強くなっています。ではそのLPはどうなったのか急に興味が
湧いて来ました。早速６枚組の12面の半分を少し過ぎた辺りから聴いてみました。

　最近はCDとLPの溝はかなり埋まって来ていましたが今回はCDよりも全然良い音、アナログ録音
らしさが分るように聴こえたのです。その理由の一つはWR製ヘッドアンプの線材交換等のアップ
グレードが為された事があると思います。この効果は当時O.M.さんもびっくりする位の音の改善
があったと認めてくれています。もう一つは、CD化の時のリマスタリングが上手く行かなかった
可能性がありオリジナル録音の欠点を補えなかったのではないかと思います。だから差が開いて
しまったのではないでしょうか。

　さてVRの話に戻りますが、私自身今回初めて有意な違いがあるような気がした程度でこれまで
そんなに気になった事はありませんでした。最近のWRアンプシステムはかなりの低レベルの過渡
ひずみまで除去する事が出来ています。パワーアンプのVRの摺動子に起因する過渡ひずみが認識
できるレベルになっていても不思議ではありません。

　これと同じような事はプリの方のL-Padで既に経験済みです。私は初めてΕC-1HのVRをL-Pad化
した時に「デジタル臭が減った！」と言う感想を述べましたが、最近もこの事を改めて追試する
機会があったのです。ΕC-1Hのフルスペック化を一歩一歩確認しながらアップグレードを重ねて
いるユーザーの方が居られます。

　最近その方が最後に残ったL-Pad 化を試みられたのです。その直前のアップグレードでは未だ
過渡ひずみが残っていて「少し過渡ひずみがありますがこれはL-Pad 化で消えると思います」と
お伝えしたのでした。豪語して本当に消えなかったらどうしようかと一抹の不安はありましたが、
L-Pad 化後に聴いて見ると見事に過渡ひずみは消えていました。勿論、その方もこの効果に納得
されています。

　この２つの事柄から、最高級レベルにあるWRアンプシステムでは最早VRの使用はプリもパワー
アンプもNGであると言う事です。付いている方が便利だと言う理由でパワーアンプにVRを設ける
のは得策ではないのです。少し話が脱線しましたが、今回のシステムをお作りして得た結論でも
あるのです。ある程度以上の高音質を実現したアンプシステムには摺動子を持つVRは有害である
と言う事になるのではないでしょうか。この事は、全てのVRを否定するものではありませんので、
ケースバイケースで考えて頂ければ宜しいのではないかと思います。